半導体サプライチェーンの「地政学イベント逆張り」投資戦略――短期〜中期で勝ち筋を作る具体手順

株式投資

半導体株は「成長テーマ」の代表格ですが、短期の値動きはテクノロジーというより地政学・政策・供給制約に強く影響されます。輸出規制、制裁、関税、紛争、選挙、サプライチェーン事故(火災・停電・地震)などのニュースで、指数全体より大きく振れやすいのが特徴です。

この特性を逆手に取るのが、本稿のテーマである「地政学イベント逆張り」です。誤解されやすい点から先に言うと、これは「危機を願う投資」ではありません。市場がニュースに対して過剰反応しやすい局面を、ルール化してリスクを限定しながら収益機会に変える戦略です。

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  1. 1. この戦略が機能しやすい理由
  2. 2. 逆張りの対象を「半導体全体」にしない
    1. 2-1. サプライチェーンを4つに分ける
  3. 3. 取り扱う「イベント」を型にする
    1. 3-1. 型A:規制・制裁(輸出規制、投資規制、関税)
    2. 3-2. 型B:事故・災害(工場火災、停電、地震、物流停止)
    3. 3-3. 型C:軍事・外交(紛争、海峡リスク、同盟の再編)
  4. 4. 「逆張り」でもタイミングは2段階に分ける
    1. 4-1. 第1段階:ヘッドライン直後の過剰反応を拾う
    2. 4-2. 第2段階:続報を消化した後の「織り込み過ぎ」を拾う
  5. 5. 具体例:輸出規制観測で装置株が叩かれた局面
    1. 5-1. エントリー条件(例)
    2. 5-2. 利確・撤退条件(例)
  6. 6. 逆張りを「情報×価格」で定量化する
    1. 6-1. 情報スコア(簡易)
    2. 6-2. 価格スコア(簡易)
  7. 7. 初心者が守るべきリスク管理(ここが本体)
    1. 7-1. 1回の取引の損失上限を先に決める
    2. 7-2. 損切りは「価格」より「シナリオ」で行う
    3. 7-3. 型C(軍事・外交)はサイズを小さくする
  8. 8. 実践のための情報収集ルーチン(毎日10分)
  9. 9. 具体的な売買設計テンプレ(現物・ETF想定)
    1. 9-1. 事前準備(監視リスト)
    2. 9-2. エントリー(2段階)
    3. 9-3. 利確(分割)
    4. 9-4. 撤退(シナリオ)
  10. 10. よくある失敗と回避策
    1. 10-1. 「落ちたから買う」だけで、材料の型を見ていない
    2. 10-2. 損切りを価格だけで行い、振らされる
    3. 10-3. 最悪ケースでポジションが膨らむ
  11. 11. まとめ:狙うのは「情報の確度より売られ過ぎた瞬間」

1. この戦略が機能しやすい理由

半導体は、製品としては小さいのに、産業としては巨大です。スマホ、PC、自動車、データセンター、産業機器、軍事・宇宙まで、幅広い需要の中心にあります。その一方で供給側は、極端に集中しています。最先端の製造、露光装置、材料、EDA(設計ソフト)、先端パッケージング、組立・テストなど、各工程にボトルネックが存在します。

この「集中」と「ボトルネック」があるため、地政学ニュースが出ると市場は次の連想をしがちです。

  • 供給が止まる → 出荷が止まる → 売上・利益が止まる(短絡)
  • 規制が強化 → 事業ができない(最悪ケースを先に織り込む)
  • 企業が巻き込まれる → バリュエーション崩壊(過去の暴落を想起)

しかし実際には、規制は段階的で、抜け道もあり、代替経路も生まれます。需要は一時的にズレても消滅しにくく、供給制約がかえって価格・マージンを押し上げる局面もあります。つまり、ニュース直後の価格は「確率の低い最悪シナリオ」を高い確率で起きるかのように織り込むことがあり、ここに逆張り余地が出ます。

2. 逆張りの対象を「半導体全体」にしない

初心者がやりがちな失敗は「半導体が売られたから全部買う」です。半導体はサプライチェーンで役割が違い、ニュースの影響の出方が違います。逆張り対象は、イベントと因果が強い部分に絞ります。

2-1. サプライチェーンを4つに分ける

ざっくり次の4つで考えると、ニュースと価格の反応が整理しやすいです。

  • 設計(Fabless):GPU/CPU/通信など。需要・在庫・競争が価格を決めやすい。
  • 製造(Foundry/IDM):最先端製造能力が強み。供給制約や政策影響を受けやすい。
  • 装置・材料:設備投資サイクルが主。規制や投資停止で売られやすい。
  • 後工程(パッケージ・テスト):供給網の地理分散が進む。短期は混乱、長期は投資増のことも。

