レンジバーとは何か
レンジバーとは、時間ではなく「価格の変動幅」で足を作るチャートのことです。通常のローソク足は1分足・5分足・日足など、時間が一定になるように1本ずつ足が作られます。一方でレンジバーは、たとえば「10pips動いたら1本の足が確定」というように、価格が指定した値幅だけ動いたタイミングで新しい足が出現します。時間の経過だけでは足が増えないため、ボラティリティの高い時間帯は足が多くなり、値動きの乏しい時間帯は足がほとんど増えません。
この特徴により、レンジバーは「ノイズの多いレンジ相場を圧縮し、トレンドが出た局面だけを強調して表示する」性質があります。価格が一定幅動かなければ足が確定しないため、ダラダラとした横ばい相場では足の数が極端に少なくなります。その結果、トレンドの立ち上がりやブレイクアウトが視覚的に捉えやすくなります。
時間足チャートとの決定的な違い
時間足チャートでは、たとえ値動きがほとんどなくても時間が経てば必ず新しいローソク足が形成されます。このため、アジア時間のようにボラティリティが低い時間帯は「小さなローソク足が並ぶだけ」の退屈なチャートになり、どこに注目すべきか判断が難しくなりがちです。また、急騰・急落が起きた場合でも、その動きが1本の足の中に押し込められてしまい、細かな押し目や戻りの構造を読み取れないことがあります。
一方レンジバーでは、「値幅が一定量動いたかどうか」が足の生成条件です。たとえば10pipsレンジバーを設定した場合、価格が10pips動かなければ新しい足は出ませんし、30pips一気に動けば3本の足が連続して形成されます。つまり、価格変動が大きい局面では細かい足が連続的に表示され、細かい押し戻りやブレイクの構造がクリアになります。時間足に比べて、トレンドの波形が素直に見えることが多いのが利点です。
レンジバーが有利になりやすい市場と時間帯
レンジバーが真価を発揮するのは、「ボラティリティが時間帯によって偏りやすい市場」です。代表例としてFXや暗号資産が挙げられます。たとえばドル円であれば、東京時間は比較的静かで、ロンドン・ニューヨーク時間で一気にボラティリティが高まる傾向があります。通常の5分足チャートでは、どの時間帯も同じ本数の足が並ぶため、値動きの乏しい時間帯の足が大量にチャートを占有してしまいます。
これに対してレンジバーを使えば、価格が動かない東京時間ではほとんど足が増えず、トレンドが出やすいロンドン時間以降の動きだけが密度高く可視化されます。暗号資産のように、特定の時間帯だけ急にボラティリティが上がる市場でも同様で、「動いたところだけを見る」という視点でチャート分析をすることが可能になります。
レンジサイズの設定と考え方
レンジバーで最も重要なパラメータが「レンジサイズ」です。たとえばFXであれば、10pipsレンジバー・5pipsレンジバー・20pipsレンジバーなど、どれくらいの値幅で1本の足を作るかを決める必要があります。レンジサイズが大きいほどノイズは少なくなりますが、細かな押し目や短期のチャンスは見えにくくなります。逆にレンジサイズを小さくすると、多くの足が表示され、ブレイクの初動を捉えやすくなる一方で、ダマシも増えやすくなります。
実務的には、「平均的な1日の値幅(ATR)」を基準に設定する方法が分かりやすいです。たとえばドル円のATR(14日)が1円=100pips程度であれば、その10分の1である10pipsをレンジサイズの初期設定とし、その後5pipsや15pipsに変更しながら自分のトレードスタイルに合う値を探していきます。また、スキャルピング志向のトレーダーは5pipsや3pipsのような小さめのレンジ、スイング志向のトレーダーは20pipsや30pipsのような大きめのレンジを採用することが多いです。
レンジバーと移動平均線の組み合わせ
レンジバー単体でもチャートのノイズを減らす効果はありますが、移動平均線(MA)と組み合わせることで、トレンドフォロー戦略として非常に分かりやすいシグナルを得ることができます。たとえば10pipsレンジバーに対して、短期EMA(9本)と中期EMA(21本)を重ねるだけで、トレンドと押し目が視覚的に整理されます。
