ラウンディングボトム(Rounding Bottom)は、相場がじわじわと売り圧力を消化しながら長い時間をかけて底打ちし、その後に上昇トレンドへ転換していくときに現れるチャートパターンです。日足〜週足レベルで出現することが多く、「大底圏からの中長期トレンド転換」を捉えるのに有効なシグナルとして知られています。
本記事では、株式、FX、暗号資産のいずれにも共通して使えるラウンディングボトムの見つけ方とトレード戦略を、できるだけ具体的なルールとチャートイメージを交えながら解説します。単に「教科書的な形だけを覚える」のではなく、「なぜこの形が機能しやすいのか」「どこで入ってどこで出るのか」「どのようなときは見送るべきか」まで、実際の売買に落とし込めるレベルを目指します。
ラウンディングボトムとは何か
ラウンディングボトムは、その名のとおり「丸く底を描く」ような価格推移が続いたあと、上方向にブレイクしていくチャートパターンです。典型的には次のような流れで形成されます。
- ① 下降トレンドが続き、投げ売りや失望売りが重なって下落する
- ② ある水準で売りが出にくくなり、下値更新の勢いが弱くなる
- ③ 時間をかけて安値圏での揉み合い・小反発を繰り返す
- ④ じわじわと安値・高値が切り上がり始める
- ⑤ 過去の戻り高値ゾーンを明確に上抜けしてトレンド転換が確定的になる
チャートの見た目としては、「左側で下がり続け、中央で横ばい気味になり、右側で上昇していく」なめらかなカーブになります。日足ベースで数週間〜数か月、週足ベースでは半年〜1年以上かけて形成されることもあり、短期トレーダーには見逃されがちなパターンです。
なぜラウンディングボトムは機能しやすいのか
ラウンディングボトムが機能しやすい理由は、「時間をかけて売り圧力を吸収している」という点にあります。
- 長期保有者のロスカット・投げ売りが一巡する
- 悪材料の出尽くしや業績改善を見越した買いが少しずつ入る
- 短期筋の売り仕掛けが通用しにくくなる
こうしたプロセスを経ることで、安値圏では新規の売り手よりも中長期で買いたい投資家のほうが多い状態になります。その結果、チャートは「急落→急反発」といった鋭いV字というより、「じわじわと下げ止まり→じわじわと切り返す」形になりやすく、それがラウンディングボトムとして視覚的に表れます。
重要なのは、「時間を味方にした底打ち」であるという点です。短期のニュースやイベントでは崩れにくく、一度トレンド転換すると比較的大きな値幅を狙えるケースが多くなります。
ラウンディングボトムの基本的な認識ルール
実際にチャート上でラウンディングボトムを探すときは、次のような条件を目安にすると分かりやすくなります。
- ・左側に明確な下降トレンドが存在していること
- ・安値圏での揉み合い期間が「それなりに長い」こと
- ・安値更新の勢いが徐々に弱くなり、安値がフラット〜切り上がり気味になること
- ・右側で高値・安値がともに切り上がり、なめらかな上向きカーブになっていること
- ・出来高が底打ち後にじわじわと増えているとなお良い
厳密な形状にこだわる必要はありませんが、「左側ははっきり下げている」「中央は横ばい気味」「右側は明確に切り返している」という3段階構造が揃っているかどうかを重視します。
株・FX・暗号資産での違いと共通点
ラウンディングボトムは、市場を問わず現れるパターンです。ただし、各市場ごとに特徴があります。
株式市場
株式では、業績悪化や不祥事などで売られ続けた銘柄が、「悪材料出尽くし+業績の底打ち期待」でじわじわと見直し買いされる局面で現れやすいです。特に中小型株では、ラウンディングボトム形成後に出来高を伴って上放れし、大きなトレンド相場に発展するケースもあります。
FX市場
FXでは、ファンダメンタルズ要因(金融政策や景気認識)の変化がゆっくり進むときに、中長期の通貨トレンド転換として出やすくなります。日足〜週足でラウンディングボトムを確認し、4時間足や1時間足で押し目を拾っていくといった使い方が現実的です。
暗号資産市場
暗号資産では、長期の弱気相場(いわゆる「冬の時代」)の終盤で現れることがあります。ニュースフローは依然としてネガティブでも、オンチェーン指標や開発状況が改善し、時間をかけて投げ売りが一巡していく中で、価格だけがじわじわと底を固めていくイメージです。
エントリーポイントの基本パターン
ラウンディングボトムを使ったエントリー方法には、代表的に次の3つがあります。
① ネックラインブレイクでのエントリー
もっともオーソドックスなのは、「ラウンディングボトム右側の戻り高値」を結んだレジスタンスライン(ネックライン)を明確に上抜けしたタイミングでエントリーする方法です。
