相場が大きく反転するとき、必ずしも「V字回復」のように急激に向きを変えるとは限りません。むしろ、多くの個人投資家が気づかないうちに、ゆっくり時間をかけて底を固めて反転していくパターンがあります。それが「ラウンディングボトム(Rounding Bottom)」です。
ラウンディングボトムは、一言でいえば「ゆっくりカーブを描く底打ちパターン」です。株、FX、暗号資産など、あらゆるチャートで出現し、きちんと狙えば「大きなトレンドの初動」を比較的リスクを抑えながら取りにいくことができます。
この記事では、ラウンディングボトムの形状・心理・具体的なエントリー手順・利確と損切りの考え方・よくある失敗パターン・検証方法まで、初めての方でも再現できるレベルで詳しく解説します。
ラウンディングボトムとは何か:基本概念
ラウンディングボトムは、価格が下落トレンドから徐々に下げ止まり、横ばいを経て、ゆっくりと上昇に転じていく「お椀型」の底の形を指します。英語では Rounding Bottom と呼ばれ、日本語では「ラウンドボトム」や「底緩やかなカーブ」といった表現をされることもあります。
典型的な特徴は次の通りです。
- 価格の下落スピードが徐々に弱まり、安値更新のペースが遅くなる
- 一定期間、低ボラティリティの横ばいレンジが続く
- その後、徐々に高値・安値が切り上がりはじめる
- 全体として「U字」または「お椀」を横から見たようなカーブになる
重要なのは、ラウンディングボトムは「一瞬で完成しない」という点です。短期トレードでありがちな「一気に下げて一気に戻るV字」とは違い、数週間〜数ヶ月かけてジワジワと底打ちしていくことが多いパターンです。
なぜラウンディングボトムが生まれるのか:市場参加者の心理
チャートパターンは、単なる線の形ではなく「市場参加者の心理の集合」です。ラウンディングボトムが生まれる典型的な心理の流れを順番に見ていきます。
① 急落フェーズ:恐怖と投げ売り
悪材料や相場全体のリスクオフによって価格が大きく下げます。この段階ではニュースもネガティブなものが多く、個人投資家の多くが恐怖心から投げ売りをします。出来高は一時的に急増し、その後、徐々に落ち着いていきます。
② 失望と無関心フェーズ:出来高の枯渇
急落の後、価格はあまり動かなくなり、出来高も減っていきます。多くの投資家はその銘柄に興味を失い、「もう見たくない」「ずっと低迷している」と感じてチャートを見なくなります。ニュースにも取り上げられなくなり、市場の注目度は低下します。
③ 長期投資家のゆっくりした買い集め
一方で、ファンダメンタルを重視する投資家や、長期目線のプレイヤーは「割安」と判断し、少しずつ買い始めます。ただし、彼らは慌てて買いにいくわけではないので、価格は急上昇せず、時間をかけて緩やかに下げ止まり、横ばいを続けます。
④ 需要が供給を上回り始める
ある程度時間が経つと、売りたい投資家はほとんど売り尽くしており、「これ以上安く売りたくない」という層が増えてきます。そこに長期投資家や一部の敏感なトレーダーの買いが入り、少しずつ高値・安値が切り上がり始めます。
⑤ 上昇トレンド初動:遅れて気づく市場
価格が目に見えて切り上がってくると、ようやく多くの投資家が「底打ちしたかもしれない」と気づき始めます。ラウンディングボトムの右半分が形成されるタイミングで、ブレイクアウトトレーダーやトレンドフォローの資金も流入し、上昇トレンドが加速します。
このように、ラウンディングボトムは「恐怖 → 無関心 → 静かな買い集め → 需要優位 → トレンド転換」という心理の変化が、チャート上にゆっくりと反映された結果です。
ラウンディングボトムの見分け方:実務的なチェックポイント
実際のチャートでラウンディングボトムを見抜くには、次のようなポイントをチェックします。
① 時間軸:日足以上で見る
ラウンディングボトムは「時間をかけて底を固める」パターンなので、5分足や15分足など超短期ではノイズが多く、きれいに見えにくい傾向があります。基本的には日足、スイングトレードなら4時間足以上で探すのが現実的です。
② 価格のカーブ:一直線ではなく、緩やかなU字
チャートを視覚的に見て、底付近が「カクカクした直線」ではなく、「なめらかなカーブ」になっているかを確認します。安値更新の幅が徐々に小さくなり、やがて横ばい、そして高値・安値の切り上げに変化していく流れが重要です。
