ペアトレードの設計と検証:相関に頼らず歪みを収益化する実践ガイド

投資戦略

ペアトレードは「上がるか下がるか」ではなく、「2つの資産の差(スプレッド)が広がり過ぎ・縮み過ぎた歪み」を収益化する発想です。株式でもETFでも先物でも応用できますが、初心者が最初に躓くのは“相関が高いから安心”という誤解です。相関はただの同時性であり、同一要因で動くことも、構造が変われば一夜で壊れます。

この記事では、相関ではなく「経済的な理由(なぜ2つが近い値動きをするはずか)」と「統計的な安定性(どの程度の頻度で元に戻るか)」の両方から、ペアを設計し、検証し、運用ルールに落とすまでを、できるだけ具体的に解説します。読み終える頃には、(1) どのペアを避けるべきか、(2) スプレッドをどう作るべきか、(3) どの指標で期待値を見積もるか、(4) どこで損切りし、どう再投入するか、が自力で判断できる状態を目指します。

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  1. ペアトレードの本質:相関ではなく「スプレッドの平均回帰」を買う
  2. 最初に押さえる用語:スプレッド、ヘッジ比率、ポジションサイズ
    1. スプレッドとは何か
    2. ヘッジ比率(k)の意味
    3. ポジションサイズ:ドルニュートラルとベータニュートラルの違い
  3. ペア候補の選び方:おすすめの順番と避けるべき地雷
    1. 1)同一指数のETF同士、または現物と先物(差が理論的に制約される)
    2. 2)同業2社(ただし、構造が似ていることが条件)
    3. 3)バリューチェーン関係(原材料→製品、ただし時差を考慮)
    4. 避けるべき地雷
  4. スプレッド設計の実務:k(ヘッジ比率)をどう決めるか
    1. 方法A:固定比率(1:1)
    2. 方法B:ボラティリティ調整(ボラ比)
    3. 方法C:回帰(OLS)で推定する
    4. 方法D:ローリング推定(kを動かす)
  5. 検証(バックテスト)の最低限:これだけは外すな
    1. Step 1:データ品質の確認
    2. Step 2:スプレッドを作り、標準化する
    3. Step 3:エントリーとエグジットを明確化
    4. Step 4:コストを入れる(これをやらない人が多い)
    5. Step 5:アウト・オブ・サンプルで確認する
  6. 勝てるペアの「数字の特徴」:見るべき統計と解釈
    1. 平均回帰の速さ:ハーフライフ
    2. 分布の歪み:勝率より“負け方”を見る
    3. レジーム依存:危機時に壊れるか
  7. 具体例1:同業2社での設計(概念例)
  8. 具体例2:ETF間の乖離(概念例)
  9. 運用ルールの設計:エントリーより「撤退」が収益を決める
    1. 1)価格ベースの損切り(Z損切り)
    2. 2)時間ベースの損切り(タイムストップ)
    3. 3)イベントベースの停止
  10. よくある失敗パターン:なぜ「相関が高いのに負ける」のか
    1. 失敗1:相関の罠(同時に崩れる)
    2. 失敗2:過剰最適化(見た目の良さに騙される)
    3. 失敗3:コスト軽視(手数料に食われる)
  11. 個人投資家向けの実装ロードマップ:最短で失敗を減らす手順
    1. フェーズ1:紙で設計(理由のあるペアだけ選ぶ)
    2. フェーズ2:シンプルなルールで検証(Z>2で入って0で出る+撤退)
    3. フェーズ3:分解して改善(どこで稼ぎ、どこで失うか)
    4. フェーズ4:運用ルールを追加(停止条件、サイズ調整、再投入)
  12. 安全装置:ペアトレードでも“破綻”は起きる
  13. まとめ:勝ち筋は「良いペア」×「撤退設計」×「コスト管理」

ペアトレードの本質:相関ではなく「スプレッドの平均回帰」を買う

ペアトレードは、ロング(買い)とショート(売り)を同時に持ち、相場全体の上げ下げの影響を抑えながら、2者の価格差が平常状態へ戻る動きを狙います。ここで重要なのは「スプレッドが平均回帰する(戻る)」という性質が継続することです。

平均回帰が起きる理由は大きく2つです。

① 経済的な結びつき:同じ需要・同じ規制・同じコスト構造・同じ顧客層など、2者が似た力学で動く理由がある。例えば「同業2社」「同じ指数のETF」「同じ商品を原材料に持つ企業」などです。

