- 自社株買いは「株価対策」ではなく需給イベントとして見る
- 狙うべきは発表直後の急騰ではなく「高値更新後の継続」
- 自社株買いの良し悪しは規模でかなり決まる
- 高値更新と組み合わせると勝負しやすい理由
- 買ってよい自社株買いと見送る自社株買い
- 実践スクリーニングの手順
- エントリーは三つの型に分ける
- 損切りラインは「材料否定」の位置に置く
- 利確は一度で終わらせない
- 具体例で見る売買シナリオ
- 小型株では流動性リスクを必ず見る
- 決算内容と同時に出た自社株買いは評価が分かれる
- 月次の取得状況でトレンド継続を確認する
- ありがちな失敗パターン
- 自社株買い順張りのチェックリスト
- 実務的な監視リストの作り方
- 地合いとの組み合わせで成功率は大きく変わる
- この戦略に向いている投資家
- まとめ
自社株買いは「株価対策」ではなく需給イベントとして見る
自社株買いと聞くと、多くの個人投資家は「会社が自分の株を買うのだから株価は上がる」と単純に考えがちです。確かに、自社株買いは株価にプラス材料として受け止められることが多いです。しかし、発表された銘柄を何でも買えばよいわけではありません。むしろ、発表翌日に高く寄り付いたところを慌てて買い、数日後に失速して損切りになるケースも珍しくありません。
重要なのは、自社株買いを「企業価値が急に上がるイベント」としてではなく、「市場に出回る株数と投資家心理が変化する需給イベント」として見ることです。企業が市場から自社株を買い入れると、理論上は発行済み株式数が減り、一株当たり利益や一株当たり純資産が改善しやすくなります。また、会社が自社の株価を割安と判断しているというメッセージにもなります。これにより、短期筋、個人投資家、中長期投資家の買いが同時に入りやすくなります。
ただし、株価が本格的に伸びるかどうかは、自社株買いの「規模」「期間」「実行可能性」「既存の株価位置」「業績トレンド」によって大きく変わります。発表だけで急騰して終わる銘柄もあれば、発表後に高値を更新し、その後も数週間から数カ月かけて上昇トレンドを作る銘柄もあります。本記事では、後者を狙うための実践的な見方を整理します。
狙うべきは発表直後の急騰ではなく「高値更新後の継続」
自社株買い銘柄で失敗しやすい典型パターンは、発表翌日の寄り付きで飛びつくことです。発表内容が派手なほど、寄り付き前の気配値は高くなります。市場参加者が一斉に買いたがるため、始値が前日終値より大きく上に飛びます。しかし、その時点で短期的な期待はかなり織り込まれています。寄り付き後に出来高を伴って上値を追えればよいですが、寄り天になると買い手不在になりやすいです。
実践上は、発表翌日にすぐ買うよりも、いったん値動きを観察し、「高値更新後も売りに押されないか」を確認した方が有利です。ここでいう高値更新とは、単に前日比で上がったという意味ではありません。直近数週間から数カ月の戻り高値、または年初来高値を明確に上抜くことを指します。自社株買いという材料に対して市場が本気で評価しているなら、過去に売りが出ていた価格帯を突破してくる可能性が高まります。
たとえば、ある銘柄が1,000円から1,200円のレンジで半年間推移していたとします。会社が発行済み株式数の3%、取得上限30億円の自社株買いを発表し、翌日に1,230円まで上昇したとします。この時点で大切なのは「上がったから買う」ではなく、「1,200円台前半で売り物を吸収できるか」です。数日間1,200円を割らず、出来高を維持したまま1,250円、1,280円と切り上げるなら、需給が変わった可能性があります。ここが順張りで検討する局面です。
自社株買いの良し悪しは規模でかなり決まる
自社株買い発表を見るとき、最初に確認すべき数字は「取得上限株数の発行済み株式総数に対する割合」です。金額だけを見ても意味は薄いです。大型企業の100億円と小型企業の100億円ではインパクトがまったく違います。個人投資家が最初に見るべき目安は、発行済み株式数に対して何%の買い入れ余地があるかです。