③ 出来高の推移
理想的なラウンディングボトムでは、次のような出来高の推移が見られることが多いです。
- 急落局面で出来高が一時的に膨らむ
- 底付近では出来高が減少し、静かな状態になる
- 右側で価格が切り上がるタイミングから、出来高が再び増え始める
ただし、FXや暗号資産など一部の市場では出来高データが限定的な場合もあるため、あくまで参考として扱い、価格のカーブを重視します。
④ ネックラインの存在
ラウンディングボトムの右側では、「一定のレジスタンスライン(天井)」が形成されることが多いです。このラインを明確に上抜けてくると、本格的な上昇トレンド入りのサインとして機能します。ネックラインの価格は、後でエントリーや利確の目安として重要になります。
具体例:株式のラウンディングボトム戦略
ここからは、実際に株式チャートでラウンディングボトムを使った戦略例を示します。イメージしやすいように、仮の銘柄と価格を使って説明します。
シナリオ設定
ある銘柄Aの株価が、1,500円から800円まで半年かけて下落したとします。その後、800〜900円のレンジで2ヶ月ほど横ばいが続き、徐々に安値が切り上がっていきました。
チャートを眺めると、次のような特徴があります。
- 安値:800円 → 810円 → 830円 → 850円 と、少しずつ切り上がっている
- 高値:900円前後に何度か上値を抑えられている(ネックライン)
- 出来高:急落時には多かったが、底では減少し、右側でやや増加傾向
この状態を「ラウンディングボトム候補」とみなします。
エントリーポイント
最もシンプルなエントリー方法は、「ネックラインの明確なブレイク」を待つことです。
- ネックライン:900円
- エントリー条件:終値で900円をはっきり上抜け、できれば出来高も増加している
終値が910円で引け、出来高も直近5日平均を上回るような形であれば、翌日の寄り付き〜押し目でエントリーする、といった形が一つの基準になります。
損切りライン
損切りラインは、次のいずれかで設定するパターンが多いです。
- パターンの「底」付近(800〜820円ゾーン)の少し下
- 直近安値(例えば850円)の少し下
リスクリワードを意識するなら、例えば次のように設計します。
- エントリー:910円
- 損切り:850円(リスク60円)
- 第1利確目標:1,030円(リワード120円、リスクリワード 1:2)
- 第2利確目標:1,150円(長期目線のレジスタンス、リスクリワード 1:4 近辺)
このように、ラウンディングボトムは「底の形」を根拠にしつつ、ネックラインとリスクリワードを組み合わせて戦略を組み立てやすいのが強みです。
FXでのラウンディングボトム活用例
FXでも、特に4時間足や日足レベルでラウンディングボトムはよく出現します。ここでは、ドル円の4時間足を例にしたイメージを示します。
シナリオ設定
ドル円が 152円から147円まで下落し、その後、147〜148円で1〜2週間ほど横ばいを続けながら、徐々に安値が切り上がっていったとします。
- 安値:147.00 → 147.10 → 147.30 → 147.50
- 高値:148.00付近で何度も上値を抑えられている
4時間足で見ると、底付近がきれいなカーブを描いている状況です。
エントリー戦略
FXでは「だましブレイク」も多いため、次のようなフィルターを組み合わせることが有効です。
- ネックライン 148.00 の上抜け
- 4時間足の終値で 148.20 以上
- 移動平均線(例えばEMA20)が上向きに転じている
これらの条件を満たした足の次の足でエントリーするなど、ルールを明確にしておくと、感情に左右されにくくなります。
損切り・利確の目安
- 損切り:ブレイク前の押し安値(147.40など)の少し下
- 第1利確:直近下落の起点(例えば 150円付近)
- 第2利確:日足ベースの大きなレジスタンスライン
このように、ラウンディングボトムは「大きな流れの転換」を狙うため、利確目標もある程度広く設定することがポイントです。
暗号資産でのラウンディングボトム活用例
暗号資産(仮想通貨)市場では、ボラティリティが高い一方で、ラウンディングボトムのようなゆっくりとした底固めが起きることも多くあります。特に、長期的な弱気相場の終盤に出現しやすいパターンです。
