寄り引けだけで勝ちに行く:東証オークション限定ミニッツ戦略(初心者向け・実践ガイド)

イベントドリブン

本稿では、東証の寄り付き・引けのオークション(板寄せ)にだけ参加して期待値を積む「ミニッツ戦略」を解説します。ザラ場の値動きやニュースの高速処理は不要で、朝と引け前の数分だけに集中します。初心者でも実装できるように、銘柄選定→執行ルール→リスク管理→検証→半自動化までを具体的に示します。

この戦略の要旨

寄りと引けの板寄せは、参加者の注文が一斉にマッチングされるため、需給が一方向に偏りやすい一方、約定は一瞬で完了します。特に次の3つのフローにより、短時間での統計的優位が生まれます。

  1. 寄り前の気配形成:大口の指値が厚い水準で気配が固定されやすく、直前の気配更新方向に短期バイアス。
  2. 引けのVWAP・指数連動フロー:パッシブ/投信の出来高集中に伴い、当日VWAPからの乖離是正が引け直前に起こりやすい。
  3. イベント日:配当落ち、指数入替、立会外分売/PO、MSCI/Fast入替、月末・四半期末のリバランスで需給歪みが顕在化。

前提知識:板寄せの仕組み

東証の寄り・引けは「板寄せ方式」で、呼値ごとの需給バランスから最大出来高となる価格(またはそれに準ずるルール)で一括約定します。連続約定のザラ場とは異なり、成行・指値の積み上がりと直前の気配更新の方向が、オークション価格の重心に影響します。

勝ち筋の設計(3パターン)

パターンA:寄りの「直前気配」への逆張り

前日終値からのギャップが大きく、寄り前に特別気配や気配更新の回数が多いとき、寄り付き直後に反動が出やすくなります。Aパターンは、寄り成りでエントリー→5〜15分で利確/撤退という超短期逆張りです。

  • 対象:東証プライムの出来高上位(出来高が少ないと滑りやすい)
  • 条件例:ギャップ率が±1.0%以上、前日出来高比が1.2倍以上の気配、ニュースでの材料が軽微
  • 出口:+0.3〜0.6% or 当日VWAP到達、最大許容-0.4〜0.6%

パターンB:引け前VWAP回帰への順張り

日中にVWAPから大きく外れた銘柄は、引け前のパッシブフローで乖離が縮む傾向があります。Bパターンは、引け5〜10分前にVWAP方向へポジションを取り、引け成りで手仕舞います。

  • 対象:指数寄与度が高い大型、または当日売買代金が突出している銘柄
  • 条件例:当日終盤の乖離(価格/VWAP)が±1.0%以上、出来高が前日比150%超
  • 出口:引け成行(約定の確実性を優先)

パターンC:イベント日だけやる

配当落ち日、指数採用入替、立会外分売の実施翌日などは、需給が機械的に偏りやすくなります。Cパターンは、イベントカレンダーを事前に作成し、該当天だけ寄り/引けのどちらか一方に参加します。

銘柄選定フィルタ(初心者向け)

  • 平均売買代金:過去20日平均で30億円以上
  • ティックサイズ:呼値の刻みが細かく、気配の層が厚い銘柄を優先
  • 乖離閾値:寄りギャップ±1.0%以上、VWAP乖離±1.0%以上
  • 除外:値幅制限上限/下限に張り付きやすい低位株、材料が大きすぎる日

具体的な執行ルール

寄り(パターンA)

  1. 8:59までに候補を3〜5銘柄に絞る(ギャップ率と出来高見込みでスクリーニング)。
  2. 寄り成行で最も歪みが大きい1銘柄に限定してエントリー。
  3. 利確は+0.3〜0.6%目安、またはVWAP到達。逆行は-0.5%でカット。
  4. 約定後15分で自動クローズ(時間ストップ)。

引け(パターンB)

  1. 14:50時点のVWAP乖離と出来高加速を確認。
  2. VWAP方向へ指値→15:00引け成りでクローズ。
  3. 約定を優先し、同値撤退の判断もルール化。

資金配分とリスク管理

  • 1トレードの損失許容:口座の0.3〜0.5%
  • 同時ポジション数:1つ(初心者は集中)。
  • 最大連敗数想定:5。ドローダウンは3%以内に収める。
  • ニュース・決算日は回避。イベント日はルールで先に決める

バックテストの進め方(手作業でも可能)

以下の最低限データで検証可能です。

  1. 前日終値、当日始値、当日引け、当日VWAP、当日出来高、ギャップ率。
  2. ルール:ギャップ閾値と利確/損切り、時間ストップ。
  3. 手数料・スリッページ:合計で片道0.05〜0.10%を保守的に見込む。

Excel/スプレッドシートでは、IF関数で条件分岐し、累積損益勝率平均損益最大DDを算出してください。年次ごとに分けて安定性を評価するのがコツです。

ケーススタディ(数値例)

仮に大型株Xが前日終値1,000円、寄り気配が-1.2%の988円。寄り成行で買い、VWAPが1,000円近辺に回帰。+0.5%(5円)で利確、手数料考慮後+0.4%のゲイン。これを週3回、月12回繰り返すと、複利で月次+4〜5%が見込める計算になります(あくまで数値例)。

