配当性向80%以上の銘柄はなぜ危険視されるのか
高配当株を探していると、配当利回りが高く、しかも毎年しっかり配当を出している銘柄に目が向きます。しかし、表面上の利回りだけで判断すると、最も危険な落とし穴の一つが「配当性向80%以上」の銘柄です。配当性向とは、企業が稼いだ利益のうち、どれだけを配当に回しているかを示す指標です。たとえば当期純利益が100億円で、年間配当総額が80億円なら、配当性向は80%です。数値だけ見ると、株主還元に積極的な良い企業に見えるかもしれません。しかし、利益の大半を配当に回しているということは、裏を返せば、社内に残る資金が少ないということでもあります。
配当性向80%以上が常に悪いわけではありません。成熟企業、インフラ企業、通信、公益、REITに近い収益構造を持つ企業などでは、高い配当性向がある程度許容される場合があります。ただし、一般的な事業会社で配当性向が80%を超えている場合、利益が少し落ちただけで配当維持が難しくなります。株価が下落して配当利回りが高く見えている銘柄では、すでに市場が減配リスクを織り込み始めているケースもあります。つまり、高配当利回りは「割安のサイン」であると同時に、「危険信号」である可能性もあります。
この記事では、配当性向80%以上の銘柄を単純に避けるのではなく、どのような条件なら許容でき、どのような条件なら危険なのかを実践的に整理します。初心者でも使えるよう、難しい財務理論ではなく、決算短信、有価証券報告書、会社予想、キャッシュフロー計算書、過去配当履歴を使った現実的な判断方法に落とし込みます。高配当株投資で重要なのは、今の配当をもらうことではなく、将来も配当が続く可能性を見極めることです。
配当性向の基本を押さえる
配当性向は、一般的に次の式で計算されます。
配当性向=1株配当÷1株利益(EPS)×100
たとえば、1株利益が100円、年間配当が80円なら配当性向は80%です。1株利益が100円で年間配当が120円なら配当性向は120%となり、企業はその期に稼いだ利益以上の配当を出していることになります。これを「タコ足配当」と呼ぶことがあります。もっとも、単年度だけを見ると、特別損失や一時的な会計要因で利益が減少し、配当性向が異常に高く見えることもあります。そのため、配当性向は単年度ではなく、最低でも3年、できれば5年程度の推移で確認する必要があります。
配当性向を見るときに初心者が誤解しやすいのは、「高いほど株主思い」と考えてしまうことです。たしかに配当を出す姿勢は株主還元の一つですが、企業には成長投資、設備投資、人材投資、借入返済、研究開発、在庫確保、M&Aなど、資金を使うべき場面が多くあります。利益のほとんどを配当に回してしまうと、将来の成長余力が削られます。短期的には高配当でも、中長期では業績が伸びず、株価も配当も弱くなる可能性があります。
特に注意すべきなのは、利益が横ばいまたは減少しているにもかかわらず、配当だけを維持して配当性向が上昇している企業です。これは企業が株主還元を重視しているというより、減配を避けるために無理をしている状態かもしれません。減配は株価に強いマイナス材料になりやすいため、企業はできるだけ避けようとします。しかし、無理な配当維持が長く続けば、最終的には大幅減配や無配転落という形で一気に表面化することがあります。
配当性向80%以上が危険になる典型パターン
利益が景気循環に左右されやすい企業
配当性向80%以上でも、毎年安定した利益を出せる企業ならまだ検討余地があります。しかし、海運、鉄鋼、化学、半導体関連、資源、商社の一部、建設機械、自動車部品など、景気循環の影響を受けやすい業種では慎重に見る必要があります。好況期に利益が急増し、その利益を基準に高配当を出している場合、景気が反転すると一気に利益が落ちます。その時点で配当を維持すれば配当性向は100%を超え、維持できなければ減配となります。
たとえば、ある景気敏感株が好況期にEPS300円、配当240円を出していたとします。この時点の配当性向は80%です。ところが翌年、需要悪化でEPSが120円まで低下した場合、同じ240円配当を続けると配当性向は200%になります。現金や内部留保が厚ければ一時的に維持できるかもしれませんが、業績低迷が続けば現実的ではありません。投資家が見るべきなのは、直近の高い利益ではなく、不況期でもどれだけ稼げるかです。
営業キャッシュフローが弱い企業
