チャートを眺めていると、「そろそろ天井(または底)っぽい」と感じる場面がありますが、感覚だけで売買するとタイミングが早すぎたり遅すぎたりして、結果的に損失につながりやすいです。そこで役に立つのが、オシレーター系指標の中でも特に人気が高い「RSIダイバージェンス」です。
RSIダイバージェンスは、価格の動きとRSIの動きが食い違う瞬間を捉えることで、トレンド転換や反発の可能性を探るテクニカル手法です。初心者でも仕組みを理解すればチャート上で視覚的に認識しやすく、裁量トレードの判断材料として非常に有用です。
本記事では、株、FX、暗号資産といったさまざまな市場で使える「RSIダイバージェンス」の基本から、具体的な活用ステップ、注意点まで、初めての方でも迷わないように丁寧に解説していきます。
RSIダイバージェンスとは何か
まずは「ダイバージェンス」という言葉の意味から整理します。ダイバージェンス(Divergence)は直訳すると「乖離」や「逆行」を意味し、価格とテクニカル指標の動きが逆方向になる状態を指します。
RSIダイバージェンスとは、価格は高値(または安値)を更新しているのに、RSIがそれについていかず、逆向きの動きを見せている状態です。このズレが「相場の勢いの弱まり」や「トレンド転換の前兆」である可能性を示唆します。
典型的な例は次の通りです。
- 価格:高値Aよりも高値Bが高い(高値更新)
- RSI:高値Aの時点のRSIの方が、高値Bの時点のRSIよりも高い(勢い低下)
このように、価格だけを見ると強そうに見える場面でも、RSIを重ねて観察すると「実は買いの勢いが弱まっている」ことが視覚的に分かります。これがRSIダイバージェンスの本質です。
RSIの基礎を軽くおさらい
ダイバージェンスを理解するには、RSIそのものの仕組みも押さえておく必要があります。RSI(Relative Strength Index)は、一定期間における「上昇幅」と「下落幅」のバランスから、買われ過ぎ・売られ過ぎの度合いを0〜100の範囲で示すオシレーター指標です。
一般的には次のような水準が目安とされています。
- RSIが70以上:買われ過ぎ気味
- RSIが30以下:売られ過ぎ気味
ただし、強い上昇トレンドではRSIが長期間70以上で張り付くこともあり、「70を超えたから即売り」という単純な使い方ではダマシも多くなります。そこで、「水準」だけでなく「動き方」に注目するアプローチとしてダイバージェンスが活きてきます。
代表的な4つのRSIダイバージェンスパターン
RSIダイバージェンスにはいくつか種類がありますが、初心者がまず押さえるべきは次の4つです。
1. 強気ダイバージェンス(Bullish Divergence)
下落トレンドの終盤で出やすい、反発上昇のサイン候補です。
- 価格:安値Bが安値Aよりも低い(安値更新)
- RSI:安値BのRSIが、安値AのRSIよりも高い(売り圧力の弱まり)
価格はまだ下値を掘っているのに、RSIはすでに切り上がっている状態です。「売りが続いているように見えて、勢いは弱まり始めている」ことを示しており、反発やトレンド転換の候補ポイントとして注目されます。
2. 弱気ダイバージェンス(Bearish Divergence)
上昇トレンドの終盤で出やすい、反落下落のサイン候補です。
- 価格:高値Bが高値Aよりも高い(高値更新)
- RSI:高値BのRSIが、高値AのRSIよりも低い(買い圧力の弱まり)
価格は強そうに見えますが、RSIは逆に勢いの低下を示しています。「上昇の勢いが限界に近づいているかもしれない」タイミングを察知する材料になります。
3. 隠れた強気ダイバージェンス(Hidden Bullish Divergence)
上昇トレンドの押し目で見られることが多い、トレンド継続のサイン候補です。
- 価格:安値Bが安値Aよりも高い(押し目は浅い)
- RSI:安値BのRSIが、安値AのRSIよりも低い(調整中でも売りが強く入った)
価格は切り上がっているのにRSIは切り下がっている状態です。「価格は崩れていないのに、一時的に強い売りが出たが消化された」と解釈され、上昇トレンド継続の根拠として利用されます。
4. 隠れた弱気ダイバージェンス(Hidden Bearish Divergence)
下落トレンドの戻りで見られることが多い、トレンド継続のサイン候補です。
- 価格:高値Bが高値Aよりも低い(戻りは限定的)
- RSI:高値BのRSIが、高値AのRSIよりも高い(一時的に強い買いが入った)
価格は切り下がっているのにRSIは切り上がっている状態で、「戻り局面で一時的に買いが強く入ったが、結局トレンドは下向き」という見方をします。
