- セルインメイとは何か:まず「格言」を分解する
- なぜ季節性が生まれるのか:初心者でも理解できる3つの要因
- セルインメイを使う前に知っておくべき「落とし穴」
- 初心者向け:セルインメイを「ルール」に落とす3つの型
- 具体例:日本株(TOPIX連動ETF)で「完全撤退型」を作る
- 具体例:米国株(S&P500 ETF)で「リスク低減型」を作る
- 検証(バックテスト)のやり方:初心者でもできる最低限の枠組み
- オリジナリティ:セルインメイを「単独」で使わない—二段階フィルターで精度を上げる
- 売買執行のコツ:初心者が損しやすいポイントを避ける
- ありがちな失敗パターンと対策:初心者の「やらかし」を潰す
- 運用の型を「自分仕様」にするチェックリスト
- まとめ:セルインメイは「相場予想」ではなく「運用設計」の道具
- もう少し踏み込む:セルインメイが効きやすい局面・効きにくい局面
- 初心者向けミニバックテスト:スプレッドシートで検証する手順
- 現金の置き場:セルインメイの「待機期間」を無駄にしない
- 最後の注意:アノマリーは「市場に知られた瞬間から劣化する」
セルインメイとは何か:まず「格言」を分解する
「Sell in May and go away(5月に売って、しばらく市場から離れろ)」は、株式市場の季節性(シーズナリティ)を示す代表的なアノマリーです。ざっくり言うと、5月〜10月は相対的に弱く、11月〜4月は相対的に強い、という言い伝えです。
ただし、ここで最初に押さえるべきポイントは、セルインメイは「魔法の必勝法」ではなく、平均値ベースの傾向にすぎないことです。平均が高い(低い)ことと、毎年必ず上がる(下がる)ことは別物です。よって投資で使うなら、格言をそのまま信じるのではなく、検証し、ルールにし、リスクを管理するという順番が必須です。
なぜ季節性が生まれるのか:初心者でも理解できる3つの要因
季節性は「市場参加者の都合」が集まって出来上がります。セルインメイの背景としてよく挙げられる要因は次の3つです。
1. 夏枯れ:流動性低下で値動きが歪む
欧米では夏季休暇の影響で取引参加者が減り、売買代金が細る(=流動性が落ちる)傾向があります。流動性が落ちると、同じニュースでも価格が飛びやすく、また大口の売買が価格に与える影響が大きくなります。結果として、上昇トレンドが継続しづらい、あるいは小さな悪材料で崩れやすい局面が増えます。
2. ファンドの行動パターン:リバランスと利益確定
機関投資家やファンドには、運用上の都合でポジションを調整するタイミングが存在します。例えば、年度初からの上昇で含み益が膨らんだ銘柄をいったん落とし、リスクを下げる、などです。個別の理由はファンドごとに違っても、似たタイミングで似た行動が重なると、指数として見たときに季節性が強化されます。
3. マクロイベント集中:夏〜秋は「荒れやすい」材料が多い
米国では9月の金融政策イベントや、秋口の債務上限・予算協議など、相場を揺らしやすい材料が出やすい年もあります。毎年必ず同じではありませんが、「不確実性が高い時期」にリスクを落とす行動は、結果としてセルインメイのパターンと整合します。
セルインメイを使う前に知っておくべき「落とし穴」
セルインメイは有名な分、誤用が多いテーマです。初心者がつまずきやすい落とし穴を先に潰します。
落とし穴A:5月に売れば必ず下がると思い込む
実際には、5月〜10月でも大きく上がる年はあります。例えば、強い金融緩和や景気回復が進む局面では、季節性よりトレンドが勝ちます。セルインメイは「相場観」ではなく、ポジションサイズとリスク配分の調整ルールとして使う方が合理的です。
落とし穴B:対象市場を混ぜる(日本株と米国株を同じ扱いにする)
セルインメイは欧米で語られることが多い格言です。日本株にも季節性はありますが、配当・決算シーズン、機関投資家の決算期、為替の影響などが絡み、米国と完全に同じにはなりません。使うなら「自分が取引する市場」で検証が必要です。
落とし穴C:検証せずにETFや個別株を売買する
アノマリーは、手数料・税金・スリッページ(想定より不利な価格約定)を差し引くと消えることがあります。特に短期売買ほどコストの影響は大きいです。よって「格言を聞いたから売る」ではなく、コスト込みで勝ち残るルールに落とす必要があります。