会計上の利益が出ていても、実際に現金が入っていなければ配当原資としては弱くなります。そこで確認すべきなのが営業キャッシュフローです。営業キャッシュフローは、本業からどれだけ現金を稼いだかを示します。配当は現金で支払うものですから、利益よりもキャッシュフローの方が重要になる場面があります。
危険なのは、当期純利益は黒字なのに営業キャッシュフローが小さい、または赤字になっている企業です。売掛金の増加、在庫の積み上がり、一時的な収益認識、回収遅延などにより、利益と現金収入がズレている可能性があります。この状態で高配当を続けると、借入や手元資金の取り崩しで配当を払うことになります。見た目は高配当でも、実態は財務体力を削っているだけです。
実践的には、過去3年の「営業キャッシュフロー ÷ 配当総額」を確認します。この倍率が毎年1倍を下回っている場合、本業の現金収入だけでは配当を賄えていません。設備投資が重い企業なら、営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを差し引いたフリーキャッシュフローも確認します。フリーキャッシュフローが継続的に赤字なのに高配当を維持している企業は、かなり慎重に扱うべきです。
自己資本比率が低く借入が多い企業
配当性向が高くても、自己資本比率が高く、ネットキャッシュで、財務に余裕がある企業なら一時的な高配当性向は吸収できる場合があります。逆に、借入が多く、金利上昇の影響を受けやすい企業では危険度が上がります。利益の大半を配当に回しながら借入返済も必要な企業は、景気悪化や金利上昇に対する耐性が弱くなります。
特に注意したいのは、営業利益に対して支払利息が増えている企業です。金利負担が増えると、最終利益が圧迫されます。最終利益が減れば配当性向はさらに上がります。配当を維持するために借入を増やすような構図になると、株主還元というより、財務リスクの先送りに近くなります。高配当株投資では、配当利回りだけでなく、自己資本比率、有利子負債、ネットD/Eレシオ、インタレストカバレッジレシオを確認する癖をつけるべきです。
記念配当や特別配当に依存している企業
配当利回りが高く見える銘柄の中には、普通配当に加えて記念配当や特別配当が含まれているものがあります。これらは継続性が低い配当です。配当性向80%以上の銘柄を調べるときは、今期配当が普通配当なのか、一時的な上乗せがあるのかを必ず確認します。特別配当込みで利回りが高く見えているだけなら、翌期には利回りが低下する可能性があります。
たとえば株価1,000円、年間配当80円なら利回り8%です。しかし、そのうち30円が特別配当で、普通配当は50円なら、継続的に期待できる利回りは5%程度と考えるべきです。さらに、特別配当込みで配当性向が90%を超えているなら、翌期以降の配当維持を前提に買うのは危険です。会社の配当方針に「安定配当」「累進配当」「配当性向目標」「DOE目標」などがあるかも合わせて確認します。
配当性向80%以上でも許容できるケース
配当性向80%以上だからといって、機械的にすべて除外する必要はありません。投資で重要なのは、数字の意味を文脈で読むことです。高配当性向でも許容しやすいケースは大きく分けて三つあります。
一つ目は、利益の安定性が非常に高い企業です。生活必需品、通信、インフラ、ストック型サービス、規制産業に近い安定事業などでは、利益変動が小さい場合があります。もちろん業種だけで安全とは言えませんが、過去10年の営業利益推移が安定しており、不況期でも大きく崩れていない企業なら、やや高めの配当性向も許容されやすくなります。
二つ目は、設備投資負担が小さく、フリーキャッシュフローが安定している企業です。会計上の利益だけでなく、現金創出力が強い企業は配当余力があります。営業キャッシュフローが安定し、必要な設備投資を差し引いても十分な現金が残るなら、配当性向が高くても実質的な危険度は下がります。
三つ目は、自己資本が厚く、ネットキャッシュを保有している企業です。手元資金が潤沢で借入負担が小さい企業なら、一時的に利益が落ちても配当を維持できる可能性があります。ただし、現金を取り崩して配当を維持する状態が長期化すれば問題です。重要なのは「一時的な高配当性向」なのか、「構造的に無理な配当」なのかを分けることです。
高配当株を買う前に見るべき5つのチェック項目
1. 配当性向の5年推移
