「お削り」戦略:パーペチュアルで1〜3bpsを積み上げる超ミクロ優位の稼ぎ方

デリバティブ

結論:ボラが出ない時間帯でも、パーペチュアル(無期限先物)では「資金調達率」「メイカー手数料リベート」「ミクロなスプレッドの非対称性」を噛み合わせることで、1〜3bps(ベーシスポイント)の超小さな優位性を反復して積み上げられます。この超短時間・極少利幅の積み上げを、本稿では便宜的に「お削り」と呼びます。マーケットメイク寄りの発想ですが、純粋な板提供に固執せず、在庫(インベントリ)を薄く保ちながら素早くヘッジして日次でPLを安定化させる設計が鍵です。

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お削り戦略の骨子

お削りは、(1) マイクロスプレッド抜き(例:0.5〜1tick)、(2) メイカーフィーのリベート、(3) 資金調達率(Funding)の3点を同時に最適化します。板の厚み・キュー優先(Queue Priority)・ティックサイズ・手数料体系が戦略の生死を分けます。基本形は「狭いスプレッド内でメイカー注文→約定後ただちにデルタをヘッジ→在庫リスクを最小化→Fundingの方向に寄せてポジション時間をコントロール」です。

対象マーケットと銘柄の選定

最初に重視するのは「スプレッド × 板厚 × 手数料」の3点セットです。具体的には以下をウォッチします:

  • スプレッド:通常時の最小ティックでの張り付き率。0〜1tickで張り付く時間が長い銘柄ほど適性が高い。
  • 板厚:最良気配の厚みと、2〜3段目までの厚みの安定性。厚みが薄いとスリップが致命傷になる。
  • 手数料:メイカーリベート>テイカーフィーの差。メイカーで回すほど手数料面がPLを支える。

銘柄はBTC、ETHが筆頭。アルトはスプレッドが広く板が薄いことが多く、スリッページ耐性とヘッジ可用性を満たすものに限定します。

ミクロ構造:キュー優先と価格改善

最良気配に並ぶだけでは順番負けし、約定が偏ります。+1tickの価格改善(微改善)数量最適化でキュー先頭を取りに行く工夫が必要です。例えば、最良売1口=10枚、あなたの売指値10枚だと後方に並びますが、9.9枚や9.8枚のユニーク数量にすると内部マッチングで優先される取引所もあります(取引所仕様要確認)。

在庫(インベントリ)管理の中核

お削りで最も多い死因は在庫の偏りです。約定が片側に寄る→含み損を抱える→取り返そうとしてテイカー連打→手数料でPLが崩れる、という悪循環。従って、以下のガードレールを必須にします:

  • 在庫バンド:例)想定元本の±0.2〜0.5%を最大在庫レンジに設定。超えたら自動的にヘッジ(テイカーでも可)。
  • 時間バンド:在庫を持つ許容時間を30〜90秒などに制限。超過したら強制平衡。
  • ボラティリティ連動:短期ATRや予測σが上がったら発注サイズを逓減、最大在庫レンジも圧縮。

ヘッジ設計:スポット vs 先物 vs クロス取引所

デルタニュートラル維持のためのヘッジ回路は複線化します。優先順位は、(1) 同一取引所の反対側(テイカー)→(2) 取引所Aで約定、取引所Bで反対(アービトラージ)→(3) スポットで反対(借入/マージン併用)。回路が複線だと遅延や板薄に対処しやすい一方、転送遅延・資金効率のコストが発生するため、実測レイテンシを必ず計測・監視します。

Funding(資金調達率)の取り込み方

Fundingは方向と発生タイミングを厳守します。基本は「ポジション滞留時間 × Funding方向」の内積をプラスに寄せること。例:ロング有利(Funding+)の時間帯に在庫がロング側へ偏りがちなら、ヘッジのタイミングをFunding付与直前〜直後に微調整して取り込みます。ただし、Fundingに固執して裁定機会を逸すると本末転倒なので、在庫リスク>Fundingの原則は崩さない。

手数料リベートの現金化

メイカー主体の約定はリベートが積み上がります。PL管理では「粗利=スプレッド抜き+Funding+リベート − テイカーフィー − スリッページ」を分解して可視化。日次で各要素の寄与度を棒グラフ化し、どのレバーが効いているかを定量把握します。もしテイカー比率が上がったら、キュー取り戦術や発注サイズを見直します。

発注ロジック:具体フロー(準リアルタイム)