- ・条件1:ネックラインの少し上で終値が確定する
- ・条件2:出来高が平均より増加していると信頼度が高い
- ・条件3:直近安値を大きく割り込まない限り上昇基調を維持
この方法は「ブレイク後に多少高値掴みになる」一方で、「トレンド転換がかなり明確になってから」入るため、ダマシをある程度避けられるのがメリットです。
② ネックラインへの戻り(リテスト)を待つエントリー
ブレイク直後は伸び切った状態になりやすいため、一度のブレイクで飛びつかず、「一度ネックラインを上抜け→押し目でネックライン付近まで戻るのを待つ」という手法も有効です。
この場合、押し目となったローソク足に注目します。
- ・下ヒゲの長いピンバー
- ・陽線の包み足(エンゴルフィング)
- ・小さなコマ足からの上方向ブレイク
こうした「買い支えが入っている形」がネックライン付近に出れば、損切り幅を小さく抑えつつエントリーしやすくなります。
③ 右側の小さな押し目を拾う分割エントリー
ラウンディングボトム右側では、短期的な押し目を何度か作りながら上昇していくことが多いです。ここに注目し、
- ・短期移動平均線(5〜10期間)の付近
- ・直近の小さなレンジ上限
- ・前日高値付近の押し
などで少しずつ買い増していく「分割エントリー戦略」も相性が良いです。これにより、完全な底値ではなくても、平均取得単価を適度に抑えながらトレンドに乗ることができます。
損切りと利確の考え方
ラウンディングボトムは「大きな転換」を狙える反面、形成に時間がかかるため、損切りと利確の設計を事前に決めておくことが重要です。
損切りルールの例
- ・ネックラインブレイクで入った場合:ネックラインの少し下にロスカットラインを置く
- ・リテスト押し目で入った場合:押し目の直近安値の少し下に置く
- ・分割エントリーの場合:パターン中央部の重要な安値を明確に割れたら全て手仕舞い
損切り幅が広くなりがちなので、1回のトレードに賭ける資金量(ポジションサイズ)は、口座残高の1〜2%程度のリスクに収まるよう逆算して決めると、心理的な負担を抑えやすくなります。
利確ルールの例
- ・ターゲット1:ラウンディングボトムの「高さ」と同じ幅を上方に投影した価格帯
- ・ターゲット2:過去のレジスタンスゾーン(週足の戻り高値など)
- ・ターゲット3:トレンドフォロー型に切り替え、移動平均線割れやトレンドライン割れまで保有
ラウンディングボトムは「値幅ターゲット」に届いたあともトレンドが続くことがあります。そのため、ポジションの一部をターゲット1〜2で利確し、残りをトレailingストップで伸ばすといった段階的な手仕舞いも有効です。
時間軸別の戦略構築
日足〜週足をベースにしたスイング戦略
もっともオーソドックスなのは、日足や週足を使ったスイングトレードです。
- ・週足で大まかなラウンディングボトムの存在を確認
- ・日足でネックラインや押し目の位置を特定
- ・4時間足などで具体的なエントリートリガー(ピンバー、包み足など)を探す
このように時間軸を分けて分析することで、「大きな流れは週足」「エントリーは日足と4時間足」といった形で、精度とリスクリワードのバランスを取りやすくなります。
短期トレードでの応用
5分足や15分足などの短期チャートにも、縮小版のラウンディングボトムが現れることがあります。ただし、ニュースやアルゴリズムの影響でノイズが多くなるため、素直なトレンドが出ている時間帯に絞るのがポイントです。
- ・ロンドン〜ニューヨーク時間のFX
- ・寄り付き後〜前場終わりまでの株式
- ・出来高の多い時間帯の暗号資産
短期で使う場合でも、「左側に明確な下げ」「中央の横ばい」「右側の切り返し」という構造は変わりません。スケールが小さくなるだけで、発想は同じです。
ダマシを減らすためのフィルター
ラウンディングボトムは、教科書通りの形に見えても、その後に失敗して再度安値を割り込むことがあります。ダマシを減らすには、次のようなフィルターを組み合わせると効果的です。
出来高のチェック
底打ち後に出来高が増えているかどうかは重要な確認ポイントです。
- ・底の左側では出来高が減少気味
- ・中央〜右側にかけて、じわじわと出来高が増えていく
- ・ネックラインブレイク時に出来高が明確に増加する
このようなパターンであれば、実需を含む「本物の買い」が入っている可能性が高まります。
トレンドフィルター(移動平均線)
移動平均線を使って、「市場全体のトレンド」との方向性を合わせるのも有効です。
- ・日経平均やS&P500などの主要指数が上昇基調にあるか