まず確認すべきなのは、直近1年ではなく5年推移です。配当性向が一時的に80%を超えただけなのか、毎年高止まりしているのかで意味が大きく変わります。理想は、利益が伸びる中で配当も増え、配当性向が一定範囲に収まっている企業です。逆に、利益が伸びていないのに配当だけを増やして配当性向が上がっている企業は危険です。
確認時は、会社予想ベースの配当性向も見ます。株価サイトに表示される配当性向は実績ベースや予想ベースが混在するため、必ず決算短信の1株利益予想と年間配当予想を使って自分で計算するのが確実です。予想EPSが100円、予想配当が90円なら予想配当性向は90%です。この状態で会社が増益前提の強気計画を出しているなら、その計画が未達になった場合の配当性向も試算する必要があります。
2. 営業キャッシュフローと配当総額の比較
次に、営業キャッシュフローが配当総額を十分に上回っているかを確認します。たとえば営業キャッシュフローが150億円、配当総額が80億円なら余裕があります。一方、営業キャッシュフローが60億円、配当総額が80億円なら、本業の現金収入だけでは配当を賄えていません。単年度のブレはありますが、これが複数年続くなら危険です。
さらに踏み込むなら、フリーキャッシュフローも見ます。営業キャッシュフローから設備投資などの投資支出を差し引いた後に、配当を払える余力があるかを確認します。特に製造業、電力、通信、インフラ、不動産など設備投資負担が大きい業種では、利益だけでなくフリーキャッシュフローの確認が不可欠です。
3. 配当方針の中身
企業の配当方針には、その企業がどの程度配当を重視しているかが表れます。注目すべき表現は「配当性向30%を目安」「DOE3%以上を目標」「累進配当方針」「安定配当を基本」「総還元性向」などです。配当性向80%以上の企業でも、明確な累進配当方針やDOE目標を掲げ、財務余力もあるなら一定の安心材料になります。
ただし、配当方針は絶対ではありません。業績が大きく悪化すれば変更されます。特に「安定配当」という表現は、必ずしも減配しないという意味ではありません。企業がどのような局面で過去に配当を維持したか、または減配したかを確認することが重要です。リーマンショック、コロナショック、資源価格急落、円高局面など、厳しい時期の配当履歴を見ると、その企業の株主還元姿勢が分かります。
4. 利益の質
配当性向の分母である利益が一時的に膨らんでいないかを確認します。固定資産売却益、投資有価証券売却益、補助金収入、為替差益、税効果、特別利益などで当期純利益が押し上げられている場合、配当性向は低く見えても実力以上の利益を前提にしている可能性があります。逆に一時的な特別損失で利益が押し下げられて配当性向が高く見えるケースもあります。
実践的には、営業利益、経常利益、当期純利益の3つを並べて確認します。営業利益が伸びている企業は本業が強い可能性があります。一方、営業利益が伸びていないのに当期純利益だけが増えている場合は、一時要因を疑います。高配当株投資では、配当の原資が本業利益から出ているかを確認することが非常に重要です。
5. 株価下落による見かけの高利回りかどうか
配当利回りは、年間配当を株価で割って計算されます。つまり、株価が下がるほど利回りは高くなります。利回りが急上昇している銘柄は、配当が増えたのではなく、株価が大きく下がっただけかもしれません。市場が業績悪化や減配を先読みして売っている場合、表面利回りは罠になります。
たとえば年間配当100円の株が2,000円なら利回り5%です。株価が1,250円まで下がれば利回り8%になります。しかし、株価下落の理由が業績悪化や財務悪化なら、将来も100円配当が続くとは限りません。むしろ、減配後に株価がさらに下落する二重損失が起きる可能性があります。高利回り銘柄を見るときは、「なぜこの利回りで放置されているのか」を必ず考えるべきです。
実践例:配当性向80%以上の銘柄をどう判定するか
ここでは架空の3社を使って、実際の判定手順を整理します。
A社:安定内需型で高配当性向でも許容しやすいケース
A社は生活関連サービスを展開する内需企業です。過去5年の営業利益は100億円、105億円、103億円、108億円、110億円と安定しています。EPSは毎年ほぼ横ばいで、年間配当は少しずつ増加しています。直近の配当性向は82%です。営業キャッシュフローは毎年安定しており、配当総額の1.8倍程度あります。自己資本比率は60%、有利子負債は少なく、ネットキャッシュです。
