「新月の前後で買い」「満月の前後で売り」といった月齢(ムーンフェーズ)に絡む相場の噂は、投資界隈で繰り返し語られます。結論から言うと、月齢だけで常に勝てるような魔法はありません。ただし、市場は“非合理な人間の集合”であり、心理・睡眠・行動パターンが価格形成に滲むのは自然です。そこで本稿では、月齢をオカルト扱いせず、統計検証(バックテスト)と需給の仮説に落とし込み、株・FX・暗号資産で再現性を狙うための具体的な設計手順を提示します。
読み終えるころには、(1)新月・満月アノマリーが成立し得るメカニズム、(2)「使える形」にするためのルール化、(3)ありがちな罠と回避策、(4)自分の銘柄・時間足で検証する方法が、腹落ちするはずです。
- 新月・満月アノマリーとは何か:まず定義を固める
- 成立し得るメカニズム:占いではなく“人間の行動”として考える
- どの市場で効きやすいか:株・FX・暗号資産のクセ
- データで検証する:バックテストの具体的手順(初心者でも再現可能)
- “使える形”に落とす:月齢トリガー×フィルター×リスク管理
- 具体例:同じ“月齢”でも戦い方が変わる2つのケース
- よくある失敗:月齢アノマリーで負ける人の共通点
- 検証を“運用”に落とす:資金管理とルールの固定化
- まとめ:月齢は“予言”ではなく“検証可能なカレンダーシグナル”
- 実装チェックリスト:検証から実戦までの“作業手順”を固定する
- 最終的な実務的推奨:月齢は“単独売買”ではなく“補助シグナル”で使う
新月・満月アノマリーとは何か:まず定義を固める
月齢アノマリーは「新月/満月の近辺でリターン分布が偏る」という仮説です。重要なのは、ここでの“近辺”を曖昧にしないことです。検証可能な形にするには、例えば次のように定義します。
- イベント日:天文学上の新月日・満月日(UTC基準 or 現地取引時間に合わせてシフト)
- ウィンドウ:イベント日の前後n営業日(例:-2〜+2)
- アウトカム:当日終値→翌日終値、あるいはウィンドウ全体の累積リターン
ここで肝は「何を買って何を売るか」を最初から固定しないことです。新月買い・満月売りが有名ですが、資産クラスや時代によって逆になることもあります。だからこそ、“自分の対象市場での偏り”をデータで確認してから戦略にします。
成立し得るメカニズム:占いではなく“人間の行動”として考える
1)センチメントの周期性:楽観と警戒が交互に強まる
相場は「材料」だけでなく「受け止め方」で動きます。月齢に伴う心理変化の科学的因果を断言するのは難しい一方、センチメント指標(恐怖・強欲、SNSの話題量、ボラティリティ)には周期性が出やすいのも事実です。特に個人参加比率が高い暗号資産は、センチメント起因の短期需給が価格に直結しやすく、月齢イベントのような“共通参照点”が、行動の同期を生むことがあります。
2)睡眠・体調・注意力:判断ミスが増えるタイミングがある
投資は意思決定ゲームです。睡眠の質が落ちると、損切りできない・利確が早すぎるなど、判断が歪みます。月齢と睡眠の関係は個人差が大きいものの、トレーダー集団に同様の傾向が出れば、注文フローの偏りとして現れ得ます。ここでのポイントは、月齢が直接価格を動かすというより、“ミスが増えるタイミング”がボラティリティとリバーサルを増やすという捉え方です。
3)カレンダー効果との相互作用:月初フロー・オプション満期・指標発表
実務的に強いのは、月齢そのものより他のカレンダーイベントとの重なりです。例えば「月初の機関投資家買い」「米雇用統計」「FOMC」「オプション満期」「四半期末」などが月齢ウィンドウに偶然重なると、本当のドライバーは別にあるのに“月齢で当たった”ように見えることがあります。したがって戦略化では、月齢単独より、後述するようにフィルターで分離して再現性を上げます。
どの市場で効きやすいか:株・FX・暗号資産のクセ
株式:日中の需給が強いが、イベントドリブンに負けやすい