ビットコインの長期チャートをイメージ
例えば、ビットコインがあるサイクルで高値から大きく下落し、その後、長期間にわたって狭いレンジで推移しながら、徐々に安値を切り上げていく局面を考えます。
- 週足チャートで見ると、底付近がなめらかなカーブになっている
- 出来高は一時的に減少するが、右側で徐々に増えていく
- オンチェーンデータなどでも「長期保有者の割合増加」などが観測される
このような局面では、ラウンディングボトムを長期サイクルの底打ちサインの一つとして参考にしつつ、分割して現物を積み増していく戦略などが検討できます。
短期のレバレッジ取引で一気に勝負するというより、「長く続いた弱気相場の終盤で、リスクを管理しながら現物を少しずつ買い増す」といった使い方が現実的です。
エントリー手順をルール化する:チェックリスト式フロー
ラウンディングボトムは「なんとなくカーブに見えるから買う」といった感覚的な判断に頼ると危険です。そこで、エントリーまでのフローを簡単なチェックリストとしてまとめます。
ステップ1:時間軸の決定
まず、自分がどの時間軸でトレードするかを決めます。
- スイングトレード中心:日足、4時間足
- やや長期のポジション:日足、週足
時間軸が決まらないと、「どの形をラウンディングボトムとみなすか」がぶれてしまいます。
ステップ2:形状の確認
- 安値更新の幅が徐々に小さくなっているか
- 底付近が「ギザギザのV字」ではなく「なめらかなU字」になっているか
- 右側で高値・安値の切り上げが始まっているか
少なくともこの3点は確認したいところです。
ステップ3:ネックラインの特定
右側の戻り高値が複数回意識されていれば、それらを結んでレジスタンスライン(ネックライン)を引きます。これが「ブレイク確認」の基準価格になります。
ステップ4:ブレイク条件の設定
次のようなルールを自分なりに決めておきます。
- 終値がネックラインを◯%以上上抜けたらエントリー
- 出来高が直近平均の1.5倍以上なら信頼度アップ
- 移動平均線(20日線など)が上向きなら優先度アップ
条件が多すぎるとチャンスを逃しやすくなりますが、少なすぎるとだましをつかみやすくなります。まずは「価格 × 出来高 × 移動平均」の3つくらいに絞ってルール化してみると良いでしょう。
利確戦略:どこまでホールドするのか
ラウンディングボトムは「トレンド転換」を狙うパターンである以上、利確戦略も「伸ばす前提」で設計するのが基本です。ただし、全ポジションを同じ地点で手仕舞いする必要はありません。
分割利確の考え方
具体的には、次のような段階的利確が考えられます。
- 第1利確:ネックラインからの上昇幅がリスクの2倍に達した地点(リスクリワード 1:2)
- 第2利確:直近下落トレンドの起点価格付近
- 第3利確:週足レベルの長期レジスタンスライン
例えば、先ほどの株式の例で、リスクが60円なら、第1利確は120円上昇した地点、第2利確はその先の重要節目、といった形であらかじめ決めておきます。
トレーリングストップの活用
トレンドが思った以上に伸びるケースもあるため、トレーリングストップ(一定幅ごとに損切りラインを切り上げていく手法)を使うのも有効です。
- 直近の押し安値の少し下にストップを移動する
- 移動平均線(20日線など)の少し下にストップを設定する
このようにしておけば、「含み益が大きくのった状態で全戻しになる」といったショックを減らすことができます。
損切り戦略:パターン否定のポイントを明確にする
ラウンディングボトムが「完成したと思ったら失敗だった」というケースも当然あります。そのときにダメージを最小限に抑えるためには、「パターンが否定されたと判断するライン」を事前に決めておくことが重要です。
典型的な否定パターン
- ネックラインをブレイクした後、すぐにその下へ戻り、ブレイク前の安値も割り込んでしまう
- 右肩の高値を更新できず、再び底値圏まで急速に戻ってしまう
このような動きになった場合、「ラウンディングボトムによるトレンド転換」は一度リセットし、ポジションを降りるという判断が合理的です。
ラウンディングボトムと他のパターンとの違い
ラウンディングボトムは、他の底打ちパターン(ダブルボトムや逆ヘッドアンドショルダーなど)と混同されやすいです。それぞれの違いを理解しておくと、チャート認識の精度が上がります。
