「節分天井と彼岸底」は、日本株の世界で昔から語られてきた季節アノマリー(カレンダー要因)です。ざっくり言えば「2月上旬(節分の前後)に高値を付けやすく、3月中旬(春分の彼岸の前後)に安値を付けやすい」という経験則です。
ただし、経験則をそのまま信じて売買すると、平気で負けます。理由は単純で、アノマリーは“確率の偏り”であって、“必ず当たる法則”ではないからです。勝ちたいなら、①なぜ偏りが生まれるのか(需給の仮説)を理解し、②データで検証し、③自分のルールに落とし込む必要があります。
この記事では「節分天井と彼岸底」を、初心者でも実務(=実際の運用手順)に落とせる形まで分解します。特に、“どの銘柄・どの相場環境で効きやすいか”、“どこで入ってどこで降りるか”、“外れたときに致命傷を負わない設計”を具体例で示します。
- 節分天井と彼岸底は「なぜ起きる」のか:まず需給の仮説を持つ
- 最重要:アノマリーを「ルール」に変換する(曖昧さを捨てる)
- 勝率を上げる核心:相場環境フィルター(“効く年”だけ仕掛ける)
- 具体的な売買設計:節分天井で“当てにいかない”売り(守りのシナリオ)
- 彼岸底での買い:底値当てではなく“反転確認”で入る
- “勝てる形”にするための検証:初心者でもできる簡易バックテスト
- よくある失敗パターンと回避策
- 実戦テンプレ:明日から使えるチェックリスト
- 応用:現物ロング中心でも使える「ヘッジ」と「仕込み」の考え方
- 応用:短期トレーダー向け「彼岸底の初動」をデイトレで拾うコツ
- 最後に:アノマリーを武器にする人が必ずやる「運用ログ」
節分天井と彼岸底は「なぜ起きる」のか:まず需給の仮説を持つ
アノマリーを使うとき、最初にやるべきは「理由を作る」ことです。理由がないと、検証設計もリスク管理もできません。節分天井・彼岸底には、複数の需給仮説が混ざっています。重要なのは、一つの“神話”として信じるのではなく、複数の因子として扱うことです。
仮説1:年度末(3月)に向けた資金需要とポジション調整
日本では3月が年度末の企業・機関が多く、資金繰り・決算・評価替えが集中します。これにより、2月〜3月は「利益確定」「リスク圧縮」「現金化」が起きやすい時期になります。特に、前年から上昇して含み益が溜まっている局面では、2月上旬にいったん利確が出やすく、3月中旬にかけて押し目が形成されやすい、という見方です。
仮説2:配当・優待取りの先回りと反動
3月権利取り(配当・優待)を狙う買いは、権利付き最終日に向けて徐々に積み上がります。ただし、買いが早すぎると途中で利確が出る。結果として「2月上旬に買いが一巡→調整→3月に再び買い」という波が生まれやすい、という仮説です。
仮説3:海外勢のリスク管理(ボラティリティと為替)
2月〜3月は米国の決算シーズン後半、金融政策観測の再評価、地政学イベントなどが重なることがあります。さらに、日本株は為替(特にドル円)の影響が大きいので、海外勢がリスクオフに傾くと日本株も売られやすい。アノマリーが効く年は、背景として「ボラティリティ上昇」「円高方向のストレス」が同時にあることが多い、という観察ができます。
ここまでの仮説は、すべて「起きうる」程度の話です。次の章で、これを“検証できる形”に落とします。
最重要:アノマリーを「ルール」に変換する(曖昧さを捨てる)
「節分の前後」「彼岸の前後」では売買できません。具体的に日付・条件を定義します。ここでは、初心者でも扱いやすいように、指数(日経平均・TOPIX)を基準にしたルールを提案します。
定義例:節分天井・彼岸底の“観測窓”
節分は毎年2月3日付近ですが、相場は営業日で動きます。そこで、以下のように“窓”で定義します。
- 節分窓(天井観測):1月最終週〜2月第2週(例:1/25〜2/10の営業日)
- 彼岸窓(底観測):3月第2週〜3月第4週(例:3/10〜3/25の営業日)
この窓の中で「高値更新が止まり、失速したら売り(または買いを減らす)」「底打ちの兆候が出たら買い」という発想です。
初心者向けに現実的な“売買対象”を決める
