本稿は、価格が一方向に走るときだけ乗り、逆行は小さく切る「トレンドフォロー」を、移動平均(MA/EMA)・出来高・ATRという初心者にも扱いやすい3点セットで具体化します。株・FX・暗号資産いずれでも再現でき、裁量の余地を可能な限り排して「誰が読んでも同じ手順」で実装できる形に落とし込みます。
トレンドフォローの本質:勝率ではなく損益比
トレンドフォローは「たくさん外して、たまに大きく当てる」戦略です。エッジは勝率ではなく損益比(リスクリワード)にあります。流動性が集中すると価格は自己強化的に伸びますが、伸びる局面の長さや幅は事前に分かりません。だからこそ、損は早く固定・利益は伸ばすという非対称性が理にかないます。
行動ファイナンス的には、損失回避バイアスやディスポジション効果が群衆に一方向の偏りを生み、出来高の加速が価格の加速を呼びます。私たちはその「渦」が生じたときだけ参加し、それ以外は静観します。
対象市場と時間軸の選び方
基本原則はシンプルです。トレンドが出やすい銘柄×あなたの生活に馴染む時間軸。暗号資産ではBTC・ETHのメジャー銘柄、FXではドル円・ユーロドル、株では指数や高出来高の大型株が候補です。時間軸は、仕事や睡眠を侵食しない範囲で一貫性のあるものを選びましょう。例:4時間足(暗号資産)、1時間足(FXデイトレ)、日足(株のスイング)。
ボラティリティが低すぎる(ATRが小さすぎる)と利益幅が出ません。反対に、板が薄いアルトはスリッページが拡大します。「出来高が十分・スプレッドが狭い」市場から始める方が安定します。
道具は3つだけ:MA/EMA・出来高・ATR
移動平均(MA/EMA)
トレンド方向の同定と、価格が「どちら側で推移しているか」の判定に使います。短期EMA(例:20)と長期SMA(例:50/200)を重ね、価格が200SMAの上にあるときだけロング可のような方向フィルターを設けると無駄打ちが減ります。
出来高
値動きの「質」を測る指標です。ブレイク時の出来高スパイクは信頼度を高めます。株は出来高データが豊富、暗号資産は取引所や先物の出来高を見ると良いでしょう。
ATR(平均真の変動幅)
ストップ幅・利確の追随(トレーリング)・銘柄間のリスク平準化に使います。初期ストップ=エントリー価格 − k×ATR(ロング)で標準化し、ポジションサイズも同じくATRで調整します。
完成度の高いベース戦略(テンプレート)
市場・時間軸
BTC/USDT(またはUSD/JPY等の主要通貨)、4時間足(暗号資産)/1時間足(FX)/日足(株)。
指標
- EMA20、SMA50、SMA200
- 出来高(標準表示)
- ATR14
方向フィルター
価格がSMA200の上:ロングのみ。下:ショートのみ(信用・先物が使える市場のみ)。レンジ回避のため、EMA20とSMA50が同方向に傾き、価格がその上側で推移していることを条件とします。
エントリー(2択のいずれか)
ブレイクアウト型:直近20本高値の上にクローズし、同時に出来高さえが直近20本平均の1.5倍以上。次足成行(もしくは指値リミット)でエントリー。
クロス+プルバック型:EMA20がSMA50を上抜け後、価格がEMA20近辺まで押して出来高が収縮、次の陽線で高値更新したらエントリー。
初期ストップとトレーリング
初期ストップ=エントリー − 2×ATR14(ロング)。利が乗ったら、終値がEMA20を明確に割れるまで保有、もしくはATRトレーリング(最高値 − 2×ATR)で追随します。大きなトレンドを逃さないことが目的です。
ポジションサイズ(1取引あたり口座の1%リスク)
数量=口座残高×1% ÷ (エントリー − ストップ)。価格差がATR基準なので、銘柄間のボラ差を自動で吸収できます。複数銘柄同時保有の場合、相関にも注意しましょう。
手仕舞いと再エントリー
EMA20割れで手仕舞い。即時のドテンは不要。上位トレンドが続いている限り、再びブレイク/押し目形成を待って再エントリーします。
ケーススタディ:BTC/USDT(4時間足)
想定シナリオです。価格がSMA200上で推移、EMA20がSMA50を上抜け、出来高が落ち着いた後に直近高値を出来高スパイクとともに突破。エントリー:72,000、ATR14が800なら初期ストップは70,400(=72,000−2×800)。1%リスクで口座1万USDTなら、損失許容額は100USDT、価格差1,600に対して数量は0.0625BTC程度。以後、最高値−2×ATRでトレーリング。EMA20終値割れで利益確定します。
ポイントは「事前に数量と撤退価格を固定」しておくこと。値幅に目移りせず、機械的に追随することで大きなトレンドの果実を取りこぼしにくくなります。
FXデイトレの運用例:USD/JPY(1時間足)
方向フィルターは日足SMA200で上昇基調を確認。1時間足でEMA20とSMA50の上、ロールオーバー時間帯のスプレッド拡大は回避。東京時間のブレイクはダマシが多い場合があるため、ロンドン初動以降のブレイクを優先するなど、時間帯フィルターを足すと精度が上がります。
アルトコインでの留意点
板が薄くスプレッドが広いアルトは、同じATRでも実際のスリッページが大きくなりがちです。出来高の薄い時間帯やマイナー取引所は避け、流動性の深いペア・取引所に限定しましょう。指値を使う場合、OCO(利確・損切り同時注文)でリスクを固定しておくと事故が減ります。
バックテストと前向き検証(フォワードテスト)
いきなり実弾投入せず、最低1〜3か月の紙上トレード(シグナルが出たら日誌に記録)を推奨します。次に小さな資金でライブ検証。重要なのは、ルール遵守率と最大ドローダウンの確認です。勝率は40%でも、平均損益比が2.0以上なら収益曲線は右肩上がりになりやすいです。
よくある失敗と対策
① 早すぎる利確:含み益を守りたくてEMA20に触れただけで手仕舞い。対策は終値基準とATRトレーリングの併用。
② 指標を増やしすぎ:矛盾するシグナルで意思決定が遅れる。対策は「MA/出来高/ATRの3点に絞る」。
③ ロット過大:損切りが精神的に耐えられずルール破り。対策は1%リスクの厳守、連敗時はロット縮小。
④ ボラ急変:イベントでATRが急拡大し、想定外のギャップ。対策は主要指標の発表カレンダーを把握、直前直後は新規を控える。
運用フロー:毎日のチェックリスト
1) 方向フィルター(SMA200の上下)/2) EMA20とSMA50の並び/3) セットアップ形成(ブレイクか押し目)/4) 出来高の質/5) ATRでストップ幅とロット算出/6) OCO発注で損失固定/7) 終値でルール判定・記録。これを繰り返すだけです。
応用:資金曲線の安定化
同じ戦略でも、相関の低い市場と時間軸に分散するとドローダウンが浅くなります。例:BTC(4時間足)とUSD/JPY(1時間足)と日経先物(日足)の3本柱。それぞれ1%リスクでも同時保有の上限を決めて回転率を調整します。
まとめ:小さく負けて、大きく伸ばす
トレンドフォローは「退屈な待機」と「感情に逆らう保有」が核心です。道具はMA・出来高・ATRの3つで十分。方向を絞り、セットアップを待ち、ATRでリスクを規格化し、終値基準で機械的に運用する。これを粛々と回すことで、損小利大の非対称性が累積し、資金曲線はやがて報いてくれます。


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