ダブルボトムとの違い
ダブルボトムは「2つの明確な安値」が特徴です。一方、ラウンディングボトムは「多数の細かな安値」が連続しており、全体としてなめらかなカーブを描きます。どちらが優れているということではなく、形状と時間軸が異なると理解しておくとよいでしょう。
逆ヘッドアンドショルダーとの違い
逆ヘッドアンドショルダーは、「左肩・頭・右肩」という3つの大きな波で構成される明確なパターンです。一方、ラウンディングボトムは、そうした明確な3波動構造がなく、より連続的で緩やかなカーブを描きます。
実務上は、「きれいな逆ヘッドアンドショルダーになっていないが、全体としては長い時間をかけて底を固めている」というチャートをラウンディングボトムとして扱うイメージです。
よくある失敗パターンと注意点
ラウンディングボトムを使ったトレードでありがちな失敗を、事前に知っておきましょう。
① 早すぎるエントリー
底打ちを「当てにいく」意識が強すぎると、左側の下落途中で「ここが底だろう」と思って買ってしまいがちです。ラウンディングボトムは「右側でエントリーする」前提で考えると、無駄な逆張りを減らしやすくなります。
② 時間軸のブレ
日足でラウンディングボトムを確認したにもかかわらず、5分足のノイズでビビって手仕舞いしてしまう…というのも典型的な失敗です。分析した時間軸と同じ時間軸または1段階下の時間軸でトレード管理を行うように意識します。
③ ファンダメンタル完全無視
ラウンディングボトムはチャートパターンですが、特に株や暗号資産では、ファンダメンタルの変化も重視したいところです。業績悪化が続いている銘柄や、重大な規制リスクを抱えているトークンは、チャートだけで判断すると危険な場合があります。
最低限、ニュースや決算、プロジェクトの状況などは確認し、「なぜ長期の底打ちが起きているのか」を自分なりに解釈しておくと、パターンの信頼度も高めやすくなります。
ラウンディングボトムの検証方法:自分の武器にするために
どんな優れたチャートパターンでも、「自分で検証したことがあるかどうか」で信頼度は大きく変わります。ここでは、シンプルな検証ステップを示します。
ステップ1:過去チャートでパターンを探す
TradingViewなどのチャートツールを使い、気になる銘柄や通貨ペアの過去チャートでラウンディングボトムを探します。日足・週足を中心に、目視で構いません。
ステップ2:ブレイク後の値動きを記録する
次の項目をノートやスプレッドシートに記録します。
- パターンの銘柄・通貨ペア
- 時間軸(日足・週足など)
- ネックライン価格
- ブレイク時の終値と出来高
- ブレイク後、◯日後・◯週間後の価格水準
- 最大含み益と最大含み損
これを10例、20例と積み重ねていくと、「自分のルールでラウンディングボトムを使ったとき、おおよそどのくらいの勝率とリスクリワードが期待できるか」が肌感覚で分かるようになってきます。
ステップ3:ルールの微調整
検証の中で、「出来高フィルターを入れた方がだましが減る」「移動平均線の傾きも条件に入れた方がよい」といった傾向が見えてくるはずです。その気づきをもとに、ルールを少しずつ調整していきます。
まとめ:ラウンディングボトムは「待てる投資家」向きのパターン
ラウンディングボトムは、派手な一撃必殺のパターンではありません。むしろ、「時間を味方にして、ゆっくり底を固めた銘柄に乗る」というスタイルに向いたチャートパターンです。
最後に、ラウンディングボトムを活かすためのポイントを整理します。
- 日足以上の時間軸で「なめらかなU字カーブ」を探す
- 底付近の出来高減少と、右側の出来高増加に注目する
- ネックラインを明確に定義し、「ブレイクを待ってから」エントリーする
- 損切りラインと利確目標を事前に決め、リスクリワード 1:2 以上を意識する
- 過去チャートで必ず検証し、「自分の型」に落とし込む
このパターンを一つの武器として身につけておくことで、「底値圏での無駄な逆張り」を減らし、「腰を据えて取れる上昇トレンド」を狙いやすくなります。焦らず、ルールを決めて、少しずつ自分のトレードスタイルに組み込んでいくことが大切です。


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