本記事では、毎営業日9:55(日本時間)に決定される「東京仲値」を軸に、USD/JPYの朝のフローを前提にしたトレード手順を、初心者でも使える具体性でまとめます。用語の定義から、エントリーの型、注文の仕組み(IFD/OCO)、リスク管理、当日のチェックリスト、学習用のMQL4ミニEAまで、実装可能なレベルで解説します。
この記事の狙いと前提
「東京仲値トレード」とは、国内金融機関の顧客実需(輸入企業のドル買い・輸出企業のドル売り等)が集まりやすい時間帯の値動き傾向を前提に、時間帯に依存した一貫性のある執行ルールを定義して臨むアプローチです。勝ちやすいと断言するものではなく、ルール化と再現性を重視します。小さく負け、大きく勝つのではなく、小さく負け、控えめに勝ちを積み上げる設計を目指します。
東京仲値とは
一般に「仲値(なかね)」は、銀行が顧客に適用する当日の基準レートを指します。日本では多くの銀行で午前9:55に対顧客レートの基準となるドル円の仲値を決定します。この時刻前後には、実需のヘッジや決済が集中しやすく、短時間に流動性と発注が偏りやすいという構造があります。
値動きの“型”を先に知る
基本となる3つのシナリオ
- プレ・フィックス・ドリフト型(追随):9:00〜9:40頃にかけて一方向にじり上げ/じり下げが発生し、その流れが9:55まで持続しやすい局面。戦略は流れに乗り、9:55前に利益確定または建玉圧縮。
- フィックス直前ブレイク型(モメンタム):9:50前後に節目(ラウンドナンバーや当日高安)を一気に抜け、9:55までに走る局面。戦略は事前の逆指値で機械的に追随。
- フィックス後の反転型(リバーサル):9:55までの偏りが解消され、10:00〜10:15に巻き戻す局面。戦略は事前に極端値を観察し、過熱のサイン(出来高、ティックの連続、スプレッド拡大の収束)を確認してから軽量で狙う。
どの型を使うかは当日の地合い次第です。常にひとつの型だけで挑むのではなく、「型を選ばず、選定基準を固定する」のがコツです。
始める前に理解しておく制約とリスク
- スプレッドと滑り(スリッページ):9:50〜10:00はスプレッドが一時的に広がることがあります。成行一辺倒は避け、事前の指値・逆指値を基本にします。
- ニュースの同時ヒット:国内外の重要指標・要人発言が9:30〜10:00に重なると、パターンは崩れます。
- 月末・四半期末:実需フローが偏りやすく、動きが極端(オーバーシュート→反転)になりやすい日です。
- 祝日・連休:市場参加者が薄く、ギャップや乱高下が発生しやすいです。
- 介入や政策イベント:為替介入、金融政策の見通し変化などのイレギュラーが重なると、時間帯パターンよりイベントの方が優先されます。
実装:3つのエントリー型と手順
型A:プレ・フィックス追随(9:00〜9:40仕込み→9:50〜9:55利食い)
狙い:朝の方向性が素直に続く日に、流れに乗る基本形です。
ルール例:
- 8:55に当日アジア時間の高安をメモ。ラウンドナンバー(例:150.00、150.50)も控える。
- 9:05〜9:20にかけて、高値・安値切り上げ/切り下げが明確なら、順方向に小さく試し玉(1単位)。
- 直近の押し目/戻りの下(上)に機械的損切(5〜10pips程度)。
- 利益確定は2段階:第一利確を+7〜12pips、第二利確を9:50〜9:55時間指定でクローズ。
数値例(買い):USD/JPY 150.20で1万通貨を買い、損切は150.12(-8pips)、第一利確150.30(+10pips)、残りは9:52に成行クローズ。損益比が1:1でも、勝率と分割決済で日次の期待値を積みます。
型B:直前ブレイク(9:48〜9:55の逆指値OCO)
狙い:指標なしで、当日高安の外側に流動性の薄い領域ができているとき、一方向への“抜け”に乗ります。
ルール例:
- 9:45に当日高安から各+/-5〜8pipsの位置にIFD+OCOで逆指値エントリーと利確・損切を同時設定。
- 片側が約定したら、未約定の逆側注文は自動でキャンセル(OCO)。
- 利確目安は+7〜15pips。9:55をまたぐ場合は、9:56で強制手仕舞いをルール化。
型C:フィックス後の反転(10:00〜10:15、軽量)
狙い:9:55までの偏りが解消される巻き戻し。ただし難度が上がるので、小さめのサイズで。
ルール例:
- 9:55の直前5分間で走った距離を測る(例:+25pips)。
- 10:00〜10:05にかけてティックの勢いが弱まり、スプレッドが通常に戻るのを確認。
- 半値〜全戻しの手前に指値、損切は直近極値の外側5〜8pips。
- 利食いは+6〜10pips。10:15でクローズ。
注文の仕組み:IFD・OCO・IFOを使って機械化する
時間帯戦略は事前セットが肝心です。スマホアプリでもPCでも、以下を準備しましょう。
- IFD(If Done):新規注文が約定したら自動で決済注文を発注。
- OCO(One Cancels the Other):利確と損切の片方が約定すると、もう片方が取消。
- IFO(IFD+OCO):新規→利確・損切をワンセットに。
たとえば型Bでは、当日高値+6pipsに逆指値買い、利確+10pips、損切-7pipsを同時に置き、反対側(当日安値-6pips)にも同様の逆指値売りをセットしてOCOにします。片側が走ればもう片方は自動でキャンセルされます。
資金管理:1回のトレードで失ってよい上限を先に決める
ドル円の1pips(0.01円)あたりの損益は、1万通貨=約100円が目安です。許容損失をふまえ、ポジションサイズ=許容損失(円) ÷(損切pips×100円)で計算します。
例:1回の許容損失を2,000円、損切7pipsなら、2,000 ÷(7×100)=2.85→2万通貨に丸めます。秒で計算できるように、あらかじめ表を作っておくと便利です。
当日のチェックリスト(日本時間)
- 08:00 主要ニュースの予定確認(国内統計、要人発言、米先物の気配)。
- 08:50 国内統計の有無(例:GDP、鉱工業、企業物価など)。
- 09:00 東京株式市場の始値でのリスクオン/オフの雰囲気。
- 09:30 スプレッドの安定化・板の厚みを確認。
- 09:45 IFD/OCOをセット。高安・節目・今日のボラを再確認。
