テーマ概要:新月・満月アノマリーとは何か
新月・満月アノマリーは、「月相(新月・満月)の前後で、株式や為替などのリターン特性が変わりやすい」という経験則です。占いの類ではなく、あくまで統計上そう見える局面がある、という扱いになります。ポイントは“月が相場を動かす”ではありません。実務的には、群集心理が揺れやすいタイミングを、機械的に区切るカレンダーとして使います。
初心者が誤解しやすい点は2つあります。1つ目は「毎回当たるシグナル」だと思うこと。2つ目は「新月・満月だけで売買できる」と思うことです。新月・満月は単体の売買根拠では弱く、実戦では他の条件(トレンド、ボラティリティ、重要指標、需給)と組み合わせて初めて武器になります。
なぜ“それっぽく”見えるのか:使える仮説を3つに絞る
因果関係を断定する必要はありません。相場で重要なのは「再現性のある観測」と「ルール化」です。新月・満月アノマリーを“検証可能な仮説”に落とすと、概ね次の3つに整理できます。
仮説1:リスク選好の微妙な揺れが、薄い流動性で増幅される
市場は常に合理的ではなく、ニュースがなくても“気分”で傾きます。月相の周期は約29.5日で、週次や月次の資金フロー(積立・リバランス)と近い周期になりがちです。結果として、他の周期要因と干渉して、偶然に見える規則性が生まれます。特に出来高が細る局面や、値幅が出やすい銘柄では、少しの偏りがチャートに刻まれます。
仮説2:ストレス指標の“折り返し”と重なりやすい
相場の転換点は、金利・クレジット・ボラティリティ(VIXなど)の変化と連動しやすいです。月相そのものより、「月相の前後に転換点が現れやすいように見える市場状態」が存在する、という見方が現実的です。つまり、新月・満月は“状態認識のチェックポイント”として使うのが筋です。
仮説3:後付けの錯覚(データスヌーピング)が起きやすい
新月・満月はカレンダー上の明確な節目です。人は節目に意味を見出し、転換点だけを記憶します。その結果、「当たっていた」記憶が強化され、外れは忘れます。だからこそ、必ずバックテストで現実の成績に落とす必要があります。ここをサボると、ただの自己暗示になります。
初心者がまずやるべき検証:シンプルなバックテスト設計
検証は難しくありません。必要なのは、期間・市場・ルールを固定し、手数料とスリッページを見積もることです。ここでは“やりすぎない”検証手順を提示します。
ステップ1:対象市場と期間を固定する
例として、以下のどれか1つに絞ります。
・日本株(TOPIXや日経平均の指数データ)
・米国株(S&P500やNASDAQ100)
・為替(USD/JPYなど主要通貨)
・暗号資産(BTC/USDなど24時間市場)
期間は最低でも5年、できれば10年以上。短いと相場環境の偏りで“たまたま”が増えます。
ステップ2:「前後何日」を固定する
よくある定義は「新月/満月の当日を中心に前後3営業日」「前後1週間」などです。初心者は、まず前後3営業日に固定して下さい。長くすると別のイベント(FOMC、雇用統計、決算)が混ざり、意味が薄れます。
ステップ3:売買ルールを1行で書ける形にする
例:新月の翌営業日に買い、3営業日後の引けで売る。満月は逆に、満月の翌営業日に売り(またはロングを閉じ)、3営業日後に買い戻す。この程度の単純さで十分です。
ステップ4:手数料・スリッページを必ず入れる
アノマリー系は期待値が小さいことが多く、コストで消えます。日本株の現物なら片道0.05〜0.2%程度、先物やFXならスプレッド相当、暗号資産なら取引所手数料+滑りが効きます。ここを入れない検証は、実戦では無意味です。
実戦での使い方:単体で売買しない、3つの“フィルター”で精度を上げる
新月・満月アノマリーは、単体では勝率も期待値も安定しません。実戦で価値が出るのは、「転換点の候補日」を事前に決め、他条件が揃ったときだけ入る運用です。フィルターは3つに絞ります。
フィルター1:トレンド方向(上位足)を固定する
例として日足で売買するなら、週足の方向に逆らわない。週足が上昇トレンド(200週移動平均の上、かつ傾きが上)なら、新月付近は“押し目候補”、満月付近は“利確候補”として扱います。逆に週足が下降なら、新月は戻り売りの警戒、満月は買い戻し候補です。
フィルター2:ボラティリティ状態(荒れているか静かか)
同じ月相でも、ボラが高い時と低い時では動きが違います。簡便には、直近20日ATR(平均真の値幅)が過去1年の上位30%かどうかで“荒れ相場”を判定します。荒れ相場では逆張りが刺さりにくく、トレンドフォロー寄りの設計が有利になります。
