- 結論:MMFは“守り”ではなく、攻めのための担保になる
- この戦略がハマる相場・ハマらない相場
- まず理解すべき3つの収益エンジン
- 戦略の骨格:キャッシュ・バーベル(コア95%〜70% + サテライト5%〜30%)
- 失敗の原因はほぼ2つ:マージン管理と“想定以上の相関”
- 設計手順:数字で決める(感覚で決めない)
- 具体例:1,000万円で作る3つの実践テンプレート
- レバレッジ手段の選び方:先物・オプション・信用取引の違い
- 為替リスク:日本在住者が必ず直面する論点
- ルール設計:勝つためではなく“壊れないため”に作る
- 月次で行うチェックリスト(運用を仕組み化する)
- よくある質問:初心者がつまずくポイントを先回りして潰す
- まとめ:この戦略の価値は“資金効率”ではなく“継続性”にある
結論:MMFは“守り”ではなく、攻めのための担保になる
米国債MMF(短期米国債を中心に運用するマネー・マーケット・ファンド)は、「安全に置いておく場所」と見られがちです。しかし、金利が高い局面では、MMFは単なる待機資金ではなく、金利収益を生む担保(コラテラル)として機能します。つまり、現金を寝かせずに利回りを得ながら、別の場所でリスクを取りにいく“土台”になります。
本記事は、MMFをコア(基礎)に置き、必要最小限のレバレッジでサテライト(上振れ要素)を乗せる「キャッシュ・バーベル設計」を、具体例と数字で整理します。狙いは一つ。破綻しない範囲で、上値の取り分を増やすことです。
この戦略がハマる相場・ハマらない相場
ハマる条件
①短期金利が高く、MMF利回りが魅力的な時期。②ボラティリティが高すぎず、レバレッジ側の値動きが“管理可能”な時期。③株式や長期債が上昇する可能性があるが、全面リスクオンにするのが怖い時期。要するに、「現金比率を高めたいが、機会損失も嫌」という局面で強いです。
ハマらない条件
短期金利が極端に低い局面(MMFの土台が薄い)、または金融危機級の急変(レバレッジ側のスプレッド拡大、流動性低下、マージン要求の急増)が来る局面では難易度が上がります。特に“一時的な含み損でも耐えられる設計”がないと、良い資産を安値で手放す形になりがちです。
まず理解すべき3つの収益エンジン
エンジン1:MMFの金利収益(基礎体力)
MMFの収益は、短期米国債やレポ等から生まれる利息が中心です。利回りは市場金利に連動しやすく、株のような大きな値動きは基本的に狙いません。その代わり、“金利のインカム”が日々積み上がるのが強みです。
エンジン2:レバレッジ側の価格変動(上振れ)
上値を取りに行くのは、株価指数・長期債・金などの価格変動です。ただし、これを現物で買うと資金効率が落ちます。そこで先物・オプション・CFD・証拠金取引などで、少ない元手で必要なエクスポージャーを作るのがレバレッジ部分です。
エンジン3:資金調達コストと金利差(隠れコスト)
レバレッジにはコストが付きます。先物なら金利を織り込んだ価格、証拠金取引なら借入金利、オプションなら時間価値の減衰などです。MMFで利回りを得ても、レバレッジ側のコストがそれを上回れば意味がありません。よって設計の本質は、「MMF利回り − レバコスト − 想定損失」を黒字に保つことです。
戦略の骨格:キャッシュ・バーベル(コア95%〜70% + サテライト5%〜30%)
基本形はシンプルです。資金の大半を米国債MMFに置き、残り(または証拠金として切り出した枠)でサテライトを運用します。比率は投資家のリスク許容度で変わりますが、初心者ほどコア比率を高くするのが現実的です。
モデルA:コア90%(MMF) + サテライト10%(指数エクスポージャー)
例として、運用資金1,000万円とします。900万円を米国債MMF、100万円を指数連動(S&P500など)の現物ETFにするだけでも、
・MMFの金利収益(例:年4%なら年36万円)
・株式の上昇取り分(10%分)
が得られます。ここまでは“レバレッジなし”です。次に、サテライトの部分を先物で置き換えると、現物に比べ資金効率が上がり、MMF比率を落とさずにエクスポージャーを作れます。
モデルB:コア95%(MMF) + サテライトは先物で作る(実効株比率20%など)