一般的に、1%未満の自社株買いは株価へのインパクトが限定的になりがちです。もちろん時価総額が大きく流動性が高い企業なら一定の評価はされますが、短中期の需給変化としては弱いことが多いです。2%から3%程度になると、市場はある程度反応しやすくなります。5%を超えると、需給改善としてはかなり強い材料と見られやすくなります。ただし、これは絶対基準ではありません。浮動株比率が低い企業では、発行済み株式数に対する割合が小さくても市場に出回る株数に対する影響は大きくなります。
次に見るべきは、取得期間です。同じ3%の自社株買いでも、取得期間が3カ月なのか1年なのかで需給インパクトは変わります。短期間でまとまった買いが入る可能性がある場合、株価を下支えする力は強くなります。一方、取得期間が長く、実際の買付ペースが見えにくい場合は、発表直後だけ反応して、その後は材料が薄れることもあります。
さらに、取得方法も確認します。市場買付なのか、立会外取引なのか、公開買付に近い形なのかで意味が違います。順張りで狙いやすいのは、市場買付によって日々の需給改善が期待できるケースです。市場から継続的に買いが入る可能性があるため、下落局面で売り物を吸収しやすくなります。
高値更新と組み合わせると勝負しやすい理由
自社株買いだけを材料に買うと、発表後の期待剥落に巻き込まれます。一方、高値更新と組み合わせると、単なる材料株ではなく、需給と価格の両方がそろった銘柄に絞り込めます。株価の高値更新は、市場参加者の評価が過去の上限を超えたことを意味します。過去にその価格帯で売りたかった投資家の売りを吸収し、それでも買いが勝っている状態です。
自社株買い後の高値更新には、三つの意味があります。第一に、会社側の買い余地が存在するなかで市場の買いも入っていることです。第二に、材料出尽くしではなく、追加の投資家が評価を上げていることです。第三に、過去の含み損投資家や戻り売りを突破しているため、上値が軽くなりやすいことです。
ただし、高値更新にも質があります。出来高が伴わない高値更新は信用できません。薄商いのなかで数ティック上抜いただけでは、買いの継続性がありません。見るべきは、直近20日平均出来高の2倍以上の売買があり、終値で高値を更新しているかどうかです。ザラ場中だけ高値をつけて終値で押し戻される銘柄は、上値で売りが厚い可能性があります。
理想的なのは、発表翌日に急騰した後、数日間で出来高が急減せず、株価が5日移動平均線や直近ブレイクラインを維持しながら推移する形です。これは、短期の利食い売りを吸収しながら新しい買い手が入っている状態です。順張り投資では、この「押しても崩れない」局面を狙う方が、発表直後に飛びつくよりも実務的です。
買ってよい自社株買いと見送る自社株買い
自社株買い銘柄を選別する際は、まず「本気度」を見ます。本気度の高い自社株買いとは、取得割合が大きく、取得期間が短めで、会社のキャッシュフローに無理がなく、過去にも実際に買い切った実績があるケースです。逆に、毎年のように小規模な自社株買いを発表しているだけで、株価トレンドに変化がない企業は、材料としての鮮度が低いことがあります。
買ってよい候補になりやすいのは、業績が横ばい以上で、財務に余力があり、株価が長期低迷から上向き始めている企業です。たとえば、営業利益が緩やかに増えており、自己資本比率が十分で、手元現金も厚い企業が、株価低迷局面で自社株買いを発表した場合、市場は「資本効率改善に本腰を入れた」と判断しやすくなります。
見送った方がよいのは、業績悪化を隠すように自社株買いを発表しているケースです。売上が減少し、営業利益率も低下し、将来の投資資金も必要な企業が大きな自社株買いを出した場合、短期的には株価が反応しても、持続力は弱いです。自社株買いは利益成長の代替にはなりません。利益の伸びがない企業の自社株買いは、一株当たり指標を一時的に改善させても、事業価値そのものを強くするわけではありません。
また、負債が重い企業の自社株買いにも注意が必要です。金利上昇局面では、借入負担が将来の利益を圧迫します。財務余力がない企業が株主還元を強化すると、短期的には好感されても、中長期では成長投資の余地を削る可能性があります。順張りで狙うなら、自己資本、営業キャッシュフロー、投資余力を確認したうえで、無理のない還元かどうかを判断すべきです。
実践スクリーニングの手順
実際に銘柄を探すときは、感覚ではなく手順化した方が再現性が高くなります。まず、自社株買い発表銘柄を一覧化します。見る項目は、発表日、取得上限株数、取得上限金額、発行済み株式数に対する割合、取得期間、取得方法、直近決算の営業利益増減、自己資本比率、営業キャッシュフロー、直近高値です。
