- この記事で扱うテーマ
- なぜ投資シミュレーションが重要なのか
- 今回のシミュレーションの前提(現実的に組む)
- ルール設計:3つの“エンジン”を組み合わせる
- Excelでの作り方:最低限の列で“回る”形にする
- 具体例:月5万円積立+下落買い+年1リバランス
- 結果の読み方:リターンだけを見ない
- 3つの相場シナリオで“壊れないか”をチェックする
- オリジナリティ:現金比率を“相場”ではなく“自分”で決める方法
- 追加投資の設計:やりすぎを防ぐ“弾薬管理”
- よくある失敗:シミュレーションが“自分に都合よく”なるポイント
- 実運用に落とす:月1回のチェック項目
- ケーススタディ:同じ積立でも結果が変わる“行動の差”
- まとめ:投資は“戦略”より“運用ルール”が勝ち筋
この記事で扱うテーマ
今回のテーマは「投資シミュレーション記事」です。具体的には、毎月積立(DCA)に、下落局面での追加投資とリバランス、さらに現金比率ルールを組み合わせ、「感情に左右されずに資産を増やす仕組み」を作ります。
ポイントは、難しい理論やプログラミングではなく、Excelで再現できる“ルールの形”に落とすことです。ルールに落ちた瞬間、投資は「意思決定の連続」から「実行の作業」へ変わります。ここに再現性が生まれます。
なぜ投資シミュレーションが重要なのか
投資で負ける典型パターンは、知識不足ではなく意思決定のブレです。上がると強気になり、下がると怖くなり、結局「高値で買って安値で売る」になりがちです。
ここで効くのがシミュレーションです。シミュレーションは未来を当てるものではありません。自分のルールが、どの程度の損益ブレ(ボラティリティ)と損失(ドローダウン)を許容するかを可視化し、「その程度なら続けられる」という設計図を作る道具です。
投資は“正解探し”ではなく“継続可能な設計”です。設計の核は次の3点です。
① どれだけ下がっても続けられる投入額か
② 下落時にやること(買う/買わない)を決めてあるか
③ 上昇時に利益を確定する仕組み(リバランス)があるか
今回のシミュレーションの前提(現実的に組む)
シミュレーションの前提を甘くすると、どんな戦略も“良く見えます”。逆に厳しすぎると、何もできません。ここでは個人投資家が現実に扱える前提に寄せます。
対象資産(例)
例として、次のような「株式+債券+現金」を想定します。銘柄は固定しません。重要なのは“比率”です。
・株式(リスク資産):全世界株、米国株、日本株など(どれでも良い)
・債券(クッション):国内債券、先進国債券、短期債券など
・現金(待機資金):普通預金・MMF等(安全性重視)
時間軸
毎月積立を基本とし、期間は10年を推奨します。投資は短期で「運の要素」が強くなります。10年あればルールの弱点が見えます。
コスト
信託報酬や売買コストなどは、雑にゼロにしない方が良いです。Excelでは次のように置くと現実に近づきます。
・年率コスト(合算):0.2%〜0.6%(商品により変動)
・売買コスト:リバランス時に0.05%〜0.2%程度(目安)
税金
制度や口座で結果が変わりますが、シミュレーションの核は「ルールの耐久性」です。税は後で乗せられます。まずは、税引き前でルールを固め、次に税を加味する流れが実務的です。
ルール設計:3つの“エンジン”を組み合わせる
今回の戦略は、次の3つを組み合わせます。
エンジン1:毎月積立(DCA)
積立は「平均取得単価を平準化する」だけではありません。最大の効用は市場に居続けることです。市場から降りるタイミングを自分で決めるのは難しく、タイミング投資は多くの人にとって再現性が低い。積立は“居続ける仕組み”です。
Excel上では毎月の入金額を固定し、株式・債券に一定比率で配分します(例:株60%・債券30%・現金10%)。
エンジン2:下落局面の追加投資(「恐怖」を数値化)
下落時に「買える人」は少ないです。だから、下落時に買える仕組みを作ります。具体的には株式の高値からの下落率(ドローダウン)で追加投資を発動させます。
例:株式が直近高値から
・-10%:追加投資 1か月分
・-20%:追加投資 2か月分
・-30%:追加投資 3か月分
この追加投資の原資は“現金枠”です。だから最初に現金比率を設計しておく必要があります。下落時の買い増しができない人は、たいてい現金がない(または借金でやろうとして破綻する)です。
エンジン3:リバランス(利益確定とリスク抑制の自動化)
