本記事では、FX初心者でも扱いやすいシンプルな裁量+半自動のハイブリッド手法として、「ラウンドナンバー(キリ番)×時間帯ブレイクアウト」を解説します。1つの通貨ペアに対して1日1〜2回の判断で済むうえ、過度なインジケーターに頼らず、相場の構造(流動性の集中と時間帯の出来高増)を素直に利用します。具体的なエントリー・利確・損切り・検証・運用フローまで、実装できるレベルで落とし込みます。
戦略の骨子(要約)
本戦略は次の3点を合わせます。
- ラウンドナンバー:価格が「◯◯.00」や「◯◯.50」などのキリ番で、注文が集まりやすいという行動ファイナンス上の性質。
- 時間帯ブレイク:ロンドン序盤(日本時間16〜18時<冬時間16〜17時、夏時間17〜18時を中心>)は出来高が増え、値動きが加速しやすい。
- 事前圧縮(レンジ)フィルター:ロンドン前のアジア時間に値幅が小さいほど、その後の拡張が生じやすいという仮説。
この3つを満たす場面のブレイクに順張りで乗り、リスクリワードを明確に固定(例:1.2R〜1.5R)します。誇張せずに言えば、「毎日同じことを丁寧に繰り返す」戦略です。
対象通貨ペアと時間足
まずはスプレッドが狭く、傾向が比較的安定しやすい通貨ペアから始めます。
- 推奨:USDJPY(ドル円)、EURUSD(ユーロドル)
- 時間足:5分足または15分足(裁量判断+簡易自動化の両立がしやすい)
スプレッドやボラティリティを考えると、初心者は1日あたりの判断回数を絞れる15分足が扱いやすいです。
具体的ルール設計
前提定義
- キリ番(ラウンド)レベル:価格が「.00」や「.50」の水準。USDJPYなら150.00、150.50、151.00…といった水準です。
- ロンドン時間:日本時間で冬期16:00〜、夏期17:00〜。記事時点の一般的な目安であり、年により前後します。最初の1〜2時間を主戦場にします。
- アジア時間レンジ:東京時間の高値−安値の値幅(例:日本時間9:00〜15:00)
- R:1トレードあたりのリスク(円換算)。損切り幅×ロット=1R。
エントリーフィルター
- アジア時間の値幅が小さいこと:例として直近アジア時間の高安レンジが、直近20日のアジア時間平均レンジ(ATR代替)よりも8〜20%小さい。
- 直近の価格が、最も近いキリ番(.00または.50)から±10〜15pips以内で推移し、値動きが圧縮されている。
- 重要指標の直前直後を避ける:発表前後±30分は新規エントリーを原則回避。
トリガー(エントリー条件)
- ロンドン序盤に、キリ番を5〜7pips超えて終値確定した15分足が出現したら、次足成行で順張り(買い抜けなら買い、割れなら売り)。
- 同時に、直前3本の平均実体が小さい(例:平均実体≦8pips)など、圧縮→拡張の転換を確認。
損切り・利確
- 損切り:キリ番の反対側に固定(例:買いならキリ番−12pips、売りならキリ番+12pips)。スプレッドを上乗せ。
- 利確:固定利確1.2R〜1.5R。含み益が+0.5R到達で建値にストップ繰上げ。
- 時間フィルター:エントリーから90分経過で未達成なら手仕舞い(ロンドン序盤の優位性に限定)。
ポジションサイズ
1トレードあたり口座残高の0.5%〜1.0%を上限目安にします。例:口座100万円、損切り幅12pips、USDJPY1pips=100円(1万通貨)なら、1R=1,200円。許容1R=5,000円なら通貨数量は約4万通貨。
数値例:ドル円150.00の買い抜け
前提:アジア時間の値幅が小さく、価格が149.90〜150.05で膠着。ロンドン序盤に15分足終値で150.07を上抜け確定。
- 次足成行で買いエントリー(150.08想定)。
- 損切り:キリ番−12pips=149.88(スプレッド込みで149.885)。損切り幅約19.5pips。
- 利確:1.3Rで設定→約25.4pips上=150.33付近。到達で全利確。
- +0.5R達成(約10pips)で建値にストップ繰上げ、以降は放置。
数字は一例です。通貨ペアや市場状況で調整します。
なぜ機能するのか(直観)
- 注文の集積:キリ番には逆指値やOCOが溜まりやすく、ヒットした瞬間に流動性が一時的に増え、値が伸びやすい。
- 時間帯の出来高:ロンドン勢の参入で流動性が増し、アジア時間に作られた狭いレンジが壊れやすい。
- 期待値の源泉:「圧縮→拡張」の力学と、固定Rの損益比によるプラス期待値の積み上げ。
避けるべき場面
- 重要指標(雇用統計、CPI、政策金利等)の前後30分〜1時間。
- すでにロンドン前から大きくトレンドが出ており、直近に大陰陽線の連発がある。
- スプレッドが通常より広がっている(流動性が薄い)時間帯。
検証(バックテストとリプレイ)
最小構成
- TradingViewの15分足でUSDJPY/EURUSDを表示。
- 水平線を「.00」「.50」に引き、アジア時間の高安を毎日メモ。
- ロンドン序盤の初回ブレイクのみ採用し、上記の固定ストップと固定利確で結果を手帳に記録。
評価指標
- 勝率(例:45〜55%の範囲に収まるか)
- プロフィットファクター(1.2以上を目標)
- 最大ドローダウン(口座残高の5〜10%以内)
20〜30取引ではばらつきが大きいので、最低でも3〜6か月分(60〜120取引)を記録し、月別・曜日別も集計します。
半自動化:Pine Scriptの雛形
裁量の「指標直前回避」「当日のニュース確認」は人間が行い、条件成立の検知・通知、エントリー&ストップ設定をスクリプトに任せる形が現実的です。以下は条件検知とアラート用の簡易例です(売買は自己責任でご判断ください)。
//@version=5
indicator("RoundNumber Time Breakout (Simple)", overlay=true)
sess = time(timeframe.period, "0800-1500:1234567") // Asia approx JST 8-15
inAsia = not na(sess)
// Round levels every .50 on JPY pairs (0.5) or .005 on EURUSD-like pairs.
