VIXの「平均回帰」を武器にする発想
VIX(CBOE Volatility Index)は、S&P500のオプション価格から推計される「今後30日間の予想変動率」です。ニュースで「恐怖指数」と呼ばれるのは、株式市場が急落すると投資家が保険(プット)を買い、オプションの価格(=インプライド・ボラティリティ)が跳ね上がりやすいからです。
ここで重要なのが、VIXは株価そのものよりも“平均回帰しやすい”という性格です。株価はトレンドが続くことがありますが、恐怖(保険料)の水準は行き過ぎると解消されやすく、時間とともに落ち着きます。ボトムフィッシング(パニック底の拾い)で狙うのは、株価の底をピタリと当てることではなく、恐怖が極端に高い局面で「恐怖が下がる」ことに賭ける、という考え方です。
まず押さえるべき:VIXの読み方は「水準」だけでは足りない
初心者がやりがちなのは「VIXが高い=買い」と単純化することです。しかし実際の相場では、同じVIX30でも状況が違います。最低限、次の3つをセットで見ます。
1)VIX水準:過去分布(パーセンタイル)で考える
「VIXが20を超えたら危険」「30なら恐怖」などの固定値は便利ですが、相場の“体質”が変わると機能しません。そこでおすすめは、過去1年・3年・5年の分布の中で今が何パーセンタイルかを確認する方法です。
例:過去3年でVIXが「上位10%(90パーセンタイル以上)」に入っているなら、恐怖が統計的にかなり高い。ここからさらに「上位5%」「上位1%」へ突っ込む局面は、投げ売り(マージンコール、リスクパリティの縮小、CTAの損切り)などが重なる可能性があります。
2)先物カーブ:コンタンゴかバックワーデーションか
VIXには先物があり、期限ごとの価格が並ぶ形(カーブ)を見ます。平常時は先の期限ほど高いコンタンゴになりがちです。恐怖が極端になると、直近が跳ねてバックワーデーション(手前が高い)になりやすい。これは「今すぐ保険が欲しい」需要の表れで、パニックの温度計になります。
ボトム狙いで重要なのは、バックワーデーションがピークアウトし始めた瞬間です。VIX水準が高いままでも、カーブがフラット化し、やがてコンタンゴへ戻る過程では「恐怖の価格」が剥落しやすい。
3)ボラのボラ:VVIXやオプション市場の歪み
VIX自身にもオプションがあり、そのボラティリティを示す指標としてVVIXが使われます(一般に「VIXのボラ」)。VVIXが急騰している局面は、保険の保険まで買われている状態で、投資家心理が極端に振れています。ここがピークを付けて下がり始めると、恐怖が剥がれやすい。
ボトムフィッシングの狙い方:3つの「入口」
パニック局面で一発で底を当てにいくと、ほぼ負けます。理由は簡単で、底は「出来てから」しか分からないからです。だから入口は複数用意し、段階的に踏むのが現実的です。
入口A:VIX急騰+株価の“投げ”が同時に出た日(イベント型)
典型例は、急落日(指数が-3%〜-5%級)にVIXが急伸し、出来高が膨らむ局面です。ここでは「ニュースの悪さ」よりも、「誰が強制的に売っているか」を想像します。マージンコール、リスク管理ルール、損失許容の限界など、機械的な売りが出ると、短期の需給は底を打ちやすい。
実務的には、S&P500やNASDAQ100の先物・ETF(例:SPY/QQQ)での反発を狙うか、後述するように「ボラが下がる」商品で収益化します。
入口B:VIX高止まりのまま“下げが鈍る”局面(プロセス型)
パニックの後半は、株価がジリ下げでもVIXが高止まりし、下げの勢いが弱くなることがあります。ここでは恐怖は残っているが、売り手が減ってきた状態。恐怖の解消(VIX低下)が起きると、株価が大きく戻さなくても利益が出る取り方が成立します。
入口C:バックワーデーションの縮小=“恐怖の供給過多”サイン(構造型)
バックワーデーションが解消していく過程は、保険の買いが一巡し、売り手(オプション売り)が戻ってきたサインになりやすい。ここは、株価の安値よりも先に現れることもあります。つまり「株価底当て」ではなく「恐怖の天井当て」に寄せられるのが、VIX平均回帰の強みです。
実行手段:何を売買するのが現実的か