- 09:50〜09:56 執行は機械的に。迷ったら見送りも可。
- 10:00〜 反転狙いは軽量で。10:15までに撤収。
避けるべき状況
- 重要指標や要人発言が9:30〜10:00に重なる日。
- 月末・四半期末・期初の特殊フロー濃厚日。
- 直近で為替介入の観測や実施があった直後。
- 祝日で市場参加者が薄い、またはブローカーのスプレッドが広がり続けている。
手作業バックテストの簡易手順
- 過去60〜90営業日の5分足を用意(USD/JPY)。
- 各日9:55までの高値−安値の値幅、9:50→9:55の方向と距離、9:55→10:10の反転の有無をメモ。
- 型A/B/Cのどれに該当したかを分類。期待値のある型と条件(ボラ、ラウンドナンバー距離等)を抽出。
- 勝敗だけでなく、最大連敗数とドローダウンを記録。サイズ設計に直結します。
トレード日誌テンプレート(コピペ可)
日付 | 型 | セット時刻 | 方向 | エントリ | 損切 | 利確1/2 | 結果pips | 気づき |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2025-09-08 | A | 09:15 | Buy | 150.20 | 150.12 | 150.30/時間 | +9/+時間 | 分割が有効 |
学習用:MQL4ミニEA(時間帯IFD/OCOの雛形)
以下は学習目的の最小雛形です。デモ口座でのみ動作確認し、ロットは最小に固定してください。条件や時間、価格差はご自身のルールに置き換えてください。
//+------------------------------------------------------------------+
//| TokyoFixIFDOCO.mq4 - 学習用ミニEA(USDJPY想定) |
//+------------------------------------------------------------------+
#property strict
input double Lots = 0.10; // ロット(デモ用最小)
input int Slippage = 3; // スリッページ
input int StopPips = 7; // 損切pips
input int TakePips = 10; // 利確pips
input int EntryGap = 6; // 当日高安からの逆指値距離pips
input int SetHour = 9; // セット時刻(JST換算はブローカー時間に依存)
input int SetMinute = 45; // 9:45にセット例
datetime lastSet = 0;
double Pip(){ return (Symbol()=="USDJPY" || Symbol()=="JPY" ? 0.01 : Point); }
int OnInit(){ return(INIT_SUCCEEDED); }
void PlaceIFDOCO(bool isBreakHigh){
double p = (isBreakHigh ? iHigh(NULL, PERIOD_D1, 0) : iLow(NULL, PERIOD_D1, 0));
double entry = (isBreakHigh ? p + EntryGap*Pip() : p - EntryGap*Pip());
int type = (isBreakHigh ? OP_BUYSTOP : OP_SELLSTOP);
// 新規
int ticket = OrderSend(Symbol(), type, Lots, entry, Slippage, 0, 0, "IFD", 123, 0, clrNONE);
if(ticket<0) return;
// 決済OCO(利確・損切)
double sl = (isBreakHigh ? entry - StopPips*Pip() : entry + StopPips*Pip());
double tp = (isBreakHigh ? entry + TakePips*Pip() : entry - TakePips*Pip());
// 注文約定後に設定するのが本来だが、学習簡略化として即時に入れる例
// 実運用ではOrderSelect/OrderModifyで約定確認後にSL/TPを付与してください。
}
void OnTick(){
datetime t = TimeLocal();
if( lastSet==0 && TimeHour(t)==SetHour && TimeMinute(t)==SetMinute ){
// 当日高安のブレイク両建てOCO想定(片側約定で反対側キャンセルはブローカー機能を使用)
PlaceIFDOCO(true); // 高値上抜け
PlaceIFDOCO(false); // 安値下抜け
lastSet = t;
}
// 9:56相当の時間でポジション強制クローズもルール化可能
}
よくある質問(FAQ)
Q. 何pipsを狙えばよいですか?
A. 固定値幅(+7〜12pips)と時間固定(9:56クローズ)の併用が管理しやすいです。
Q. いつエントリーを見送るべき?
A. スプレッドが平常に戻らない、直前に重要ニュース、ボラが極端に小さい/大きい—いずれも見送り対象です。
Q. どのブローカーが良い?
A. スプレッド・約定品質・IFD/OCOの使い勝手・出金の確実性を比較し、自分のルールが再現しやすいところを選びましょう。
まとめ:明日からの実行プラン
- ルール表(型A/B/C、損切、利確、時間)をA4一枚に。
- 9:45に必ずIFD/OCOをセットする“型Bの自動化”から先に習慣化。
- サイズは最小から開始、10営業日連続で日誌を埋める。
- 勝敗よりもミスの再発防止(遅延、手動キャンセル忘れ等)に集中。
時間帯に根ざした地味な手順の積み上げこそ、初心者が最初に身につけるべき「勝てる準備」です。ルールを小さく、執行を機械的に、そして日誌で改善を続けていきましょう。
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