ローソク足の「三空踏み上げ(さんくうふみあげ)」は、日本の個人投資家のあいだでは古くから知られている天井圏の警戒シグナルです。強烈な上昇相場の勢いが最高潮に達し、「買いが買いを呼ぶ」状態になったときに出やすいパターンであり、その後の急落につながるケースも少なくありません。
一方で、チャート上に「窓(ギャップ)」が3回連続したというだけで安易に売り向かうと、さらに踏み上げられてしまうこともあります。本記事では、三空踏み上げの定義・出やすい局面・信頼度を高める条件・実際のトレードへの落とし込み方を、できるだけ具体的に整理していきます。
三空踏み上げとは何か:基本定義と価格構造
まずは、三空踏み上げの基本的な定義から確認します。
三空踏み上げの定義
三空踏み上げは、一般的に次のように定義されます。
- 強い上昇トレンドの中で
- 上向きのギャップ(窓)が3回連続して出現し
- 3回目の窓の後、天井を付けて反転しやすい
ここでいう「窓」とは、当日の始値が前日の高値よりも上で始まり、ローソク足の実体・ヒゲともに前日の値幅と重ならない状態を指します。日足チャートであれば、前日の値幅から上に価格帯がスッポリ空くイメージです。
価格が加速していくメカニズム
三空踏み上げが出る局面では、次のような力学が働いていることが多いです。
- 好材料やテーマ性が意識され、多くの投資家が「とにかく買いたい」状態になっている
- 空売り勢が踏み上げられ、ロスカットの買い戻しがさらに価格を押し上げる
- 上昇が続いたことで、短期筋が過熱して高値を追いかけ始める
その結果、寄付きから大きくギャップアップしやすくなり、その動きが連続すると三空踏み上げとしてチャートに現れます。
なぜ三空踏み上げは「天井圏シグナル」と言われるのか
三空踏み上げが天井圏と相性が良いとされるのは、価格上昇の「エネルギーの使い切り」がチャート上に可視化されているからです。
買いエネルギーの前借りが起こりやすい
ギャップアップは、通常の寄付きよりも多くの買い注文が寄せられていることを意味します。これが連続するということは、
- 将来出てくるはずの買い需要を、短期間に一気に前倒しして消費している
- 価格が急激に上がりすぎたため、新規の買いが付きにくくなる
という状態になっていると考えられます。すでにポジションを持っている投資家の多くが含み益を抱えており、どこかのタイミングで利益確定に動くと、売りが一斉に出て急落するリスクが高まります。
参加者の心理が「興奮のピーク」にある
三空踏み上げが出る局面では、ニュースやSNSでもその銘柄や市場が大きく話題になっていることがよくあります。
- 「ここからまだまだ上がるのではないか」
- 「乗り遅れたくない」
- 「空売りしている人たちは全員焼かれる」
といった強気一色のセンチメントが形成されていることも多く、逆に言えば、冷静にリスクを測っている参加者が減っているとも言えます。こうした雰囲気は、相場の終盤にしばしば見られる特徴です。
実際のチャートでの三空踏み上げの探し方
次に、チャート上で三空踏み上げをどのように見つけるかを整理します。ここでは日足チャートを前提にしますが、考え方は4時間足や1時間足などにも応用できます。
ステップ1:明確な上昇トレンドの確認
まず前提として、三空踏み上げは上昇トレンドの終盤に出ることが多いパターンです。そのため、次のような条件があるかを確認します。
- 移動平均線(例:20日線、50日線)が上向きで、価格がその上に位置している
- 高値と安値が切り上がるアップトレンドが継続している
- 出来高が徐々に増加している、もしくは急増している
ステップ2:連続した3つの窓(ギャップ)を探す
次に、チャート上で次の条件を満たす3本のローソク足を探します。
- 1本目:前日の高値よりも上で始まり、前日の値幅と重ならないギャップアップ
- 2本目:さらにその高値を離れるようにギャップアップ
- 3本目:3回目のギャップアップで、前日高値からさらに上に窓を開ける
3回目の窓が出た時点で、三空踏み上げが完成候補になります。
ステップ3:3回目のローソク足の形状を確認
三空踏み上げの3本目のローソク足が、次のような形状だと、反転の信頼度が上がりやすいと考えるトレーダーも多いです。
- 上ヒゲの長いコマ足やピンバー(上影陽線・上影陰線)
- 大陽線の後に、翌日以降に包み陰線やダーククラウドカバーが出現
- 窓を開けたものの終値が前日寄値に近く、上値の重さが意識される形
形状だけで判断するのではなく、出来高の増加や、他のテクニカル指標(RSI、MACDなど)との組み合わせもチェックすると、ダマシを減らしやすくなります。