時間足チャートでは、同じ9EMAと21EMAでも、ボラティリティが低い局面ではラインが絡み合って方向感を失いやすいですが、レンジバーでは「一定幅動いた足だけ」が並ぶため、移動平均線同士のクロスがより意味を持ちやすくなります。短期EMAが中期EMAを上抜けし、その後レンジバーが短期EMA付近まで戻ってから再度上方向に足が確定する、という流れがきれいに見えることが多く、押し目買いポイントを捉えやすくなります。
具体的なエントリー戦略:トレンドフォロー
ここではFXのドル円を例に、10pipsレンジバー+9EMA+21EMAを使ったシンプルなトレンドフォロー戦略の例を示します。
①まず、9EMAが21EMAを上抜けして、明確に乖離し始めた局面を待ちます。このとき、レンジバーが連続して陽線を出していることが条件です。時間足よりも波形が素直なため、「クロスしたのにすぐ戻る」というダマシが相対的に少なくなります。
②その後、数本のレンジバーが連続した上昇のあと、いったん9EMA付近まで価格が押してくるのを待ちます。レンジバーで見ると、小さな陰線が数本連続して出現し、9EMAにタッチまたはわずかに下抜けする形になることが多いです。
③9EMA付近で新たな陽線レンジバーが確定し、前の足の高値を上抜けたタイミングで買いエントリーします。損切りは、押し目の直近安値を数ティック下回る位置に置きます。利食いは、直近のレンジ高値や、あらかじめ設定したリスクリワード(1:2、1:3など)に達したところで行います。
この戦略のポイントは、「時間の経過」ではなく「価格の動き」によって押し目を認識している点です。時間足チャートでは、単に時間が経っただけで小さな足が何本も並ぶことがありますが、レンジバーでは10pips動かない限り足が確定しないため、本当に意味のある押し目だけがチャート上に残ります。
具体的なエントリー戦略:ブレイクアウト
レンジバーはブレイクアウト戦略とも相性が良好です。一定の値幅で足を作るため、レンジ相場の上限・下限を視覚的にとらえやすく、レンジブレイク時のモメンタムも明確に表現されます。
①過去数十本のレンジバーの中で、高値がほぼ同じ水準で止められている価格帯を探します。10pipsレンジバーであれば、たとえば「145.20付近に高値が集中している」といった形です。同時に、安値側もある程度そろっていれば、レンジ上限・下限が明確に定義できます。
②レンジ上限近辺で複数回の試し(上ヒゲ)があり、そのたびに押し戻されていたものの、直近では押しの幅が徐々に小さくなっているようなパターンは、エネルギーが上方向に蓄積しているサインです。レンジバーで見ると、高値は変わらないのに安値が切り上がっていく「アセンディングトライアングル」に近い形になることが多いです。
③上限価格を明確に抜けたレンジバーが確定し、その次の足が上限価格を割り込まずに推移したタイミングでブレイク方向にエントリーします。損切りはレンジ上限の少し下、またはブレイク直前の押し安値の下に置きます。レンジバーは急激な値動きが複数本の足として表示されるため、「どこからブレイクしたのか」「どこが押し目なのか」が時間足より明瞭になりやすいのが利点です。
ダマシを減らすためのフィルター条件
レンジバーはノイズを減らしますが、完全にダマシを排除できるわけではありません。特にレンジサイズを小さく設定した場合、方向感のない時間帯には頻繁に足が切り替わり、短期トレンドが錯綜して見えることもあります。そこで、いくつかのフィルターを組み合わせることで、エントリー精度を高めることができます。
代表的なフィルターとしては、以下のようなものがあります。
・上位足(4時間足や日足)のトレンド方向と合わせる
・ADXやDMIを使って、トレンドの強さが一定以上のときだけトレードする
・ロンドン時間開始後1~2時間など、ボラティリティが高まりやすい時間帯に限定する