初心者向け:セルインメイを「ルール」に落とす3つの型
ここからが実践です。セルインメイは大きく3つの型に整理できます。あなたの性格(メンタル耐性)と売買環境(取引コスト)で選びます。
型1:完全撤退型(5月に売って現金化)
最も分かりやすいのが「5月に株式を売り、11月に買い戻す」方法です。メリットは、夏〜秋の下落局面を避けられる可能性があること。デメリットは、上昇相場に乗れない年があることと、買い戻しが怖くて遅れる心理的ハードルです。
初心者がこの型をやるなら、個別株ではなく指数連動(例:TOPIX連動、S&P500連動)の方が管理しやすいです。個別株は決算や材料で「季節性を無視して動く」からです。
型2:リスク低減型(保有は続けるが比率を落とす)
現金化まで踏み切れない場合は、株式比率を段階的に落とします。例えば「株100%→株60%+現金40%」のように、夏場のボラティリティを受けても致命傷にならない設計にします。これはセルインメイをリスク管理のトリガーとして使う方法です。
型3:ヘッジ型(売らずに守る:先物・インバース・オプション)
中上級者向けですが、売らずに守る方法もあります。例えば指数先物をショートしてベータを落とす、インバースETFを小さく持つ、プットオプションで保険をかける、などです。ただし初心者がいきなりやると、コストと複雑さで失敗しやすいので、まずは型2までで十分です。
具体例:日本株(TOPIX連動ETF)で「完全撤退型」を作る
ここでは実務(=実際の手順)として、TOPIX連動ETFを例に、ルールを文章で具体化します。目的は「検証可能で、迷いが減る」ルールにすることです。
エントリー(買い)条件:11月初営業日に買う
「11月に買う」と曖昧にすると、迷いが生まれます。そこで、11月の初営業日の寄付きなど、機械的に決めます。寄付きが苦手なら当日終値でも構いません。重要なのは、ルールを固定して検証できる状態にすることです。
エグジット(売り)条件:5月初営業日に売る
同様に、5月の初営業日で固定します。「5月のどこかで高いところで売る」は裁量が入り、検証が難しくなります。初心者はまず、曖昧さを排除してください。
リスク管理:最大ドローダウンを想定して資金配分を決める
セルインメイのルールは「いつも勝つ」前提では作れません。想定外の年(5月〜10月が強い年、11月〜4月が弱い年)に耐える必要があります。そこで、過去データで最大ドローダウン(ピークからの最大下落率)を把握し、その下落に耐えられるポジションサイズにします。
例えば最大ドローダウンが-20%だったなら、「-20%になっても生活費や必要資金に影響しない金額」しか入れない、という設計です。これが守れないと、ルールが機能する前にメンタルが折れて撤退します。
具体例:米国株(S&P500 ETF)で「リスク低減型」を作る
次は米国株の例です。完全撤退が難しい人向けに、株式比率を落とすルールを作ります。
ルール案:4月末に株式比率を70%へ、10月末に100%へ戻す
例えば、積立や長期保有を前提にしている場合、完全撤退は心理的に難しいことがあります。そこで、4月末に株式を一部売却して現金比率を上げ、10月末に戻します。4月末・10月末と月末に固定するのは、タイミングの迷いを排除するためです。
なぜ70%なのか:数字は「検証で決める」
70%は例にすぎません。大事なのは、株式比率をどれだけ落とすと、リスク(下落幅)とリターン(取り逃がし)のバランスが良いかです。初心者が陥りがちなのは、気分で比率を決めることです。検証の考え方はシンプルで、複数パターン(100%, 80%, 60%…)を試し、最悪ケースの下落と平均リターンを比較して、自分の許容範囲に合うものを選びます。
検証(バックテスト)のやり方:初心者でもできる最低限の枠組み
難しい統計は不要です。ただし「自分で確かめた」という事実が、運用継続の武器になります。最低限、次の項目を押さえます。
1. 期間:最低でも10年以上、できれば20年以上
アノマリーは期間が短いとブレます。最低でも10年、できれば20年以上で見ます。短期で当たっているだけなら、運が良かった可能性が高いからです。
2. 対象:指数(TOPIX、S&P500)を優先する