この場合、配当性向80%以上という数字だけを見ると高く見えますが、利益安定性、キャッシュフロー、財務余力を考えると、直ちに危険とは判断しません。ただし、成長投資余力は限定的で、株価の大幅上昇よりも配当収入中心の銘柄として考えるべきです。買う場合も、利回りだけでなく、株価が過去のレンジ下限にあるか、配当利回りが過去平均より高いかを確認します。
B社:景気敏感型で危険度が高いケース
B社は市況産業に属する企業です。好況期に利益が急増し、EPSは300円、年間配当は250円、配当性向は83%です。一見すると高配当で魅力的です。しかし、過去のEPSを見ると、好況期は300円、不況期は50円まで落ち込んだ実績があります。営業キャッシュフローも市況次第で大きく変動します。自己資本比率は35%で、有利子負債も多めです。
この場合、直近の高配当は好況期利益に依存しています。不況期にEPSが100円まで落ちれば、250円配当は維持困難です。市場が市況悪化を織り込み始めると、株価は先に下がり、表面利回りはさらに高く見えます。しかし、その利回りは将来の減配リスクを反映している可能性が高いです。B社のような銘柄では、配当利回りが高い局面で飛びつくのではなく、市況サイクル、在庫循環、商品価格、会社の配当方針を確認してから判断すべきです。
C社:利益はあるがキャッシュフローが弱い危険ケース
C社は成長企業を名乗る高配当銘柄です。EPSは120円、配当は100円、配当性向は83%です。売上は伸びていますが、営業キャッシュフローは2年連続で赤字です。売掛金と在庫が増加しており、利益は出ているものの現金化が遅れています。さらに、成長投資のために借入も増えています。
この場合、配当性向の高さ以上に、キャッシュフローの弱さが問題です。成長企業であれば本来、利益を事業投資に回す選択肢もあります。それにもかかわらず高配当を維持している場合、株価対策として配当を使っている可能性があります。C社のような銘柄では、配当維持よりも資金繰りの安定性を優先して分析します。営業キャッシュフローが改善するまで買いを見送る判断が合理的です。
配当性向だけでなくDOEも見る
近年、配当政策でDOEを重視する企業が増えています。DOEとは株主資本配当率のことで、自己資本に対してどれだけ配当を出しているかを示します。配当性向は利益に対する配当の割合ですが、DOEは自己資本に対する配当の割合です。利益が一時的に落ちた年でも、自己資本を基準に安定配当を行いやすいという特徴があります。
たとえば、配当性向だけを見ると、景気悪化で利益が落ちた年に配当性向が急上昇します。しかし、企業がDOE3%を目標にしている場合、自己資本が厚ければ一定の配当を維持しやすくなります。高配当株投資では、配当性向とDOEをセットで見ることで、配当政策の安定性をより正確に判断できます。
ただし、DOEにも注意点があります。自己資本が厚い企業なら安定配当に向いていますが、利益が長期的に減少している企業がDOEだけを根拠に配当を維持すると、資本効率や成長力が低下する可能性があります。DOEは安心材料の一つですが、万能ではありません。営業利益、キャッシュフロー、財務余力と合わせて見る必要があります。
減配リスクを事前に察知するサイン
減配は突然発表されるように見えますが、多くの場合、事前にいくつかのサインが出ています。まず、会社予想の下方修正が続いている場合です。売上、営業利益、EPSの下方修正が複数回出ているのに配当予想だけ据え置かれている場合、次の決算で配当修正が出る可能性があります。
次に、配当性向が会社の目標レンジを大きく上回っている場合です。たとえば会社が配当性向30〜40%を目安としているにもかかわらず、予想配当性向が90%になっているなら、配当方針との整合性が崩れています。この場合、業績回復が見込めない限り、減配リスクは高まります。
三つ目は、営業キャッシュフローの悪化です。利益は黒字でも営業キャッシュフローが悪化している場合、配当維持の持続性に疑問が出ます。売掛金や在庫が急増している場合は特に注意が必要です。四つ目は、借入増加や格付け悪化です。金融機関や社債市場からの資金調達コストが上がると、株主還元より財務改善を優先せざるを得なくなります。
五つ目は、経営陣のコメント変化です。以前は「安定的な株主還元を重視」と表現していた企業が、「財務健全性とのバランスを考慮」「将来投資を優先」「総合的に判断」という表現を強めた場合、配当政策の変更を示唆していることがあります。決算説明資料や質疑応答を読むと、数字だけでは見えない温度感が分かります。
