出来高移動平均線(VMA)とは何か
出来高移動平均線(Volume Moving Average:VMA)は、その名の通り「出来高に対する移動平均線」です。通常の移動平均線(価格の平均)とは異なり、一定期間の出来高を平均したものを線としてチャート上に表示します。株、FX、暗号資産など、出来高データが取得できる市場であれば幅広く活用できます。
多くの初心者は、チャートを見るときに価格ばかりに目を奪われがちです。しかし、実際に相場を動かしているのは資金量、つまり出来高です。出来高がどのように推移しているかを把握することは、「どこで本気の資金が入っているか」「どこで相場が息切れしているか」を見極める上で極めて重要です。
VMAは、単なる「今日の出来高が多いか少ないか」を見るだけでなく、「最近の平均と比べてどうか」を客観的に判断させてくれる指標です。本記事では、VMAの基本的な考え方から、具体的な売買タイミングのヒント、注意点まで、投資初心者でも実践に取り入れやすい形で徹底的に解説していきます。
なぜ出来高の平均を見る必要があるのか
出来高は、その価格帯でどれだけの取引が行われたかを示すデータです。たとえば同じ100円の株価でも、出来高1万株の日と100万株の日では、相場に与える意味がまったく違います。後者は多くの参加者がその価格帯で真剣にポジションを取りに来ている可能性が高く、サポート・レジスタンスとして強く意識されやすくなります。
しかし、日々の出来高を単体で眺めているだけでは、「今日の出来高は本当に多いのか、たまたま少ないだけなのか」が分かりにくいという問題があります。そこで役立つのがVMAです。一定期間の平均出来高を線として表示することで、
- 今日の出来高が平均と比べて明らかに多いのか
- 最近、出来高が全体として増加傾向にあるのか
- 価格が上昇しているのに出来高の平均は下がっていないか
といった点を一目で把握できるようになります。
VMAの基本的な計算方法
VMA自体の計算式は非常にシンプルです。代表的な期間としては、5日、20日、50日など、価格の移動平均線と同じような期間設定がよく使われます。たとえば20日出来高移動平均線(20日VMA)は、直近20日分の出来高を合計し、20で割ったものです。
式にすると、次のようになります。
20日VMA = (当日を含む直近20日分の出来高の合計) ÷ 20
これを毎日更新して折れ線グラフにしたものがVMAです。チャートソフトやトレードツールでは、通常、出来高バーの上にVMAを1本もしくは複数本重ねて表示します。
なお、VMAにはSMAタイプ(単純出来高移動平均)だけでなく、EMAタイプ(出来高の指数平滑移動平均)を選べるツールもあります。初心者のうちは、まずはシンプルなSMAタイプで十分です。
代表的な設定期間とその意味
VMAの期間設定は、トレードスタイルと対象市場に合わせて調整します。ここでは、株・FX・暗号資産の現物や先物トレードでよく用いられる期間の考え方を整理します。
短期トレード向け:5〜10期間VMA
デイトレードや数日のスイングトレードでは、5〜10期間のVMAがよく使われます。たとえば日足チャートで5日VMAなら、「直近1週間の平均的な出来高レベル」を示します。今日の出来高が5日VMAの2倍以上に膨らんでいれば、「短期的に異常な参加者が集まっている」と判断できます。
FXや暗号資産の1時間足や15分足など、短い時間軸でのトレードでも同じ考え方が使えます。たとえば1時間足で24期間VMAを表示すれば、「1日分の平均出来高」と比較しながら現在の盛り上がり具合を測ることができます。
中期トレード向け:20〜50期間VMA
数週間〜数か月単位のスイングトレードでは、20〜50期間のVMAがよく機能します。20日VMAは「約1か月の平均出来高」、50日VMAは「約2〜2.5か月の平均出来高」として使えます。
株式市場では、機関投資家の売買が絡んでくるとき、出来高が平均値から大きく乖離することが多くなります。20日や50日VMAを基準にすることで、「大口が本格的に参加しているのか」「個人中心の小規模な値動きなのか」をある程度見分けるヒントになります。
長期トレード・投資向け:100〜200期間VMA
長期のトレンドフォローやポジショントレードでは、100〜200期間のVMAも有効です。たとえば日足で200日VMAを表示すると、「約1年の平均出来高」に相当します。長期的な目線で見て、現在の出来高が「1年平均から見て多いのか少ないのか」を判断できます。
長期のVMAは、トレンドの成熟度や相場参加者の熱量の変化を見極める際にも活用できます。価格が高値圏にあるのに200日VMAが右肩下がりになっている場合、「上昇トレンドは続いているが、参加者は徐々に減っている」といった警戒シグナルになることがあります。
具体例:ブレイクアウト局面でのVMAの見方
ここからは、具体的なチャート状況をイメージしながら、VMAの使い方を掘り下げていきます。まずは多くの投資家が狙う「レジスタンスブレイク」の場面です。