個別株だと、上場廃止や構成の変化が入って検証が歪みます。初心者はまず指数で検証し、再現性を重視してください。
3. 成績の見方:平均リターンだけ見ない
平均が良くても、途中の下落が深いと運用できません。必ず次の3つを見ます。
- 最大ドローダウン:精神的に耐えられるか
- 勝率(年単位):連敗がどれくらい起こるか
- ボラティリティ:日々の揺れの大きさ
ポイントは「運用可能性」です。投資は、理論より継続が勝ちます。
オリジナリティ:セルインメイを「単独」で使わない—二段階フィルターで精度を上げる
ここから一歩踏み込みます。セルインメイは有名すぎるため、単独で使うとダマシ(機能しない年)を踏みやすい。そこで初心者でも扱える形で、二段階フィルターを提案します。難しい指標は使いません。
フィルター1:トレンド(200日移動平均)で「地合い」を判定する
やることは単純です。指数が200日移動平均の上にあるなら上昇基調、下にあるなら弱気とみなします。セルインメイの売りを機械的に行うのではなく、弱気地合いのときだけセルインメイを強く適用します。
例:5月初営業日、S&P500が200日移動平均より上なら「完全撤退はせず、比率を少し落とす」に留める。下なら「撤退を強める」。こうすると、強い上昇相場で早売りして取り逃がすリスクを減らせます。
フィルター2:ボラティリティ(VIXや日経VI)の方向で「危険度」を測る
もう一つは恐怖指数の方向です。水準そのものより、上向きかどうかが実務的に効きます。VIX(日経なら日経平均ボラティリティ・インデックス等)が上向きのときは、リスクオフが進みやすく、夏枯れと相まって下方向に加速しやすい。
例:5月に入り、VIXが数週間かけて切り上がっているなら、セルインメイの「リスク低減」をより強める。逆にVIXが低下基調なら、過剰に守りすぎない。初心者でも「上がっているか下がっているか」は見られます。
売買執行のコツ:初心者が損しやすいポイントを避ける
戦略の良し悪し以前に、執行で負けることが多いです。セルインメイで特に効く注意点をまとめます。
寄付き成行を乱用しない
「初営業日の寄付きで売買」と決めても、必ずしも成行が最適ではありません。寄付きは注文が集中し、スプレッドが広がることがあります。初心者は、成行ではなく「指値を置く」「前日の終値近辺で指値」など、スリッページ対策を意識すると成績が安定します。
売買回数を増やしすぎない
セルインメイは本来、年2回程度の売買で完結する発想です。途中で何度も出たり入ったりすると、コストが増え、ルールが崩れます。まずは「年2回」のシンプルさを守ってください。
税金と配当の扱いを理解する
現金化すると配当を逃す可能性があります。逆に保有を続けると配当が入りますが、下落も食らいます。日本株なら配当権利確定のタイミング、米国ETFなら分配の頻度などが絡むため、分配込みリターンで比較する視点が重要です。
ありがちな失敗パターンと対策:初心者の「やらかし」を潰す
失敗1:5月に売ったのに上がり続けて、悔しくて高値で買い直す
これは最悪のパターンです。セルインメイの弱点(上昇相場の取り逃がし)に心理が耐えられず、結局高値掴みします。対策は、撤退ではなく「比率調整」にするか、前述のトレンドフィルターで「強い相場では守りすぎない」設計にすることです。
失敗2:11月に買い戻すのが怖くて先延ばしし、乗り遅れる
下落局面の後は、買い戻しが怖くなります。だからこそルールが必要です。「怖いから買わない」を続けると、11月〜4月の上昇を逃し、セルインメイの優位性が消えます。対策は、買い戻しを「日付で固定」し、裁量の余地を減らすことです。
失敗3:セルインメイを個別株に当てはめて、決算で吹き飛ぶ
個別株は決算や材料で季節性を無視して動きます。セルインメイを個別株でやるなら、イベント(決算、増資、当局規制)を必ずチェックし、想定外のギャップに備える必要があります。初心者は、まず指数で経験を積むのが合理的です。
運用の型を「自分仕様」にするチェックリスト
最後に、あなたが実際にセルインメイを運用する前に、最低限の確認項目を提示します。ここが固まると、迷いが激減します。
- 対象は何か(TOPIX、日経平均、S&P500、全世界株など)
- 売る日・買う日を固定したか(例:5月初営業日・11月初営業日)
