- この記事で扱う戦略の位置づけ
- MACDの最低限(ただし実戦で必要な部分だけ)
- 「ゼロ付近GC」が機能しやすい局面・しにくい局面
- コア条件(エントリーの骨格)
- (A)MACD条件:ゼロ付近の定義を数値で決める
- (B)価格条件:クロスを「価格の仕事」で裏付ける
- (C)出来高/流動性条件:勝てる場所にだけ参加する
- (D)損切り条件:初動戦略は「切る」までがセット
- 具体的なエントリー手順(5分足デイトレ例)
- スイングで使う場合の設計(日足例)
- ダマシを減らすための“追加条件”3つ
- よくある失敗パターンと対策
- 検証(バックテスト)のやり方:個人が現実的に回せる方法
- 実戦での“組み合わせ”例:あなたの板読み・需給観測を活かす
- まとめ:勝てる形にするための最重要ポイント
この記事で扱う戦略の位置づけ
MACD(Moving Average Convergence Divergence)は、短期と長期の移動平均の差(MACDライン)と、その移動平均(シグナル)を比較して、トレンドの転換や加速を捉える指標です。ゴールデンクロス(MACDラインがシグナルを上抜く)は「買いサイン」と語られがちですが、現実にはレンジで頻発し、機械的に使うほど損失が膨らみます。
そこで本稿は、ゼロライン付近でのゴールデンクロス(以下、ゼロ付近GC)に限定して「トレンドが生まれ始める局面の初動」を狙う設計に絞ります。ゼロ付近は“短期平均が長期平均に追いつき始めた”状態で、上手く条件設計すると、天井掴みになりにくい一方、ダマシも増えやすい危険地帯です。ここを条件の分解と執行ルールで「勝ち筋が残る形」に整えます。
MACDの最低限(ただし実戦で必要な部分だけ)
MACDは一般に「12EMA−26EMA」をMACDライン、「MACDの9EMA」をシグナルとして使います。ヒストグラムはMACD−シグナルで、勢いの増減を視覚化します。重要なのは暗記ではなく、次の3点です。
①ゼロライン:MACDが0を上回る=短期EMAが長期EMAを上回る(上昇トレンド寄り)、0を下回る=下落トレンド寄り。
②クロス:MACDがシグナルを上抜く=短期の上昇加速が“今起きた”。ただし、レンジでは加速がすぐ失速するためダマシになる。
③ヒストグラム:クロスした“後”に勢いが続くか(ヒストが伸びるか)で、同じGCでも当たり外れが分かれる。
「ゼロ付近GC」が機能しやすい局面・しにくい局面
ゼロ付近GCが機能しやすいのは、下降トレンド→下げ止まり→反転の芽が出たとき、または揉み合い上抜け直前です。一方で、同じ揉み合いでも値幅が小さすぎる(ボラが死んでいる)と、クロスが連発して手数料負けになりやすいです。
相場環境を雑に言い換えると、次の2択です。
向く:「ボラはあるが方向がまだ定まらない」→方向が定まった瞬間を取れる。
向かない:「ボラがない」または「強い下落の途中」→ゼロ付近GCが出ても跳ね返される。
コア条件(エントリーの骨格)
ここからが本題です。ゼロ付近GCは“条件が少ないほど危険”です。私は最低でも(A)MACD条件+(B)価格条件+(C)出来高/流動性条件+(D)損切り条件をセットで運用します。どれかが欠けると、勝率か損益比が崩れやすいです。
(A)MACD条件:ゼロ付近の定義を数値で決める
「ゼロ付近」は曖昧にすると検証不能です。おすすめは、MACDの絶対値が一定以下という定義です。例えば日足なら「|MACD| ≤ 0.15(銘柄のボラ次第)」のように“固定値”にするより、ATRや価格に対する相対値で揃える方が汎用性が上がります。
実用的には、次のように決めると検証しやすいです。
・日足/4時間足:|MACD| ≤ 0.0X × 価格(例:0.1%〜0.3%)
・5分足/15分足:|MACD| ≤ 0.0X × 価格(例:0.02%〜0.08%)
さらに、GCが出た瞬間だけでなく、ヒストグラムが0を上抜き、かつ直近2〜3本で拡大している条件を加えると、初動の“継続率”が上がります。
(B)価格条件:クロスを「価格の仕事」で裏付ける
MACDは遅行指標です。遅行を補うのが価格条件です。ゼロ付近GCの初動を狙うなら、次のどれかを最低1つ入れてください。