  1. 板スナップショット取得(0.2秒間隔)。最良気配の厚み、2段目の厚み、直近1秒の約定回数を収集。
  2. 「流動性点数」を算出(例:score = α*best_depth + β*second_depth − γ*trade_imbalance)。スコアが閾値以上で発注許可。
  3. メイカー指値を最良気配に価格改善(+1tick)で提示。数量は在庫レンジとボラで自動調整。
  4. 約定検知→即時ヘッジ。ヘッジ選択は「同所テイカー > クロス所アービトラージ > スポット」。
  5. 在庫・時間バンドの逸脱監視。逸脱ならつねに在庫優先で解消。

リスク管理:最悪シナリオの前提

  • ラピッドギャップ:数tickの振れではなく、数十tickの一気抜け。発注一時停止のトリガーに短期σだけでなく、ニュース検知や上位足ブレイクを併用。
  • API遅延・拒否:RESTの帯域制限に備え、約定・在庫はWebSocketを主回線。バックアップ回線でダブルサブスク。
  • 異常約定:瞬間的な板消失で遠方ヒット。距離に応じた「強制縮小ロット」ルールで損失の連鎖を断つ。

実装要点:レイテンシとキュー先頭率

約定までの平均レイテンシ(送信→約定通知)と、あなたの注文がキューの先頭に立てた割合(Head-of-Queue率)を恒常的に測定。Head-of-Queue率が上がるとスプレッド抜きとリベートが同時に最適化されます。コロケーションや近接サーバ、言語選定(低GC言語)も費用対効果で検討。

バックテスト設計:板リプレイ型

お削りは終値バーのバックテストでは再現できません。板リプレイ(Level2/3)で、キュー位置・部分約定・スリッページをモデル化します。最低でも最良気配の厚みと自分の提示サイズの相対順位を追跡し、仮想Fillを積みます。現物在庫や他所ヘッジの遅延も擬似的に注入し、PLに反映させます。

定量ルールのサンプル(疑似コード)

// 発注許可
if (spread <= 1*tick) and (best_depth >= D1) and (second_depth >= D2) and (vol_sigma <= S):
    place_maker(order_price = best_bid + 1*tick, size = f(vol_sigma, inventory))
// ヘッジ
on_fill():
    hedge_choice = argmin(expected_cost(teaker_same), expected_cost(arb_cross), expected_cost(spot_margin))
    execute(hedge_choice)
// 在庫・時間バンド
if abs(inventory) >= band_qty or holding_time >= band_sec:
    flatten_now()

日次オペレーション:KPIと停止基準

  • KPI:スプレッド抜きbps、リベートbps、Funding bps、テイカー費用bps、スリップbps。
  • 規律:KPIのうち2要素以上が前日比−2σなら翌日サイズ半減。3要素以上で−3σなら自動停止。
  • レビュー:週次でティックサイズ・板厚・手数料テーブルを再評価。銘柄入替の可否を決定。

具体シナリオ(数値例)

BTC-PERP、最小ティック=0.5、メイカーリベート=0.7bps、テイカー=1.5bps。平均スプレッド=1tick。あなたは+1tick改善で先頭を取り、1回のラウンドトリップでスプレッド0.5tick(=0.25)抜き、実効で約1.0bps相当。さらに日中Fundingが+0.5bps寄与、メイカーリベート0.7bps獲得。ヘッジの一部がテイカーになり−0.6bps、平均スリップ−0.3bps。合計:約+1.3bps/回。1時間に20回転、日中6時間で実効+156bps(1.56%)…と机上では出ますが、現実は回転数・在庫逸脱・遅延で削られます。テストではこの理論値に対し0.3〜0.5×程度が目安です。

資金効率と安全運用

証拠金は、最大在庫レンジ+ストレス時スリップ×3倍をカバーする水準を基本。過剰レバレッジは厳禁。信用枠は常に余裕を残し、異常時に強制平滑化できるようにします。テスト→紙トレ→低額実弾→段階的スケールの順で上げます。

アルト適用の条件

アルトでお削りをやる場合は、(1) スプレッドが2tick以内に収まる時間帯が長い、(2) 板厚が安定、(3) 取引所APIの安定性、(4) 同銘柄クロス所でヘッジ可能——を満たすものだけに限定。満たさない場合はテイカー比率が上がり、手数料でPLが毀損します。

撤退戦略

市場構造は変わります。ティックサイズや手数料が改定されたら、理論PLを即再計算。理論PL −(実測スリップ+テイカー費)が0bps近傍なら、潔く停止または別銘柄へローテーション。勝てない相場で粘らないのが、お削りで長生きする唯一のコツです。

まとめ

お削りは「派手な値幅取り」ではなく、「微小優位の積み上げ」を設計するエンジニアリングです。板構造・キュー先頭・在庫バンド・ヘッジ回路・Funding・リベートの総合最適化で、日次の分散を抑えながらPLを前に進めましょう。ルールは必ず数式化し、テストは板リプレイで厳密に。積み上げる者だけが、静かな相場で報われます。

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