地政学イベント逆張りでは、ニュースの種類によって狙う場所が変わります。たとえば輸出規制強化なら装置・材料が最初に叩かれやすい。一方、紛争リスクなら製造(特定地域の集中)に恐怖が向きやすい。こうした「売られやすい場所」を狙う方が、価格の歪みが出やすいです。

3. 取り扱う「イベント」を型にする

ニュースは無限に見えますが、投資判断に使うなら型に落とすべきです。ここでは、実務(ではなく運用)の観点で使いやすい3分類にします。

3-1. 型A:規制・制裁(輸出規制、投資規制、関税)

特徴は「突然に見えるが、実は事前に観測可能」なことです。法案審議、政府高官の発言、報道の観測記事、同盟国への働きかけなど、段階があります。市場は最初のヘッドラインで過剰反応し、数日〜数週間かけて現実的な影響に修正されることがあります。

3-2. 型B:事故・災害(工場火災、停電、地震、物流停止)

これは供給制約が直撃しますが、同時に「代替生産」「在庫取り崩し」「顧客の前倒し発注」などが動きます。ここでの逆張りは、供給減=必ず株安という短絡を突きます。供給が減ると価格が上がり、強者のマージンが改善するケースもあるからです。

3-3. 型C:軍事・外交(紛争、海峡リスク、同盟の再編)

最も難易度が高い型です。なぜなら、結末の分布が太い(テールが大きい)からです。この型では逆張りの「サイズ」が重要で、無理に大きく張らないことが戦略の核になります。ここは後でリスク管理の章で具体的に書きます。

4. 「逆張り」でもタイミングは2段階に分ける

逆張りのコツは、底を当てにいかないことです。地政学ニュースは続報が出て、もう一段売られることが普通にあります。そこで、エントリーは2段階にします。

4-1. 第1段階:ヘッドライン直後の過剰反応を拾う

最初の材料で急落したところは、アルゴや短期勢の投げが重なります。ここは「とりあえず小さく入る」段階です。目安として、普段の値動き(ATRなど)に対して異常に大きい陰線が出たら、監視を開始します。

4-2. 第2段階:続報を消化した後の「織り込み過ぎ」を拾う

続報で「実は一部例外」「施行は先」「影響は限定的」などの情報が出ると、価格は戻りやすい。第2段階は、戻りの初動を取りにいきます。底値で買うのではなく、反転確認後に買うイメージです。

5. 具体例:輸出規制観測で装置株が叩かれた局面

ここでは「典型的な動き」を例として解説します(特定銘柄の推奨ではなく、値動きの構造の説明です)。

輸出規制観測が出ると、市場は「装置が売れなくなる」と短絡し、装置関連がまず売られます。実務的には次のような順番で起きがちです。

  • 観測記事 → 装置・材料が急落
  • 企業側コメント「詳細は不明」 → 不確実性が残り下落継続
  • 政府の正式発表「対象は限定」「例外あり」「施行は数か月後」 → 売られ過ぎ修正
  • 受注は短期で前倒し/地域シフト → 決算で実害が限定 → さらに戻る

逆張りの狙いは「正式発表の内容が出た瞬間」ではありません。多くの場合、そこはもう戻り始めています。狙うのは、観測記事〜正式発表前の不確実性で価格が歪んだゾーンです。

5-1. エントリー条件(例)

  • 指数(例:SOX等)より対象セクターが明確に弱い(相対弱が出ている)
  • 出来高が急増し、投げが出ている
  • 続報で「限定的」と読み取れる情報が出始めた(完全に確定でなくてよい)

5-2. 利確・撤退条件(例)

  • 急落前のギャップ埋めの半分程度で半利確(戻りの速度が落ちやすい)
  • 続報が悪化(対象拡大、施行前倒し、同盟国同調など)したら撤退
  • 「不確実性が残ったまま」横ばいが続くなら、時間で撤退(資金効率を重視)

6. 逆張りを「情報×価格」で定量化する

逆張りがギャンブルに見えるのは、判断が感覚だからです。情報と価格の2軸で整理すれば、再現性が上がります。

6-1. 情報スコア(簡易)

初心者でも運用しやすい簡易スコアを作ります。ニュースを読んで0〜3点で採点します。

  • 0点:根拠の薄い噂、SNS起点、一次ソースがない
  • 1点:複数メディアが観測、ただし政府/企業の一次コメントなし
  • 2点:政府高官の発言、法案の進展、企業がリスク要因として言及
  • 3点:正式発表、具体的な対象・時期・罰則が明確