上がり続ける相場では株式比率が勝手に上がります。放置すると“いつの間にかフルリスク”になります。リバランスは、上がった資産を売って比率を戻すため、心理的には難しいですが、仕組みにすれば勝手にやれます。
リバランス方法は2つあります。
・カレンダー型:年1回(例:12月末)に目標比率へ戻す
・バンド型:目標比率から乖離が一定以上なら戻す(例:株式目標60%→実績が66%超 or 54%未満で調整)
初心者はカレンダー型が扱いやすいです。バンド型は売買回数が増えやすいので、コスト管理が重要になります。
Excelでの作り方:最低限の列で“回る”形にする
Excelは「綺麗なモデル」を作ると破綻します。最小構成で回すべきです。列は最低でも次で成立します。
① 日付(または月)
2026-01, 2026-02…のように月単位でOKです。
② 入金額(積立額)
固定(例:毎月5万円)。途中で変えるなら「いつ・なぜ・どう変えるか」をルール化します。
③ 各資産のリターン(株・債券)
ここは手動入力でも良いですが、現実的には指数データを貼り付けて月次リターンを作ります。データは後から差し替えられるよう、別シートに置くと運用しやすいです。
④ 評価額(株・債券・現金)
前月評価額×(1+リターン)に、今月の配分購入を足します。
⑤ 直近高値と下落率(株式)
株式評価額(または株式指数)の「過去最大値」を保持し、そこからの下落率を計算します。これが追加投資トリガーになります。
⑥ 追加投資額(現金→株へ)
下落率に応じて、追加投資額を決めます。追加投資は「やる/やらない」ではなく「条件を満たしたら実行」だけにします。
⑦ リバランス調整額(年1回)
年末に目標比率へ戻すため、売買額を計算します。売りが発生した場合は税やコストが効きますが、まずは税引き前で検証→次に現実要素を足すのが堅いです。
具体例:月5万円積立+下落買い+年1リバランス
ここから“数字のイメージ”を作ります。条件例は次です。
・毎月積立:5万円
・配分:株60%・債券30%・現金10%
・追加投資:-10%で5万円、-20%で10万円、-30%で15万円(累積ではなく、その月の発動)
・リバランス:年1回、12月末に目標比率へ戻す
このルールの狙い
上昇相場:株が伸びる→年末に一部利確し、債券・現金へ戻す(リスクを戻す)
下落相場:株が下がる→現金が発動し、安い価格帯で株を買い増す(回復時に効く)
つまり、相場環境に応じて“やること”が変わりますが、ルールが先に決まっているので迷いません。
結果の読み方:リターンだけを見ない
投資のシミュレーションでやりがちなのが、年率リターンだけで勝敗を決めることです。現実の投資では、耐えられる損失幅がすべてです。
見るべき指標1:最大ドローダウン(最大の含み損)
最大ドローダウンが-50%の戦略は、途中で投げる確率が跳ね上がります。結局、続かなければ勝てません。目安としては、初心者なら-20%〜-30%を超える設計は慎重に扱うべきです(もちろん資金力や性格で変わります)。
見るべき指標2:回復までの期間
含み損から元に戻るまでの期間が長いと、人は耐えられません。ここを短くするのが、現金枠+下落買い+リバランスの役割です。
見るべき指標3:投下資金に対する最終資産(IRRより先に)
複雑な指標に行く前に、まず「積み立てた総額に対して最終資産がどれだけ上か」を確認します。初心者ほどIRRなどの“綺麗な数字”で錯覚します。シンプルな比較が最強です。
3つの相場シナリオで“壊れないか”をチェックする
未来は当たりませんが、過去に起きた“タイプの違う相場”で壊れないかは見られます。次の3シナリオを想定します。
シナリオA:右肩上がり(緩やかな上昇相場)
この相場では、普通の積立でも結果は良くなりがちです。差が出るのは「どれだけリスクを増やしすぎずに伸ばせるか」です。リバランスが効いて、資産配分が暴走しないかを見ます。
シナリオB:急落→回復(V字)
ここで下落買いが最も効きます。ただし現金枠が小さいと買い増しができず、心理的に負けます。逆に現金枠が大きすぎると上昇相場で伸びません。現金は“保険料”です。保険料を払いすぎると成績が落ちます。
シナリオC:長期低迷(ヨコヨコ・じり下げ)
一番きついのがこの相場です。下落買いは発動するが、回復が遅い。ここで重要なのは、追加投資を打ち尽くさない設計です。-10%-20%-30%で使い切ると、-40%-50%で詰みます。だから追加投資の原資は「現金枠の一部」だけにし、段階的に温存するのが合理的です。
