相場の上昇が続くと、「もっと伸びるはずだ」という期待と、「そろそろ崩れるのでは」という恐怖が同時に膨らみます。ここで意思決定を鈍らせる最大の要因は、利益確定が“正解か不正解か”の二択に見えてしまうことです。実際には、手仕舞いは当て物ではなく、確率と期待値を守るためのオペレーションです。その設計に使えるのが、騰落レシオ(上昇銘柄数と下落銘柄数の比率)です。
本記事では、騰落レシオ120超えを「天井サイン」と決めつけず、過熱局面で利益を残し、崩れ始めたら損を抑え、押し目が来たら再度取りに行くための具体的な手順に落とし込みます。指数・個別・時間軸(デイトレ/スイング)で使い分け、初心者でも実行できる形にします。
騰落レシオとは何か:まず“使える指標”に分解する
騰落レシオは、一定期間における「値上がり銘柄数の合計 ÷ 値下がり銘柄数の合計 × 100」で計算されます。日本市場では25日騰落レシオが最も一般的で、短期(5日)や中期(75日)も併用されます。
ここで重要なのは、騰落レシオが示しているのは“値幅”ではなく“広がり(ブレッドス)”だという点です。たとえば指数が上がっていても、一部の大型株だけが引っ張っている場合は騰落レシオが伸びません。逆に、幅広い銘柄が同時に上がる局面では騰落レシオが急上昇します。つまり、過熱の正体は「買いが広範囲に行き渡り、次の買い手が薄くなる」ことです。
この性質から、騰落レシオは“エントリー指標”より“手仕舞い(出口)指標”として優秀です。入口は材料・チャート・需給で作れても、出口は感情で崩れやすい。そこを機械化するために騰落レシオを使います。
なぜ「120」を意識するのか:数値の意味を誤解しない
120という数字は絶対の基準ではありません。市場の地合い、ボラティリティ、上昇の勢い(トレンド強度)で“適正レンジ”が変わります。ただ、25日騰落レシオが120を超えると、短期的に買いが行き渡っている確率が上がり、上昇の継続には「追加の燃料」が必要になります。
誤解しやすいのは、120超え=すぐ下落、ではないことです。強い上昇相場では120を超えたままさらに上がります。ここで大切なのは、天井を当てるのではなく、「利益を守りながら上昇の余地も残す」設計にすることです。つまり、全売却かホールドかではなく、分割・条件付き・ヘッジを組み合わせます。
手仕舞いを“設計”する:三段ロケットの出口ルール
過熱局面の手仕舞いを、次の3段階に分けると初心者でも迷いにくくなります。
第一段(利益の確定):騰落レシオが120を超え、かつ保有銘柄が短期上昇(例:5日で+8〜15%など)しているなら、まずポジションの一部を利益確定します。ここでの目的は「精神的な余裕」を作ることです。たとえば100株を持っているなら30〜50株を先に落とし、残りを“伸ばす枠”にします。
第二段(利益の保全):残りのポジションには、値動きに連動した出口を置きます。代表例は、直近安値割れ、5日移動平均割れ、もしくはATR(平均真の値幅)を使ったトレーリングストップです。騰落レシオが高い局面では下落が速いことがあるため、固定の損切り幅ではなく、価格構造(押し安値)に紐づけます。
第三段(崩れた後の再エントリー準備):一度利確・撤退して終わりにしないことが重要です。過熱→調整→再上昇は相場の基本構造なので、再エントリー条件を事前に決めます。例としては、騰落レシオが110以下へ低下し、価格が25日線や支持帯で止まる、出来高が減少して売り圧が枯れる、などです。
指数で使う:TOPIX/日経平均の“地合いフィルター”として
個別株だけを見ていると、相場全体が過熱しているのに「自分の銘柄は強いから大丈夫」と錯覚しがちです。そこで、25日騰落レシオを“地合いフィルター”として使います。
具体的には、騰落レシオが120を超えたら、新規の順張りエントリー条件を厳しくします。たとえば「上値ブレイクで買う」のは続けても良いですが、買うサイズを半分にする、分割で入る、寄り付き直後の飛びつきは避けて押しを待つ、などです。過熱局面では“同じ戦術”でもリスクが上がるため、サイズ調整が効きます。
また、指数が上昇していても騰落レシオが伸びない(大型株だけで上がっている)場合、上昇が脆いことがあります。逆に、指数が横ばいでも騰落レシオが上がる(中小型が広がる)なら、テーマ循環が強く、短期資金が回っている可能性が高い。こうした地合いの読みを、個別の利確判断に反映します。
個別株で使う:伸び切りを“ロジック化”する手順
ここからは、個別株の具体手順です。過熱局面では「高値圏のもみ合い」か「急騰の後の上ヒゲ」が増えます。これを騰落レシオと組み合わせ、利確を段階化します。
手順は次の流れです。まず、保有銘柄の上昇が“市場全体の広がり”に支えられているかをチェックします。騰落レシオが120超えで上昇銘柄数が増えているなら、追い風です。この追い風があるうちは、全利確ではなく一部利確+トレーリングで伸ばすのが合理的です。
次に、銘柄固有の需給悪化のサインを見ます。例えば、出来高がピークを打っているのに価格が伸びない、板の上に厚い売りが出て何度も跳ね返される、ギャップアップして寄り天になりやすい、などです。過熱局面では、こうした“伸びない”サインが出たら、第一段の利確割合を増やします(例:50%→70%)。
最後に、崩れ始めたら機械的に第二段(保全)へ移行します。重要なのは、騰落レシオの数値で売るのではなく、騰落レシオは「危険が高い環境」を示すだけで、実際の売りは価格構造で決めることです。これにより、強い相場での早売りを減らせます。