ここは極めて重要です。VIXは指数であって、それ自体は直接買えません。投資家が触れるのは、主に以下です。初心者ほど、商品の仕組みがリターンを決めることを忘れないでください。
1)株式ETF(SPY/QQQなど)を“恐怖の底”で拾う
最もシンプルで事故りにくいのは、VIXを「タイミング指標」として使い、売買対象は株式指数ETFにすることです。VIX商品は構造が難しく、減価(ロールコスト)もあるため、初心者が“長期で持つ”には不向きです。
具体例:VIXが過去3年で上位5%に入り、先物カーブがバックワーデーション。そこでSPYを一括ではなく3回に分けて買う。たとえば「初回25%」「さらに急落したら25%」「恐怖がピークアウト(VIX下落+反発)で残り50%」のように、平均取得を設計します。
2)ボラティリティETF/ETN:短期トレード専用と割り切る
VIX先物に連動する商品(短期・中期など)は、先物のロールが絡みます。コンタンゴの平常時は、期限を乗り換えるたびに不利になり、価格がじわじわ下がりやすい(いわゆる減価)です。逆に、パニックでバックワーデーションになると短期的に効きやすい。
ポイントは「買う」より「売る(恐怖が下がる方向)」を狙いたくなりますが、短期ボラ商品には急騰リスクがあり、逆張りショートは一撃死し得ます。初心者は、“ボラ商品で儲けよう”より“株の押し目のタイミングを測る”用途に留めるのが無難です。
3)オプション:小さく始めるなら“保険の買い方”から
平均回帰を狙う王道は、パニック後にIVが下がることを見越して、オプションの売りを絡めることです。ただし、裸売りは危険です。初心者なら、まずは「損失が限定された形」から入ります。
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コールスプレッド:反発を狙い、買いコール+売りコールでコストを抑える。
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プットスプレッド:保険を買う場合でも、買いプット+売りプットで保険料を削る。
重要なのは、VIXが高い局面はオプション保険料が高いという事実です。つまり「買う側」は不利になりがち。だからこそ、スプレッドでコストを抑え、勝率よりも損失の上限を管理します。
オリジナルの「VIX平均回帰」運用フレーム:3段階チェック
ここからは、私が“同じ失敗を繰り返さないため”に作ったチェックリストを、初心者向けに噛み砕いて提示します。狙いは、(1)入り口を絞る、(2)入った後の動きを決める、(3)撤退ルールを先に置くの3点です。
ステップ1:相場が「恐怖モード」かを判定する
以下のうち、2つ以上が当てはまれば「恐怖モード」とみなします。
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VIXが過去3年で上位10%(90パーセンタイル以上)。
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VIX先物がバックワーデーション、または急速にフラット化。
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主要指数が短期間で大きく下落し、出来高が膨らんでいる(投げの気配)。
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クレジットスプレッド拡大、株安とドル高が同時に進むなど、リスクオフの連鎖が見える。
ステップ2:「恐怖のピークアウト」を待つ(待てないなら分割)
恐怖が極端な日は、さらに悪材料が出てもう一段走ることがよくあります。したがって、次のどちらかにします。
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待つ派:VIXが高いままでも、日足で陰線→十字→陽線のように“下げ止まりの形”が出るまで待つ。
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分割派:初回は小さく入れ、想定と逆に動いたら追加で平均化する(ナンピンではなく計画的な分割)。