たとえば、ある株が長期間1,000円前後で頭を抑えられていたとします。チャート上にははっきりしたレジスタンスラインが引けており、何度もトライしては跳ね返されている状況です。ある日、その1,000円ラインを明確に上抜けたとしましょう。
このとき、出来高が5日VMAや20日VMAを大きく上回っているかどうかは非常に重要です。
- 価格がレジスタンスを上抜けた
- その日の出来高が5日VMAの2倍以上、20日VMAの1.5倍以上
このようなパターンであれば、「ブレイクに本気の資金がついてきている」「単なる一瞬の抜けではなく、トレンド転換の起点になる可能性がある」と判断しやすくなります。逆に、ブレイクしたように見えても出来高がVMAをほとんど上回っていない場合は、「だましブレイク」のリスクが高いと考えるべきです。
具体例:押し目買いポイントでのVMAの活用
次に、上昇トレンドの押し目を狙う場面を考えてみます。価格が右肩上がりで推移しており、日足チャートの20日移動平均線の上で推移している銘柄をイメージしてください。
ここで一時的な調整が入り、価格が20日移動平均線付近まで下落する場面があります。このとき、出来高とVMAを確認します。
- 下落局面では出来高が20日VMAを下回っている
- 20日移動平均線近辺で下げ止まり、反発のローソク足が出現した日に出来高が20日VMAを再び上回る
このようなパターンは、「売り圧力が弱い調整下げのあと、再び買いが優勢になった」と解釈しやすく、押し目買いの候補ポイントになります。価格だけを見ると「下がってきたから怖い」と感じる局面でも、出来高とVMAをセットで見ることで、冷静な判断がしやすくなります。
トレンド継続とVMA:価格と出来高の組み合わせ
トレンドフォロー型の投資では、「上昇が続いている間はどこまでついていくか」「どのタイミングで利確・撤退するか」が成績を左右します。ここでもVMAは有用な手がかりを与えてくれます。
健全な上昇トレンドのパターン
健全な上昇トレンドでは、次のような出来高とVMAの組み合わせがよく見られます。
- 上昇局面で出来高がVMAを明確に上回る日が定期的に出現する
- 調整局面では出来高がVMAを下回り、売り圧力の弱さを示す
- 中期のVMA(20日、50日)が右肩上がりで推移する
このような状態が続いている限り、「トレンドに資金がついてきている」と判断しやすく、過度に早い利確を避ける助けになります。
要注意な上昇トレンドのパターン
一方で、価格は高値更新を続けているにもかかわらず、VMAが横ばい〜右肩下がりになっている場合は要注意です。
- 価格は高値を更新しているが、出来高がVMAを大きく上回る日が減っている
- 20日、50日VMAが横ばいまたは下向きに変化している
このような状況は、「価格だけが惰性で上がっているが、参加者の熱量は落ちてきている」状態を示している可能性があります。高値圏でこのパターンが出てきた場合は、分割利確やポジション縮小を検討する一つのシグナルになり得ます。
VMAとダイバージェンスの考え方
ダイバージェンスとは、価格の動きと指標の動きが逆方向になっている状態を指します。RSIやMACDだけでなく、出来高とVMAの組み合わせでも、価格との「違和感」を読み取ることができます。
たとえば、価格が高値を更新しているにもかかわらず、出来高がVMAをあまり上回らず、むしろ出来高自体が減少傾向にある場合、
- 価格:高値更新
- 出来高:ピークアウトして減少
- VMA:横ばい〜下落
という形のダイバージェンスが発生します。これは「価格は上がっているが、参加者はついてきていない」兆候であり、トレンド終盤や天井圏のサインとして機能する可能性があります。
逆に、価格が安値圏で横ばい〜じり安を続けているのに、出来高がVMAを上回る日が増えてきた場合は、
- 価格:まだはっきり上昇していない
- 出来高:VMAを上回る増加日が増えている
という形のポジティブなダイバージェンスになります。これは、「水面下でポジションを集めている参加者がいる可能性」を示唆し、その後のトレンド転換や急騰の前触れとなることがあります。
株・FX・暗号資産での実務的な使い分け
株式市場でのVMA活用
株式市場は、出来高データが比較的安定しており、VMAとの相性が良い市場です。特に、個別株では決算発表や材料ニュースの前後で出来高が急増しやすいため、
- ニュースと同時に出来高がVMAの2倍以上に急増しているか
- その急増が一過性か、数日間継続しているか
といった点をチェックすることで、「単発の思惑買い」なのか「トレンドにつながる本格的な資金流入」なのかを見分ける助けになります。
FX市場でのVMA活用
FXの出来高は、株と異なり「市場全体の正確な出来高」が得られないケースが多く、ブローカーや取引所ごとのティックボリュームを代用することが一般的です。それでも、同じプラットフォーム内での相対的な比較には十分意味があります。
