本記事では、日本のローソク足パターンの中でも非常にインパクトが強い「三空踏み上げ」を取り上げます。三空踏み上げは、短期間に相場が一方向へ行き過ぎたサインとして機能しやすく、トレンドの最終局面やオーバーシュートの目安として実務的に使いやすいパターンです。
三空踏み上げとは何か
三空踏み上げとは、上昇トレンドの中で、連続して「窓（ギャップ）」を開けながら上昇していく局面を指します。典型的には、3本連続の大きな陽線が、いずれも前日の高値よりも上で始まり、日足チャート上に3つの「空（窓）」が階段状に並ぶ形になります。
視覚的には、ローソク足が階段を駆け上がっているように見えるため、「踏み上げ」という名称のイメージどおり、売り方が踏み上げられている状況を表現しています。
三空踏み上げが示唆する相場心理
三空踏み上げが出現する場面では、買い方の強気心理が極端に高まっています。ニュースや材料が連発し、「もう買わないと乗り遅れる」という焦りが市場を支配していることが多いです。一方で、売り方は損切りを余儀なくされ、踏み上げの買い戻しでさらに相場が加速します。
しかし、相場は常に行き過ぎたあとに反動が起きます。三空踏み上げが出たタイミングは、「短期的な天井圏」「一度冷却が入る可能性が高いゾーン」として意識されやすく、買いで飛びつく局面ではなく、むしろポジションの利益確定や逆張りの準備に適した場面となります。
三空踏み上げの具体的な条件
三空踏み上げには厳密な教科書的定義はありませんが、実務的なトレードで使いやすい条件を整理すると、次のようになります。
- すでに明確な上昇トレンドが形成されている（移動平均線が上向き、押し目が切り上がっているなど）。
- 少なくとも3本連続で、前日終値より上に窓を開けて始まる。
- 3本のローソク足はいずれも陽線であるか、実体がそれなりに大きい。
- ボリューム（出来高）が徐々に増加し、3本目でピークになりやすい。
重要なのは、「窓が連続している」という事実そのものです。ギャップアップが連続するということは、寄り付きで一気に買い注文が殺到していることを意味し、これは相場の加熱感を示す重要なシグナルです。
ダマシを減らすための補助条件
三空踏み上げは単体でも強いシグナルですが、ダマシを減らすために、以下の補助条件を重ねると精度が高まります。
- 日足RSIが70〜80以上の高水準に張り付いている。
- 移動平均線（5日・10日）からの上方かい離が極端に大きくなっている。
- ボリンジャーバンドの+2σ、+3σに沿ってバンドウォークしている。
- ニュースやSNSでその銘柄が「話題化」している。
これらが重なっているほど、「行き過ぎ」の可能性は高まり、三空踏み上げ後の反落や調整を狙う戦略が有利になりやすいです。
三空踏み上げが出た後の典型的な値動きパターン
三空踏み上げの後、チャートは大きく3つのパターンに分かれます。それぞれのパターンを理解しておくことで、どこで利確し、どこで逆張りショートを検討するのかが明確になります。
パターン1：即時反落（天井打ち）
もっとも典型的で教科書的なパターンです。3本目の陽線をつけた翌日、ギャップダウンで始まり、そのまま大陰線となって前日安値を明確に割り込むような動きです。この場合、三空踏み上げ3本目が「大天井」となりやすく、その後は数日〜数週間にわたって調整が続くことがあります。
パターン2：高値圏もみ合いからの再上昇
三空踏み上げ後すぐには崩れず、数日〜数週間、狭いレンジで高値圏のもみ合いを形成したあと、さらにもう一段の上昇を見せるパターンです。材料株やテーマ株でよく見られ、需給が極端に偏っているケースで起きやすくなります。
ただし、このパターンでも最終的にはトップをつけて大きめの調整に入ることが多く、「三空 → 高値レンジ → 最後の吹き上げ → 大陰線」という流れになりやすいです。
パターン3：緩やかな調整からトレンド継続
三空踏み上げ後、一旦は調整に入るものの、価格が移動平均線まで下げたところで再び買いが入り、結果として中長期の上昇トレンドが継続するパターンです。ファンダメンタルズが非常に強く、需給もタイトな優良成長株で見られます。