次に、発行済み株式数に対する取得割合で一次選別します。目安としては2%以上を優先し、5%以上は重点監視に入れます。1%未満でも、浮動株が少ない銘柄、出来高が少ない小型株、低PBR改善の文脈がある銘柄は例外として残してもよいです。ただし、何でも残すと監視リストが膨らみすぎるため、最初はシンプルに絞るべきです。
次に、株価位置を確認します。発表前からすでに長期上昇しすぎている銘柄は、材料出尽くしになる可能性があります。一方、安値圏からじわじわ戻していた銘柄が、発表をきっかけに戻り高値を突破する形は狙いやすいです。特に、半年以上のレンジ上限を終値で抜いた銘柄は、需給転換の候補になります。
最後に、発表後5営業日の値動きを見ます。ここが重要です。上昇初日に大陽線をつけても、その後すぐに大陰線で戻るなら見送りです。発表後の高値圏で横ばいを作り、5日移動平均線を割らず、出来高も平常時より高い水準を維持している銘柄を優先します。順張りでは、初動の強さだけでなく、初動後の粘りが大事です。
エントリーは三つの型に分ける
自社株買い後の高値更新銘柄に入る方法は、大きく三つあります。一つ目は、終値ブレイク型です。直近高値を終値で明確に更新した日に、翌営業日の寄り付きまたは押し目で入る方法です。この型はスピードがありますが、だましもあります。買値が高くなりやすいため、損切りラインを近くに置ける銘柄だけに使います。
二つ目は、ブレイク後の押し目型です。高値更新後に数日待ち、ブレイクライン付近まで押したところで入ります。たとえば1,200円のレンジ上限を突破して1,280円まで上がった後、1,220円から1,240円付近まで押して反発する局面です。この型は買値を抑えやすい一方、強い銘柄は押さずに上がってしまうことがあります。見逃しを許容できる投資家向きです。
三つ目は、分割エントリー型です。高値更新時に予定資金の半分だけ入り、ブレイクラインを維持して押し目を作ったら残りを入れます。最も実務的なのはこの型です。強い銘柄を完全に逃さず、同時に高値掴みのリスクも抑えられます。たとえば投資予定額を30万円とするなら、ブレイク確認で15万円、押し目反発で15万円という形です。
初心者が避けるべきなのは、発表翌日の寄り付きで全額を入れることです。これは投資というよりイベント反応への賭けに近くなります。順張りは高く買う手法ですが、無計画に高値を買う手法ではありません。買う理由、追加する条件、撤退する条件を事前に決めておく必要があります。
損切りラインは「材料否定」の位置に置く
自社株買い後の順張りで最も大事なのは、損切りラインを明確にすることです。材料株は上がるときは速いですが、崩れるときも速いです。自社株買いという好材料が出たにもかかわらず株価が重要ラインを割るなら、その時点で市場の評価は弱いと判断すべきです。
損切りラインの基本は、ブレイクした価格帯の少し下です。たとえば1,200円のレンジ上限を突破して買ったなら、1,180円から1,190円を明確に割り込んだところを撤退ラインにします。終値で割ったら切るのか、ザラ場で割ったら切るのかは投資スタイルによりますが、初心者は終値基準の方がノイズに振らされにくいです。ただし、急落時に出来高を伴って割り込む場合は、終値を待たずに判断する柔軟性も必要です。
もう一つの損切り基準は、発表翌日の安値です。自社株買い発表後に大きく上がったにもかかわらず、その日の安値を後日割り込む場合、初動の買いがほぼ否定されたと考えられます。特に、発表翌日の安値を割ったうえで出来高が増えている場合は、短期資金が逃げている可能性があります。
損切り幅は資金管理と連動させます。たとえば1回の損失を投資資金全体の1%以内に抑えたいなら、100万円の口座では1万円が最大損失です。買値1,250円、損切り1,190円なら1株あたり損失は60円です。この場合、買える株数は約166株までです。実際の単元株に合わせるなら100株が現実的です。こう考えると、銘柄の良し悪しだけでなく、損切り幅に対してポジションサイズを決める重要性が分かります。
利確は一度で終わらせない
自社株買い後の高値更新銘柄は、短期で大きく伸びることがあります。しかし、早く利確しすぎると、最もおいしい上昇部分を逃します。逆に、利確をまったく考えないと、急騰後の反落で利益を失います。実務的には、分割利確が有効です。
