フィボナッチ・リトレースメント徹底活用ガイド：押し目と戻り目を狙うシンプル戦略

チャート分析の本やSNSでよく目にする「フィボナッチ・リトレースメント」は、プロトレーダーも多用する有名なツールです。ただ、初めて触れる初心者にとっては「線が多くてよく分からない」「本当に役に立つのか？」と感じやすい指標でもあります。

本記事では、フィボナッチ・リトレースメントをトレンド相場の押し目買い・戻り売りに絞って活用する方法を解説します。FXでも株でも応用できるシンプルな使い方に集中し、「どこでエントリーし、どこに損切りを置くのか」という実際の判断プロセスまで具体的に説明します。

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フィボナッチ・リトレースメントとは何か

フィボナッチ・リトレースメントは、相場が一方向に大きく動いたあと、どのあたりまで押し戻されやすいかを、あらかじめ目安として可視化するためのツールです。多くのチャートソフトでは「フィボナッチ・リトレースメント」ツールを選び、安値と高値をドラッグするだけで自動的にラインが描画されます。

一般的に使用される水準は次の通りです。

• 23.6%
• 38.2%
• 50.0%
• 61.8%
• 78.6%

特に意識されやすいのは38.2％・50％・61.8％の3つです。「トレンド方向への押し（戻り）がどこまで来そうか」をざっくりとイメージするための“ものさし”だと考えると分かりやすいです。

なぜ多くのトレーダーがフィボナッチを意識するのか

フィボナッチ比率は自然界や金融市場でしばしば観察される「黄金比」として知られていますが、トレードで重要なのは「多くの市場参加者が意識している」という事実です。多くのトレーダーが同じ水準で注文を出せば、その価格帯は自然とサポート・レジスタンスとして機能しやすくなります。

つまり、フィボナッチを使う目的は、「自然界の神秘」を検証することではなく、他の参加者が見ていそうなポイントを自分も共有することにあります。そのうえで、ローソク足の形や出来高、他のテクニカル指標と重ねることで、より精度の高いエントリーポイントを探ります。

フィボナッチ・リトレースメントの基本的な引き方

使い方はシンプルで、直近の明確なトレンドの安値と高値を結ぶだけです。

上昇トレンドの場合

1. 明確な上昇トレンドが出ている銘柄や通貨ペアを選ぶ
2. 直近の押し目をつける前の安値から、直近の高値までツールでドラッグする
3. チャート上に、23.6％〜61.8％などのラインが自動的に描画される

このとき、上から順に「23.6%」「38.2%」「50.0%」「61.8%」というように、価格がどこまで押しやすいかの候補が見えるようになります。一般的には38.2％〜61.8％のゾーンがもっとも意識されやすい押し目候補です。

下降トレンドの場合

1. 明確な下降トレンドが出ている銘柄や通貨ペアを選ぶ
2. 直近の戻りをつける前の高値から、直近の安値に向かってドラッグする
3. 価格が戻りやすいポイントとして、38.2％〜61.8％が候補になる

下降トレンドでは、これらの水準が戻り売りポイントとして意識されやすくなります。

初心者におすすめの基本戦略：38.2％〜61.8％ゾーンを「押し目・戻り目ゾーン」として使う

すべてのラインを同じように扱うと判断がブレます。初心者は、まず38.2％〜61.8％の間を「押し目ゾーン／戻り目ゾーン」としてざっくり捉えるところから始めるのがおすすめです。

具体的には、次のようなイメージです。

• 上昇トレンド：38.2％〜61.8％に下げてきたところで「押し目買い候補」
• 下降トレンド：38.2％〜61.8％に戻ってきたところで「戻り売り候補」

ただし、ゾーンに触れたから即エントリーではなく、ローソク足の反転サインや出来高、移動平均線との位置関係などを確認してから判断します。

具体例①：FX（USD/JPY）の上昇トレンドで押し目買い

例として、USD/JPYが強い上昇トレンドにある場面を想定します。

1. 直近の安値が145円、高値が150円まで一気に上昇したとします。
2. チャート上で145円の安値から150円の高値へフィボナッチ・リトレースメントを引きます。
3. 38.2％ラインは約148.1円、50％ラインは147.5円、61.8％ラインは146.9円付近に表示されます。