// Here we approximate by pip size.
pip = syminfo.mintick
roundStep = pip * 50
lvl = math.round(close / roundStep) * roundStep
// Asia range compression (use true range proxy)
asiaHi = ta.highest(high, 28)
asiaLo = ta.lowest(low, 28)
asiaRange = asiaHi - asiaLo
atr = ta.atr(28)
compress = asiaRange < atr * 0.9
// London window (approx JST 16-18 / 17-19 in DST terms; use exchange time)
london = time(timeframe.period, "0700-0900:1234567") // generic; adjust as needed
inLondon = not na(london)
// Breakout confirmation: close beyond round level by threshold
th = pip * 6
longTrig = inLondon and compress and close > lvl + th and close[1] <= lvl + th
shortTrig = inLondon and compress and close < lvl - th and close[1] >= lvl - th
plot(lvl, "Round", color=color.gray)
plotshape(longTrig, style=shape.triangleup, location=location.belowbar, text="Long")
plotshape(shortTrig, style=shape.triangledown, location=location.abovebar, text="Short")
alertcondition(longTrig, "Long Break", "Long break at {{close}}")
alertcondition(shortTrig, "Short Break", "Short break at {{close}}")
実運用では、ペア別の小数点仕様や時間ウィンドウの定義を調整してください。実売買の自動執行はブローカー仕様に依存します。
資金管理(ロット計算)
損切り幅(pips)×通貨数量×pips価値=金額損失が1Rです。1Rを口座の1%以内に収める設計を基本とします。
例:口座100万円、損切り幅12pips、USDJPYで1万通貨のpips価値約100円 → 1R=1,200円。
許容1R=5,000円なら「約4万通貨」まで。
連敗時は1Rを段階的に縮小し、月次でエクイティが回復したら基準に戻します。
デイリー運用チェックリスト
- 経済指標カレンダーを確認(該当ペアの重要指標の有無)。
- アジア時間の値幅をメモし、圧縮かどうかを判定。
- 最も近いキリ番に水平線を引く。
- ロンドン序盤は通知をオン。成立時のみ執行、未成立は見送り。
- エントリー後は建値繰上げと固定利確の手順を機械的に実行。
よくある失敗と対策
- 過剰な裁量:ルール外の追い買い・ナンピンはしない。毎回の判断を記録し、逸脱を可視化します。
- イベント軽視:指標前後のブレイクはフェイクが増えるため、回避ルールを厳守。
- 損切りの曖昧さ:ストップは常に置く。建値繰上げもルール通りに。
- 多通貨同時運用:最初は1ペアのみ。習熟後に拡大。
口座準備と基本コスト
国内FX口座の一般的な開設フローは次の通りです。
- 本人確認書類・マイナンバーの準備
- オンライン申込(属性・投資経験の入力)
- 審査通過後、ID/パスワード受領
- 入金方法の登録(銀行振込・即時入金)
- 取引ツール(Web/アプリ/MT系)のセットアップ
取引コストは主にスプレッドとスリッページです。本戦略はエントリー回数が少ないため、過度にコストの影響を受けにくい設計です。
運用の拡張アイデア
- 利確を分割(50%固定利確+残りトレイリング)
- アジアレンジの数値定義を厳密化(時間窓・閾値を固定)
- 曜日別の最適化(火・木のみ執行等)
- 複数ペアの同時監視(相関を考慮し、最大同時エントリー数を制限)
用語ミニ辞典
- ラウンドナンバー
- 心理的節目となる価格。注文が集まりやすい。
- ブレイクアウト
- 価格がレンジ上限・下限や重要水準を突破する現象。
- R(リスク)
- 1回の取引で許容する損失金額の単位。
- ATR
- 平均真の値幅。ボラティリティの指標。
まとめ
「ラウンドナンバー×時間帯ブレイクアウト」は、観察対象が明確で、手順がシンプル、時間効率が良いという初心者に合った特徴を持ちます。最初の1か月は厳格に検証→次の1か月は少額で練習→3か月目からルール通りの本格運用、と段階的に進めることで、期待値がブレない運用習慣が身につきます。
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