RSIダイバージェンスの見つけ方:実際のチャートでの手順
次に、実際のチャート上でどのようにRSIダイバージェンスを探すのか、ステップ形式で整理します。ここでは多くのチャートツールで標準搭載されている14期間RSIを前提とします。
- トレンド方向を確認する
まずは移動平均線や高値・安値の切り上げ/切り下げで大まかなトレンドを把握します。上昇トレンドなら弱気ダイバージェンスと隠れた強気ダイバージェンス、下落トレンドなら強気ダイバージェンスと隠れた弱気ダイバージェンスを重点的に探します。 - 価格の高値・安値をマーキングする
直近数本〜数十本のローソク足の中で明確な高値・安値を2点ずつ探し、ラインやマークで印をつけます。 - RSIの山・谷を対応させる
価格でマーキングした高値・安値に対応するRSIの山・谷を確認します。価格の高値同士・安値同士を結んだ線と、RSIの山同士・谷同士を結んだ線の傾きを比較します。 - 傾きの違いでダイバージェンスを判定する
価格が切り上がっているのにRSIは切り下がっていれば弱気ダイバージェンス、価格が切り下がっているのにRSIが切り上がっていれば強気ダイバージェンスです。隠れたダイバージェンスの場合は、価格のトレンド継続方向と逆向きのRSIの動きに注目します。
慣れないうちは、ダイバージェンスを「無理やり見つけよう」としてしまいがちです。チャート全体を俯瞰し、明確に「おや?」と感じるズレだけに絞ることが精度向上のポイントです。
株・FX・暗号資産でのRSIダイバージェンス活用イメージ
ここからは、具体的な市場ごとのイメージを持てるように、3つの代表的なケースを紹介します。
株式市場の例:決算後の急騰局面
ある銘柄が好決算をきっかけに急騰し、数日連続で高値を更新している場面をイメージします。価格チャートだけを見ると「どこまで上がるのか」と感じるかもしれませんが、RSIを重ねてみると、最初の急騰時のRSIは80近くまで跳ね上がり、その後の高値更新時のRSIは70前後にとどまっていることがあります。
これは典型的な弱気ダイバージェンスで、「初動の勢いほどの買いパワーはすでにない」状態です。すぐに反落すると決まっているわけではありませんが、追いかけ買いのリスクが高まっているサインとして活用できます。
FX市場の例:指標発表後の行き過ぎた急落
FXでは経済指標や要人発言をきっかけに、一時的に大きく行き過ぎた値動きが出ることがあります。例えば、重要指標発表後にドル円が急落し、短時間で連続して安値を更新していく場面を想定します。
このとき、価格は安値を更新し続けているのに、RSIの安値は徐々に切り上がっていることがあります。これは強気ダイバージェンスのパターンです。「売り一辺倒だった参加者が、徐々に利確や買い戻しを進めている」状態と解釈でき、過度な追随売りを避ける判断材料になります。
暗号資産の例:週末の薄商いトレンド
暗号資産は24時間365日取引されていますが、週末や特定時間帯は流動性が薄くなり、トレンドが極端に偏ることがあります。強い上昇トレンドの中で、週末にさらに高値を更新したものの、RSIはむしろ前回高値時よりも低くなっている場面が見られることがあります。
このような弱気ダイバージェンスは、「一部の買い手だけが無理に価格を押し上げている」ような状態を示唆している可能性があります。レバレッジを高めて追いかけるよりも、ポジションサイズを抑える、部分利確を検討するなど、リスク管理のトリガーとして活用できます。
RSIダイバージェンスの精度を高める3つのフィルター
ダイバージェンスは非常に有用な概念ですが、それ単体でエントリー・エグジットの根拠にするとダマシも増えます。そこで、精度を高めるためのフィルター(条件)を組み合わせることが重要です。
フィルター1:上位時間軸のトレンド方向
例えば、15分足でトレードしているなら、1時間足や4時間足のトレンドも確認します。
- 上位足が上昇トレンド:強気ダイバージェンスや隠れた強気ダイバージェンスを重視
- 上位足が下落トレンド:弱気ダイバージェンスや隠れた弱気ダイバージェンスを重視
上位時間軸と同じ方向のシグナルだけを採用することで、逆張りの失敗を大きく減らすことが期待できます。
フィルター2:価格帯(サポート・レジスタンス)
ダイバージェンスが発生している位置も重要です。過去に何度も反応しているサポートライン・レジスタンスライン、ラウンドナンバー(キリ番)、移動平均線など、意識されやすい価格帯と重なるダイバージェンスは信頼度が高まりやすくなります。
フィルター3:ボラティリティの状態