同じ1,000万円で、950万円をMMFに置き、50万円を証拠金として指数先物を使い、実効で200万円分(=株比率20%)のエクスポージャーを作る、という形です。ここで重要なのは、証拠金は「最大損失」ではないという点です。指数が急落すれば追証が発生し、MMFから資金を移動する必要が出ます。つまり、「証拠金」ではなく「最大ドローダウン耐性」で設計すべきです。
失敗の原因はほぼ2つ:マージン管理と“想定以上の相関”
失敗1:追証が来て、最悪のタイミングで投げる
レバレッジ戦略で最もありがちな事故は、相場が急落した瞬間に追証が発生し、MMFを取り崩して証拠金に回し、それでも足りずにポジションを強制縮小する流れです。損失が確定し、さらに反発局面の取り分も失います。これを避ける唯一の方法は、最初から「追証の最大値」を想定して、余裕資金を確保することです。
失敗2:分散しているつもりが、同時にやられる
「株と債券を持てば分散」という固定観念がありますが、インフレ局面や急激な金利上昇局面では、株も長期債も同時に下がることがあります。サテライトを複数に広げるほど、“想定していない相関”が損失を増幅させます。分散は手段であり、最大損失(Worst Case)の上限を抑える設計が先です。
設計手順:数字で決める(感覚で決めない)
ここからは、初心者でも実務的に設計できるよう、順番を固定します。決めるべきは「どれだけ儲けたいか」より先に「どれだけ損しても継続できるか」です。
手順1:許容最大ドローダウン(例:-10%)を先に決める
1,000万円なら最大損失を-100万円と決めます。これが“撤退ライン”ではなく、耐えられる損失の上限です。ここを超える設計は、どこかで必ず破綻します。
手順2:サテライトの「想定ショック」を決める
株式指数なら、短期で-15%〜-25%の急落は普通に起こり得ます。ここでは保守的に-20%を採用します。つまり、実効株エクスポージャーが500万円なら、-100万円の損失になります。すでに許容最大ドローダウンを使い切ります。
手順3:逆算で“最大実効エクスポージャー”を決める
許容損失-100万円、想定ショック-20%なら、最大実効エクスポージャーは500万円です(100万 ÷ 0.20 = 500万)。運用資金1,000万円なら実効株比率は50%が上限、という計算になります。レバレッジを使うなら、証拠金の大小ではなく、この実効比率が上限です。
手順4:マージン(追証)用の“現金バッファ”を確保する
先物の証拠金は相場で変動します。急落局面では必要証拠金が上がることもあります。そこで、MMFのうち一定割合(例:運用資金の10%〜20%)を「いつでも移動できるバッファ」として確保します。MMF自体は流動性が高い商品が多いですが、実際の入出金タイミングや決済サイクルでズレることがあるため、バッファは“現実的な運用上の余白”です。
具体例:1,000万円で作る3つの実践テンプレート
テンプレ1:守備力重視(実効株20%)
・MMF:950万円
・指数先物(実効株):200万円相当(証拠金50万円)
・バッファ:MMF内で100万円を即時移動枠として確保
想定ショック-20%なら損失は-40万円程度。まだ余裕があります。反面、上昇局面の取り分も控えめです。まずはこのレベルからスタートし、運用の癖(追証、値動き、心理)を学びます。
テンプレ2:バランス型(実効株35% + 金10%)
・MMF:900万円
・指数先物(実効株):350万円相当(証拠金70〜90万円)
・金(ゴールド)先物/ETFで実効10%:100万円相当
・バッファ:MMF内で150万円
金は相関が場面で変わりますが、リスクオフで株と逆に動く局面があり、心理的な安定に寄与することがあります。ただし、金も急落します。ここでも重要なのは「分散しているから安全」ではなく、最悪ケースでの損失上限で管理することです。
テンプレ3:リスク許容が高い(実効株50%)
・MMF:850万円
・指数先物(実効株):500万円相当(証拠金100〜150万円)
・バッファ:MMF内で200万円
想定ショック-20%で-100万円。許容最大ドローダウンを使い切る設計です。これ以上は“勝てる”以前に“続けられない”可能性が上がります。ここまで来ると、ルール違反(損失拡大、ナンピン、ポジ追加)が命取りになりやすいので、ルールを文章化して厳守できる人向けです。
レバレッジ手段の選び方:先物・オプション・信用取引の違い
先物:資金効率が高いが、マージン管理がすべて
先物は少ない証拠金で大きなエクスポージャーが取れます。だからこそ、損失が出たときの資金移動が必須です。MMFを担保として使う思想に最も合いますが、日々の証拠金変動に対応できる体制が必要です。