一つの目安は、リスクに対して2倍の利益が出たところで一部利確する方法です。買値1,250円、損切り1,190円ならリスクは60円です。2倍の利益は120円なので、1,370円付近で半分を利確します。その後、残りは5日移動平均線や25日移動平均線を基準に伸ばします。これにより、短期利益を確保しながら、トレンド継続の恩恵も狙えます。
もう一つの方法は、自社株買いの進捗発表を確認しながら保有する方法です。企業は月次で自己株式の取得状況を開示することがあります。取得上限に対してまだ余力があり、株価も高値圏を維持しているなら、需給支援が続く可能性があります。一方、すでに取得が大きく進んでいるのに株価が伸びない場合は、買い支えがなくなった後の反落に注意が必要です。
利確で避けたいのは、含み益が出た瞬間に全株売ってしまうことです。順張り戦略の収益源は、少数の大きな勝ちです。小さな利益だけで満足すると、損切りをカバーできなくなります。勝てる銘柄は一部を残して伸ばす。この考え方が重要です。
具体例で見る売買シナリオ
架空の銘柄A社を使って、実践シナリオを考えます。A社は時価総額300億円の中堅企業で、営業利益は3期連続で増加しています。株価は過去半年間、900円から1,050円のレンジで推移していました。ある日、会社が発行済み株式数の4%、取得上限12億円、取得期間4カ月の自社株買いを発表しました。
発表翌日、株価は1,080円で寄り付き、1,120円まで上昇し、終値は1,105円でした。出来高は20日平均の3倍です。この時点では、まだ全額は買いません。翌日以降、株価が1,070円を割らず、1,100円前後で横ばいを維持するかを見ます。3営業日後、株価は1,130円で終値ベースの高値を更新し、出来高も平均の2倍を維持していました。ここで予定資金の半分を入れます。
損切りラインは、レンジ上限だった1,050円の少し下、または発表翌日安値の1,060円割れに設定します。買値1,130円に対して損切り1,055円ならリスクは75円です。100株なら7,500円のリスクです。許容損失に収まるならエントリー可能です。
その後、株価が1,220円まで上昇し、いったん1,150円まで押したとします。ここで1,100円台を維持し、陽線で反発するなら残り半分を追加します。平均取得単価はおおよそ1,140円から1,150円になります。次の利確目安は、リスク幅の2倍程度である1,280円前後です。そこで半分を利確し、残りは25日移動平均線割れまで保有します。
このシナリオのポイントは、発表翌日に飛びつかず、強さを確認してから段階的に入っていることです。自社株買い発表、高値更新、出来高継続、押し目維持という複数条件を重ねることで、単なる材料買いよりも精度を上げています。
小型株では流動性リスクを必ず見る
自社株買いは小型株ほどインパクトが大きくなりやすいです。浮動株が少ない銘柄で会社が市場買付を行うと、需給が一気に締まることがあります。短期間で株価が大きく上がるのもこのタイプです。しかし、小型株には流動性リスクがあります。買いたいときに買えないだけでなく、売りたいときに売れないことがあります。
最低限、平均売買代金を確認すべきです。たとえば1日の売買代金が5,000万円未満の銘柄に大きな資金を入れると、自分の注文だけで価格が動きます。急落時には板が薄くなり、想定した損切り価格で売れないこともあります。個人投資家が小型株を扱うなら、投資額を売買代金に対して小さく保つことが重要です。
目安として、1銘柄への投資額は平均売買代金の1%未満に抑えると扱いやすいです。平均売買代金が3,000万円なら、1回の投資額は30万円以下にするイメージです。もちろんこれは絶対ルールではありませんが、流動性の低い銘柄で大きく張るほど、出口で苦しくなります。
また、小型株ではスプレッドにも注意が必要です。買い気配と売り気配の差が大きい銘柄は、成行注文を使うと不利な価格で約定します。基本は指値です。特に自社株買い発表後は板が荒れやすいため、寄り付き直後の成行買いは避けた方が無難です。
決算内容と同時に出た自社株買いは評価が分かれる
