VWAP(出来高加重平均価格)とは何か
VWAP(Volume Weighted Average Price、出来高加重平均価格)は、ある一定の時間帯における「出来高で重み付けした平均価格」です。単純移動平均線が「時間」で平均するのに対して、VWAPは「どれだけの量がその価格で売買されたか」を反映するため、実際に市場の資金がどこで多く動いたかを示す指標になります。
ざっくり言うと、VWAPより上に価格があれば「参加者の平均コストより高い水準」、VWAPより下なら「平均コストより安い水準」と考えられます。そのため、機関投資家や大口投資家は、自分たちの売買が市場平均より有利な価格で約定しているかをチェックする際にVWAPをよく利用します。
なぜ個人投資家にとってVWAPが重要なのか
個人投資家にとってVWAPが役立つ理由は、大きく3つあります。
1つ目は、「今日のフェアバリューの目安」になることです。デイトレードやスキャルピングでは、その日の値動きの中心がどこかを把握することが重要です。VWAPはその中心的な価格帯を示すため、「割高ゾーン」「割安ゾーン」を視覚的に判断しやすくなります。
2つ目は、「機関投資家の平均コストの目安」になることです。多くの参加者がVWAPを意識している市場では、VWAP付近で売買が集中しやすくなります。そのため、VWAPはサポートライン・レジスタンスラインとして機能しやすく、エントリーや利確・損切りの水準として使いやすくなります。
3つ目は、「トレンドの強さの判定」に使えることです。価格が一日を通してVWAPの上側で推移しているなら、その日は買い優位のトレンドである可能性が高くなります。逆に、終始VWAPの下側に張り付いているようなら、売り優位の相場だと判断できます。
チャートへのVWAPの表示方法(株・FX・暗号資産)
多くのチャートツールや証券会社の取引ツールには、VWAPインジケーターが標準搭載されています。ここでは、よく使われるチャートサービスを例に、VWAPの基本的な表示方法を整理します。
例えばTradingViewの場合、インジケーター検索欄に「VWAP」と入力し、標準のVWAPを選択するだけでチャート上に表示されます。通常はその日の始値から終値までを対象にした「デイリ―VWAP」が描画され、日足チャートだけでなく、5分足や15分足といった短期足でも同じデイリーVWAPが表示されます。
株式でもFXでも暗号資産でも、VWAPの基本的な考え方は同じです。「その日の取引全体に対して、自分のエントリーは有利か不利か」を測るために使うとイメージすると、初心者でも理解しやすくなります。
基本戦略1:上昇トレンドでのVWAP押し目買い
最もシンプルで再現性が高いのが、「VWAP押し目買い」の戦略です。上昇トレンドの日に、価格がVWAPまで押してきたタイミングを狙ってロング(買いポジション)を取る方法です。
エントリー条件の具体例(日本株デイトレード)
例えば、ある日本株が前日までの材料を受けてギャップアップで寄り付き、その後も5分足ベースで高値・安値を切り上げているとします。このとき、VWAPも右肩上がりで推移している状況を前提にします。
寄り付き後の上昇のあと、一度調整が入り、株価がVWAP近辺まで下落してきたとします。このとき、以下のような条件を満たしたら、押し目買いのチャンスと見なすことができます。
- 5分足で、VWAPにタッチしたローソク足が下ヒゲをつけて引ける(VWAPで買い支えられたサイン)。
- 出来高が直前の下落局面より増加している(投げ売りが一巡し、買いが入っているサイン)。
- 直近のスイング安値を明確に割り込んでいない(トレンドがまだ崩れていない)。
このような条件がそろったタイミングで、次の足の始値付近でロングエントリーします。損切りラインは、VWAPと直近安値の少し下に設定し、リスク・リワード比が1:2以上になるように建玉サイズを調整します。
基本戦略2:下降トレンドでのVWAP戻り売り
上昇トレンドの押し目買いの逆が、下降トレンドでのVWAP戻り売りです。終始VWAPよりも価格が下で推移しているような弱い相場では、VWAPに近づいたところが戻り売りのエントリーポイントになりやすくなります。
FXでの戻り売りシナリオ
例えば、東京時間からロンドン時間にかけて、USD/JPYがじわじわと下落し、VWAPの下側で推移しているとします。ロンドン時間の序盤で一時的にショートカバーが入り、価格がVWAP近辺まで戻してきた場面をイメージします。
このとき、以下のような条件がそろえば、戻り売りを検討できます。
- 15分足でVWAPタッチ後に上ヒゲの長いローソク足が出現している。
- VWAP上抜けに一度トライしたが、すぐに押し戻されてVWAPの下で確定している。
- 上位足(1時間足)では明確な下降トレンドが続いており、高値と安値がともに切り下がっている。
こうした状況では、VWAPが「大口投資家の平均コスト」として意識され、そこを超えると売りが厚く出やすくなります。エントリーはVWAP付近の戻りを確認してからのショート、損切りはVWAPの少し上、利確は直近安値またはその少し上に置く形が典型的です。
実例イメージ:VWAPを使った日本株デイトレの1日
ここでは、仮想的な例として、日本株A社を寄り付きから引けまでデイトレードするイメージを言葉で再現します。
寄り付きは前日終値より3%高い水準でスタートしました。寄り付き直後は一気に買いが入り、株価はさらに2%上昇。しかし、その後は短期勢の利確売りでいったん押し目を形成し、株価はVWAP近辺まで下落してきます。
このとき、5分足で見るとVWAPは右肩上がりで、押し目局面のローソク足は下ヒゲをつけてVWAPの上で引けています。出来高もVWAPタッチの足でやや増加しており、「投げ売り+新規買い」の両方が出ているような形です。