条件1:直近の戻り高値を更新
例:日足なら直近5〜10本の高値、5分足なら直近6〜12本(30〜60分)の高値を上抜いたタイミングでエントリー。MACDのGCが出ても価格が高値更新できないなら、上昇トレンドが“まだ弱い”可能性が高いです。
条件2:VWAP回復(デイトレ向け)
寄り付き後の銘柄なら、VWAPを上抜いて“VWAP上で維持”できるかが重要です。ゼロ付近GCが出てもVWAPを割っている時間が長いと、買いが続かず押し戻されやすいです。
条件3:5分足の終値が上昇トレンドの形
「上ヒゲではなく実体で上抜く」「安値を切り上げる」など、ローソク足の形で“買いが残った”ことを確認します。特に初動では、ヒゲだけの上抜きはダマシの典型です。
(C)出来高/流動性条件:勝てる場所にだけ参加する
ゼロ付近GCは“薄商い”で簡単に壊れます。個人が実戦で一番やりがちなのは、出来高が死んだ銘柄でテクニカルを信じてしまうことです。そこで、次の条件を入れます。
出来高条件(例)
・5分足:当該足出来高が直前5本平均の1.5〜2.0倍以上
・日足:当日出来高が20日平均の1.2倍以上(できれば1.5倍)
スプレッド条件(体感でOK)
板が薄く、買い気配と売り気配の間が広い銘柄は“サインが正しくても執行で負ける”ので除外します。指値が刺さらず、成行だと滑るなら、その時点で戦略の前提が崩れています。
(D)損切り条件:初動戦略は「切る」までがセット
初動狙いの最大の武器は「損切りが小さくできる」ことです。逆に言えば、切れないとただの逆張り地獄になります。損切りは曖昧にせず、価格の構造で決めます。
基本の損切り候補
・直近の押し安値割れ(5分足なら直近2〜4本の安値)
・VWAP再割れ(VWAP回復を条件にした場合)
・GC直後にヒストグラムが再び縮小し、0割れ(勢いが消えた)
特に「ヒストが伸びない」パターンは、時間の無駄になりやすいです。初動戦略では、時間切れ(タイムストップ)も強力です。例えば5分足なら「エントリー後3本(15分)で含み益にならないなら撤退」と決めるだけで、ジリジリ負けを減らせます。
具体的なエントリー手順(5分足デイトレ例)
ここでは日本株のデイトレを想定し、寄り付き後の押し目〜反転の初動を取る手順を、実際の画面運用に近い形で説明します。
Step1:監視銘柄の条件
・当日テーマ/材料/ランキングで注目され、出来高が入っている
・前日終値付近〜やや下から切り返し(下げ一巡)
・板が薄すぎない(スプレッドが広すぎない)
Step2:5分足でゼロ付近GCの“候補”を待つ
MACD(12,26,9)で、MACDラインがシグナルを上抜く瞬間が近づいたら、同時にヒストグラムが0に近づいているかを見る。ここで焦って成行で入らない。まだ“候補”です。
Step3:価格条件で確定させる
・直近30〜60分の戻り高値を更新(できれば終値で)
・同じ足で出来高が増える(直前平均の1.5倍以上が目安)
この2つが揃ったら、初めて「GCが意味を持った」と判断します。
Step4:執行は“成行固定”にしない
初動は成行で叩きたくなりますが、滑りが大きいと期待値が崩れます。おすすめは、ブレイク直後に指値を置き、刺さらなければ見送る運用です。取り逃しのストレスより、期待値の維持を優先します。
Step5:利確は2段階(初動+伸び)
初動戦略は、全利確より分割が向きます。例えば、
・第1利確:1R(損切り幅と同じ値幅)で半分落とす
・第2利確:VWAP乖離や直近高値の節目で残りを伸ばす
こうすると、勝率が多少下がってもトータルの損益が安定しやすいです。
スイングで使う場合の設計(日足例)
日足でのゼロ付近GCは、デイトレより“ダマシが減る”一方で、損切り幅が大きくなりやすいです。そこで、条件を少し変えます。
日足の推奨フィルタ
・25日線が横ばい〜上向きに変化し始めたタイミング
・出来高が20日平均を上回る日が増える(需給が戻る)
・直近のレジスタンス(例:直近2〜3週間高値)を終値で突破
利確は「直近高値」「75日線」「前回の出来高ピーク価格帯」など、上値が重くなりやすい場所を“先に決めて”おくのが有効です。MACDでの手仕舞い(デッドクロス待ち)は遅れやすく、利益を吐き出しがちです。