株は決算、ガイダンス、需給(指数リバランス、配当再投資)、レーティングなどの“強い材料”が多く、月齢効果は埋もれがちです。一方で、個別銘柄ではなく指数(TOPIX、S&P500など)に寄せると、ノイズが減って月齢の微妙な偏りが見えることがあります。実装するなら、個別株の当て物よりも、指数先物・ETFのルール化が現実的です。
FX:24時間市場で“日付の扱い”が難しいが、リスクオフ局面で特徴が出る
FXは流動性が厚く、月齢程度では歪まないように見えます。しかし、リスクオフ局面(急落局面)ではポジション解消が連鎖し、反転の“きっかけ”が小さくても相場が転びます。例えば円キャリーの巻き戻しが起きている時期に、月齢ウィンドウで短期の過熱が出ると、リバーサルが増える、といった使い方です。要は月齢を“トリガー”ではなく局面判定の補助として使う発想が重要です。
暗号資産:個人比率が高く、共通参照点が“群集行動”を作りやすい
暗号資産は週末も動き、レバレッジの連鎖清算で価格が飛びます。月齢は「皆が知っているイベント」であり、噂に乗ったポジションが偏れば、逆張りの餌になります。特にビットコインや主要アルトのように、デリバティブ市場が厚い銘柄では、月齢ウィンドウに合わせて建玉が偏り、反対売買で振らされる構図が起きやすい。ここは後述する“出来高・建玉・資金調達率”と組み合わせると、一段実用的になります。
データで検証する:バックテストの具体的手順(初心者でも再現可能)
ここからが本題です。月齢アノマリーは、検証しないと「たまたま当たった記憶」だけが残り、損失が膨らみます。検証は次の順で行います。
ステップ1:新月・満月の時刻データを用意する
月齢のイベント日を正確にするには、天文データ(新月・満月の時刻)を取得します。データ源は複数ありますが、重要なのは同じ基準(UTCなど)で統一し、取引時間に合わせて日付をずらすことです。例えば日本株なら、イベント時刻が日本時間の場が開いていない時間帯に来ることが多いので、実務上は「直近の営業日に寄せる」などのルールが必要です。
ステップ2:ウィンドウを複数試す(-1〜+1、-2〜+2、-3〜+3)
最初から“都合のいい”ウィンドウを固定すると過剰適合になります。おすすめは、3種類以上のウィンドウを並行して検証し、最もマシなものだけを採用するやり方です。それでも採用後に効かなくなる可能性はありますが、「検証の自由度」を下げることで、ダメ戦略を掴みにくくなります。
ステップ3:リターンの測り方を二重化する(当日→翌日、ウィンドウ累積)
当日終値→翌日終値のような1日リターンはノイズが大きいです。ウィンドウ累積リターン(例:イベント前2日から後2日までの合計)も同時に見ると、偏りの形が見えます。例えば「新月の前に下げやすいが、後に戻しやすい」なら、当日だけでは拾えません。
ステップ4:統計の最低限(平均だけでなく分布と最大ドローダウン)
平均リターンがプラスでも、ドローダウンが深ければ実運用では死にます。最低限、次を見てください。
- 勝率:プラスの割合
- 平均損益・損益比:平均利益と平均損失
- 最大ドローダウン:連敗や急落の耐性
- ボラティリティ:同じ収益でもブレが大きい戦略は資金管理が難しい
月齢系は“薄い優位性”であることが多く、コストやスリッページで消えます。だから、手数料と滑りを仮定しても残るかが合否です。
“使える形”に落とす:月齢トリガー×フィルター×リスク管理
基本形A:新月ウィンドウの押し目買い(リバーサル狙い)
典型は「新月付近で下げたら買い、反発で利確」です。ここで重要なのは“新月だから買う”ではなく、新月ウィンドウで過熱売りが出やすいなら、押し目の確率が上がるという仮説に置くことです。具体ルール例:
例(指数・ビットコイン向け):新月日を中心に-2〜+1日の間、価格が20日移動平均から-2σ以上乖離(ボリンジャー)したら、翌足成行でロング。利確は移動平均回帰、損切りは直近安値割れ。
ポイントは、月齢は“監視期間”を絞るだけ。エントリー条件は価格(乖離・出来高)に置くことで、無駄打ちが減ります。