- 完全撤退か、比率調整か(自分のメンタルと目的に合うか)
- 最大ドローダウンを見て、資金配分は過大でないか
- トレンドフィルター(200日線)を入れるかどうか
- 手数料・スリッページ・税金・分配を含めて検証したか
セルインメイは、単体で「当てにいく」ほど不安定です。しかし、リスク管理の装置として使うと、初心者でも再現性のある形にできます。重要なのは、格言を信じることではなく、自分のルールとして検証し、運用できる形に落とすことです。
まとめ:セルインメイは「相場予想」ではなく「運用設計」の道具
セルインメイは、未来を当てるための言葉ではありません。季節性という統計的傾向を、資金管理に落とし込むためのヒントです。初心者ほど、ルールをシンプルにし、指数で始め、検証を前提にする。この順番を守れば、アノマリーは「噂話」ではなく、あなたの投資プロセスを整える道具になります。
もう少し踏み込む:セルインメイが効きやすい局面・効きにくい局面
同じ「5月〜10月」でも、相場環境によって効き方が変わります。ここを理解すると、セルインメイを信仰せずに済みます。
効きやすい:金融引き締め・景気減速・信用収縮が同時に進む局面
金利上昇や与信の引き締めは、株式のバリュエーション(PERなど)を圧縮しやすい要因です。このとき夏枯れの流動性低下が重なると、下げが加速しやすくなります。初心者は難しい指標を追わなくても、「金利が上がっている」「中央銀行がタカ派」「企業の資金繰り不安が話題」といったニュースフローだけで、警戒すべき地合いを把握できます。
効きにくい:金融緩和・大型財政・強いトレンドが支配する局面
一方で、強い追い風があるときは季節性が負けます。たとえば利下げ局面の初期や、明確な景気回復局面では、5月以降でも上昇が続くことがあります。このときセルインメイで完全撤退すると、上昇の主波動を取り逃がすリスクが増えます。だからこそ前述のトレンドフィルターが実務的に役立ちます。
初心者向けミニバックテスト:スプレッドシートで検証する手順
「検証が大事」と言われても、いきなりプログラムはハードルが高いはずです。そこで、スプレッドシートでできる最小手順を示します。目的は、完璧な統計ではなく、ルールが本当に動くかを自分の目で確かめることです。
手順1:指数の月次終値を用意する
まず、TOPIXやS&P500など、あなたが対象にする指数の月次データ(各月末の終値)を用意します。日次より粗いですが、セルインメイの検証には十分役立ちます。
手順2:11月末→4月末のリターンと、5月末→10月末のリターンを分けて計算する
次に、期間を2つに分けます。11月末から4月末までのリターン、5月末から10月末までのリターンです。これを年ごとに計算し、平均・中央値・最悪値(ワースト)を比較します。ここで中央値を見るのは、極端な年に平均が引っ張られるのを避けるためです。
手順3:売買コストを「ざっくり」引く
最後に、売買コストを差し引きます。ETFなら手数料とスプレッドを合わせて往復で何bp(0.01%単位)か、概算で入れます。ここでプラスが残るなら、次の段階(より精密な検証)に進む価値があります。
現金の置き場:セルインメイの「待機期間」を無駄にしない
完全撤退型や比率調整型では、現金比率が増える期間ができます。ここを完全に寝かせると機会損失になりますが、リスクを取りすぎても本末転倒です。初心者が現実的に選びやすい置き場は次の3つです。
(1)短期国債・MMF等:価格変動を抑えつつ利回りを確保しやすい。
(2)短期債ETF:流動性が高く、売買しやすい。
(3)段階的に再投入する現金:10月末〜11月初に一括で戻すのが怖いなら、数回に分けて戻す(ただしルールは固定する)。
最後の注意:アノマリーは「市場に知られた瞬間から劣化する」
セルインメイは有名すぎるため、将来も同じ形で効く保証はありません。だからこそ、あなたがやるべきことは「信じる」ではなく、定期的に検証し直し、必要ならルールを更新することです。例えば、過去20年で優位性があったとしても、直近5年で崩れているなら、運用比率を落とす、フィルターを強める、あるいは撤退する判断も合理的です。
投資は、ルールを作って終わりではありません。検証→運用→振り返り→改善、このループを回した人から勝ち残ります。


コメント