この場合、三空踏み上げは「中間局面の加速」だったということになり、完全な天井サインとはならない点に注意が必要です。
実際のトレード戦略：三空踏み上げをどう攻めるか
ここからは、個人投資家が実際のトレードで三空踏み上げをどう活用するか、具体的な戦略例を解説します。株式・FX・暗号資産のいずれにも応用できるよう、抽象化したロジックで説明します。
戦略1：既存ロングの利益確定ポイントとして使う
もっともシンプルかつリスクの低い使い方は、「すでに持っているロングポジションの出口サイン」として活用する方法です。
例えば、ある株を3,000円で買って保有していたとします。順調にトレンドが伸び、5,000円近辺で三空踏み上げが出現した場合、以下のような手順で利益確定を検討できます。
- 三空踏み上げ3本目の終値付近で、保有ポジションの50〜70％を利確。
- 残りのポジションにはトレーリングストップ（直近安値割れ、移動平均線割れなど）を設定。
- もし翌日にギャップダウンから大陰線が出た場合は、残りもすべて手仕舞い。
このように、「三空の3本目は、基本的には売り場」と割り切ることで、欲張りすぎて利益を大きく削るリスクを下げることができます。
戦略2：短期逆張りショートのエントリーポイント
もう一歩踏み込んだ戦略として、三空踏み上げを「逆張りショート」のエントリーポイントとして使う方法があります。これは経験値が必要ですが、うまくハマるとリスクリワードが非常に良いトレードになります。
ショート戦略の一例は以下のとおりです。
- 三空踏み上げ3本目の高値更新が止まり、5分足・15分足レベルで高値切り下げのパターンが出始める。
- 日足ベースでRSIが80以上、ボリンジャーバンド+2σ〜+3σに張り付いている。
- 翌日、寄り付きが前日終値をわずかに下回るか、ギャップダウンで始まる。
この条件が揃った場合、短期の戻り売りを仕掛ける余地があります。損切りは三空3本目の高値や、その少し上に置き、利確目標は5日移動平均線や10日移動平均線、あるいは直近の押し安値付近に設定するのが一つの目安です。
戦略3：デイトレでの「最後の一波」を取りに行かないという判断
三空踏み上げが出ている場面では、どうしても「まだ上がるのでは」と感じてしまい、飛び乗りたくなります。しかし、統計的には、行き過ぎた後の一波を狙いにいくよりも、その手前の安全なゾーンで利益を確保しておいたほうが、トータルの成績は安定しやすいです。
デイトレやスキャルピングにおいても、「三空踏み上げが見えた時点で、新規の買いは控える」というルールを設けるだけで、無駄な高値掴みトレードを大きく減らすことができます。これは、攻める戦略というより「やらない戦略」ですが、長期的なパフォーマンス改善に非常に有効です。
株・FX・暗号資産での応用方法
三空踏み上げの概念は、ローソク足とギャップが存在する市場であれば基本的に共通して応用できます。ただし、市場ごとに特徴が違うため、少しずつ使い方を調整する必要があります。
株式市場での応用
株式市場では、寄り付きギャップが発生しやすく、三空踏み上げが教科書どおりに出やすいです。特に日本株の個別銘柄やテーマ株、マザーズ銘柄などで典型的な三空踏み上げがよく見られます。
ニュースや決算、IR、テーマ性のある材料などで急騰している銘柄では、三空踏み上げが出たタイミングで利確優先に切り替えることが、資金を守るうえで非常に有効です。
FX市場での応用
FXは24時間市場のため、日足レベルではギャップが出にくく、株式ほど「きれいな三空」とはなりません。しかし、週明けの窓や、大きなイベント後のギャップなどを組み合わせると、似たような「連続ギャップ上昇」のパターンが出ることがあります。
FXの場合は、日足だけでなく4時間足・1時間足で、「窓」というよりも「連続した大陽線」「押し目をほとんどつけない急騰」として捉えると、三空踏み上げと同様の考え方で逆張りポイントや利確ポイントを探すことができます。
暗号資産市場での応用
