スリッページ徹底攻略:CEX/DEXで約定品質を最大化する執行戦略

取引手法

同じ価格で買ったつもりでも、執行の仕方次第で数十bp(ベーシスポイント)単位の差が生まれます。スリッページは「相場観」と無関係に積み上がる確実なコストです。本稿では、見えないコストを可視化し、コントロール可能な変数に落とし込むことを目的に、CEX(中央集権型取引所)とDEX(分散型取引所)の両方で使える具体的な手順を整理します。

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スリッページとは何か――利益を削る“隠れコスト”の正体

スリッページは「想定価格」と「実際の平均約定価格(VWAP)」の差を指します。主因は(1) スプレッド(2) 価格インパクト(3) 手数料(4) ガス/MEVです。CEXでは板の厚みと自分の注文サイズの相対関係、DEXではプール流動性とプライスカーブ(AMM)の形状が支配要因になります。

数式で捉える価格インパクト

CEX(板式)では、VWAP = 約定額/数量 です。理論スリッページは「(VWAP − ミッド) / ミッド」。また、インパクト ≈ f(サイズ/板の厚み)と近似できます。

DEX(AMM)では、x×y=k(定数積)型を例にとると、買いでxを増やせばyが減り価格p=y/xが上がります。小さい注文なら価格インパクトはおおむね Δp/p ≈ サイズ / 有効流動性 と近似できます。

執行品質を可視化するKPI

日常運用で追うべき指標を最小限に絞ります。

  • TC比率(Total Cost / Notional):スリッページ+手数料+ガスの合計を名目金額で割った比率。
  • 実現スリッページ(bp): (VWAP − 参照価格) / 参照価格 × 10,000。
  • フィル率:希望数量に対する約定済み数量。
  • アドバース選択:約定後Δtでの不利方向の価格変化。執行タイミングの質を測定。

これらを記録すれば、執行改善が“数字で”見える化されます。

CEXでスリッページを抑える実践テクニック

次の順番で設計すると失敗しにくいです。

  1. 発注条件Post-onlyで板に出してメイカー化、またはIOC/FOKで“滑ってまで”追いかけない。
  2. スライシング:大口はTWAP/VWAPアルゴや手動分割。イベント前後の薄い時間帯を避ける。
  3. 板厚モニタ:板の空洞(ギャップ)を跨ぐサイズを出さない。必要ならアイスバーグで露出を抑える。
  4. 手数料:メイカー手数料優遇/リベートを活用。総コストは「滑り+手数料」で評価。

“最安即断”よりも“総コスト最小”の視点が重要です。

DEXでスリッページを抑える実践テクニック

AMM特有の論点に対応します。

  • 許容スリッページ:UIの「許容値」を小さくしすぎると失敗が増えます。通常時は0.3%前後、荒れ相場は広げる/サイズ分割。
  • 最小受取量minOutを明示。見積りより悪い約定を拒否できます。
  • ルーター/アグリゲータ:1inch/0x/Cow等で複数プールに分割。ガス増加と価格改善のトレードオフを比較。
  • MEV耐性:プライベート送信(例:ブロードキャストをメンプールに公開しない経路)やサンドイッチ保護を利用。
  • 流動性選択:同名ペアでも手数料階層・集中流動性・レンジ外在庫で実効流動性が違う。深いプールを優先。

ルーティング最適化の考え方

価格改善Δ(bps)と追加ガス(円換算)を同じ単位に揃えて評価します。例えば、価格改善が+8bpsで、追加ガスが2,200円、名目1,000,000円なら、追加ガス=+2.2bpsに相当し、ネット+5.8bpsの改善です。

実例①:100万円でETHをCEXで購入

想定ミッド=¥520,000/ETH、数量=1.923 ETH相当を希望。

板(簡略)上3階層:
1) 520,500に1.0 ETH
2) 521,000に0.8 ETH
3) 521,500に2.0 ETH

成行で1.923 ETHを買うと、520,500で1.0、521,000で0.8、521,500で0.123が約定。VWAPは約¥520,942。ミッド比スリッページ= (520,942−520,000)/520,000 ≈ 0.18%(18bps)。手数料0.06%なら総コストは約24bps。対策:520,400のポストオンリー指値で待つ、または3回に分割して板回復を待つ等。

実例②:5 ETHをUSDCにDEXでスワップ

プールは手数料0.05%、有効流動性が深いA(5,000 ETH側)と浅いB(800 ETH側)。
A単独なら価格インパクト約0.10%、B単独なら約0.62%。アグリゲータの分割結果:Aに3.8 ETH、Bに1.2 ETH、見積り平均0.22%、手数料+ガスを含め実現0.27%。UIの許容値0.5%、minOutを設定。混雑時はプライベート送信でサンドイッチを回避。

執行アルゴリズム設計(疑似コード)

def execute(target_size):
    slice_size = choose_slice(target_size, book_depth(), vol())
    for t in schedule(window=30min):
        if spread() > threshold: continue
        if is_event_near(): pause()
        px = mid() - rebate_edge()   # メイカー有利を狙う
        place_post_only(px, min(slice_size, remaining()))
        wait_fills(τ=30s)
        if fill_ratio() < 0.2: cancel_and_reprice()

コアは「板厚×ボラ×手数料条件」からスライスサイズ再プライシング頻度を決めることです。

よくある失敗と対策

許容スリッページを大きく設定しすぎる:DEXでは見積りに対し不利なルートが通りやすくなります。minOutを必ず設定します。
薄い時間帯で成行:東京早朝・週末などは板が薄くギャップが大きい。時間選択もコストです。
手数料だけで取引所を選ぶ:滑りが大きければ安物買いの銭失い。総コスト(bp)で比較します。

デイリー運用チェックリスト

(1)主要ペアの板厚とスプレッド、(2)ガス価格/混雑、(3)イベントカレンダー、(4)アグリゲータ経由の見積り比較、(5)直近の自分の実現スリッページとTC比率。これらをルーチン化すると、月次で見て数十bps単位の改善が積み上がります。

まとめ

スリッページは運ではありません。サイズ・タイミング・ルーティング・手数料・MEV耐性の5点を設計し、KPIで検証して改善を回します。大きな相場観を磨く前に、まずは確実に削れるコストを削りましょう。それが最短でパフォーマンスを押し上げる方法です。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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