フィルター3:イベント回避(指標・決算・政策会合)
新月・満月の直後にFOMCや雇用統計、CPIがあるなら、月相の影響は埋もれます。初心者は「重要イベント前後はノートレ」を徹底して下さい。これだけで無駄な損失が減ります。
具体例:日本株での“月相×押し目”シナリオ
ここでは個別銘柄ではなく、指数連動の考え方で説明します。想定は、上昇トレンドが継続している局面です。
1) 週足が上向き、日足で短期調整(5日線割れ〜25日線近辺)
2) 新月の前後3営業日に到達
3) 出来高が細り、下げの勢いが鈍化(下ヒゲや陽線が出る)
この条件が揃ったら、新月を“押し目の日時指定”として使います。エントリーは「翌営業日の寄り」ではなく、初心者は当日高値を上抜けたら買うなど、少し保守的にして下さい。損切りは25日線を明確に割れたら、など機械的に置きます。
利確は満月を“利確の締め日”にします。満月前後で伸びきったら、半分利確して残りはトレーリングストップ、という構造が扱いやすいです。
具体例:USD/JPYでの“月相×レンジ”シナリオ
為替は株と違い、金利と政策が強く効きます。そのため月相はあくまで補助です。使いやすいのはレンジ相場です。
1) 直近1〜2か月、上値・下値が明確(例:高値と安値が何度も止められている)
2) 新月がレンジ下限に近い、または満月がレンジ上限に近い
3) オシレーター(RSIなど)が極端(30割れ/70超え)
このように「レンジ端×月相×オシレーター」の三点セットにすると、初心者でも判断がぶれにくいです。エントリーは逆指値ではなく指値で待ち、損切りはレンジ外に浅めに置く。レンジが崩れたら即撤退、が鉄則です。
具体例:ビットコインでの“月相×週末ボラ”の扱い
暗号資産は24時間市場で、株と違い“営業日”の概念が薄いです。月相アノマリーを使うなら、前後3日(72時間)など時間ベースで区切ります。また週末は流動性が偏りやすく、急変動が起きます。
実戦では、「新月・満月が週末に重なる場合はサイズを落とす」「ストップを広げる代わりに枚数を減らす」といったリスク調整が現実的です。暗号資産では“当たった外れた”より、一撃の逆行で資金が飛ばない設計が最重要です。
落とし穴:初心者が最もやりがちな3つの失敗
失敗1:月相だけでエントリーしてしまう
月相は“日付の目印”であって、需給やトレンドの代替ではありません。相場はランダム要素が強く、月相だけでは期待値が薄いことが多いです。必ずフィルター(トレンド・ボラ・イベント回避)を入れて下さい。
失敗2:検証期間が短い/銘柄を都合よく選ぶ
「直近1年で当たっているから」では危険です。相場環境が変わると逆回転します。検証は10年、最低でも5年。さらに、指数→主要セクター→個別、と段階的に落とすのが安全です。
失敗3:損切りを“月相まで待つ”
最悪の運用です。損切りは価格ベースで行います。月相まで待つと、トレンドが崩れた局面で致命傷になります。月相は利確の“締め日”として使えても、損切りの根拠にしてはいけません。
戦略化のコツ:エッジを「小さく積み上げる」設計
アノマリーは単発ホームランではなく、小さな優位性(エッジ)を積み上げる領域です。初心者向けに、現実的な設計指針をまとめます。
・売買回数を増やしすぎない(年12〜24回程度を目安)
・損小利大より「損小と取りこぼし許容」を優先(勝率を落としすぎない)
・ポジションサイズは固定ではなく、ATRやボラで調整する
・同じルールを株・FX・暗号資産に横展開しない(市場ごとに最適化が必要)
実務的チェックリスト:エントリー前に5秒で確認する項目
最後に、実戦で迷わないための“5秒チェック”を置きます。これができれば、月相アノマリーは感情トレードの抑止装置になります。
1) 今日は新月/満月の前後何日か(ルールの範囲内か)
2) 上位足のトレンドはどちらか(逆らっていないか)
3) 直近の重要イベントは近いか(回避すべきか)
4) ボラは高すぎないか(サイズを落とすべきか)
5) 損切り価格はどこか(入る前に確定しているか)
まとめ:月相は“日付のテンプレ”、勝敗はリスク管理で決まる
新月・満月アノマリーは、相場の転換点を“それっぽく”見せることがあります。しかし勝てるかどうかは、月相ではなくルールの単純さ、検証、コスト見積もり、そして損切りで決まります。月相は「転換の候補日」を機械的に決める装置として使い、トレンド・ボラ・イベントのフィルターで精度を上げて下さい。初心者でも、ここまで落とし込めば“再現性のある運用”になります。


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