トークン・ベスティングとアンロックを利用したイベントドリブン戦略 — 実務フローとリスク管理

取引手法

「トークンのアンロック(解除)」は、需給が一時的に歪む瞬間です。VCやチーム、アドバイザー、エコシステム向けに配分されたトークンが市場に出回ると、流通供給売り圧の構造が変わります。本稿では、ベスティング/クリフ/エミッションの基本を押さえたうえで、アンロック前後の値動きの癖を実務レベルで捉え、事前に計画→執行→検証までを一気通貫で扱います。

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用語整理:ベスティング/クリフ/エミッション

ベスティング(Vesting)は、付与されたトークンが時間の経過に応じて徐々に権利確定・解放される仕組みです。クリフ(Cliff)は初回の一括解放までの待機期間、エミッション(Emission)は新規発行またはスケジュールに沿った流通供給の増加を指します。投資家が見るべきは、(1)流通供給比率、(2)アンロックのドル換算規模、(3)日次出来高に対する相対的な大きさ、(4)受益者の売却インセンティブの4点です。

価格影響のメカニズム(スタイライズド・ファクト)

経験則として、大型のアンロックが近づくと期待的に弱含み、イベント直前〜直後にボラティリティが増加、実施後にリバーサル(戻り)が起きやすい傾向があります。ただし、事前に十分織り込み済みの場合は価格反応が小さく、マーケティング施策や新規提携発表が同時に噛むと需給悪化を相殺することもあります。重要なのは、「規模」と「受け手」「流動性」の三点セットです。

スクリーニング指標:インパクトを数値化する

以下の簡易スコアでイベントの強度を定量化します。

Unlock Impact Score = 0.5 × (Unlock_USD ÷ 30日平均出来高USD) + 0.3 × (Unlock_量 ÷ 現流通供給) + 0.2 × (Cliff一括比率)

  • Unlock_USD:アンロック量 × 想定価格。
  • 30日平均出来高USD:スポット出来高の30日平均。薄い板ではこの値が小さくなり、スコアが跳ねやすい。
  • 現流通供給:現在の市場流通量。相対的な希薄化の度合いを見る。
  • Cliff一括比率:今回アンロックが段階的か一括か。初回クリフはインパクトが大きい。

経験的には、Score >= 1.0注意領域>= 1.5戦術検討>= 2.0取引候補に格上げできます(他条件次第)。

戦略A:アンロック前のディフェンシブ・ショート(またはヘッジ)

条件:大型アンロック、借りやすい資金調達、十分なデリバティブ流動性。基本形は、パーペチュアルのショートでイベント前のドリフトを取りに行きます。基差が大きくプラスなら、ベーシス取りの要素も加わります。

  1. イベントT-7〜T-3日:インパクトスコアと資金調達率(Funding)を確認。高い正のFundingならショート保有コストは低下。
  2. ポジションサイズ:目標最大損失 = 口座残高 × 1〜2%を上限に逆指値で管理。
  3. 情報更新:チームのロック変更、OTCディールの示唆、取引所上場計画などのヘッドラインに注意。
  4. 直前の縮小:T-1〜T当日は板が薄く逆行しやすい。半分利確、または半分はイベント跨ぎで継続。

戦略B:アンロック後のリバーサル狙い(スナップバック・ロング)

条件:事前に十分ディスカウント、T当日に出来高急増、下ヒゲ・大陰線の後。アンロック実施で「悪材料出尽くし」が機能する局面では、当日安値割れに損切りを置いたリバーサル戦略が有効です。

  1. パターン認識:5分〜1時間足で大出来高の反転足(ピンバー、包み足)を確認。
  2. エントリー:反転足の高値ブレイクで成行、または次足の押し目指値。
  3. 利確:前日VWAPT-3日のレンジ中央値、ギャップ埋めを目安に段階利確。

実務フロー:準備→執行→検証

  1. 準備:公式ドキュメントやトークノミクス資料から配分とロック、リニア解放の曲線、クリフ日程を取得。取引所の上場・流動性状況、デリバティブ可用性、借入可否を確認。
  2. 設計:インパクトスコア、ADV比、想定約定スリッページで想定損益をシミュレーション。
  3. 執行:成行を避け、板の厚い時間に分割発注。価格の歪みを加速させない。
  4. ヘッジ:スポット保有を崩したくないなら、等価額のパーペチュアル・ショートでデルタを中立に。
  5. 検証:イベントのリザルト(価格、出来高、Funding、基差)を記録し、次回のスコア重みを調整。

架空ケースでのシミュレーション

銘柄ABC、価格$2.00、時価総額FDV=$2B、流通供給=4億枚($800M)。T日に5,000万枚アンロック($100M)。30日平均出来高=$150M、クリフ初回で一括50%。

  • インパクトスコア:0.5×(100/150)+0.3×(50/400)+0.2×(0.5)= 0.5×0.666+0.3×0.125+0.1 ≈ 0.333+0.0375+0.1 = 0.470注意:本ケースは比較的マイルド)。
  • 前提変更(出来高$80M、初回一括80%):0.5×(100/80)+0.3×(50/400)+0.2×(0.8)=0.625+0.0375+0.16=0.8225。さらに流動性が薄い取引所中心なら1.0超も。

戦略A(ショート):T-5日に$2.00で名目$100kを分割エントリー、逆指値$2.18。T-1で$1.86へ-7%で半分利確、残りはイベント跨ぎ。T当日急落$1.72で残り利確。総合リターン約+9.5%(資金調達負担-0.4%控除後)。

戦略B(リバーサル):T当日$1.65で長い下ヒゲ、出来高激増。$1.72ブレイクでロング、損切り$1.64(-4.7%)。VWAP回帰$1.82で半利確、$1.88で全利確。リターン約+7.3%。

失敗パターンとリスク

  • スケジュール変更:ガバナンス投票でロック延長/短縮。必ず直近の公式周知を確認。
  • OTCブロック化:アンロック分が場外約定し、表面の売り圧が弱まる。
  • 相場地合い:地合いの強さがインパクトを上回り、イベント効果が埋没。
  • 借入制約/調達コスト:資金調達率の急変、空売り規制、借り株・借りコイン枯渇。
  • 板薄スパイク:直前・直後はスプレッド拡大、逆行・踏み上げの急波及。

オプション活用(提供がある場合)

事件前にロング・ガンマ(買いストラドル/ストラングル)でボラ拡大に備え、当日のデルタヘッジで収益化する手もあります。IVが過剰に上がる局面では、スキューを観察して片側のオプションのみ購入/売却を組み合わせると効率的です。

実行チェックリスト

  • 直近90日の出来高と板厚、主要取引所の集中度を確認。
  • 受益者(チーム、VC、エコシステム)の売却インセンティブを推定。
  • Funding、基差、借入可否、限月のロール流動性を点検。
  • 想定レンジ、逆指値、分割発注のロット、執行時間帯を事前に固定。
  • イベント後のPRやリリース予定がないかを確認。
  • ログ:計画 → 約定 → 結果のキャプチャと指標更新。

まとめ

トークンのアンロックは、予見可能な需給イベントです。規模・受益者・流動性の三点で強度を測り、事前のショート事後のリバーサルのどちらも選択肢に入れつつ、資金調達・基差・板厚を定量化してプランニングすれば、再現性のあるイベントドリブン戦略になります。重要なのは、一貫した記録と重み付けの更新です。市場の癖は変化しますが、プロセスを回し続ければ優位性は磨かれます。

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