その後、価格が高値150円から一度下落し、147円〜148円台で下げ止まりの兆候（下ヒゲの長いローソク足や陽線への転換など）が見られたとします。このとき、

• 「38.2％〜61.8％ゾーン」にちょうど入っている
• 過去の水平サポートラインとも重なっている
• 短期移動平均線（例えば20MA）がちょうどそのゾーンに位置している

といった条件がそろえば、「押し目買いの候補」として検討する余地が出てきます。

エントリーは、反発を確認したローソク足の高値をわずかに上回る価格に買い注文を置き、損切りは直近安値（例えば61.8％ラインの少し下）に設定する、といった形が基本的な考え方です。

具体例②：日本株のグロース銘柄で押し目買い

株式でもフィボナッチ・リトレースメントは有効に機能することがあります。例えば、好決算を発表した成長株が、短期間で株価を大きく上げ、その後に調整局面を迎える場面を考えます。

1. 決算発表前の株価が1,000円、決算後の高値が1,500円まで急騰したとします。
2. 1,000円を安値、1,500円を高値としてフィボナッチを引きます。
3. 38.2％ラインは約1,310円、50％ラインは1,250円、61.8％ラインは約1,190円付近になります。

ここから株価が調整に入り、出来高を伴いながら1,250円〜1,300円で下げ止まる様子が見られた場合、

• フィボナッチ50％前後の水準である
• 日足の25日移動平均線が近くに位置している
• 過去に何度も意識された価格帯（サポートゾーン）と重なっている

といった条件がそろえば、押し目買いを検討できる局面になります。もちろん、「どこまで押すか」は誰にも分かりませんが、フィボナッチを使うことで、あらかじめ押し目候補の価格帯を具体的な数字でイメージできるようになります。

損切りと利確の考え方：フィボナッチを「目安」に使う

フィボナッチ・リトレースメントで押し目・戻り目を狙うとき、重要なのは損切りと利確のルールを事前に決めることです。

損切りの目安

• 上昇トレンドの押し目買い：
  61.8％ライン付近でエントリーする場合は、その少し下に損切りラインを置く
• 下降トレンドの戻り売り：
  61.8％ライン付近で売りエントリーする場合は、その少し上に損切りラインを置く

あくまで目安であり、チャートの形状（直近の安値・高値、サポート・レジスタンス）も合わせて考慮します。大事なのは、「フィボナッチラインを完全に割り込んだら、一旦シナリオが崩れた」と判断することです。

利確の目安

利確については、次のような方法があります。

• 直近高値（上昇トレンド）または直近安値（下降トレンド）付近で一部または全て利確する
• フィボナッチ・エクステンション（161.8％など）を使って利益目標を設定する
• トレーリングストップで利益を伸ばしつつ、途中での反転に備える

初心者のうちは、「直近高値／安値付近で利確するシンプルなルール」から始めるのがおすすめです。そのうえで、慣れてきたらエクステンションやトレーリングストップを組み合わせていくとよいでしょう。

フィボナッチが機能しやすい相場・しにくい相場

どんな優れたツールでも、万能ではありません。フィボナッチ・リトレースメントも、機能しやすい相場と、そうでない相場があります。

機能しやすい相場

• 明確なトレンドが出ている相場（ダラダラしたレンジではない）
• ニュースや材料によって一方向の動きが出たあと、その反動で押しやすい局面
• 多くのトレーダーが注目している主要通貨ペアや大型株

機能しにくい相場

• 値動きが細かく上下するレンジ相場
• 流動性が低く、スプレッドが広いマイナー通貨ペアや小型株
• 乱高下が激しく、短時間で高値安値が頻繁に更新される相場

大切なのは、「なんでもかんでもフィボナッチを当てる」のではなく、明確なトレンドが出ている場面を選んで使うことです。ツール以前に、相場環境の見極めが利益に直結します。

移動平均線やトレンドラインとの組み合わせ

フィボナッチだけで判断するよりも、他のテクニカル指標と重なるポイントを重視した方が精度は高まりやすくなります。

• フィボナッチ61.8％ライン付近に日足25日移動平均線が重なる
• フィボナッチ50％ライン付近が、過去のサポートライン（水平線）と一致する
• フィボナッチ38.2％ライン付近に、上昇トレンドラインがちょうど位置している