逆張りで狙いやすいのは1〜2点で価格が極端に崩れた局面です。3点で崩れるなら実害が濃いので、無理に逆張りしません。

6-2. 価格スコア(簡易)

価格側も0〜3点で採点します。

  • 0点:小幅下落(通常の範囲)
  • 1点:普段の変動の上限に近い下落(やや過剰)
  • 2点:出来高急増+急落(投げが出ている)
  • 3点:連続急落+ギャップダウン(パニック)

狙い目は「情報1〜2点、価格2〜3点」です。つまり、情報の確度ほどには価格が崩れ過ぎている状況です。

7. 初心者が守るべきリスク管理(ここが本体)

この戦略の致命傷は、テールリスク(最悪ケース)が現実化したときに大きく持っていることです。逆張りは「当たれば大きい」反面、「外れたときの被害」が大きい。だから、勝ち方よりも負け方の設計が重要です。

7-1. 1回の取引の損失上限を先に決める

損失上限は、金額で固定するのが最もシンプルです。たとえば「1回のイベント逆張りでの許容損失は投資資金の0.5%まで」など。率でもよいですが、最初は金額の方がブレません。

7-2. 損切りは「価格」より「シナリオ」で行う

地政学はボラティリティが高く、価格だけの損切りだと振らされやすいです。そこで、撤退条件をシナリオで持ちます。

  • 対象拡大(規制の範囲が広がる)
  • 施行前倒し(逃げる時間が消える)
  • 同盟国の同調(代替市場の期待が消える)
  • 主要顧客の発注停止/延期(需要側の実害)

これらが出たら「価格が戻るまで耐える」ではなく、前提が崩れたので撤退です。

7-3. 型C(軍事・外交)はサイズを小さくする

型Cは結末の振れ幅が大きいので、同じルールで大きく張ると事故ります。初心者は、型Cは「見るだけ」でも十分です。やるなら、他の型の半分以下のサイズにするのが無難です。

8. 実践のための情報収集ルーチン(毎日10分)

この戦略は「ニュースを追う」と言うと難しそうですが、毎日10分で足ります。ポイントは、情報を増やすことではなく、重要な一次情報の流れだけを押さえることです。

  • 朝:主要ニュースのヘッドラインを確認(規制・制裁・外交・事故の有無)
  • 昼:対象セクターの相対パフォーマンスを確認(指数より弱い/強い)
  • 夕:続報の有無を確認(限定・例外・施行時期の情報が出たか)

「全部読む」ではなく、「型A/B/Cのどれか」「情報スコアが1〜2か」「価格スコアが2〜3か」だけを見ます。

9. 具体的な売買設計テンプレ(現物・ETF想定)

初心者は、まず現物やETFでの運用を前提にした方が、リスクをコントロールしやすいです。ここではテンプレを提示します。

9-1. 事前準備(監視リスト)

  • 半導体セクターETF(市場全体の温度感)
  • 装置・材料の代表銘柄/ETF(規制ニュースで歪みが出やすい)
  • 設計(GPU/CPU等)の代表銘柄(需要ニュースで歪みが出やすい)
  • 後工程・周辺(供給網再編ニュースで歪みが出やすい)

9-2. エントリー(2段階)

  • 第1段階:情報1〜2点、価格2点以上 → 小さく試す
  • 第2段階:反転の兆し(下げ止まり→高値更新など) → 追加

9-3. 利確(分割)

  • 最初の戻りで一部利確(リスク回収)
  • 残りは「ニュースの不確実性が解消」or「相対強に転換」で利確

9-4. 撤退(シナリオ)

  • 悪化続報が出たら撤退
  • 横ばいで時間が経つなら撤退(資金効率)

10. よくある失敗と回避策

10-1. 「落ちたから買う」だけで、材料の型を見ていない

材料が型A/B/Cのどれかを判断しないと、サイズも撤退も決まりません。最初に型を決めてください。

10-2. 損切りを価格だけで行い、振らされる

地政学は上下に振れます。撤退はシナリオで決める方がブレにくいです。

10-3. 最悪ケースでポジションが膨らむ

ナンピンで膨らませると、テールに巻き込まれます。追加は「反転確認後」だけに限定してください。

11. まとめ:狙うのは「情報の確度より売られ過ぎた瞬間」

半導体サプライチェーンは、地政学イベントで過剰反応が起きやすい構造を持っています。逆張りの核は、①イベントを型で分類し、②情報スコアと価格スコアで歪みを見つけ、③2段階で入って、④シナリオで撤退することです。

最後に強調します。逆張りは「当てるゲーム」ではなく、損失を限定した上で、確率が良い局面だけを繰り返す運用です。ルールを守れる範囲のサイズで、淡々と回してください。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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