・重要な経済指標発表の前後は新規エントリーを控える
レンジバーは価格変動に基づいて足を作るため、ボラティリティが極端に低いときや乱高下しているときには、見かけの波形が美しく見えてもトレードには向かない場合があります。フィルターを組み合わせて、「自分が戦いやすい局面だけを抽出する」ことが重要です。
バックテストと検証のポイント
レンジバーを用いた戦略は、通常の時間足戦略と同様にバックテストによる検証が不可欠です。ただし、レンジバーは「足の本数=時間」ではないため、トレード頻度や保有時間のイメージがつきにくいという特徴があります。検証時には、次のような観点を意識することが大切です。
・1日の平均トレード回数:レンジサイズや通貨ペアによって大きく変わるため、過去数ヶ月分のデータで平均値を確認する
・最大ドローダウン:連敗が続きやすい時間帯(たとえば東京時間)を避けるルールを加えることで改善できないか検証する
・スプレッド・手数料の影響:レンジサイズが小さいほどコストの影響が大きくなるため、実際のスプレッドを加味したうえで期待値を計算する
・異なるレンジサイズの比較:5pips・10pips・15pipsなど、複数のレンジサイズで同じルールをテストし、総損益だけでなく、安定性やドローダウンの深さも比較する
バックテストでは、勝率や平均損益だけでなく、「どのような相場環境で利益が出ているのか」「どの環境で負けているのか」を具体的なチャート画像とともに振り返ることが重要です。レンジバーは視覚的にパターン認識しやすいチャート形式なので、検証時にスクリーンショットを残しておくと、自分の得意パターンが明確になります。
実際の導入ステップ
最後に、これからレンジバーを使ったトレーディングを試したい初心者向けに、導入ステップの一例をまとめます。
①まず、レンジバー対応のチャートツール(MT4のオフラインチャート、TradingViewのRange Bars機能など)を用意し、普段取引している通貨ペアや銘柄で表示してみます。
②次に、過去の相場をスクロールしながら、「時間足チャート」と「レンジバーチャート」を並べて比較します。同じトレンド局面でも、押し目やブレイクの見え方がどう変わるか、どのパターンが自分には分かりやすいかを確認します。
③自分の感覚に合うレンジサイズを仮決定し(たとえば10pips)、移動平均線やトレンド系インジケーターを組み合わせたシンプルなルールを作ります。この段階では、複雑な条件を増やしすぎないことがポイントです。
④過去チャートでの目視検証と、可能であればバックテストツールを使った定量的な検証を行い、「どの相場環境で機能し、どの環境で機能しないのか」を把握します。
⑤検証で一定の手応えが得られたら、少額のリアルトレードまたはデモトレードで運用し、実際の値動きの中でメンタル面も含めて問題がないか確認します。ここで重要なのは、検証したルールから大きく逸脱しないことです。
レンジバー戦略を長く使い続けるために
レンジバーは、時間足チャートとは異なる視点で相場を見るための強力なツールですが、「レンジバーだから勝てる」という魔法のようなものではありません。レンジサイズの選択、相場環境の見極め、資金管理、メンタルコントロールといった要素が噛み合って初めて、安定した成績に近づくことができます。
しかし、ノイズの多い相場で疲弊しやすいトレーダーにとって、「動いたところだけを見る」というレンジバーの考え方は、大きな武器になり得ます。時間足チャートでうまくいっていない場合でも、レンジバーに切り替えるだけで、自分にとって理解しやすい波形に変わることがあります。自分の視覚的な感覚に合ったチャート形式を選ぶことは、トレードを続けていくうえで非常に重要なポイントです。
まずは小さなレンジサイズと大きなレンジサイズの両方を試し、自分のトレードスタイルに合う設定とルールを少しずつ磨いていくことをおすすめします。


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