個別株でやると、材料や決算でアノマリーが吹き飛びます。まずは以下のいずれかから始めるのが現実的です。
- 指数連動:日経平均(先物・ETF)/TOPIX(ETF)
- 大型・高流動性:東証プライムの主力株(売買代金が大きい銘柄)
- セクター:銀行・自動車など「指数×為替」の影響が強いもの
理由は、季節要因は「市場全体の資金の流れ(需給)」から生まれるため、流動性の低い銘柄ではノイズが勝ちやすいからです。
勝率を上げる核心:相場環境フィルター(“効く年”だけ仕掛ける)
アノマリーが効くかどうかは、相場環境で大きく変わります。ここがオリジナリティの部分で、私は「節分天井・彼岸底」を“年度末に向けたリスク圧縮が起きやすい相場”のサインとして扱います。つまり、環境が揃ったときだけ戦う。
フィルター1:25日移動平均線の向き(トレンドの強弱)
指数が強い上昇トレンド(25日線が右肩上がりで乖離も大きい)だと、節分で売っても踏まれやすい。逆に、25日線が横ばい〜下向きなら、節分天井の“失速”が機能しやすいです。
条件例(指数):節分窓の初日で、指数が25日線を下回っている、または25日線が横ばい(5日平均の傾きが小さい)。
フィルター2:ボラティリティ(値幅)が上がっているか
大きな天井や底は、たいてい値幅の拡大を伴います。日経平均ならATR(平均真の値幅)や、単純に「直近10営業日の高値−安値」が拡大しているかを見るだけでも十分です。
条件例:直近10営業日の値幅が、直近50営業日の平均値幅より大きい。
フィルター3:為替ストレス(ドル円の下落=円高)
日本株は円高に弱い場面が多い。2月上旬にドル円が下方向へブレイクしていると、節分天井が“本物”になりやすいです。
条件例:ドル円が20日安値を更新、または5日線<20日線。
この3つのうち、2つ以上満たす年だけ「節分天井の売り(または買い縮小)」を検討し、彼岸底の買いは“逆に”ボラが落ち着き、円高が止まったサインを待ちます。次で具体的にやります。
具体的な売買設計:節分天井で“当てにいかない”売り(守りのシナリオ)
初心者が陥りがちなのは「節分だからショート!」と決め打ちすることです。ここでは、当てに行くのではなく、リスクを減らしつつ、下落が来たら取りに行く設計にします。ポイントは3つです。
- ①天井は「形」で判断(高値圏の失速サイン)
- ②ポジションは小さく段階的に(平均建値を整える)
- ③損切りは“価格”で固定(気合で耐えない)
失速サインの例(指数でも個別でも使える)
節分窓の中で、次のいずれかが出たら“天井の可能性”が上がります。
- 前日高値を更新したのに、大引けが安い(上ヒゲ)
- ギャップアップで始まったのに、寄り天で陰線
- 高値更新後に、5分足でVWAPを割って戻せない(デイトレ視点)
- 出来高が増えているのに上がらない(買いの吸収)
エントリー例:日経平均ETFでの“段階ショート”
例として、日経平均ETFが1/29に35,000、2/3に35,800まで上げたとします。2/4に高値35,900を付けたあと、引けが35,600で陰線、かつ25日線が横ばい、ドル円が下落トレンド。フィルターが揃っているので、ここで初回の売り(または信用売り/先物ショート)を検討します。
建て方(例):
- 第1段:失速サイン当日の引け付近で 30% 売り
- 第2段:翌日、前日安値を割ったら 30% 追加
- 第3段:戻りが25日線に当たって跳ね返されたら 40% 追加
“当てる”ではなく、“崩れたら乗る”設計です。
損切りライン:高値更新で即撤退
この戦略は「天井の失速」を前提にしています。したがって、高値を更新されたら前提が崩れる。損切りは迷わず「直近高値+α」で固定します。
例:直近高値35,900なら、損切りは36,050(0.4%程度)など、自分が耐えられる損失額から逆算して決めます。初心者は「資金の0.5%〜1%を1回の損失上限」に置くと、致命傷になりにくいです。
彼岸底での買い:底値当てではなく“反転確認”で入る
