三手放れとは何か
三手放れ(さんてばなれ)は、日本のローソク足分析で用いられる比較的マニアックなパターンですが、トレンドの継続や転換の「行き過ぎ」を捉えるうえで非常に役立つシグナルです。大きな値動きが数本連続したあとに、勢いが続くのか、それとも反転の準備に入っているのかを見極めるヒントを与えてくれます。
名前のとおり、「三手=3本前後のローソク足」と「放れ=価格が一方向に飛び出している状態」が組み合わさった形で、上昇相場・下降相場のどちらでも出現します。特に、トレンド終盤での三手放れは、個人投資家が高値掴み・安値投げをしやすい危険ゾーンでもあるため、パターンの意味と心理を正しく理解しておくことが重要です。
三手放れの基本構造とバリエーション
三手放れは厳密な定義が流派によって多少異なりますが、ここでは「実務的にトレードで使いやすい形」に整理して解説します。
1. 上げ三手放れ(上昇相場の行き過ぎサイン)
上げ三手放れは、上昇トレンドの終盤で現れやすいパターンです。典型的には以下のような構造になります。
- すでに上昇トレンドが続いており、直近で2〜3本連続の陽線が出現
- その中で窓を空けて上昇、あるいは実体の大きな陽線が連続して相場が「加速」している
- 出来高が急増し、ニュースやSNSで話題になり始める
このような形は、一見すると「強い買いトレンド」に見えますが、実際には短期勢の買いが一気に集中し、トレンド終盤での買い残が積み上がっている局面であることが多いです。そこからわずかに売りが出るだけで、利確とロスカットが連鎖し、急落に転じるケースが少なくありません。
2. 下げ三手放れ(下降相場の行き過ぎサイン)
下げ三手放れは、下降トレンドの終盤で出やすいパターンです。
- すでに下落トレンドが続いており、2〜3本連続の陰線が出現
- 窓を空けて下落、あるいは実体の大きな陰線が連続して相場が「投げ売りモード」になっている
- 出来高が急増し、「もうダメだ」という雰囲気が強まる
このような場面では、多くの投資家が恐怖から投げ売りを行いますが、逆に大口投資家や逆張りの短期トレーダーにとっては「反発を狙う準備ゾーン」になりやすいです。つまり、三手放れはトレンドの継続サインというより、「行き過ぎの兆候」として捉える方が実戦的です。
三手放れが示す相場参加者の心理
三手放れを読み解くうえで重要なのは、ローソク足の形そのものよりも、その背景にある「市場参加者の心理」です。
上げ三手放れの心理
- 既存のホルダー:含み益が大きくなり、「まだ上がるはずだ」と欲が膨らんでいる
- 出遅れ組:上昇を見ていたが我慢できず、最後の局面で飛びつく
- 短期トレーダー:モメンタムに乗って高速で売買、上値を一気に追いかける
結果として、短期間に多くの買いポジションが積み上がり、「新規の買い余地」が薄くなります。そこにわずかな悪材料や、単なる利確売りが出るだけで、急に上値が重くなり、値動きが反転しやすくなります。
下げ三手放れの心理
- 保有者:含み損に耐えきれず、恐怖から投げ売りを行う
- 新規売り方:トレンドフォローでさらに売り増しをする
- 逆張り勢:そろそろ反発しそうだが、まだ様子見をしている
この局面では、多くの弱いホルダーが一気に市場から退場させられ、売り圧力が一巡しやすくなります。その後、少しでも買い戻しが入るとショートカバーが重なり、急反発につながることがあります。
三手放れと他のローソク足パターンの違い
三手放れは、単一のローソク足パターンというより、「トレンドの行き過ぎ局面全体を捉えるコンセプト」に近い考え方です。包み足やピンバー、たくり線などの単一パターンと組み合わせることで、精度を高めることができます。
- 包み足:三手放れ後に包み足が出現すると、トレンド転換の可能性が高まる
- ピンバー・ハンマー:行き過ぎの終盤で長いヒゲを伴うと、反転の起点になりやすい
- 窓埋め:三手放れで空けた窓を埋める動きが始まると、加熱が冷めたサインになりやすい
つまり、三手放れを「単独の必勝パターン」として崇拝するのではなく、「他のパターンやインジケーターと組み合わせて、トレンドの疲れを測るフィルター」として使うのが現実的です。
株・FX・暗号資産チャートでの具体的なイメージ