三空踏み上げを使った具体的な売買戦略の考え方
ここからは、三空踏み上げをどのようにトレード戦略に組み込むかを、いくつかのパターンに分けて整理します。
戦略1:保有ポジションの利益確定シグナルとして使う
最もシンプルでリスクを抑えた活用方法は、三空踏み上げを利益確定の目安とすることです。
- すでに上昇トレンド初期から保有しているロングポジションに対して
- 三空踏み上げが出たら、一部または全部を利益確定する
このときのポイントは、
- 全てを一気に手仕舞うのではなく、段階的に利確する選択肢を持つ
- 3回目の窓が出た当日に売るのか、その後の反落を確認してから売るのか、あらかじめルールを決めておく
例えば、次のようなルールが考えられます。
- 三空踏み上げが出た日:保有株の50%を一度利確
- その後、陰線で窓を埋めにくる動きが出たら、残りを順次利確
戦略2:新規の逆張りショート戦略として使う場合
よりアグレッシブな戦略として、三空踏み上げをきっかけにショート(売り)で入る方法もあります。ただし、この戦略はリスクが高いため、ポジションサイズを抑え、損切りルールを厳格に決めておくことが重要です。
逆張りショートを検討する際の一例として、次のような条件を組み合わせます。
- 三空踏み上げが完成している
- 3本目のローソク足が上ヒゲの長いコマ足やピンバーになっている
- 翌日以降に、前日の安値を下回る陰線が出る(いわゆるリバーサルバー)
- RSIが70〜80以上など、オシレーターが明確な買われ過ぎを示している
このような条件が揃ったタイミングで、
- 「前日の高値の少し上」に損切りラインを置き
- 「窓の1つ目付近」や「20日移動平均線付近」を利確目標として設定する
といった具合に、リスクリワードを数字で管理したショート戦略を構築できます。
戦略3:新規買いを控える「ブレーキ」として使う
三空踏み上げは、「今から新規で飛びつき買いをするには、リスクが高いかもしれない」というサインとしても有効です。
- ニュースやSNSで話題になり、興味を持った銘柄が
- すでに三空踏み上げ状態になっている
このようなケースでは、あえて新規の買いエントリーを見送る判断も、リスク管理の観点からは重要です。「入らない」という選択も、立派な戦略の一つです。
ダマシを減らすためのフィルター条件
三空踏み上げだからといって、必ずそこが天井になるわけではありません。強烈なテーマ株や短期的な需給相場では、三空どころか四空、五空と続くケースもあります。このようなダマシを減らすために役立つフィルター条件を整理します。
フィルター1:出来高の急増とその後の失速
三空踏み上げの3本目にかけて、出来高が急増しているかを確認します。
- 上昇の勢いがピークに達しているときは、多くの場合、出来高も急増する
- その後、反転局面で出来高が急減してくると、買いのエネルギーが使い切られたサインになりやすい
単に三空が出たというだけでなく、「出来高のピークアウト」が確認できると、反転の信頼度が上がります。
フィルター2:オシレーター指標との組み合わせ
RSIやストキャスティクス、MACDなどのオシレーターと組み合わせることで、過熱感をより定量的に確認できます。
- RSIが70〜80以上、ストキャスティクスが80〜90以上のゾーンに張り付いている
- MACDが大きくプラス乖離し、その後シグナルとのクロスを迎えそうになっている
こうした状況と三空踏み上げが同時に出現していれば、単独のローソク足パターンよりも信頼度の高い警戒シグナルとして扱いやすくなります。
フィルター3:上位時間軸のレジスタンス付近かどうか
週足や月足といった上位時間軸で見たとき、
- 過去の高値ゾーン
- 明確なレジスタンスライン
- フィボナッチの重要水準
などにぶつかっているタイミングで三空踏み上げが出ていれば、
- 長期投資家の利益確定が出やすい
- 短期筋の買いと長期筋の売りがぶつかりやすい
といった背景も加わり、反転の可能性をより意識しやすくなります。
株・FX・暗号資産それぞれへの応用
三空踏み上げの考え方は、株式市場だけでなく、FXや暗号資産のトレードにも応用できます。ただし、市場ごとの価格の動き方やギャップの出方には特徴があります。
株式市場(日足)の特徴
株式市場、とくに現物株の日足では、寄付きと引けがはっきり分かれているため、窓が発生しやすいです。決算発表や材料ニュースの後に、連続したギャップアップが出やすく、三空踏み上げの典型例が見つけやすい市場と言えます。
FX市場(4時間足・1時間足など)での応用