底は天井以上に当てに行くと危険です。彼岸底を狙うなら、「売りが尽きた兆候」+「反転の初動」を確認して入ります。ここでも、条件を具体化します。
売りが尽きた兆候(セリングクライマックスの簡易判定)
指数でも個別でも使える“初心者向け”の判定は以下です。
- 出来高を伴う大陰線が出た後、翌日に安値更新できない
- 下ヒゲが長い(売りが吸収された)
- 信用指標(評価損益率など)が悪化しきっている(参考)
このうち、最も扱いやすいのは「大陰線→翌日安値更新できない」です。チャートだけで判断できます。
反転の初動確認:5日線回復+前日高値更新
彼岸窓の中で、次の2条件が揃ったら“反転の初動”とみなします。
- 終値が5日移動平均線を上回る
- 翌日、前日高値を上抜く(買いが買いを呼ぶ形)
これなら、底を少し逃しても「勝ちやすい場所」から入れます。
エントリー例:3月中旬の押し目を“2段階”で拾う
例:2月に下落が進み、日経平均が35,800→33,200まで調整。3/14に出来高増で大陰線(33,100引け)、3/15は安値更新できず下ヒゲ、3/16に5日線回復(33,400引け)。この時点では“買い候補”。3/17に前日高値を上抜けたら、第1段の買いを入れる。
- 第1段:反転初動で 50% 買い
- 第2段:押しが5日線で止まったら 50% 追加
損切りは「反転の起点(下ヒゲの安値)」割れ。利確は「25日線到達」や「直近戻り高値」で段階的に出すと、ブレに強いです。
“勝てる形”にするための検証:初心者でもできる簡易バックテスト
アノマリーは、検証しないと危険です。ただ、いきなりPythonや複雑な統計は不要です。まずは、過去10年分を目視+簡易集計で十分に武器になります。
手順1:対象を決めて、年ごとに窓の高値・安値を記録する
対象:日経平均(またはTOPIX)。各年で以下を記録します。
- 節分窓の中の最高値と日付
- 彼岸窓の中の最安値と日付
- 節分窓高値→彼岸窓安値の下落率
- 彼岸窓安値→4月末の上昇率(回復度)
これだけでも、「下げる年」「下げない年」「彼岸底が効いた年」を分類できます。
手順2:効かなかった年の共通点を探す(ここが差になる)
私がよく見るのは、次の3つです。
- 上昇トレンドが強すぎた(25日線が強い右肩上がり)
- 円安が強烈で押し目が浅い(輸出主導)
- 大きな政策イベントで季節性が消えた(金融政策・大型財政)
“効かなかった年”を分析すると、あなた専用のフィルターが磨かれます。これが一般論との差です。
手順3:ルールの成績を「期待値」で見る
勝率だけでは危険です。小さく勝って大きく負けると破綻します。最低限、以下を確認します。
- 平均利益(勝ちトレードの平均)
- 平均損失(負けトレードの平均)
- リスクリワード(平均利益÷平均損失)
- 最大ドローダウン(連敗時の落ち込み)
例えば勝率55%でも、平均利益が平均損失の0.7倍なら長期では厳しい。逆に勝率40%でも、平均利益が平均損失の2倍なら成り立ちます。アノマリーは「当てに行く」より「損を小さく」設計した方が、数字が良くなりやすいです。
よくある失敗パターンと回避策
失敗1:個別株の決算で吹き飛ぶ
2月〜3月は決算発表も多い。アノマリーと無関係な材料でギャップが出ます。回避策は、指数・ETF中心にするか、個別なら「決算跨ぎをしない」「決算日を避ける」などルールに組み込むこと。
失敗2:天井・底を“点”で当てに行く
節分の当日、彼岸の当日に当てに行くと、外れたときの傷が深い。回避策は、この記事で示したように“窓”で考え、反転・失速の形を確認して段階的に入ること。
失敗3:ポジションサイズが大きすぎる
アノマリーは確率の偏り。外れる年が必ずあります。外れ年に一発退場しないために、損失上限を資金の0.5%〜1%に制限し、ロットは必ず逆算で決めてください。
失敗4:検証なしで“都合の良い年”だけ記憶する
人間は当たった経験を過大評価します。必ず、効かなかった年を含めて記録し、フィルターを改善してください。これが最短で上達します。
実戦テンプレ:明日から使えるチェックリスト