買ってよい高配当株と避けるべき高配当株の違い
買ってよい高配当株は、配当が本業の稼ぐ力に支えられています。利益が安定し、営業キャッシュフローが配当を十分に上回り、自己資本が厚く、無理な借入に依存していません。さらに、配当方針が明確で、過去の厳しい局面でも大幅な減配を避けてきた実績がある企業です。こうした企業であれば、配当性向がやや高くても、ポートフォリオの一部として検討できます。
避けるべき高配当株は、株価下落によって見かけの利回りが高くなっているだけの銘柄です。業績が悪化し、キャッシュフローが弱く、借入が増え、配当性向が100%に近づいている企業は危険です。特に、会社予想が楽観的で、減益リスクが高いにもかかわらず配当を据え置いている場合、減配発表時に大きな株価下落を受ける可能性があります。
高配当株投資で失敗する人は、利回りを「確定収入」のように見てしまいます。しかし、株式の配当は預金利息ではありません。企業の業績、財務、方針によって変動します。利回りが高い銘柄ほど、なぜ高いのかを疑う姿勢が必要です。むしろ高配当株投資では、利回り5%の銘柄より、利回り3.5%でも増配余地があり、財務が健全な企業の方が長期リターンで優れる場合があります。
ポートフォリオで配当性向リスクを管理する方法
個別銘柄の分析だけでなく、ポートフォリオ全体でリスクを管理することも重要です。高配当株だけを集めると、銀行、商社、通信、海運、資源、不動産、インフラなど、特定の景気・金利・為替要因に偏ることがあります。配当利回りが高い銘柄は似たリスクを持ちやすいため、分散しているつもりでも実際には同じ方向に動くことがあります。
実践的には、ポートフォリオ内の銘柄を「安定配当型」「景気敏感高配当型」「増配期待型」「資産価値型」に分類します。安定配当型は通信、生活必需、インフラ的事業など、利益変動が比較的小さい銘柄です。景気敏感高配当型は商社、資源、海運、素材など、好況期に高配当になりやすい銘柄です。増配期待型は現在利回りは高くないものの、利益成長に伴う増配が期待できる銘柄です。資産価値型は現金、不動産、有価証券などを多く保有する企業です。
配当性向80%以上の銘柄を複数保有する場合は、同じタイプに偏らないようにします。景気敏感高配当型ばかりに集中すると、景気後退時に同時減配を受ける可能性があります。また、1銘柄あたりの比率も管理します。どれほど魅力的に見えても、配当性向が高い銘柄をポートフォリオの中心に置きすぎるのは避けるべきです。配当収入を安定させたいなら、配当利回りの高さより、減配確率の低さを重視する必要があります。
配当性向80%以上銘柄を買う場合の売買ルール
配当性向80%以上の銘柄を買う場合は、事前に売買ルールを決めておくことが重要です。高配当株は「配当をもらいながら待てる」と考えがちですが、減配が発生すると株価下落と配当収入減少が同時に起きます。そのため、買う前に撤退条件を明確にしておくべきです。
具体的なルールとして、第一に、会社予想EPSが下方修正され、予想配当性向が100%を超えたら再評価します。第二に、営業キャッシュフローが2期連続で配当総額を下回ったら警戒します。第三に、配当方針が変更された場合は、必ず保有継続の前提を見直します。第四に、株価が下がって利回りが上がっただけの場合、安易な買い増しを避けます。第五に、減配発表後は、配当利回りが再び高く見えても、業績底打ちが確認できるまで様子を見る選択肢を持ちます。
買いのタイミングも重要です。高配当株は権利確定前に買われやすく、権利落ち後に下落することがあります。配当性向が高い銘柄では、権利取りだけを目的に買うと、権利落ち後の株価下落や減配リスクを抱えることになります。長期保有を前提にするなら、権利日直前ではなく、決算内容、配当方針、株価水準を確認したうえで、過熱感のない局面で分散して買う方が現実的です。
初心者がやりがちな失敗
最も多い失敗は、配当利回りランキング上位から銘柄を選ぶことです。利回りランキング上位には、株価が大きく下落した銘柄や、減配リスクが高い銘柄が多く含まれます。ランキングは候補探しには使えますが、そのまま買うためのリストではありません。利回りが高いほど、なぜ市場がその利回りを許しているのかを分析する必要があります。