ATRやボリンジャーバンド幅などでボラティリティを確認し、極端にボラティリティが高い(乱高下している)局面では、ダイバージェンスシグナルが機能しにくくなることがあります。穏やかなトレンドや、行き過ぎた一方向の動きからの反転局面でこそ、ダイバージェンスは力を発揮しやすいと考えられます。
RSIダイバージェンスの典型的な失敗パターン
次に、初心者がつまずきやすい失敗パターンも押さえておきます。
- レンジ相場でシグナル過多になる
明確なトレンドが出ていないレンジ相場では、高値・安値が小刻みに更新されるため、ダイバージェンスが多発します。このような場面ではシグナルの信頼度が下がりやすく、損切りの回数が増える傾向があります。 - 1回のダイバージェンスで即転換を期待する
ダイバージェンスが出たからといって、必ずすぐに反転するわけではありません。何度か高値・安値を試してからようやく転換するケースも多く、過度な期待は禁物です。 - ニュースやファンダメンタルズを完全に無視する
重要指標発表や決算、政策イベントなどが控えている場合、テクニカルシグナルよりもイベントドリブンで価格が大きく動くことがあります。カレンダーやニュースチェックも併用することで、思わぬ値動きに巻き込まれるリスクを減らすことができます。
シンプルな売買ルール例(学習用イメージ)
ここでは、RSIダイバージェンスをどのように売買ルールに組み込めるかの一例を示します。あくまで学習用のイメージであり、実際の取引ではご自身で検証や調整を行うことが前提となります。
強気ダイバージェンスを用いた反発狙いの例
- 前提:下落トレンド中であること(移動平均線の下に価格が位置している など)
- 条件1:直近の安値Bが安値Aを更新している
- 条件2:安値Bに対応するRSIが、安値Aに対応するRSIよりも高い(強気ダイバージェンス)
- 条件3:サポートライン付近、または過去に反発した価格帯に近い
- 条件4:ローソク足が反発を示すパターン(長い下ヒゲなど)を形成
上記が揃ったら、反発の可能性を一つのシナリオとして検討します。利確・損切り水準をあらかじめ決めておき、値動きに応じてルールに従って手仕舞いすることで、感情に振り回されにくくなります。
弱気ダイバージェンスを用いた利確タイミングの目安
エントリーだけでなく、すでに保有しているポジションの「利確タイミングの目安」としてダイバージェンスを使う方法もあります。
- 含み益の乗った買いポジションを保有中
- 価格は高値を更新しているが、RSIは前回高値よりも低い(弱気ダイバージェンス)
- 重要なレジスタンスやキリ番に接近している
このような場面では、「ここからさらに伸びるかもしれないが、一部だけでも利確しておく」といった判断材料になります。全てを天井で売り抜けることは現実的ではないため、段階的な利確のきっかけとしてダイバージェンスを活用するのは合理的な発想です。
RSIダイバージェンスと他のテクニカル指標を組み合わせる
RSIダイバージェンスは単体でも一定の有用性がありますが、他のテクニカル指標と組み合わせることでシグナルの質を高めることができます。
- 移動平均線(MA)との組み合わせ:トレンド方向の把握に利用し、トレンドと逆行するダイバージェンスは慎重に扱う。
- ボリンジャーバンドとの組み合わせ:バンドタッチ+ダイバージェンスで「行き過ぎ」局面を可視化する。
- 出来高指標(OBVなど)との組み合わせ:価格とRSIだけでなく、出来高の推移もチェックし、トレンドの勢いを多角的に判断する。
複数の指標が同じ方向の示唆をしている場面に絞ることで、トレードの質を一歩ずつ高めることができます。
まとめ:RSIダイバージェンスは「勢いの変化」を見抜くレンズ
RSIダイバージェンスは、価格そのものではなく「勢いの変化」に焦点を当てることで、トレンド転換や押し目・戻りのタイミングを探る強力なツールです。
- 価格とRSIの動きのズレ=市場参加者の力関係の変化のシグナル
- 強気・弱気だけでなく、隠れたダイバージェンスも押さえるとトレンド継続の見極めに役立つ
- 上位時間軸のトレンド、サポート・レジスタンス、ボラティリティなどのフィルターと組み合わせると精度が高まりやすい
最初はチャート上で「どこがダイバージェンスなのか」を探すだけでも十分な練習になります。気になるポイントをいくつもスクリーンショットやメモとして残し、「その後の値動きがどうなったか」を振り返ることで、自分の感覚と相場の動きを少しずつ同期させていくことができます。
焦らずに検証と観察を積み重ねることで、RSIダイバージェンスはあなたのトレーディングにとって心強い判断材料の一つとなっていくはずです。


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