オリジナリティ:現金比率を“相場”ではなく“自分”で決める方法
ここが今回の記事の核です。多くの解説は「現金比率は○%が良い」と言います。しかし現金比率の正解は、相場ではなくあなたの耐久力で決まります。
決め方は単純で、最大ドローダウンに耐えられるかから逆算します。
耐久力から逆算する手順
手順1:「一時的に資産が何%減っても、売らずに続けられるか」を決めます(例:-25%まで)
手順2:株式比率を仮に置き、過去相場での最大ドローダウンを当てます(例:株60%なら-25%程度に収まるか)
手順3:耐えられないなら、株比率を下げ、債券・現金へ回します
この方法は「相場観」に依存しません。重要なのは“続けられる設計”です。上手い人ほど、ここを雑にしません。
追加投資の設計:やりすぎを防ぐ“弾薬管理”
下落時の買い増しは強力ですが、やりすぎると破綻します。ここで重要なのが弾薬管理です。
ルール例:現金枠を3つに分ける
・待機現金(安全資金):生活防衛・緊急用(投資に使わない)
・追加投資現金(弾薬):下落買い専用(ここだけを使う)
・リバランス用現金:売買の誤差吸収用
Excel上では、追加投資現金を「上限○円」として固定し、発動しても上限を超えないように設計します。例えば現金枠が月5万円積立の10%なら5,000円相当しか積み上がりません。下落買いをしたいなら、初期に現金を厚めに持つ、あるいはボーナス月だけ現金積み増しなど、資金計画のルールが必要になります。
よくある失敗:シミュレーションが“自分に都合よく”なるポイント
ここからは落とし穴です。シミュレーションは簡単に自分に都合よく作れます。
失敗1:最悪局面を除外する
直近の上昇相場だけで検証すると、どんな戦略も強く見えます。必ず急落局面を含む期間も走らせます。
失敗2:追加投資の原資を無視する
「下がったら買う」は資金が必要です。現金枠が薄いまま追加投資だけ豪華に設計すると、現実では実行できません。シミュレーションは「実行可能性」まで含めて評価します。
失敗3:リバランスを“やったことにする”
リバランスは売買です。売買にはコストが発生し、場合によっては税も絡みます。まずは簡易で良いので、売買コストを入れ、売りが多い設計になっていないかを確認します。
失敗4:期待リターンを盛る
期待リターンを高く置くと、リスクが見えません。保守的なリターンでも成立する設計が強いです。
実運用に落とす:月1回のチェック項目
Excelで設計したら、運用はシンプルにします。月1回のチェックで十分です。
毎月やること
① 入金(積立):定額を入れる
② 配分購入:株・債券・現金の目標比率で振り分ける
③ 下落率を確認:条件を満たしたら追加投資(現金枠から)
④ 記録:Excelに数値を転記(自動化できるなら自動化)
年1回やること
① リバランス:目標比率に戻す
② ルールの点検:比率や現金枠が“自分の耐久力”に合っているか再評価
ケーススタディ:同じ積立でも結果が変わる“行動の差”
最後に、典型的な2人を比べます。数字はイメージですが、行動の違いが結果を左右します。
投資家A:積立のみ、下落で積立停止
急落時に怖くなり、積立を止める。回復局面で再開。結果として「安い時に買わず、高い時に買う」ことになり、平均取得単価が上がる。最大の損失は“機会損失”です。
投資家B:積立+下落買い+リバランスをルールで実行
下落時ほど追加投資が発動し、回復局面で効く。上昇相場ではリバランスでリスクが暴走しない。結果として「安い時に多く買い、高い時に一部利確」になり、仕組みとして平均取得単価が下がる。
まとめ:投資は“戦略”より“運用ルール”が勝ち筋
投資で最も強いのは、天才的な銘柄選定でも、完璧な相場予測でもありません。自分が続けられるルールです。
今回の設計は、
・積立で市場に居続ける
・下落時の行動を数値化して、恐怖で止まらない
・リバランスでリスクを戻し、利益を“仕組みとして”確定する
という3点で、再現性を狙います。
次にやるべきことはシンプルです。あなたの投入額と耐久力に合わせて、株・債券・現金比率と、追加投資の弾薬上限を決め、Excelで10年分を一度回してください。結果の良し悪しよりも、「これなら続けられる」と思えるかが勝負です。


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