- ・ラウンディングボトム右側で、価格が中長期移動平均線(50日・200日)を上回っているか
個別銘柄がラウンディングボトムを形成していても、市場全体が弱気相場であればブレイクが失敗するリスクは高くなります。
オシレーターの確認
RSIやストキャスティクスなどのオシレーター系指標で、「底打ちのサイン」が出ているかを確認するのも一案です。
- ・RSIが長期間30付近で推移したあと、50より上に定着してくる
- ・ダイバージェンス(価格は安値更新、オシレーターは安値切り上げ)が出ている
これらは「弱気トレンドの勢いが弱まっている」サインであり、ラウンディングボトムとの相性が良い組み合わせです。
実例シナリオ:株・FX・ビットコイン
株式のシナリオ例
たとえば、ある中型株が業績悪化で長期下落し、株価が1,000円台から300円台まで売られたとします。その後、決算で「最悪期は脱した」ことが示され、株価は300〜350円付近で数か月間横ばいを続けます。
やがて、業績の改善期待から少しずつ買いが増え、株価は400円、450円と安値・高値を切り上げていきます。過去に売り圧力が強かった500円近辺を出来高を伴って上抜ければ、ラウンディングボトムからのトレンド転換が確定的となり、700円〜800円といった上方向のターゲットを狙う戦略が立てられます。
FXのシナリオ例
FXでは、たとえば長く売られていた通貨ペアが、中央銀行の姿勢転換や景気指標の改善により、徐々に売り圧力を失っていく局面でラウンディングボトムが現れます。
日足チャートで安値圏のラウンディングボトムを確認したうえで、4時間足でネックラインを上抜けた局面、あるいはそのリテストで押し目買いを仕掛けるといった手法が考えられます。
ビットコインのシナリオ例
ビットコインのようなボラティリティの高い資産でも、長期弱気相場の終盤ではラウンディングボトムが見られることがあります。暴落相場のあと、数か月〜1年以上にわたって価格があるレンジ内で推移し、ニュースだけを見ると悲観一色のように感じても、チャート上では安値の切り上げと出来高の変化がじわじわ進んでいるケースがあります。
このような局面で、「明確な上向きカーブ+ネックラインブレイク+出来高増加」が揃えば、中長期の上昇相場への入口となり得ます。
ラウンディングボトムが機能しにくいケース
どんな優れたパターンでも、万能ではありません。ラウンディングボトムが機能しにくい典型的なケースも押さえておきましょう。
- ・ニュースや規制など、突発的な悪材料が出ている状況
- ・市場全体が暴落相場に入っているタイミング
- ・出来高が極端に少なく、少額の売買で価格が大きく動いてしまう銘柄
- ・短期間で無理に「それらしい形」を探しているだけのケース
特に、「大局としてのトレンド」が下向きのときに、個別銘柄だけのラウンディングボトムで逆張りを試みるのはリスクが高くなります。あくまで、全体環境と組み合わせながら使うことが重要です。
ラウンディングボトムを使ったトレードプラン例
最後に、実際に使えるシンプルなトレードプランの例をまとめます。
トレードプラン例
- 1. 週足または日足で、明確な下降トレンド後のラウンディングボトム候補をスクリーニングする
- 2. 中央部の横ばい〜底固め期間が十分にあるものを優先する
- 3. 右側で高値・安値が切り上がり始めている銘柄を絞り込む
- 4. ネックラインを引き、その上抜けと出来高増加を待つ
- 5. ブレイクまたはリテスト押し目でエントリーする
- 6. 損切りは「直近明確な安値の少し下」に置き、ポジションサイズは口座残高の1〜2%リスクに抑える
- 7. 利確は「パターンの高さ分の値幅+過去レジスタンスゾーン」を目安に段階的に行う
- 8. エントリー後も週足・日足でトレンドの継続を確認し、明確なトレンド崩れが出るまでは過度に早く手仕舞わない
このように、ラウンディングボトムは「底値圏で一発逆張りを当てる」というより、「時間を味方にしながら、底打ちからのトレンド転換を丁寧に取りにいく」考え方のほうが相性の良いパターンです。値幅は大きくなる一方で、形成に時間がかかるため、余裕資金で落ち着いて取り組むのが現実的です。
日々の短期売買に追われていると見逃しがちな中長期の底打ちパターンですが、あえて週足や日足のラウンディングボトムに目を向けることで、「相場全体が冷え切っているときに仕込んでおき、温度が上がってから果実を刈り取る」ようなトレードスタイルも構築できます。自分の資金量や性格に合わせて、無理のない範囲で取り入れてみる価値は十分にあります。


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