最後に、あなたが2月〜3月に毎日見るべき項目をテンプレ化します。紙に書いても、メモアプリでも構いません。
節分窓(1月末〜2月中旬)
- 指数は25日線の上か下か、25日線は上向きか横ばいか
- ドル円は下向きか(円高ストレスがあるか)
- 直近10営業日の値幅は拡大しているか
- 高値更新後に失速サイン(上ヒゲ、寄り天、出来高増で伸びない)が出たか
- 失速したら:買いポジションを減らす/短期ヘッジを入れる(段階的)
彼岸窓(3月中旬〜下旬)
- 出来高増の大陰線が出たか、その後に安値更新できないか
- 5日線を回復したか
- 前日高値を上抜けたか(反転の初動)
- 損切りは下ヒゲ安値割れに固定できているか
- 利確は25日線到達や戻り高値で段階的にできているか
このテンプレを回すだけで、「節分天井と彼岸底」が“迷信”から“運用可能な手順”に変わります。重要なのは、当てに行かないこと。相場環境が揃ったときだけ、形が出たら仕掛け、外れたら小さく撤退する。これがアノマリーを利益に変える基本動作です。
あなたが次の2〜3シーズン分をこのルールで記録すれば、精度は確実に上がります。相場は毎年違いますが、資金の流れ(需給)のクセは、驚くほど繰り返されます。
応用:現物ロング中心でも使える「ヘッジ」と「仕込み」の考え方
「売り(ショート)は怖い」「信用取引は使わない」という人でも、節分天井と彼岸底は役に立ちます。ポイントは、“売る”ではなく“守る”発想です。相場が崩れる年に大きく取れなくても、下落を軽くできれば、資産曲線は安定します。
現物中心の人:節分窓は「利益の一部確定」と「買い増し停止」だけで十分
例えば、あなたが1月にTOPIX連動ETFを買って含み益が出ているとします。節分窓で失速サインが出たら、次のように動きます。
- 含み益のある分だけ 20〜30% 利確(“利益の持ち帰り”)
- 新規の買い増しは彼岸窓まで一旦停止
- どうしても持ちたい中長期銘柄は、買い増しではなく“監視”に切り替える
これだけで、下落年のダメージは大きく減ります。アノマリーは「当てる技術」ではなく「守りの規律」に変換すると強いです。
ヘッジの選択肢:指数で“薄く”守る
信用売りが嫌でも、指数のヘッジなら設計しやすいです。たとえば現物株が多い人は、日経平均やTOPIXの先物・ETFで小さく逆方向ポジションを持つと、個別の材料リスクを減らせます。ヘッジ比率は難しく考えず、初心者はまず「評価額の10〜30%」程度から始め、値動きの感触を掴むのが現実的です。
重要なのは、ヘッジで儲けようとしないこと。目的は下落時の心理的パニックを防ぎ、彼岸底で“買う余力”を残すことです。
応用:短期トレーダー向け「彼岸底の初動」をデイトレで拾うコツ
彼岸底の反転初動は、寄り付き後の5〜30分に特徴が出やすいです。初心者でも観察しやすいポイントを3つに絞ります。
- 寄り付きの投げが出ても、安値更新が続かない(最初の15分で底打ち)
- VWAPを回復して、押し目がVWAPで止まる(買いが優勢)
- 下落主導の大型株(銀行・自動車など)が反発し始める(指数が戻る条件)
具体例:寄り付きで指数が急落しても、15分で切り返し、5分足でVWAPを超えてから押しが浅い。この形が出たら、指数ETFや主力株で“短期の反発”を狙えます。損切りは寄り付き安値割れ。利確は「午前の戻り高値」や「前場引け」など、短く区切るとブレに強いです。
最後に:アノマリーを武器にする人が必ずやる「運用ログ」
節分天井と彼岸底は、1回で完成しません。毎年の相場環境が違うからです。だからこそ、ログが効きます。最低限、次の4点を毎年残してください。
- その年のフィルター条件(25日線・ドル円・値幅)の状態
- 節分窓での失速サインの有無(いつ出たか)
- 彼岸窓での反転初動の有無(どの形で出たか)
- 結果(取れた/取れなかった)と、次に変える1点
この“1点改善”を3年繰り返すと、あなたのアノマリーは「ネットの格言」ではなく「あなたの手法」になります。


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