OCO注文で損切りと利確を同時に設計する——仮想通貨トレードの発注設計を最短で固める

取引手法

「損切りは入れた、でも利確は成行で様子見」——この癖が残っているうちは、勝っても負けても期待値はぶれます。OCO注文(One Cancels the Other)は、利確(指値)と損切り(逆指値)の2つの決済条件を同時に出し、片方が約定したらもう片方を自動でキャンセルする発注方式です。これを標準装備にすると、1トレードの前に損益分布をロックでき、感情の介入が激減します。本稿では、仮想通貨(現物・先物・永続先物)でのOCOの使い方を、リスク許容・サイズ計算・価格設定・約定仕様・運用上の罠まで一気通貫で解説します。

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OCO注文の要点(まず全体像)

OCOは「利確の指値」と「損切りの逆指値(トリガーと実行価格)」を同時に置く仕組みです。片方が成立すると他方は自動でキャンセルされます。エントリーと同時にOCOを置いてトレードを“括る”(Bracket)ことで、最悪損失と想定利幅が定量化されます。現物でも先物でも概念は同じですが、先物・永続先物は参照価格(Last/Mark/Index)清算・資金調達(Funding)の影響が加わる点に注意が必要です。

前提:リスク許容とポジションサイズ

まずは1回の損失上限=口座残高×許容リスク%を固定します(例:残高100万円、リスク1.0%=1万円)。次に、エントリー価格と損切り価格の差から適正な数量を逆算します。

現物ロングの基本式:
数量 = 許容損失額 ÷ (エントリー価格 − 損切り価格)

先物(USDT建て、コントラクトが「数量 × 価格」で評価」の想定)でも同様ですが、レバレッジは数量の上限を広げるだけで、損切り幅が広がると必要証拠金・強制ロスカット距離が変化します。レバレッジ倍率に惑わされず、常に“損切りまでの金額リスク”起点で数量を決めます。

OCOの価格3点セット:TP・SLトリガー・SL実行

OCOでは通常、利確は指値(Take Profit, TP)だけで足りますが、損切りはトリガー価格(発動)実行価格(成行同等または指値)の2つを指定します。急変時のすべり(スリッページ)を前提に、成行相当で確実に逃がすか、指値で滑り幅を制御するかを事前に選びます。基本は「発動はやや手前、実行は成行相当」が無難です。

具体例:BTC/USDT 現物ロング

想定:エントリー65,000、損切り63,800、利確66,600。口座残高100万円、許容リスク1%(1万円)。
損切り幅=65,000 − 63,800=1,200。
数量=1万円 ÷ 1,200 ≒ 0.00833 BTC(8.33 mBTC)。

OCO設定:
・利確指値(TP)=66,600 に 0.00833 BTC
・損切り逆指値トリガー=63,820、実行=63,790(成行相当)

このセットで最大損失は概ね1万円、想定利幅は約+1,600/枚×0.00833≒+1,333円。R倍率は +1.11R/−1.00R と小さいため、本来は利確を66,900〜67,200へ伸ばすか、損切りをエビデンス(直近スイング安値やATR)に合わせて再設計します。

永続先物でのOCO:参照価格の選択

多くの取引所では、損切り発動の参照に「Last(直近約定)」「Mark(マーク)」「Index(外部指数)」から選びます。強い急変時のノイズ回避にはMark/Index基準が安定。ただし、指値の約定可否は板流動性とLastに依存するため、発動=Mark、実行=成行相当の組み合わせが実務的です。Funding直前の薄い板では、発動価格を1〜2ティック手前に寄せると取りこぼしが減ります。

戦略別のOCO設計

① ブレイクアウト(上抜け)

エントリーは上抜け直後の成行または逆指値成行。損切りはブレイク失敗の見極め点(直近のレンジ上限の内側)、利確は次の供給ゾーン・直近高値クラスターに置きます。ブレイク直後はボラ上振れが起きやすく、初動のすべり前提でサイズを1段小さくするのが安全です。

② レンジ逆張り

レンジ上限でショート、下限でロング。損切りはレンジ外側(フェイクに耐える最小距離)、利確はレンジ中央か反対バンド。約定は指値中心で良いですが、急伸・急落に巻かれるので損切り発動は成行相当に。

③ トレンドフォロー(押し目・戻り)

移動平均や構造(HH/HL・LH/LL)に沿って、押し目の直下/戻りの直上に損切り。利確は次の波動ターゲット(Fiboや直近高安の拡張)。部分利確+残玉トレーリングは、OCOを分割して設定します(後述)。