ダマシを減らすための“追加条件”3つ
ゼロ付近GCはどうしてもダマシが出ます。そこで、相場の質を判定する追加条件を3つ紹介します。全部入れる必要はありませんが、バックテストして強いものだけ残してください。
追加1:トレンドの芽(高値切り上げ)
GCの直前に、価格が「安値切り上げ」を2回以上作っているか。ここがないGCは、ただの戻りで終わりやすいです。
追加2:ATRの底打ち
ボラが低下し続けた後のGCは、値幅が出ずに失速しがちです。ATR(14)が下げ止まり、上向きに変化する兆しがあると、初動が伸びやすいです。
追加3:出来高の“質”
出来高が増えていても、上値で売りが厚く吸収されていると伸びません。板・歩み値で「同サイズの成行買いが継続」「約定が上に偏る」など、上方向の圧力があるかを確認すると精度が上がります。
よくある失敗パターンと対策
失敗1:クロスした瞬間に飛びつく
MACDは遅行です。クロスだけで入ると、レンジの往復に巻き込まれます。必ず「高値更新」「VWAP回復」「出来高増」などで裏付けてから入る。
失敗2:損切りが遠い
初動戦略で損切りが遠いのは致命傷です。直近押し安値やVWAP再割れなど、構造で切る。迷うならロットを落とす。
失敗3:薄い銘柄でやる
スプレッド負けは取り返せません。出来高条件に達していない銘柄は、いくら形が良くてもやらない。
検証(バックテスト)のやり方:個人が現実的に回せる方法
勝てるかどうかは、ルールの言い回しではなく「検証で数字が出るか」です。個人が現実的に回せる検証手順を示します。
①条件を“1行で書ける”形に落とす
例:5分足で「|MACD|≤0.05% ×価格」「MACD>Signal」「Histが直近2本で増加」「直近12本高値更新」「出来高>直前5本平均×1.5」。このレベルまで分解します。
②対象期間を決める
相場は変わります。最低でも“上げ相場”“下げ相場”“ボックス”を含む期間で見ます。単月だけで勝っても再現性がありません。
③コストを入れる
手数料・スリッページを保守的に見積もる。特に成行中心だと、結果が大きく変わります。
④アウトプットは勝率より期待値
勝率が高くても1回の負けが大きいと崩れます。「平均利益−平均損失」「プロフィットファクター」「最大ドローダウン」を最低限見ます。
実戦での“組み合わせ”例:あなたの板読み・需給観測を活かす
あなたが普段使っている「歩み値の成行連続」「板の買い厚」「1ティック飛びで消える売り板」などのマイクロストラクチャ観測は、MACDの弱点(遅行)を埋めるのに相性が良いです。組み合わせ例を提示します。
組み合わせ例1:ゼロ付近GC×歩み値の成行買い連続
GCが出た“後”に、同方向の成行が継続しているなら、初動が本物である確率が上がります。逆に、GC直後に成行が消えるなら見送る。
組み合わせ例2:ゼロ付近GC×VWAP回復
VWAP回復を確認してからGCが出る、またはGCと同時にVWAPを抜く形は強いです。VWAPを上で維持できないなら、初動が失速する典型です。
組み合わせ例3:ゼロ付近GC×前日高値/安値のブレイク
前日高値を抜く局面でGCが重なると、短期勢と中期勢の利害が揃いやすいです。反対に、重要な抵抗帯直下でのGCは“壁に当たって終わる”ことが多いです。
まとめ:勝てる形にするための最重要ポイント
ゼロ付近GCは、早い段階でトレンドの芽を拾える一方、条件が甘いとダマシで削られます。勝ち筋を残すコツはシンプルです。
・「ゼロ付近」を数値で定義し、検証可能にする
・クロス単体で入らず、価格条件(高値更新/VWAP回復/終値の形)で確定させる
・出来高と流動性がある場所だけに参加する
・損切りは構造(押し安値/VWAP/勢い消失)+時間切れで機械化する
・勝率より期待値で最終判断し、コストを必ず織り込む
この型をベースに、あなたが得意な板・歩み値の観測を足せば、テクニカルの“遅行”を実戦用に補正できます。ルールを一度言語化し、検証で数字が出た形だけを残していくのが、最短で安定に近づく道です。


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