② 裁定(アービトラージ)圧力:差が広がると、その差を取りに来る参加者が増え、差が縮む。ETFと先物、同一企業の複数株式(種類株)、ADRと現地株など、理論的に差が開きにくい関係が代表例です。

逆に、相関だけ高くても、片方の事業構造が変わったり、資本政策が変わったり、規制で市場アクセスが変わったりすると「戻り」が消えます。ペアトレードで一撃死が起きるのは、多くがこの“戻りが消える瞬間”です。

最初に押さえる用語:スプレッド、ヘッジ比率、ポジションサイズ

スプレッドとは何か

スプレッドは2資産の組み合わせで定義します。最も単純には「A − B」ですが、実務ではスケール(価格水準)が違うので、そのままだと比較できません。よく使うのは以下です。

・価格差型:S = A − k×B(kはヘッジ比率)

・対数比率型:S = log(A) − k×log(B)(比率の変化に強い)

・リターン差型:S = rA − k×rB(短期向きだがノイズが増える)

ヘッジ比率(k)の意味

kは「Bをどれだけ持てば、Aの一般的な動きを打ち消せるか」を表します。ここが雑だと、ペアトレードのはずが単なるベータ(市場感応度)取りになります。たとえば、Aが値動きの大きい銘柄、Bが小さい銘柄なら、kを適切に調整しないと片側の値動きに振り回されます。

ポジションサイズ:ドルニュートラルとベータニュートラルの違い

ドルニュートラルは「買い金額=売り金額」にする設計です。シンプルですが、銘柄のベータが違うと市場に対して偏りが残ります。

ベータニュートラルは「市場の上げ下げに対する感応度が概ねゼロ」になるようにサイズを調整します。理屈はきれいですが推定誤差が増えます。最初はドルニュートラルで始め、検証が進んだらベータニュートラルを検討するのが安全です。

ペア候補の選び方:おすすめの順番と避けるべき地雷

初心者が再現性を作るなら、以下の順番が最も堅いです。

1)同一指数のETF同士、または現物と先物(差が理論的に制約される)

たとえば同じ指数に連動するETFが複数ある場合、信託報酬や流動性の差で短期的に乖離しても、裁定が働きやすい環境です。先物とETFの乖離も、裁定参加者の行動原理が明確で、ペアの“理由”がはっきりしています。

2)同業2社(ただし、構造が似ていることが条件)

同じ産業でも、片方が高付加価値、片方が薄利多売、片方が海外比率が高いなど、ドライバーが違うと崩れます。財務指標やセグメント情報を見て「何で儲けているか」が似ているか確認します。

3)バリューチェーン関係(原材料→製品、ただし時差を考慮)

例として「原油→航空会社」「金利→銀行株」のように、因果がある関係は魅力的ですが、価格転嫁やヘッジ、契約の固定期間で時差が生まれます。時差を無視すると、戻るはずの差が戻らない期間が長引き、耐えられなくなります。

避けるべき地雷

・M&Aや資本政策が頻繁な銘柄:発表1本でレジームが変わります。

・規制・訴訟・臨床試験など“離散イベント”が大きい銘柄:平均回帰ではなくジャンプが支配します。

・流動性が低い銘柄:スプレッドよりスリッページで負けます。

・ショートが難しい銘柄:借株料や在庫不足で理論が崩れます。

スプレッド設計の実務:k(ヘッジ比率)をどう決めるか

kの決め方には段階があります。重要なのは「未来の情報を使わない」ことです。過去データで最適化し過ぎると、見た目だけ美しいカーブができますが、実運用で崩れます。

方法A:固定比率(1:1)

価格水準が近く、事業構造も近い同業2社などで、最初のたたき台になります。簡単ですが、銘柄のボラティリティ差を吸収できません。

方法B:ボラティリティ調整(ボラ比)

直近N日(例:60日)の日次リターン標準偏差から、k ≒ σA/σB としてスケールを合わせます。目的は「片側だけが暴れて損益が左右される」を減らすことです。

方法C:回帰(OLS)で推定する

log(A) = α + k×log(B) + ε のように回帰し、kを傾きとして使います。ここでεが“スプレッド(残差)”です。よくある落とし穴は、期間を長く取り過ぎて構造変化を混ぜること、短くし過ぎてノイズを拾うことです。まずは半年〜2年程度で複数期間を比較し、「どこで安定するか」を確認します。