たとえば、ロンドン時間やニューヨーク時間の開始前後で、VMAを大きく上回るボリュームが伴ってブレイクが起きた場合、その動きは短期トレンドにつながりやすくなります。逆に、アジア時間の閑散なタイミングで、VMAをほとんど上回らない薄商いのブレイクは、だましの可能性が高まります。
暗号資産市場でのVMA活用
暗号資産は、24時間365日取引される上、ボラティリティも大きく、出来高の変化がダイレクトに価格に反映されやすい特徴があります。特に、ビットコインや主要アルトコインでは、
- 週末に出来高がVMAを大きく下回る薄商い相場
- 重要なマクロイベント前後で出来高がVMAを急激に上回る局面
が頻繁に発生します。週末の薄商いでの急騰・急落はそのまま継続せず、平日になると反転してVMA付近までボラティリティが収束することも多いため、「VMAからの乖離が大きい週末の動きには飛び乗らない」など、自分なりのルールを作ることができます。
VMAを使う際の設定と実践的なルール例
ここでは、実際のトレードに組み込みやすいシンプルなルール例を提示します。あくまで一例であり、バックテストや検証を通じて、自分のスタイルに合うように調整していくことが重要です。
ルール例1:ブレイクアウトのフィルターとしてのVMA
対象:日足ベースの株式トレード
- 20日高値のレジスタンスラインをブレイクした日に注目
- 当日の出来高が20日VMAの1.5倍以上であることを条件にエントリー候補とする
- 出来高がVMAをほとんど上回らないブレイクは見送り
このようなフィルターを掛けることで、だましブレイクへのエントリーを減らし、「本気の資金がついてきたブレイク」に絞ったトレードが可能になります。
ルール例2:押し目買いの確認シグナルとしてのVMA
対象:トレンドフォロー型のスイングトレード
- 価格が中期移動平均線(例:20日SMA)の上で推移している上昇トレンドを対象とする
- 一時的な下落で20日SMA付近まで調整したとき、下落期間中の出来高が20日VMAを下回っていることを確認
- 反発の足が出現し、その日の出来高が20日VMAを再び上回ったら押し目買いエントリー候補とする
このルールでは、「売りが強くない調整のあと、再び買いが優勢になった局面」を狙うことができます。
よくある誤解とVMAの限界
VMAは非常に有用な指標ですが、万能ではありません。ここでは、初心者が陥りがちな誤解と限界点についても整理しておきます。
誤解1:VMAを満たしていれば必ずトレンドが続く
出来高がVMAを大きく上回っていても、その後にトレンドが必ず継続するとは限りません。材料の消化や、短期筋の利確などで、急騰後に急落することも珍しくありません。VMAはあくまで「資金の勢い」を測る指標であり、チャートパターンやサポート・レジスタンス、他のオシレーターなどと組み合わせて総合判断する必要があります。
誤解2:出来高が少ない銘柄でもVMAだけで判断できる
出来高が極端に少ない銘柄(いわゆる出来高薄の銘柄)では、VMAの信頼性はどうしても低下します。日によって出来高がゼロに近かったり、特定の日だけ異常に膨らんだりするため、平均値そのものが「ノイズだらけ」になってしまうからです。このような銘柄では、VMAに頼り過ぎず、板の厚さやスプレッド、値幅制限なども含めて慎重に判断する必要があります。
誤解3:時間軸を変えても同じルールが通用する
日足でうまく機能したVMAのルールが、そのまま1分足や5分足で通用するとは限りません。短い時間軸ほどノイズが増え、アルゴリズム取引の影響も大きくなるため、VMAのシグナルが乱れやすくなります。時間軸を変える場合は、必ずその時間軸ごとに過去チャートで検証し、「自分が狙う値幅や保有期間に対して、VMAが有効なフィルターになっているか」を確認することが重要です。
自分のスタイルに合わせたVMAのチューニング
最後に、VMAを実際のトレードに組み込む際の考え方をまとめます。ポイントは、「自分の時間軸」と「狙う値幅」に合わせて、期間やルールをチューニングすることです。
- デイトレ中心なら、短期VMA(5〜10期間)で出来高の急増・急減に敏感に反応する設定にする
- スイング中心なら、中期VMA(20〜50期間)でトレンド継続の強さや押し目・戻りの強さを確認する
- 長期投資なら、100〜200期間VMAで、長期的な資金の出入りの変化を捉える
また、VMAの「倍数」をルール化しておくのも有効です。たとえば、
- 20日VMAの1.5倍を超えた出来高を「強いシグナル」
- 2倍を超えた出来高を「異常シグナル」
といった形で、自分なりの基準を決めておくと、感情に振り回されずに判断しやすくなります。
VMAは、価格だけでは見えない「資金の足跡」を可視化してくれるシンプルかつ強力なツールです。単独で売買の判断を完結させるのではなく、移動平均線やトレンドライン、RSIやMACDなどと組み合わせて、「価格 × 出来高 × 時間軸」という立体的な視点で相場を見るための一つの柱として活用していくと良いでしょう。


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