分割派の例:総資金を100とすると、初回10、次に15、最後に25、と段階を上げます。いきなり50入れない。理由は「底が分からない」からです。
ステップ3:利確は“株価”より“ボラの沈静化”で決める
VIX平均回帰戦略の利確は、株価が戻ったかどうかより、恐怖が剥がれたかどうかで判断した方がブレません。具体的には、
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VIXがピークから一定割合(例:20〜30%)低下した
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先物カーブがコンタンゴに戻った
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VVIXが沈静化した
など、恐怖の価格の剥落をトリガーにします。株価は戻りが遅いこともありますが、恐怖が剥がれるのは意外と速い。ここを取りにいくのがこの戦略の本質です。
具体例で理解する:典型的な2つのシナリオ
シナリオ1:パニック急落 → 翌日に自律反発(最も分かりやすい)
仮に、ある日S&P500が-4%下落し、VIXが25→40へ急騰。翌日に-1%まで戻す自律反発が出たとします。このとき、狙いは「底を当てた」ではなく、強制売りが一巡した可能性を拾うことです。
やることはシンプルです。反発日が出た時点で、SPYを小さく買う(例:資金の10〜20%)。さらに、VIXが40→32のように低下し始め、先物カーブがフラット化するなら追加。VIXが落ち着いたら利確・縮小。ここで重要なのは、反発が弱くても恐怖が落ちればリターンが出やすい点です。
シナリオ2:下げ止まらないが、VIXが先にピークアウト(上級者が好む)
株価がじり安を続ける一方、VIXが高止まりから下向きに転じることがあります。これは「売りの勢いが鈍った」「保険需要が一巡した」可能性を示します。ここで株を拾うと、株価の底は外すことがあっても、平均取得が効いてくることが多い。
ただし、この局面はニュースがまだ悪く、心理的に買いにくい。だからこそ、事前に決めた分割ルールが効きます。感情で止まると、最も美味しい区間を逃します。
落とし穴:VIX戦略で初心者がやられやすい3つの罠
罠1:ボラティリティ商品を長期で持ってしまう
VIX先物連動の商品は、構造的に減価しやすいものがあります。平常時のコンタンゴで、先物の乗り換えコストが積み上がるからです。短期の急騰を取るならともかく、「いつかまた上がるだろう」で持つと、相場が横ばいでも資産が減ることがあります。
罠2:恐怖が高い=必ず反発、と思い込む
恐怖が高い局面は、さらに高くなることがあります。平均回帰は確かに起こりやすいですが、タイミングはランダムです。だから、一括で入らない、損失の上限を決めるが最優先です。
罠3:撤退が遅く、戻りを全部吐き出す
パニック後の反発は速い一方で、2番底や再下落も速い。ボラが沈静化したら、いったん利益を確定し、次のチャンスに備える方が再現性が高い。欲張って“全部取り”を狙うと、結局ゼロに戻ります。
リスク管理:ボトム狙いで勝率を上げる「守りの設計」
この戦略は、攻めより守りが大事です。守りの設計ができると、攻めが自然に大きくなります。
1)ポジションサイズは「ボラに反比例」させる
恐怖が高い=値動きが荒い局面です。だから、同じ金額を張るのではなく、VIXが高いほどポジションを小さくします。例えば平常時に100張るなら、VIXが2倍なら50、3倍なら33、という発想です。これだけで、致命傷を減らせます。
2)時間分散:一日で結論を出さない
底は複数日にまたがって形成されがちです。したがって「今日が底か」を当てるより、「数日かけて恐怖が剥がれる」過程を取りにいく方が現実的です。分割のルールを紙に書き、感情の介入を減らします。
3)“負け方”を決める:撤退ラインの具体化
撤退ラインは価格だけでなく、状況で決める方が機能します。例えば「バックワーデーションがさらに拡大した」「クレジットが急悪化した」「指数が想定以上の下げを連発した」など、リスクオフの連鎖が強まるなら一旦撤退。反対に、株価が弱くても恐怖が落ちるなら粘る価値があります。