方法D:ローリング推定(kを動かす)

kを毎日、または毎週更新します。市場環境が変わっても追随しやすい一方で、推定誤差が増え、取引回数が増えてコストが上がります。個人投資家は、更新頻度を下げ(例:週次)、取引コストとバランスを取るのが現実的です。

検証(バックテスト)の最低限:これだけは外すな

ペアトレードは検証が命です。検証が甘いと、相関の偶然に賭けるだけになります。ここでは、初心者でも再現できる検証手順を、チェックリスト化します。

Step 1:データ品質の確認

株式なら配当落ち・分割・併合を調整した価格(調整後終値)を使います。ETFは分配金の扱いがズレやすいので、トータルリターン指数が取れるなら理想です。暗号資産は取引所ごとの価格差・メンテ停止などの外れ値に注意します。

Step 2:スプレッドを作り、標準化する

スプレッドSそのものは単位がバラバラなので、平均と標準偏差でZスコア化します。

Z = (S − 平均) / 標準偏差

Zが+2なら「過去平均との差が2σだけ広い」。この“どれくらい異常か”が売買の基準になります。

Step 3:エントリーとエグジットを明確化

例えば、Z> +2で「スプレッド縮小」を狙って(Aショート・Bロング)に入る、Zが0に戻ったら手仕舞い、といったルールです。重要なのは、エントリーとエグジットの両方に「例外(損切り・時間切れ)」を入れることです。

Step 4:コストを入れる(これをやらない人が多い)

売買手数料、スプレッド(板の厚み)、スリッページ、借株料(ショートコスト)を仮定します。ペアトレードは回転数が増えやすいので、コストを甘く見ると、バックテストの利益が実運用で消えます。

Step 5:アウト・オブ・サンプルで確認する

2015〜2021で最適化して、2022〜2025で検証する、のように期間を分けます。さらに、ローリングで「過去1年で推定→次の3か月で運用」を繰り返すウォークフォワードが理想です。

勝てるペアの「数字の特徴」:見るべき統計と解釈

平均回帰の速さ:ハーフライフ

ハーフライフは「スプレッドのズレが半分に戻るまでの時間」の目安です。ハーフライフが短いほど回転が速く、長いほど耐える必要が増えます。個人投資家は、資金拘束を嫌うなら短め(数日〜数週間)を優先します。

分布の歪み:勝率より“負け方”を見る

ペアトレードは勝率が高く見えがちです。小さく勝って、たまに大きく負ける構造になっていないかを必ず確認します。具体的には、最大ドローダウン、損益分布の歪度、ワーストトレード(最悪取引)を見ます。

レジーム依存:危機時に壊れるか

2008、2020、2022のような急変局面で、スプレッドが拡大しっぱなしになるペアがあります。危機時には「相関が1に近づく」現象が起き、ヘッジが効かなくなることがあります。危機期間だけ切り出して検証し、撤退ルールが機能するかを確認します。

具体例1:同業2社での設計(概念例)

ここでは実名銘柄に依存しない“概念例”で説明します。例えば、同じ業界の大手2社A社・B社があり、長期的に売上構成と利益率が似ていて、市場が同じニュースで同方向に動きやすいとします。

検証では、まずlog価格でOLS回帰してkを推定し、残差をスプレッドとしてZスコア化します。Zが+2を超えたら「Aが割高(またはBが割安)」とみなし、Aショート・Bロングで入ります。Zが0に戻ったら利確。問題は、Zが+3、+4に拡大して戻らないケースです。

このとき必要なのが以下の2つです。

・時間切れ(タイムストップ):例えば20営業日で戻らないなら撤退。平均回帰の“期待期間”を超えたら、前提が壊れた可能性が高い。

・構造変化フィルター:決算でガイダンスが大きく変わった、M&Aを発表した、規制が変わった等のイベントがあれば、そのペアは一旦停止する。

具体例2:ETF間の乖離(概念例)

同一指数連動のETFが2つあり、Aは流動性が高い、Bはやや薄いとします。急落時にBの売りが先行してディスカウントが広がる、といった局面が起きます。

この場合の強みは「戻る理由」が裁定と解約・設定フローにあることです。弱点は、個人が裁定の中心プレイヤーではないため、戻るまでの時間が読みにくいこと、薄いETFでは約定コストが跳ねることです。検証では、スプレッドを“価格差”ではなく“プレミアム/ディスカウント比率”として扱い、閾値を厳しめに(例:Z>2.5)設定し、コストを厚めに見積もるのが現実的です。