具体例:テーマ株が一斉に走った週の“利確オペレーション”
例として、あるテーマ(半導体、AI、インバウンドなど)に短期資金が集中し、関連銘柄が連日高い場面を想定します。指数も上昇し、25日騰落レシオが115→122→128と上がってきた状況です。
このとき、あなたが保有している銘柄Aが5営業日で+12%、出来高も増えているとします。ここでやるべきは「全部売って逃げる」ではなく、第一段として40%を利益確定します。なぜ40%かというと、残り60%で上昇の余地を取りつつ、もし急落しても既に利益が確保されているからです。
残り60%には、直近の押し安値(たとえば上昇途中の浅い押し)を割ったら半分を落とす、5日線を終値で割ったら残りを落とす、といった二段ストップを置きます。これにより、上昇が続く限りは保有でき、崩れたら機械的に撤退できます。
そして撤退後は、再エントリー条件を監視します。騰落レシオが128から118へ落ち、指数は横ばい、銘柄Aは25日線付近で下げ止まり、出来高が減ってきた。ここで、反発初動の陽線が出たら、サイズを小さく再エントリーし、直近安値に損切りを置きます。これが「利確で終わらせず、次も取る」設計です。
“120超え”を逆張りに使う場合の条件:スキャルピングの注意点
騰落レシオ120超えを見て「逆張りで売りたい」と考える人は多いですが、初心者ほど危険です。なぜなら、強い相場では過熱が“さらに過熱する”からです。逆張りは、上昇が止まった後にしか成立しません。
逆張りで使うなら条件は厳格にします。たとえば、指数が高値更新に失敗して二番天井(もしくは日足の包み足や長い上ヒゲ)が出る、騰落レシオが高水準で横ばいから下向きに転じる、出来高が減る、先物が引けにかけて弱い、など複数条件を揃えます。ひとつの指標で売らないことが鉄則です。
さらに、短期売りは損切りを浅く置ける状況でのみ実行します。たとえばレジスタンス近辺での小さな売り、損切りは直近高値の少し上、利確はVWAPや5分足の支持まで、というように“狙う値幅”を最初から限定します。過熱局面の逆張りは、当てるゲームではなく、負けを小さくするゲームです。
手仕舞いの精度を上げる補助指標:一緒に見るべき3つ
騰落レシオは相場全体の温度計ですが、出口のタイミングをさらに精密化するために、補助指標を3つだけ追加します。増やしすぎると判断が遅れます。
1つ目は、移動平均線の傾きです。たとえば日足の25日線が急角度で上がっているうちは、過熱でも崩れにくいことが多い。逆に25日線が横ばいに変化したら、過熱が剥がれやすい。ここで利確比率を上げます。
2つ目は、出来高の変化です。過熱局面での出来高急増は、上昇の加速にも天井の兆候にもなります。判断は「出来高が増えたのに上がらない」時です。これは買いの力が枯れてきたサインになりやすい。上ヒゲや寄り天とセットなら、利益確定を優先します。
3つ目は、ボラティリティです。日足の値幅が急拡大し始めたら、トレンド終盤の可能性が上がります。ATRが上がり、上下に大きく振れるなら、トレーリングストップを“広げる”のではなく、利確割合を増やしてリスク量を落とす方が安全です。
初心者がやりがちな失敗と、避けるためのチェックリスト
失敗1:騰落レシオ120超えで全銘柄を即売りしてしまう。強い相場では取りこぼしが大きく、次から怖くて乗れなくなります。対策は、必ず「一部利確+残りは構造で撤退」に固定することです。
失敗2:過熱を見て逆張り売りを仕掛け、踏まれて損失を拡大する。対策は、売りは“上昇が止まった後”だけ、損切りを極小にできる場所だけ、の二条件を守ることです。
失敗3:利確した後、調整の押し目を待てずに高値で買い直して往復ビンタになる。対策は、再エントリー条件を数値化しておくことです。たとえば「騰落レシオが110以下」「価格が25日線付近」「出来高が減少」「日足で反発の陽線」など、最低2条件を満たしたら入る、と決めます。
運用テンプレ:あなたのルールを紙に落とす(そのまま使える)
最後に、騰落レシオ120超え局面での“運用テンプレ”を文章として完成させます。これを自分のルールとして保存し、毎回同じ手順で処理します。
(1)25日騰落レシオが120を超えたら、以後の新規エントリーはサイズを通常の50〜70%に落とす。飛びつき買いは禁止し、押し目の形(支持帯、出来高減少、VWAP回復など)が出た場合のみ入る。
(2)保有銘柄は、まず30〜50%を利益確定して心理的余裕を作る。利確の理由は“過熱環境”であり、天井を当てる目的ではない。
(3)残りは価格構造で守る。押し安値割れで半分、5日線終値割れで全撤退、など二段ストップを置く。利確後に急落しても「利益の一部を守れた」状態を維持する。
(4)撤退後は、再エントリー条件を監視する。騰落レシオが110前後まで低下し、価格が25日線や支持帯で下げ止まり、売りの出来高が減ったら小さく入り直す。損切りは直近安値の少し下に置き、勝てる形だけを取る。
このテンプレを守るだけで、過熱局面での“早売り”と“握力不足”と“高値掴みの買い直し”が減り、結果として利益の総量が増えやすくなります。騰落レシオは未来を当てる道具ではなく、環境に応じて自分の行動を変えるための道具です。過熱を恐れるのではなく、過熱を利用して利益の取り方を上手くする。ここに焦点を置いて運用してください。


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