次に多い失敗は、過去配当だけを見て安心することです。過去に配当が出ていたからといって、将来も維持されるとは限りません。重要なのは、今後の利益とキャッシュフローです。特に、直近で業績がピークアウトしている企業では、過去の高配当実績がむしろ危険な期待を生むことがあります。
三つ目は、含み損になった銘柄を「配当があるから大丈夫」と放置することです。配当が続くならまだしも、業績悪化で減配されると投資前提が崩れます。含み損と配当収入を別々に考えるのではなく、トータルリターンで判断する必要があります。年間5%の配当を受け取っても、株価が30%下がり、さらに減配されれば大きな損失です。
四つ目は、NISA枠で高配当株を買えば安全と考えることです。NISAは配当や売却益の税制面で有利ですが、銘柄そのもののリスクを消す制度ではありません。減配や株価下落が起きれば、非課税枠内でも損失は発生します。NISAでは長期保有に向く銘柄を選ぶことが重要であり、単に高利回りだから買うという判断は危険です。
実践的スクリーニング条件
配当性向80%以上の銘柄を完全に排除するのではなく、危険度を下げるためのスクリーニング条件を設定すると実践しやすくなります。たとえば、以下のような条件を使います。
まず、予想配当利回りが高い銘柄を抽出した後、予想配当性向が80%以上の銘柄に印を付けます。次に、過去5年の営業利益が極端にブレていないかを確認します。さらに、営業キャッシュフローが配当総額を上回っている年が多いかを見ます。自己資本比率が低すぎる企業、有利子負債が増え続けている企業、特別利益で純利益が膨らんでいる企業は除外候補にします。
実用的な目安としては、配当性向80%以上でも、営業キャッシュフローが配当総額の1.5倍以上、自己資本比率50%以上、過去5年で大幅赤字なし、普通配当中心、会社の配当方針が明確、という条件を満たすなら検討余地があります。一方、配当性向100%以上、営業キャッシュフローが弱い、借入増加、業績下方修正、特別配当込み、景気敏感ピーク利益という条件が重なるなら、利回りが高くても避ける判断が妥当です。
配当性向80%以上銘柄の見方を変える
配当性向80%以上という数字は、単なる危険信号ではなく、分析の入口です。その銘柄が本当に危険なのか、それとも安定したキャッシュフローを背景に高い株主還元を実現しているのかを見極める必要があります。重要なのは、表面利回りではなく、配当の持続可能性です。
高配当株投資で長く生き残るためには、「高い配当をくれる企業」ではなく、「無理なく配当を続けられる企業」を選ぶ発想が必要です。配当性向80%以上の銘柄に出会ったら、まず疑うべきです。疑ったうえで、利益の安定性、キャッシュフロー、財務余力、配当方針、業種特性、株価下落理由を確認します。その結果、配当維持の根拠が明確なら投資候補になります。根拠が弱ければ、どれほど利回りが高くても見送るべきです。
投資の世界では、明らかにおいしそうに見えるものほど、リスクが隠れていることがあります。配当利回り8%、9%、10%という数字は魅力的ですが、それが将来も続く保証はありません。配当性向80%以上の銘柄を分析する習慣を持つだけで、高配当株投資の失敗はかなり減らせます。配当を受け取りながら資産を増やすには、利回りの高さではなく、減配しにくい構造を見抜くことが最優先です。
まとめ
配当性向80%以上の銘柄は、株主還元に積極的に見える一方で、減配リスク、成長投資不足、財務余力低下を抱えている可能性があります。特に、景気敏感株、営業キャッシュフローが弱い企業、借入が多い企業、特別配当に依存している企業では注意が必要です。
一方で、利益が安定し、営業キャッシュフローが強く、自己資本が厚く、配当方針が明確な企業であれば、高い配当性向でも一定の検討余地があります。重要なのは、配当性向だけで判断しないことです。配当性向、営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフロー、自己資本比率、過去の減配履歴、会社の配当方針を組み合わせて、配当の持続可能性を確認する必要があります。
高配当株投資は、単に配当利回りの高い銘柄を買う投資ではありません。企業の稼ぐ力と財務体力を見極め、将来も無理なく配当を続けられる銘柄を選ぶ投資です。配当性向80%以上という数字を見たら、すぐに飛びつくのではなく、まず危険性を検証してください。その一手間が、減配による株価下落を避け、長期的な資産形成の安定性を高めます。


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