運用ルールの設計:エントリーより「撤退」が収益を決める

ペアトレードは、入るのは簡単で、出るのが難しい。撤退ルールが弱いと、統計的に「いつか戻る」に賭け続けて資金が枯れます。ここでは、実務で使いやすい撤退ルールを整理します。

1)価格ベースの損切り(Z損切り)

Zが+2で入ったのに、+3.5まで拡大したら撤退、など。メリットは単純で機械化しやすい。デメリットは、ノイズで刈られることがある。

2)時間ベースの損切り(タイムストップ)

平均回帰が起きる“想定期間”を超えたら撤退。ハーフライフが10日なら、30日戻らないのは危険信号です。時間切れは、構造変化を早期に捉える保険になります。

3)イベントベースの停止

決算、規制、政策、訴訟、M&Aなど“構造が変わるニュース”が出たら、当該ペアは停止。これが最も効きます。テクニカルだけで運用すると、ここで破壊されます。

よくある失敗パターン:なぜ「相関が高いのに負ける」のか

失敗1:相関の罠(同時に崩れる)

相関が高い=同時に動く、なので、危機時には同時に売られます。ヘッジが効くどころか、両方が同方向に大きく動き、スプレッドが想定外に拡大することがあります。

失敗2:過剰最適化(見た目の良さに騙される)

Zの閾値や期間を細かく調整しすぎると、過去にだけ合う“偶然のルール”になります。対策は、パラメータを粗くし、複数の期間・複数の市場局面で大きく崩れないことを優先することです。

失敗3:コスト軽視(手数料に食われる)

ペアトレードは小さな歪みを積み上げるので、手数料やスプレッドに弱いです。特にショート側のコスト(借株料)は、平常時は小さくても、相場が荒れると跳ねることがあります。

個人投資家向けの実装ロードマップ:最短で失敗を減らす手順

フェーズ1:紙で設計(理由のあるペアだけ選ぶ)

まず「なぜこの2つは近い動きになるはずか」を文章で説明できるペアだけに絞ります。説明できないペアは、統計の偶然です。

フェーズ2:シンプルなルールで検証(Z>2で入って0で出る+撤退)

まずは単純なルールで、コスト込みでプラスになるかを見ます。ここで勝てないなら、パラメータを弄るのではなく、ペアそのものが弱い可能性が高いです。

フェーズ3:分解して改善(どこで稼ぎ、どこで失うか)

稼ぎが“急落直後の戻り”に偏るのか、“平常時の小さな往復”に偏るのかを見ます。前者ならイベント・ボラ局面に強い設計、後者ならコスト最適化が優先です。

フェーズ4:運用ルールを追加(停止条件、サイズ調整、再投入)

停止条件(イベント)と、サイズ調整(ボラ調整)を追加します。再投入は「いったん損切り→再度Zがさらに伸びたら入る」といった“二段構え”も有効ですが、これは難易度が上がるので、まずは単純に。

安全装置:ペアトレードでも“破綻”は起きる

ペアトレードは市場中立に見えますが、以下の破綻リスクがあります。

・ショート側の制約:借株がなくなる、借株料が急騰する、ショート規制が入る。

・流動性枯渇:スプレッドが開いた局面ほど板が薄くなり、逃げるコストが上がる。

・モデル崩壊:事業構造・指数構成・政策環境が変わり、平均回帰が消える。

したがって、最初から「想定外を前提にしたルール」を入れるのが必須です。最大損失(1トレードで口座に与えるダメージ)を固定し、ポジションサイズをそこから逆算します。

まとめ:勝ち筋は「良いペア」×「撤退設計」×「コスト管理」

ペアトレードは、相関の高さではなく、平均回帰が起きる理由と、その理由が壊れたときに被害を限定する撤退設計がすべてです。初心者ほど、(1) 裁定が働きやすいペアから始め、(2) ルールを単純にし、(3) コストとショート制約を厳しめに見積もり、(4) 停止条件を徹底する、これが最短ルートです。

最後に、検証の合格基準を一文で決めてください。「コスト込みで、複数期間・複数局面でも大崩れしない」。これを満たすペアだけを少数運用する方が、派手な最適化より長期で強いです。

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