基本形B:満月ウィンドウの過熱局面で短期ショート(利確・ヘッジ)
満月側は「上げすぎ→調整」を狙う設計が多いですが、現物株のショートは難しいので、指数先物やオプション、あるいは“ロングのヘッジ”として組み込みます。具体ルール例:
例(株指数):満月日-1〜+2日の間、RSIが70超かつ前日比ギャップアップで寄り天陰線が出たら、翌日寄りでショート(またはロングの一部利確)。利確は2〜3日、損切りは高値更新。
これは“当てに行く”より、利益を吐き出さないためのプロテクションとして効きます。
フィルター1:トレンド方向(移動平均・平均足)で“逆張りしすぎ”を抑える
月齢系は逆張りになりやすく、強トレンドで焼かれます。そこで、トレンドフィルターを入れます。
- 上位足(例:日足)の移動平均が上向きのときだけ、新月押し目買いを許可
- 平均足の色が連続している間は逆張りを抑制し、転換が出てから入る
これで“月齢に従って逆張りして死ぬ”確率が下がります。
フィルター2:ボラティリティ(VIXやATR)で“危険な相場”を回避する
月齢は転換点の目安になり得ますが、危機局面は月齢よりニュースが支配します。例えば株ならVIX、FX/暗号ならATRや実現ボラでスクリーニングします。極端なボラ急増局面では、月齢ウィンドウでもエントリーサイズを落とすか、見送る判断が合理的です。
フィルター3:暗号資産なら資金調達率・建玉で“偏り”を読む
暗号資産では、月齢よりもデリバティブの偏りが重要です。月齢ウィンドウに合わせて、資金調達率(Funding)が高騰している=ロングが過密、建玉(OI)が増えている=清算ドミノの燃料がある、という状態なら、満月側のショートや利確が効きやすい。逆に資金調達率がマイナスに沈んでいれば、新月側の押し目買いと相性が良い、という設計が可能です。
具体例:同じ“月齢”でも戦い方が変わる2つのケース
ケース1:株指数で“月齢=売買ではなく、利確タイミング”として使う
株指数は長期的に上がりやすく、逆張りショートで取りに行くより、ロングの利確を上手くするほうが期待値が高いことが多いです。例えば、トレンドが上向きの期間にだけロングを持ち、満月ウィンドウで過熱(RSI高止まり+上ヒゲ)を確認したら、ポジションの30〜50%だけ利確する。これなら外しても致命傷になりにくく、当たれば“吐き出し”を防げます。
ケース2:ビットコインで“月齢×清算ポイント”を狙う
暗号資産は節目で強制清算が起きやすい。新月ウィンドウで急落したとき、板が薄くなり、ロスカットが連鎖して出来高が跳ねることがあります。ここで、出来高急増+長い下ヒゲ(売り尽くし)を確認してからロング。利確は短期で良い(2〜5日)し、損切りはヒゲの安値割れで明確に置けます。月齢は“監視期間”なので、普段より集中してチャンスを待てるのが利点です。
よくある失敗:月齢アノマリーで負ける人の共通点
1)月齢だけでエントリーし、条件を持たない
月齢は強いシグナルではありません。条件なしに“日付で売買”すると、ただのランダムトレードになります。必ず価格・出来高・トレンドなどの条件を持たせるべきです。
2)検証せず、SNSの成功談だけで信じる
成功談は母集団が不明で、失敗談は表に出ません。だからバックテストが必要です。最低でも、過去5〜10年(暗号なら複数サイクル)で、相場環境をまたいで検証します。
3)“当たった理由”を勘違いする
月齢が当たったように見えて、実際は「FOMC」「雇用統計」「月末月初フロー」「指数リバランス」などが原因だった、は頻出です。イベント重なりを除外したサンプルでも優位性が残るかを確認してください。
4)コスト・滑りを無視する
薄い優位性はコストで消えます。株の短期売買や暗号のスプレッド拡大局面では、机上の勝ちが現実では負けに転じます。検証段階から、保守的にコストを上乗せして評価するのが安全です。
検証を“運用”に落とす:資金管理とルールの固定化