まとめ:VIX平均回帰は「底当て」ではなく「恐怖の値段」を取る戦略
VIX平均回帰を使うと、相場の底を当てるゲームから降りられます。狙いは、パニックで高くなりすぎた保険料が、平常へ戻る過程です。水準だけでなく、先物カーブ、VVIX、需給(投げの気配)を合わせて判断し、分割エントリーと明確な撤退ルールで“再現性”を作ってください。
最後に強調します。パニックは必ず終わりますが、いつ終わるかは分かりません。だからこそ、平均回帰という統計的な性質を使い、計画的に拾い、恐怖が剥がれたら機械的に降りる。これが、初心者でも事故を減らしながら相場に参加するための、現実的なボトムフィッシングです。
毎日10分で回せる観測ルーティン(初心者向け)
戦略は「見続ける仕組み」がないと再現しません。おすすめは、毎日たった10分で同じ順番で確認することです。順番を固定すると、相場のノイズに振り回されにくくなります。
チェック①:VIX水準と“変化率”
水準そのものに加えて、前日比の変化率を見ます。パニックは「水準の高さ」よりも「上がり方の速さ」で発生します。例えばVIXが30でも、数日かけて上がった30と、1日で+40%になった30は意味が違います。後者は強制的なヘッジ需要が集中している可能性が高い。
チェック②:先物カーブ(1か月目と2か月目の差)
厳密なカーブ分析が難しければ、まずは「直近限月」と「次限月」の差だけで十分です。直近が次限月より明確に高いならバックワーデーションで、恐怖が“今すぐ”に集中しています。差が縮小し始めたら、恐怖が一巡したサインになりやすい。
チェック③:株式側の“傷み”の深さ(ブレッド)
指数が同じでも、中身が違います。下落局面では「指数は-2%だが、構成銘柄の7割が下落」のように広範囲に売られていることがあります。幅広い投げは底が近いことも多い一方、特定セクターだけが壊れている場合は底が遠いこともあります。初心者は、指数だけでなく“中身の広がり”を意識してください。
「平均回帰」を裏切る局面:ここだけは警戒しておく
平均回帰は強力ですが、例外もあります。特に以下のような局面では、恐怖が長引きやすく、VIXが高止まりしやすい。
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金融システム不安:信用収縮がテーマになると、ボラが高い期間が伸びます。
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政策イベントの連続:重要会合や選挙などが短期間に連続すると、ヘッジ需要が途切れません。
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相関の崩壊:普段は逆相関の資産が同時に売られると、リスクオフが加速します。
こうした局面では、VIXが落ちる“速度”が遅くなります。だからこそ、利確トリガーも「一定割合の低下」だけでなく、「カーブの改善」「VVIXの沈静化」など複数条件で見ます。
よくある質問(実戦で迷いやすいポイント)
Q1:VIXが高いのに株が全然戻りません。失敗ですか?
失敗とは限りません。VIX平均回帰の本質は、恐怖が剥がれる過程です。株価の戻りが遅い局面でも、恐怖が落ちれば“次の急落の確率”が下がり、ポジションのリスクが軽くなります。逆に、株価が少し戻ってもVIXが高止まりなら、まだ恐怖は残っています。
Q2:VIXのピークアウトはどうやって判断しますか?
1日だけの下落では判断しません。おすすめは「高い水準のままでも、上値を切り下げる」「前回の高値を更新できない」「バックワーデーションが縮む」など、複数の変化を確認することです。相場は“形”で判断するほど誤判定が減ります。
Q3:損切りはどこに置くべきですか?
価格だけでなく、状況で置きます。例えば「VIXがさらに急騰して上位1%に突入」「先物カーブの逆転が拡大」「クレジット悪化が加速」など、恐怖が“質的に悪化”したら撤退する。逆に、株価が少し下げても恐怖が落ちるなら維持する。これが平均回帰の考え方です。


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