FXは平日24時間取引であるため、日足レベルでは窓がほとんど発生しません。ただし、
- 週明けの窓(週末のニュース・イベントを受けたギャップ)
- 短い時間軸(4時間足や1時間足)での急騰による価格帯のスキップ
などを利用すれば、「実質的な窓」に近い動きを三空踏み上げのイメージで捉えることができます。特に、重要指標発表や要人発言の後に、短時間で価格が飛び飛びになっている局面は、似たような心理構造が働きやすいです。
暗号資産市場での応用
暗号資産は24時間365日取引が行われているため、株式ほど明確な窓は出にくいです。しかし、
- 急騰局面でローソク足の実体が連続して大きく伸びる
- 短期の時間足で、ほとんど調整なしに高値更新を繰り返す
といった実質的な「踏み上げ三段上げ」のような状態はよく見られます。このような局面で、過去の高値や上位時間軸のレジスタンスにぶつかってきたときは、三空踏み上げに近い心理状態が想定できるため、
- 新規買いの抑制
- 既存ポジションの利確判断
の参考にすることができます。
具体的なシナリオ例:三空踏み上げが出たときの判断プロセス
ここでは、仮想的なシナリオを用いて、三空踏み上げが出現したときにどのように考えるか、判断プロセスを時系列で追ってみます。
シナリオ設定
- ある銘柄Aが、1ヶ月で株価が2倍になっている
- 決算発表と好材料ニュースが重なり、出来高が急増している
- 日足チャートで、3日連続のギャップアップ(窓)が発生
ステップ1:三空踏み上げの確認
チャートを確認すると、
- 1日目:前日高値より上で寄り付き、大陽線で引け
- 2日目:さらにギャップアップして大陽線
- 3日目:またギャップアップするが、上ヒゲの長いコマ足で引け
この時点で、三空踏み上げ候補と判断します。
ステップ2:保有ポジションの有無で分岐
すでにA銘柄を保有している場合と、保有していない場合で判断が分かれます。
- 保有している場合:利益確定の検討に入る
- 保有していない場合:新規の飛びつき買いは控える
ステップ3:利益確定の具体的なルール例
保有しているケースでは、次のようなルールが考えられます。
- 3本目の上ヒゲコマ足が出た日に、保有株の半分を利確
- 翌日以降、3本目の安値を割り込む陰線が出たら、残りも利確
- 3本目の高値を明確に上回り、さらに窓を開けて上昇するようなら、残りのポジションはトレーリングストップで追随
このように、チャートの形に応じて複数のシナリオを事前に想定しておくことで、感情に振り回されにくくなります。
リスク管理の観点から見た三空踏み上げ
三空踏み上げは、「天井を当てる」ための魔法のパターンではありません。むしろ、リスク管理の観点から、
- 「ここから先は、リスクが一段と高くなりやすいゾーンに入った」
と認識するための警戒アラートとして使うのが現実的です。
ポジションサイズの調整
三空踏み上げが出ている銘柄に対しては、
- 新規で大きなロットを一気に建てない
- エントリーする場合も、複数回に分けて小さく入る
といった工夫で、想定外の踏み上げリスクを抑えられます。特にレバレッジをかけた取引では、過熱ゾーンでのポジション構築には注意が必要です。
損切りラインの事前設定
三空踏み上げを根拠とした逆張りショートを行う場合は、
- 三空3本目の高値の少し上
- または、上位時間軸での直近高値の少し上
といった明確な損切りラインを事前に決めておくことが重要です。「なんとなく危なそうだから売る」という感覚的な判断だけでは、踏み上げに耐えきれない場面が出てきます。
三空踏み上げをトレードルールに組み込む際のポイント
最後に、三空踏み上げを実際のトレードルールに組み込む際のポイントを整理します。
- 単独のシグナルとして「ここが絶対の天井」と決めつけない
- トレンドの位置(初動・中盤・終盤)と組み合わせて判断する
- オシレーター、出来高、上位時間軸のレジスタンスなど複数の要素を組み合わせてフィルタリングする
- あくまで「リスクが高まりやすいゾーンの警戒サイン」として使う
- 利益確定の目安、新規エントリーの抑制、逆張り戦略のトリガーなど、使い方を明確に分ける
このように、三空踏み上げを総合的な判断材料のひとつとして位置づけることで、感情に左右されない、落ち着いたトレード判断につなげやすくなります。
チャートパターンは、過去の市場参加者の心理と行動の蓄積が形になったものです。三空踏み上げもその一つとして、過熱局面での警戒に活用しつつ、無理のないポジション管理と組み合わせていくことが大切です。


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