自社株買いは決算発表と同時に出ることが多いです。この場合、株価が上がった理由が自社株買いなのか、決算内容なのか、見極める必要があります。好決算と大きな自社株買いが同時に出た銘柄は強い反応になりやすいですが、逆に決算が悪く、自社株買いで失望を和らげているだけのケースもあります。
見るべき順番は、まず本業の利益です。売上が伸びているか、営業利益率が改善しているか、会社予想に対して進捗が順調かを確認します。次に、今期見通しです。過去の実績が良くても、今期が減益予想なら株価の上値は重くなりやすいです。そのうえで自社株買いの規模を見ます。
最も強いのは、好決算、増益見通し、資本効率改善、自社株買いが同時にそろうケースです。この場合、短期資金だけでなく中長期資金も入りやすくなります。逆に、本業が悪化している銘柄は、どれだけ自社株買いの規模が大きくても、長く保有するには慎重になるべきです。
順張り投資では、材料の派手さよりも「上がった後に買いが続く理由」が必要です。業績が良い銘柄は、その理由を持っています。自社株買いだけの銘柄は、買い支えが終わった瞬間に評価が剥がれやすいです。
月次の取得状況でトレンド継続を確認する
自社株買い発表後は、発表内容だけで終わらず、実際にどれだけ買っているかを追跡します。企業は自己株式の取得状況を定期的に開示することがあります。ここで取得株数と取得金額を確認すれば、会社がどの程度本気で買っているかが分かります。
たとえば取得上限50万株に対して、最初の1カ月で30万株を取得していた場合、買付ペースはかなり速いです。短期的な下支え効果は強い一方、残り余力が少なくなっている点には注意が必要です。逆に、上限50万株に対して1カ月で5万株しか取得していない場合、まだ余力はありますが、会社が積極的に買っていない可能性もあります。
株価との組み合わせで判断します。株価が上昇しながら取得も進んでいるなら、会社の買いと市場の買いが一致しています。株価が横ばいで取得だけが進んでいるなら、会社の買いが売りを吸収しているだけかもしれません。株価が下落しているのに取得が進んでいないなら、発表効果は弱いと見ます。
取得完了の発表にも注意が必要です。自社株買いが完了すると、それまで期待されていた買い支えがなくなります。強い銘柄は完了後も上がりますが、弱い銘柄は完了発表をきっかけに反落することがあります。保有中は、取得完了が近づいていないか確認しておくべきです。
ありがちな失敗パターン
最も多い失敗は、発表内容の見出しだけを見て買うことです。「自社株買い実施」と表示されると好材料に見えますが、取得割合が0.5%程度なら需給インパクトは限定的です。さらに取得期間が長ければ、短期の上昇材料としては弱くなります。見出しではなく、必ず数字を見ます。
次に多いのは、上昇初日の出来高だけで判断することです。材料発表直後は出来高が増えて当然です。重要なのは、その出来高が数日後も続くかどうかです。初日だけ大商いで、その後出来高が急減して株価が下がる場合、短期資金が抜けた可能性があります。
三つ目は、業績悪化銘柄を還元だけで買うことです。自社株買いは株主還元としては魅力的ですが、事業が弱ければ長期的な株価上昇は続きにくいです。特に、売上減少、利益率低下、営業キャッシュフロー悪化が同時に起きている企業は注意が必要です。
四つ目は、損切りを置かないことです。自社株買い銘柄は「会社が買うから下がらない」と思い込みやすいですが、実際には地合い悪化や決算失望で普通に下がります。会社の買付には上限があります。市場全体の売り圧力が強ければ、下支えしきれないこともあります。
自社株買い順張りのチェックリスト
実践では、以下の項目を確認してから判断します。取得割合は2%以上あるか。取得期間は長すぎないか。市場買付か。業績は少なくとも横ばい以上か。営業キャッシュフローは黒字か。自己資本に余裕はあるか。発表後に直近高値を終値で更新したか。出来高は20日平均の2倍以上あるか。発表後5営業日でブレイクラインを維持しているか。損切りラインを明確に置けるか。平均売買代金に対して投資額が大きすぎないか。
このチェックを通すだけで、かなりの銘柄を除外できます。投資で大事なのは、買う銘柄を増やすことではなく、買わなくてよい銘柄を消すことです。自社株買いは魅力的な材料ですが、すべての自社株買いが投資対象になるわけではありません。