ATRで決める“理不尽に狭くない”損切り

損切りが近すぎると統計的に刈られます。ATR(14)を使って、平均的な1日の揺れの1.0〜1.5倍を最低限の許容ノイズとし、その外側に損切りを置きます。

例:BTCのATR(14)=900 のとき、
・押し目ロングの損切り距離=1.2×900≒1,080
・数量=許容損失額 ÷ 1,080

このように価格ではなく「距離」から数量を逆算すると、ボラ拡大期に過剰サイズを握らずに済みます。

部分利確+残玉トレーリングをOCOで実装

OCOは1対1が基本ですが、ポジションを2〜3分割すれば「第1利確は指値固定」「残玉はトレーリング損切り」のような設計ができます。

  1. ポジション枚数を3分割(40%/40%/20% など)。
  2. 第1・第2利確は固定指値(供給ゾーン、Fibo 161.8% 等)。
  3. 最後の20%はトレーリング(ATR×k、または直近スイングの更新で付け替え)。

実装は「同一方向に複数OCO」を置くだけです。それぞれの損切りは同じか、段階的に引き上げます(BE引き上げ=建値ストップは過度に早くしない)。

板と約定のリアリティ:指値・成行・IOC/POST

利確の指値は厚い板の“少し手前”に置くとフィル率が上がります。約定優先は価格→時間が基本なので、群集心理が置くキリ番の1ティック内側を狙います。メーカー手数料狙いでPOST-Onlyを使う場合は、ブレイク時の不成立リスクに備え、逃げの成行OCOを最小数量で添える運用が堅実です。

スリッページとギャップの扱い

急変時、逆指値は指定より不利で約定することが標準です。これはバグではなく市場仕様。滑り幅を制御したい場合、発動は成行相当・実行は指値(Stop-Limit)に。もっとも暴落時は貫通の恐れがあるため、損切り優先なら成行相当が原則です。

永続先物の特殊論点:Funding/清算とOCO

資金調達(Funding)前後は板が薄く、Mark基準の逆指値が連鎖発動しやすい時間帯です。発動価格に1〜2ティック分の緩衝を入れ、利確側はGTCではなく当日限りにして取り残しを防ぎます。清算価格(破綻価格)が損切りより手前に迫るようならサイズ過大のサインです。

ニュース・イベント時の運用

雇用統計・CPI・FOMCなどのイベントは、“最初の数分は想定外の滑り”が標準です。事前にOCOを置くならサイズを半分以下、損切りはIndex/Mark基準+成行相当、利確は分割複数で「取り逃し&取りすぎ」を同時に狙います。

よくあるミスとリカバリー手順

  1. OCOの片側だけキャンセル:残った逆側が意図せず刺さる。→ 取消時は「関連注文をすべて確認」、ポジションと注文の整合を必ず照合。
  2. 参照価格の誤設定:Last基準でヒゲに刈られる。→ Mark/Index基準を既定に、例外時のみLast。
  3. 数量の再計算忘れ:エントリー価格がズレたのに、損切り幅が同じ。→ 価格が動いたら必ずサイズを再計算
  4. 建値引き上げが早すぎ:ノイズで撤退、伸びを逃す。→ BE移動は「構造転換の裏づけ(HH/HL等)」が出てから。

OCOと派生:OCO・OCO、OTOCO、トレーリングOCO

OTOCO(発注→約定したらOCO発動)は、待ち伏せ型エントリーで便利です。ブレイク待ちの逆指値エントリーに、同時にTP/SLを括る設計。トレーリングOCOは発動後に自動でSLが追随するタイプですが、乱高下相場では「追随しすぎ」=早期撤退になりやすいので、固定OCO+手動で段階引き上げの方が合致しやすいことが多いです。

期待値設計:R倍数と勝率の整合

OCOで出口が拘束されると、1回の損益が事前に分布化します。期待値は 期待値 = 勝率×平均利益 − (1−勝率)×平均損失
例:平均利益=1.8R、平均損失=1.0R、勝率42% → 0.42×1.8 − 0.58×1.0 = +0.176R。
R設計(TP距離/SL距離)を先に決め、手法はそれに合わせて検証します。OCOはこの検証を実運用へ転写するための“固定具”です。

現場でそのまま使えるOCO計算テンプレート

以下のステップで、毎回同じ手順を踏みます。

  1. 口座残高とリスク%を決める(例:1%)。
  2. エントリーと損切りの距離を測る(価格またはATR×k)。
  3. 数量=許容損失額÷距離。
  4. 利確はR倍数(1.5R/2R/3R)または供給ゾーンに合わせて複数化。
  5. 永続先物は発動=Mark、実行=成行相当をデフォルトに。
  6. イベント前はサイズ半分、建値引上げは構造転換待ち。

チェックリスト

  • 損切り距離は統計的に妥当(ATR×1.0〜1.5)か。
  • 数量は許容損失額から逆算したか。
  • TPは“厚い板の手前”か、分割できているか。
  • 参照価格(Mark/Index/Last)は相場状況に合っているか。
  • 注文と保有ポジションの整合を確認したか。

まとめ

OCOは「負けを小さく、勝ちを設計する」ための最低限の固定具です。サイズをリスク基準で決め、損切りは統計的に理不尽でない位置へ、利確は分割と板読みで取り切る。これらを毎回OCOで括るだけで、裁量のノイズが激減し、曲がり角のミスが目に見えて減ります。あとは検証どおりに数をこなすだけです。

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