アノマリー系で生き残る鍵は、シグナルの強さより資金管理です。実務的には次の設計が有効です。
- 1回のトレードでの許容損失:口座資金の0.5〜1.0%以内(初心者は0.5%推奨)
- 同時ポジション数:複数銘柄に広げるなら、相関を意識してリスク合算
- 損切りの固定化:ヒゲ安値割れ、ATR×倍率、直近サポート割れなど、客観ルール
- 利確の固定化:移動平均回帰、R倍(1R/2R)で段階利確、時間制限(n日で手仕舞い)
月齢は“回数が少ない”ので、1回のミスが痛い。だからこそ、損失上限を先に決め、期待値のブレを資金管理で吸収します。
まとめ:月齢は“予言”ではなく“検証可能なカレンダーシグナル”
新月・満月アノマリーは、単体で万能ではありません。しかし、(1)監視期間を絞り、(2)価格・出来高・トレンドの条件を組み合わせ、(3)コストを織り込み、(4)資金管理を徹底すれば、薄い優位性を積み上げる道具になり得ます。
最後に実務的な結論を置きます。月齢は「当てに行く」より「負けを減らす」「利確を上手くする」「局面を観察する」用途のほうが成功確率が高い。この前提で、自分の市場(日本株・米株・ドル円・ビットコイン)で検証し、数字が残る形だけを採用してください。
実装チェックリスト:検証から実戦までの“作業手順”を固定する
最後に、月齢アノマリーを「思いつき」ではなく「運用プロセス」に落とすためのチェックリストを提示します。初心者ほど、ここをテンプレ化すると再現性が上がります。
1)データ整備
(a)新月・満月の時刻データ、(b)対象資産の価格データ(少なくとも日足)、(c)可能なら出来高やボラ指標(ATR、株ならVIXなど)を揃えます。FXはブローカーによって日付の切り替わり時刻が違うため、バックテストと実取引で“日付ズレ”が起きやすい点に注意してください。暗号資産は取引所間で価格が微妙に違うので、検証で使った取引所と同じ価格系列を用いるのが無難です。
2)検証設計(過剰適合の回避)
月齢系は試行回数が少ないため、パラメータをいじるほど過剰適合します。そこで、(a)ウィンドウ幅は3パターン以内、(b)フィルターは多くても2〜3個、(c)利確・損切りは単純なルールに制限します。さらに、期間を「検証期間」と「確認期間」に分け、確認期間では一切ルールを変えずに成績をチェックします(簡易なアウト・オブ・サンプル)。
3)ウォークフォワードの考え方(上級者向けだが効果大)
より堅牢にするなら、例えば「直近3年で最適だった設定を、次の6か月に適用」を繰り返すウォークフォワードで、優位性が継続するかを見ます。月齢アノマリーは時代によって効き方が変わることがあるので、こうした“更新型”の評価が相性良いケースがあります。
4)実戦ルール(注文・時間・損切り)を文章で固定する
バックテストは理想条件で、実戦はノイズだらけです。だから、注文方法(成行か指値か)、執行時間(寄り直後は避ける等)、損切り執行(逆指値必須)まで文章に落とし、毎回同じ手順で実行します。月齢は回数が少ないので、1回の“手順ミス”が成績を壊します。
5)ログを残す(改善のための唯一の材料)
各トレードで「月齢イベントの種類(新月/満月)」「ウィンドウ」「相場環境(トレンド/レンジ)」「フィルターの状態」「エントリー理由」「想定シナリオ」「結果」を残します。ここまでやると、月齢が本当に効いているのか、単に“レンジ相場で逆張りが効いただけ”なのかが見えてきます。
最終的な実務的推奨:月齢は“単独売買”ではなく“補助シグナル”で使う
月齢に優位性が見える場合でも、それは多くが薄い効果です。したがって、(1)既存戦略のエントリー回数を減らすフィルター、(2)利確・ヘッジのタイミング調整、(3)監視期間の集中(チャンスを逃さない)に使うのが、損益曲線を安定させやすい現実解です。月齢は“相場の言い訳”にせず、数字で管理できる範囲に閉じ込めてください。


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