暗号資産は365日24時間取引されるため、株式のような日足ギャップは基本的に発生しません。ただし、急騰局面では、短時間足で「実質的な三空踏み上げ」に近い値動きが出ます。
例えば、ビットコインが重要なレジスタンスをブレイクしたあと、1時間足で大陽線が3本連続し、RSIが90近くまで張り付いているような状況では、「暗号資産版の三空踏み上げ」と見なして、ロングの利益確定や短期ショートを検討するヒントになります。
三空踏み上げと他のローソク足パターンの組み合わせ
三空踏み上げ単体よりも、他の反転パターンと組み合わせることで、精度の高いトレードシグナルを構築することができます。
三空踏み上げ＋上ヒゲの長い陰線（シューティングスター／上影陰線）
三空踏み上げ3本目の翌日に、シューティングスターや上影陰線が出現した場合、天井形成の可能性がさらに高まります。高値圏での長い上ヒゲは、「一度高値を試したが、上に抜けきれずに売りに押し返された」ことを示しています。
三空踏み上げ＋出来高急増＋陰の包み足
三空踏み上げ後に、出来高を伴った陰線が出現し、その陰線が前日陽線の実体をすべて包み込む「陰の包み足」となった場合も強い反転サインです。このパターンは、買い方の投げと売り方の新規参入が同時に起きている局面と考えられます。
三空踏み上げ＋ダイバージェンス系シグナル
RSIやMACDなどのオシレーター系指標が、価格の高値更新に対してダイバージェンス（逆行現象）を示している場合、三空踏み上げは「行き過ぎの最終シグナル」として非常に信頼性が高くなります。
例えば、価格は三空踏み上げで高値を更新しているのに、RSIは直近高値を超えられていない場合、「上昇の勢いが内部的には弱まっている」ことを意味し、反転リスクが一気に高まります。
リスク管理：どこに損切りを置くか
三空踏み上げを使ったトレードは、天井圏での売買が中心になるため、損切りルールが曖昧だと大きな損失につながるリスクがあります。あらかじめ、次のような基準で損切りポイントを決めておくことが重要です。
ロングポジションの損切り・利益確定ライン
- 三空3本目の安値割れ：ここを割り込んだら、「天井をつけた」と判断して残りのロングをすべて手仕舞う。
- 5日移動平均線割れ：短期トレンドの崩れとして扱い、ロングの比率を大きく減らす。
- 窓埋め完了：三空で開けた窓をすべて埋めたら、「踏み上げ分のエネルギーを完全に吐き出した」とみなしロングを撤退。
ショートポジションの損切りライン
- 三空3本目の高値更新：ここを明確に上抜けた場合、「まだ踏み上げが続いている」と判断して損切り。
- 短期足での直近戻り高値：デイトレ・スイングでは、1時間足や15分足の戻り高値を基準に損切りラインを設定。
いずれの場合も、「エントリー時点で損切りラインを決めておく」ことが最重要です。三空踏み上げはボラティリティが非常に高い局面で出るため、後出しで損切り位置を変えていると、あっという間に許容以上の損失を抱えることになります。
シンプルなルールに落とし込む重要性
最後に、三空踏み上げを実践で活用するためのポイントを整理します。チャートパターンを単なる「知識」で終わらせないためには、自分なりのシンプルなルールに落とし込むことが決定的に重要です。
- すでに上昇トレンドにある銘柄で、連続したギャップアップと強い陽線が3本続いたら「三空踏み上げ」と認識する。
- その局面では、「新規で買いに行かない」というルールをまず決める。
- ロングを持っている場合は、三空3本目付近で半分以上を利確する。
- 翌日以降、ギャップダウン＋大陰線や陰の包み足が出たら、残りもすべて手仕舞う。
- 逆張りショートを狙う場合は、損切りラインとターゲットを事前に決め、ロットを抑える。
このように、三空踏み上げは「相場の熱狂」と「行き過ぎ」を測るための実務的なツールとして非常に有効です。パターンの形そのものにこだわるのではなく、その背後にある参加者の心理とポジションの偏りを意識しながら、自分のトレードルールに組み込んでいくことで、より再現性の高い売買判断につなげることができます。
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