為替市場には「特定の時間帯にフローが集中しやすい」という経験則が存在します。本稿では、その中核である東京仲値(JST 9:55)とロンドンFIX(London 16:00)に焦点を当て、初心者でも再現しやすい手順で「時間帯別優位性」を収益源に変える方法を解説します。抽象論ではなく、実際の注文設計・執行・検証までを一気通貫で示します。
時間帯別優位性とは何か
「時間帯別優位性」とは、マーケット参加者の行動が特定の時刻に偏ることで価格の推移に統計的な傾向が生じる現象です。代表例が東京仲値とロンドンFIXです。前者は日本の実需(輸入企業など)に伴うUSD買い需要、後者は機関投資家のベンチマーク連動リバランスに起因します。
東京仲値(JST 9:55)のメカニクス
需給の源泉
多くの国内銀行は午前9時55分前後に当日の対顧客レート(仲値)を提示します。輸入企業の実需カバーや投信の外貨建て約定がこの時間帯に集中し、USD買い・JPY売り(USD/JPY上昇)に偏りやすいのが教科書的パターンです。
価格パターンの例
- 前場オープン〜9:40:裁定・観測フローで小幅なノイズ。
- 9:40〜9:55:需給が傾きやすく一方向のモメンタムが出現しやすい。
- 9:55以降:イベント消化で巻き戻し(反転)するケースも一定割合で発生。
ロンドンFIX(London 16:00)のメカニクス
ベンチマークとフロー
WM/Refinitivの16:00ロンドン・フィックスは、機関投資家が評価や連動執行の基準に利用します。指数連動運用やリバランスのため、15:55〜16:05(London時間)にフローが集中し、主要通貨ペアでスプレッドの拡大と一過性のボラティリティ上昇が観測されやすくなります。
典型的な動き
- 15:45〜15:55:事前ポジション調整でフェイント的な逆方向。
- 15:55〜16:00:本流のフローに沿った方向性の出現。
- 16:00〜16:05:イベント通過後の反動・反転、または延長のトレンド。
どの通貨ペアで狙うか
初心者はUSD/JPY(東京仲値の教科書ペア)と、流動性の高いEUR/USD(ロンドンFIXでの代表)を推奨します。スプレッドが狭く、約定品質を確保しやすいからです。
シンプル戦略①:東京仲値のモメンタム追随
ルール概要
- 監視時間:9:00〜10:10(JST)。
- フィルタ:9:00の始値から9:40にかけての高値/安値ブレイク方向を確認。
- エントリー:9:40〜9:50の間、方向一致の押し/戻りで指値(または成行)。
- イグジット:9:56〜10:05の間で段階利確、または9:55直前/直後で一括利確。
- リスク:ATR(14)×0.8を初期SL、利確はリスクリワード1:1.2以上で設計。
ポイント
9:55直前はスプレッド拡大・瞬間的な逆行が起きます。指値と逆指値(OCO)を事前に配置し、執行の迷いを排除します。
シンプル戦略②:ロンドンFIXの反動狙い
ルール概要
- 監視時間:15:45〜16:15(London)。
- フィルタ:15:55〜16:00の加速方向を特定。
- エントリー:16:00〜16:05に過伸展の戻しを待って逆張り。
- イグジット:伸びに応じて分割利確。最大でも16:15までにクローズ。
- リスク:イベント日は回避(CPI/FOMC直前直後は除外)。
ポイント
フィックス直後はスプレッドが不安定です。成行一発は避け、分割・TWAPで執行するか、価格が落ち着くまで待機します。
執行最適化:スプレッド・スリッページ対策
- 指値中心+OCO:スパイクでの不利約定を避ける。
- スマートルーティング:複数LPを束ねるブローカーで執行品質を確保。
- 時間分散(TWAP/VWAP/POV):ロンドンFIXでは特に有効。
- 夏時間/冬時間シフト:ロンドンのサマータイムに注意。
資金管理:ボラターゲティングとケリー縮小版
1トレードあたりのリスクを口座残高の0.25〜0.5%に制限。日次ドローダウンは2%上限、到達時点で当日取引停止。ボラが高い日はポジションサイズを自動的に落とすボラターゲティングを採用します。
検証の進め方
- サンプル期間:直近3〜5年。
- 除外日:主要指標日(CPI、FOMC、雇用統計など)の前後±60分。
- 評価指標:勝率、平均損益、プロフィットファクター、最大DD、マンスリーの安定性。
- ロバスト性:エントリー時刻±5分・利確/損切り幅±20%を振っても成績が維持されるか。
初心者の実装ステップ
- 口座開設と本人確認を完了。USD/JPY・EUR/USDの現物/CFDから開始。