ここでは、実際の銘柄名や通貨ペアを特定せずに、よくある値動きのイメージを言語化します。チャートソフトで似た動きを探しながら読み進めると理解が深まります。
例1:株式市場での上げ三手放れ
ある成長株が好決算をきっかけに急騰し、日足で3本連続の大陽線が出現したとします。出来高は決算発表日から一気に膨らみ、ニュースやSNSでもその銘柄の話題が多くなっています。
3本目の大陽線の終値近辺では、
- 決算前から保有していた投資家が含み益に安心し、ホールドを続ける
- 上昇を横目に見ていた投資家が「出遅れたくない」と飛び乗る
- 短期トレーダーがブレイクアウトとモメンタムを狙って買いを重ねる
この局面が、いわば「上げ三手放れゾーン」です。翌日以降、少しでも売りが優勢になると、飛び乗り組のロスカットと短期勢の利確が重なり、急な押し目が発生することがあります。
例2:FX市場での下げ三手放れ
ある通貨ペアが重要なサポートラインを割り込んだあと、4時間足で2〜3本連続の大陰線をつけて急落している場面をイメージしてください。ニュースではその国の経済指標悪化が報じられ、市場心理は極端な悲観モードです。
このとき、すでに売りポジションを持っていたトレーダーは含み益を抱えており、新規の売り手も「トレンドフォロー」で参入してきます。一方で、ロングポジションを持っていた参加者は、損失が耐えられなくなり一斉に投げ売りを行います。この「総投げ」の局面が、下げ三手放れとして機能することがあります。
その後、テクニカル的なサポートゾーンや過去の安値付近で売りが一巡すると、短期的なショートカバーが入り、急反発するケースが少なくありません。
例3:暗号資産市場でのボラティリティ拡大局面
暗号資産市場では、週末や深夜の薄商い時間帯に三手放れ的な動きがしばしば発生します。出来高が薄いなかで一方向の注文が集中すると、大きなローソク足が連続し、市場が一気に行き過ぎた状態になります。
このようなときに飛び乗ると、高値掴み・安値投げになりやすいため、三手放れっぽい動きが出たときは、すぐにエントリーするのではなく、「どこで勢いが鈍化するか」を落ち着いて観察する姿勢が重要です。
三手放れを活用したエントリー戦略
三手放れは「行き過ぎ」を捉えるパターンなので、トレンドフォローというよりは「反発」「押し目・戻り」を狙う戦略と相性が良いです。
戦略1:上げ三手放れ後の押し目待ち
上げ三手放れを確認したら、すぐに逆張りショートを仕掛けるのではなく、まずは「勢いが鈍るサイン」を待ちます。
- 大陽線のあとに上ヒゲの長いローソク足が出る
- 短期移動平均線からの乖離が極端に広がる
- 出来高がピークアウトし、次第に減少していく
これらのサインが現れたら、
- すでにロングを持っている場合:一部利確・トレーリングストップの設定
- ノーポジションの場合:深い押し目まで待ってから、再度トレンド方向にエントリーを検討
三手放れは天井をピンポイントで当てるツールではなく、「ここからはリスクが急激に高まるゾーンだ」と把握するためのアラートだと考えると良いです。
戦略2:下げ三手放れ後の反発狙い
下げ三手放れ後は、ショート勢の買い戻しと逆張り勢の新規買いが重なり、短期的な急反発が起こりやすい局面です。ただし、トレンド全体がまだ下降基調にある場合、一時的なリバウンドで終わることも多いため、出口戦略を明確にしておく必要があります。
- 過去のサポートゾーンやフィボナッチ水準に近い価格帯を確認
- 陽線への反転+出来高の増加をチェック
- 損切りラインを明確にしたうえで、小さめのロットから試す
特に暗号資産やボラティリティの高い銘柄では、反発が一気に進むこともあるため、「狙いすぎずに素早く利確する」ことがリスク管理のポイントになります。
損切りとリスク管理の考え方
三手放れを活用したトレードは、魅力的なリスクリワードを得られる一方で、「逆行したときの損失」も大きくなりがちです。そのため、事前の損切りルールが不可欠です。
- 証拠金・口座残高に対して1〜2%以内の損失に収まるよう、ロットサイズを調整する
- 上げ三手放れ後の押し目狙いでは、直近高値の少し上に損切りラインを置く
- 下げ三手放れ後の反発狙いでは、直近安値の少し下に損切りラインを置く
- ナンピンで平均取得単価を下げるのではなく、最初から損切りありきで設計する