特に初心者は、発表翌日の値上がり率ランキングから選ぶのではなく、発表後数日たっても崩れていない銘柄を選ぶ方がよいです。短期の熱狂が落ち着いた後に残っている強さこそ、順張りで狙う価値があります。
実務的な監視リストの作り方
自社株買い後の高値更新銘柄を継続的に追うには、監視リストを作る必要があります。項目は複雑にしすぎない方が続きます。銘柄名、コード、発表日、取得割合、取得金額、取得期間、発表翌日高値、ブレイクライン、損切り候補、直近出来高、平均売買代金、決算評価、取得進捗の欄を作ります。
毎日見る必要があるのは、株価がブレイクラインを維持しているか、出来高が残っているか、取得状況の開示が出ていないかの三点です。決算期には、次の決算発表日も確認します。自社株買いで上がっている銘柄でも、次の決算が弱ければ一気に崩れることがあります。
監視リストでは、銘柄を三段階に分けると判断しやすくなります。第一段階は「発表確認のみ」です。まだ株価が高値更新していない銘柄です。第二段階は「ブレイク監視」です。直近高値に近づいている銘柄です。第三段階は「エントリー候補」です。終値で高値更新し、出来高も維持している銘柄です。このように分けると、感情で飛びつく回数が減ります。
地合いとの組み合わせで成功率は大きく変わる
個別材料が強くても、相場全体が崩れている局面では勝ちにくくなります。自社株買い後の高値更新銘柄も例外ではありません。日経平均やTOPIXが25日移動平均線を下回り、下落トレンドに入っている局面では、高値更新銘柄でも上値が続きにくいです。
反対に、指数が上昇基調で、グロース株やバリュー株の物色が広がっている局面では、自社株買い銘柄の順張りは機能しやすくなります。特に、東証改革や資本効率改善が市場テーマになっている局面では、自己株取得、増配、PBR改善の材料が評価されやすいです。
個別銘柄だけを見るのではなく、同業他社の株価も確認します。自社株買いを発表した企業だけが上がっているのか、セクター全体が強いのかで意味が変わります。セクター全体が強いなかで自社株買い銘柄が高値更新しているなら、追い風が二重にあります。逆に、セクター全体が弱いなかで一社だけ材料で上がっている場合は、短期で失速する可能性もあります。
この戦略に向いている投資家
自社株買い後の高値更新に乗る戦略は、完全な長期放置型ではありません。発表内容、株価位置、出来高、取得進捗を確認する必要があります。そのため、週に数回は銘柄を確認できる投資家に向いています。毎日ザラ場を見続ける必要はありませんが、終値ベースで状態を確認する習慣は必要です。
また、損切りを機械的に実行できる人に向いています。順張りは勝率だけでなく、損小利大で成り立ちます。買った後にブレイクラインを割ったのに「自社株買いがあるから大丈夫」と考えて放置すると、戦略の前提が崩れます。
一方、短期の値動きに耐えられない人、損切りが苦手な人、材料の中身を確認せず雰囲気で買ってしまう人には向きません。自社株買い銘柄は注目度が高いため、値動きが荒くなりやすいです。上昇時の魅力だけでなく、下落時の速さも理解しておく必要があります。
まとめ
自社株買い発表後に高値更新した銘柄は、順張り投資の対象として非常に魅力があります。ただし、発表そのものを買うのではなく、発表後に市場がどう評価したかを確認することが重要です。取得割合、取得期間、財務余力、業績トレンド、出来高、高値更新、ブレイクライン維持。この複数条件がそろったときに、初めて検討する価値が出ます。
実践では、発表翌日に飛びつかず、終値での高値更新と出来高継続を確認します。エントリーは分割し、損切りはブレイクラインの下に置きます。利確も一度で終わらせず、一部を確保しながら残りを伸ばします。自社株買いは強力な材料ですが、万能ではありません。だからこそ、数字とチャートを組み合わせて、再現性のある判断に落とし込む必要があります。
この戦略の本質は、会社の買いと市場の買いが同じ方向を向いた銘柄に乗ることです。自社株買いは会社側の意思表示です。高値更新は市場側の評価です。この二つが重なったとき、株価は単なる短期反発ではなく、新しい上昇トレンドに入る可能性があります。投資家が狙うべきなのは、その初動のなかでも、数字で裏付けられた強い動きです。


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