このように、複数の根拠が重なったポイントは、「他の市場参加者も意識しやすい価格帯」になります。エントリー前に、「この価格帯にはいくつ根拠が重なっているか」を数えてみる癖をつけると、無駄なエントリーを減らすことにつながります。

よくある失敗パターンと対策

失敗パターン①：押し目を待ちすぎてエントリーできない

「61.8％まで下がったら買おう」と決めていたのに、実際には38.2％付近で反発してそのまま上昇してしまい、「結局乗れなかった」というケースはよくあります。この場合、

• 複数の候補ラインのうち、どこでポジションを分割して入るか事前に決めておく
• 例えば「38.2％で1/3ロット、50％で1/3ロット、61.8％で残り1/3ロット」といった分割エントリーを検討する

といった工夫が有効です。

失敗パターン②：ラインを過信してナンピンを繰り返す

「61.8％まで来たから絶対反発するはず」と思い込み、反発しないのにナンピンを繰り返すのは危険です。フィボナッチはあくまで目安であり、「絶対に反発するライン」ではありません。

対策として、

• あらかじめ最大保有ロットと損切り幅を決めておき、それを超えるポジションは絶対に増やさない
• フィボナッチラインを明確に割り込んだら、一度ポジションを手仕舞うルールを作る

など、「負けたときのダメージを限定する」仕組みを用意しておくことが重要です。

失敗パターン③：レンジ相場で無理にフィボナッチを使う

レンジ相場にフィボナッチを当てても、押し目・戻り目というよりは、単なる上下のノイズに振り回されることが多くなります。トレンドが出ている時間軸（日足・4時間足など）を確認し、そのうえで短い時間軸（1時間足・15分足など）にフィボナッチを重ねる、といった使い方が効果的です。

時間軸の選び方：上位足でトレンドを確認し、下位足でエントリー

フィボナッチ・リトレースメントを使うときは、上位足でトレンドを確認し、下位足でエントリーポイントを絞り込むという流れが基本です。

• 日足：大きなトレンドの方向と、押し目・戻り目の大枠を把握
• 4時間足：押し目・戻り目のゾーンを具体的な価格帯として確認
• 1時間足や15分足：実際のエントリータイミング（反転サイン）を探す

上位足で引いたフィボナッチラインは、多くのトレーダーが意識しやすいため、サポート・レジスタンスとして機能しやすくなります。そのうえで、下位足のローソク足パターンや出来高を確認して、タイミングを見極めます。

自分のルールにフィボナッチを組み込む

最後に重要なのは、フィボナッチ・リトレースメントを「なんとなく使う」のではなく、自分のトレードルールの一部として明文化することです。例えば、次のようなルールが考えられます。

• 日足で明確なトレンドが出ている銘柄・通貨ペアだけを対象にする
• 押し目・戻り目は、38.2％〜61.8％のゾーンに絞る
• フィボナッチラインと移動平均線、水平サポートラインの重なりがあるポイントだけをエントリー候補とする
• 損切りは、エントリー根拠となったラインの少し外側に置く
• 利確は、直近高値（安値）またはリスクリワード比が1:2以上になった地点を目安とする

このように、「どの条件がそろったらエントリーしてよいのか」を具体的な文章として書き出しておくと、感情に振り回されにくくなります。フィボナッチは、そのルールの中で「押し目・戻り目の候補を可視化するツール」として位置づけるとよいでしょう。

まとめ：フィボナッチは「押し目・戻り目の地図」として活用する

フィボナッチ・リトレースメントは、一見すると難しそうに見えますが、実際には「トレンド相場で押し目・戻り目の候補を見える化するツール」です。特に38.2％〜61.8％のゾーンは、多くのトレーダーが注目するエリアであり、上手く使えばエントリー精度向上に役立ちます。

ただし、フィボナッチだけに頼るのではなく、トレンドの有無、移動平均線、サポート・レジスタンス、ローソク足パターンなど、複数の根拠を組み合わせることが重要です。ツールの仕組みを理解し、自分のルールに組み込むことで、長期的に再現性のあるトレードスタイルに近づくことができます。

まずはデモ口座や少額から、実際のチャートでフィボナッチ・リトレースメントを引いてみて、「どのラインで価格が反応しやすいのか」を観察するところから始めてみてください。