また、レバレッジのかけすぎは三手放れのような急激な値動きと非常に相性が悪いため、特に初心者のうちは低レバレッジまたは現物取引で練習することをおすすめします。
インジケーターとの組み合わせで精度を高める
三手放れはローソク足だけでも活用できますが、インジケーターを組み合わせることでシグナルの精度を高めることができます。
RSIとの組み合わせ
- 上げ三手放れ+RSI70超え:短期的な買われすぎゾーン
- 下げ三手放れ+RSI30割れ:短期的な売られすぎゾーン
この条件に加えて、ダイバージェンス(価格は高値更新しているのにRSIは高値を更新できないなど)が出ていれば、トレンドの勢いが弱まりつつあるサインとして参考になります。
出来高・オシレーターとの組み合わせ
- 三手放れの局面で出来高が極端に膨らむ:参加者のポジションが一方向に偏っている可能性
- ストキャスティクスやMACDが極端な水準に張り付いている:行き過ぎの度合いを確認
複数のシグナルが同じ方向を示しているときだけエントリーし、それ以外は見送るという「フィルター運用」を徹底すると、無駄なトレードを減らすことができます。
時間軸別の使い方と注意点
三手放れは、日足・4時間足・1時間足・5分足など、どの時間軸でも出現しますが、時間軸ごとに意味合いが異なります。
- 日足:中期トレンドの行き過ぎを示すことが多く、スイングトレード向き
- 4時間足:短期トレンドの加速局面を捉えやすく、デイトレとスイングの中間
- 5分足・1分足:ノイズも多く、スキャルピング向けだが経験が必要
初心者のうちは、まず日足や4時間足で三手放れのパターンを探し、じっくりと値動きと心理をイメージするところから始めると良いでしょう。短期足だけを見ると、単なるランダムな値動きに振り回されやすくなります。
三手放れを組み込んだトレードプラン作成のステップ
最後に、三手放れを活用してトレードルールを組み立てる際の具体的なステップをまとめます。
- 利用する時間軸を決める(例:日足メイン、4時間足でタイミング調整)
- 上昇・下降トレンドの定義を決める(移動平均線の向き・高値安値の切り上げ/切り下げなど)
- 三手放れの条件を自分なりに明文化する(連続陽線・陰線の本数、実体の大きさ、窓の有無など)
- インジケーターとの組み合わせ条件を決める(RSI、MACD、出来高など)
- エントリーパターンを2〜3個に絞る(押し目買い、戻り売り、反発狙いなど)
- 損切りと利確のルールを数値で決める(pips・%・チャートパターンを基準にする)
- 過去チャートで検証し、勝率・損益率をざっくり把握する
このプロセスを踏むことで、「なんとなく三手放れっぽいからエントリーする」という感覚的な判断から、「条件が揃ったときだけ冷静に仕掛ける」トレードへと変えていくことができます。
よくある勘違いと注意点
- 三手放れが出たら必ず反転するわけではない
- ニュースや材料が強すぎる場合、行き過ぎがさらに継続することもある
- ボラティリティが極端に高い銘柄だけに絞ると、損切り幅が大きくなりがち
- レバレッジをかけすぎると、少しの逆行で口座全体が大きく傷む
重要なのは、三手放れを「万能サイン」と誤解せず、トレンドの位置づけや市場の雰囲気を総合的に判断する一材料として使うことです。
まとめ:三手放れはトレンド終盤のリスク管理ツール
三手放れは、派手な必勝パターンではありませんが、「トレンドの終盤でリスクが急激に高まるゾーン」を教えてくれる、非常に実務的なツールです。
上げ三手放れでは、飛び乗りによる高値掴みを避けるヒントになり、下げ三手放れでは、恐怖による投げ売りを冷静に眺め、反発のきっかけを探る視点を与えてくれます。ローソク足の形だけにとらわれるのではなく、その背後にある参加者の心理とポジションの偏りをイメージしながら活用することで、より安定したトレード判断につなげることができます。
最終的な売買判断はご自身の責任で行う必要がありますが、三手放れを一つの「危険信号・チャンス信号」としてチャートに組み込むことで、無駄なエントリーを減らし、リスクを抑えながら利益機会を狙う一助になるはずです。


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