オプション:損失限定の設計ができるが、時間価値がコストになる
オプションは買いなら最大損失がプレミアムに限定されます。例えば、指数のコールを買って上昇を狙う場合、下落しても損失は限定されます。ただし、時間価値が減っていくので、長期保有ではコストが重くなります。MMFの利回りでこのコストを“相殺できるか”が鍵です。
信用取引・証拠金取引:調達金利が読みやすいが、金利が上がると逆風
借入金利が明示されるためコスト管理はしやすい一方、金利が高い局面では負担が増えます。MMF利回りが高い時期でも、信用金利がさらに高いならメリットは薄れます。「MMF利回りと調達金利の差」を常に確認します。
為替リスク:日本在住者が必ず直面する論点
米ドル建てMMFを使う場合、円ベースでは為替が損益に直結します。円高になれば、MMFの利回りを上回る為替差損が出ることもあります。対策は大きく3つあります。
①円建ての短期商品で代替する(国内MMF/短期国債等)
②為替ヘッジ付き商品を使う(コストと実効利回りを要検証)
③あえて為替リスクを受け入れ、サテライト側の設計で調整する
初心者がやりがちな失敗は、「MMFは安全だから為替も安全」と誤認することです。通貨が違う時点で、円ベースでは別物です。
ルール設計:勝つためではなく“壊れないため”に作る
ルール1:実効エクスポージャー上限を固定する
「相場が良さそうだから少し増やす」を繰り返すと、結局、天井で最大ポジになりやすいです。上で計算した最大実効エクスポージャーを上限として固定します。
ルール2:損失が一定値に達したら“機械的に縮小”する
例:含み損が-6%に達したらエクスポージャーを20%削減、-8%でさらに20%削減、など段階的に縮小します。これは損切りというより、追証リスクを減らして生存するための手当です。
ルール3:利益が出たらMMFに戻す(リバランス)
サテライトが増えた分を放置すると、いつの間にかリスク比率が膨らみます。一定の利益が出たら、利益の一部をMMFに戻し、コア比率を回復させます。これがこの戦略の“肝”です。利益を確定して土台を厚くすることで、次の機会でより安定してリスクを取れます。
月次で行うチェックリスト(運用を仕組み化する)
以下を毎月1回、淡々と確認します。ここをルーチン化できるかが、長期的な成績を分けます。
・MMFの実効利回り(税引前/税引後)
・レバレッジ側の調達コスト(先物のロールコスト、金利、スプレッド)
・ポートフォリオの実効エクスポージャー(株・債券・金・その他)
・最大ドローダウンの進捗(許容損失に対する使用率)
・相関の変化(同時に落ちる局面を想定)
・バッファの残高(追証に即応できるか)
よくある質問:初心者がつまずくポイントを先回りして潰す
Q. MMFの利回りが高いなら、レバレッジを強めてもいい?
A. ダメです。利回りは“損失の上限”を上げません。高利回りはあくまで土台の厚みを増やすだけで、急落は一撃で利回り数年分を吹き飛ばします。レバレッジの上限は、利回りではなく許容ドローダウンで決めます。
Q. サテライトは株だけでいい?
A. 最初は株だけで十分です。複数アセットに手を広げると、管理項目が増えます。管理できない分散はリスクです。まずは「株エクスポージャーを適切に管理する」ことに集中し、慣れてきたら金や長期債などを検討します。
Q. どのくらいの頻度で見ればいい?
A. 先物・証拠金を使うなら、相場が荒れている週は毎日、平常時でも週数回は必要です。オプション買い中心で損失限定なら頻度は下げられますが、今度は時間価値の減衰と期限管理が必要になります。管理コストが低い手段を選ぶのも戦略です。
まとめ:この戦略の価値は“資金効率”ではなく“継続性”にある
米国債MMF×レバレッジは、派手な一撃を狙う戦略ではありません。MMFで基礎体力を作りながら、必要最小限のリスクで上振れを取りに行く、地味で再現性の高い設計です。
ポイントは次の3つに集約されます。
①許容最大ドローダウンから逆算して実効エクスポージャー上限を決める。
②追証に耐えるバッファを“最初から”確保する。
③利益が出たらMMFに戻し、土台を厚くする(リバランス)。
これだけ守れば、相場の上下に振り回されず、次のチャンスまで生存し続ける可能性が上がります。投資で最も重要なのは、結局のところ生き残ることです。


コメント