ここで、次の足の始値付近でロングエントリーし、損切りはVWAPの少し下に設定します。リスクが例えば1%になるようにロットを調整し、利確目標は直近高値の手前(2%上昇程度)に置きます。
その後、株価はVWAPを割り込まずに再度高値を更新し、利確目標に到達。このトレードはリスク1に対してリワード2を達成した、教科書的なVWAP押し目買いの成功例となります。
暗号資産市場でVWAPを使うときのポイント
暗号資産(特にビットコインやイーサリアム)は、株式やFXに比べて24時間365日取引されるうえ、取引所ごとに流動性が分散しているという特徴があります。そのため、VWAPを使うときには、いくつか意識しておきたいポイントがあります。
まず、「どの取引所の出来高を基準にするか」という問題です。TradingViewのVWAPは、選択している取引所のデータを元に計算されます。国内取引所と海外取引所では出来高の偏りが大きく異なる場合があるため、主に取引している取引所の板状況に近い銘柄データを選ぶことが重要です。
次に、暗号資産は「ニュースや大口のフローで一気にVWAPを大きく離れる」ことがよくあります。このような場面では、VWAPまでの戻りを待っていると、そのままトレンドに乗り遅れることも少なくありません。そのため、トレンドが異常に強いと感じる場合は、「VWAPではなく短期移動平均線への押しでエントリーし、VWAPを利確目安にする」といった応用も有効です。
VWAPと他のテクニカル指標の組み合わせ
VWAP単体でも十分に有用ですが、他のテクニカル指標と組み合わせることで、ダマシを減らし、エントリーの精度を高めることができます。
VWAP × ボリンジャーバンド
VWAPを「その日のフェアバリュー」、ボリンジャーバンドを「短期的な過熱感」と考える組み合わせです。例えば、価格がボリンジャーバンドの-2σ付近まで急落し、その位置がVWAPよりもかなり下である場合、「短期的な売られすぎ+VWAPからの乖離が大きい」と判断できます。このような場面では、VWAP方向への戻りを狙う短期ロングが検討できます。
VWAP × RSI
RSIで買われすぎ・売られすぎをチェックしつつ、VWAPとの位置関係を見るやり方もあります。例えば、上昇トレンドの日に価格がVWAPより上で推移しており、一時的な調整でRSIが40前後まで低下したものの、価格はVWAPを割り込まずに再び上向きになった場合、押し目買いのチャンスとして機能することが多くなります。
よくある失敗パターンと回避策
VWAPを使い始めた初心者が陥りやすいのは、「VWAPタッチ=とりあえずエントリー」と短絡的に判断してしまうことです。VWAPはあくまで「平均コストの目安」であって、「必ず反発するライン」ではありません。
特に、強烈なトレンド転換が起きている場面では、VWAPをあっさりと突き抜け、そのまま逆方向に大きく動くことがあります。こうした場面では、VWAPだけを見るのではなく、上位足のトレンド、直近高値・安値の位置、出来高の推移などを総合的にチェックする必要があります。
もう一つの典型的な失敗は、「リスク・リワード比を無視してしまうこと」です。VWAP付近でエントリーしたとしても、損切りラインがVWAPから遠すぎると、リワードに対してリスクが大きすぎるトレードになってしまいます。エントリー前に「この位置で入った場合、損切りと利確の距離はどれくらいか」を必ず数値で確認することが重要です。
シンプルなVWAPトレードルール例
最後に、初心者でも取り組みやすい、シンプルなVWAPトレードルールの一例をまとめます。ここでは日本株のデイトレードを前提にしますが、FXや暗号資産にも応用できます。
1. 寄り付き後30分〜1時間は、VWAPの位置とその日の方向感を観察し、むやみにエントリーしない。
2. 価格がVWAPの上で推移し、5分足ベースで高値・安値を切り上げている場合は「買い優位な日」と判断する。
3. 「買い優位な日」には、価格がVWAPまで押してきた場面でのみロングエントリーを検討する。
4. エントリーする際は、VWAPタッチ後のローソク足の形(下ヒゲ、陽線への転換など)を確認し、出来高が増加していれば優先度を上げる。
5. 損切りラインはVWAPの少し下、または直近安値の下に置き、リスク・リワード比が1:2以上になるようにロットを調整する。
6. 利確目標は、直近高値の手前や、VWAPからの乖離が大きくなりすぎたと感じる水準に設定する。
このようにルールを明文化しておくと、感情的な売買を減らし、淡々とVWAPに従ったトレードを繰り返すことができます。
まとめ:VWAPは「その日の戦場の中心価格」
VWAPは難しい数式を知らなくても、「その日の戦場の中心価格」として直感的に使うことができる指標です。価格がVWAPの上にあるか下にあるか、VWAPに近づいたときにどのようなローソク足と出来高のパターンが出ているかを観察するだけでも、エントリーと利確・損切りの精度は着実に上がっていきます。
いきなり多くの銘柄で試すのではなく、まずは普段よく見る1〜2銘柄や通貨ペアで、過去チャートを遡りながら「VWAPを基準にしたらどこで入れたか」を検証してみてください。VWAPの感覚が身についてくると、チャートの見え方が一段階変わり、無駄なトレードを減らしやすくなります。
シンプルですが、プロも使っている指標がVWAPです。ルールを決めてコツコツと検証と改善を続ければ、個人投資家でも十分に武器として使いこなすことができます。


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