- 注文方法(成行/指値/逆指値/OCO)を練習し、事前にテンプレート化。
- 経済指標カレンダーを確認し、取引回避ルールを日次でセット。
- 小さなサイズで2週間のペーパートレード→実弾へ。
MQL4最小EAサンプル(時間帯トレード雛形)
// 概念実証用の簡易EA(USDJPY, Tokyo Fix)
// 注意:学習目的の雛形。実運用前に必ず検証・調整を。
input double RiskPerTrade = 0.3; // 口座残高に対する%
input int StartHour = 9; // JST換算での9:40〜9:55を想定(ブローカー時刻に合わせ調整)
input int StartMinute = 40;
input int EndHour = 9;
input int EndMinute = 55;
double ATRpips(int period=14){
double atr = iATR(Symbol(), PERIOD_M5, period, 0);
return atr / Point;
}
int OnInit(){ return(INIT_SUCCEEDED); }
void OnTick(){
// 時刻フィルタ(ブローカー時間で調整)
datetime t = TimeCurrent();
int h = TimeHour(t);
int m = TimeMinute(t);
bool inWindow = (h>StartHour || (h==StartHour && m>=StartMinute)) &&
(h0) return;
if(inWindow){
// 9:00〜9:40の高値/安値を参照(簡略化:直近Nバー高値/安値)
double hi = iHigh(Symbol(), PERIOD_M5, iHighest(Symbol(), PERIOD_M5, MODE_HIGH, 8, 2));
double lo = iLow(Symbol(), PERIOD_M5, iLowest (Symbol(), PERIOD_M5, MODE_LOW, 8, 2));
double atrp = MathMax(ATRpips(14), 8); // 最低8pips
double stopPips = atrp * 0.8;
double tpPips = stopPips * 1.2;
// ブレイク方向に順張り
if(Ask > hi){
double lot = MathMax(0.01, (AccountBalance()*RiskPerTrade/100.0) / (stopPips*Point*10));
OrderSend(Symbol(), OP_BUY, lot, Ask, 3, Ask - stopPips*Point, Ask + tpPips*Point, "TokyoFix", 0, 0, clrNONE);
}else if(Bid < lo){
double lot = MathMax(0.01, (AccountBalance()*RiskPerTrade/100.0) / (stopPips*Point*10));
OrderSend(Symbol(), OP_SELL, lot, Bid, 3, Bid + stopPips*Point, Bid - tpPips*Point, "TokyoFix", 0, 0, clrNONE);
}
}
}
運用チェックリスト
- 約定品質:平均スリッページ、リクオート比率、実効スプレッド。
- 過剰最適化の回避:パラメータ微調整に対する感度を必ず検証。
- ヘッジ手段:急反転時は即時クローズを優先、指値で粘らない。
- 曜日効果:月末・四半期末はフィックスの影響が強くなる傾向。
よくある落とし穴
- ニュース衝突:指標時刻と被ると統計が崩れる。カレンダーで回避。
- 夏時間ズレ:ロンドンのサマータイム期間はウィンドウを前後に調整。
- 成行一発:高スリッページの温床。指値・分割執行を徹底。
- サイズ過大:連敗でメンタルが崩れる。日次DDルールで強制停止。
まとめ
時間帯別優位性は「理由のあるフロー」を土台にした再現性の高い切り口です。(1)時間帯を絞る→(2)事前に注文を設計→(3)執行品質とサイズを管理→(4)検証でロバスト性を確認。このサイクルを回せば、初心者でも無理なくエッジを積み上げられます。


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