ミスしやすいポイント

  • 出来高の薄い銘柄で滑る:売買代金フィルタを厳格に。
  • 材料の強弱を無視:決算サプライズ・大型提携はスルー。
  • 目線固定:寄りで逆張りしたのに、引けまで引っ張るなどのルール逸脱。

口座開設の流れ(超要約)

  1. ネット証券で口座申込(本人確認、マイナンバー)。
  2. 特定口座(源泉徴収あり)+信用口座の同時申込。
  3. 手数料体系は出来高連動型よりも定額プランを優先。
  4. アプリ/ツールで寄り・引け成行がワンタップで出せるかを確認。

用語メモ

  • 板寄せ:寄り付き・引けの一括約定方式。
  • 特別気配:需給が大きく偏った際に表示される気配。
  • VWAP:出来高加重平均価格。当日の平均売買価格の目安。

運用テンプレ(印刷してデスクに貼る)

  1. 8:40 スクリーニング(出来高見込み、ギャップ率、ニュースチェック)。
  2. 8:55 候補3銘柄に絞る、A/Bどちらの戦略か決定。
  3. 8:59 エントリー1銘柄のみ。
  4. 9:15 ルール通りクローズ。
  5. 14:50 Bパターンの候補選定。
  6. 15:00 引け成りでクローズ、結果記録。

半自動化のヒント

最初は手動で十分ですが、次の2点を自動化すると安定します。

  1. 候補抽出の自動レポート:前日終値比のギャップランキング、当日出来高加速、VWAP乖離の3点を朝と14:50に表示。
  2. 時間クローズ:エントリー後15分で必ず手仕舞うロジック。

(任意)CFD/先物での代替実装メモ

現物株の代わりに、日経225/TopixのCFDで寄り引け時間帯だけ逆張り/順張りをテストする方法もあります。サーバー時刻と東京時間のオフセットを設定し、特定時刻にエントリー/クローズするだけでも「時間ストップ効果」を体験できます。

簡易EA(MQL4・学習用)

以下はCFDで時間ベースのエントリー/クローズを行う学習用サンプルです(ロジックはシンプル化)。実運用前に必ずデモで検証してください。

//+------------------------------------------------------------------+
//| AuctionMinutesEA.mq4 (learning sample)                          |
//+------------------------------------------------------------------+
#property strict
input string TradeSymbol   = "JP225Cash";
input int    OffsetHours   = 0;        // Broker server - JST
input int    OpenHourJST   = 9;
input int    CloseHourJST  = 15;
input double GapThreshold  = 0.010;    // 1.0% (proxy)
input double Lots          = 0.10;
input double StopPct       = 0.005;    // 0.5%
input double TakePct       = 0.006;    // 0.6%
datetime lastTradeDay = 0;

int OnInit(){ return(INIT_SUCCEEDED); }
void OnTick(){
   datetime t = TimeCurrent();
   MqlDateTime mt; TimeToStruct(t, mt);
   // Convert to JST-like clock
   int jstHour = (mt.hour + OffsetHours + 24) % 24;
   // Once-a-day entry at "open"
   if(jstHour==OpenHourJST && mt.min==0 && mt.sec<10 && !TradedToday()){
      double prevClose = iClose(TradeSymbol, PERIOD_D1, 1);
      double nowPrice  = SymbolInfoDouble(TradeSymbol, SYMBOL_BID);
      if(prevClose>0){
         double gap = (nowPrice - prevClose)/prevClose;
         int dir = (gap < -GapThreshold) ? 1 : (gap > GapThreshold ? -1 : 0);
         if(dir!=0){
            double sl = nowPrice * (1 - dir*StopPct);
            double tp = nowPrice * (1 + dir*TakePct);
            int type = dir>0 ? OP_BUY : OP_SELL;
            OrderSend(TradeSymbol, type, Lots, nowPrice, 30, sl, tp, "AuctionEA", 0, 0, clrNONE);
            lastTradeDay = DateOfDay(t);
         }
      }
   }
   // Hard close near "close"
   if(jstHour==CloseHourJST-1 && mt.min>=59){
      for(int i=OrdersTotal()-1;i>=0;i--){
         if(OrderSelect(i, SELECT_BY_POS, MODE_TRADES) && OrderSymbol()==TradeSymbol){
            OrderClose(OrderTicket(), OrderLots(), SymbolInfoDouble(TradeSymbol, SYMBOL_BID), 30);
         }
      }
   }
}
bool TradedToday(){ return (lastTradeDay==DateOfDay(TimeCurrent())); }
datetime DateOfDay(datetime x){ MqlDateTime m; TimeToStruct(x, m); m.hour=0;m.min=0;m.sec=0; return StructToTime(m); }
//+------------------------------------------------------------------+

まとめ

寄り・引けの数分だけに集中する本戦略は、情報優位ではなく需給の機械的偏りに着目します。銘柄選定と時間管理を徹底すれば、初心者でも再現性を持って取り組めます。まずは小さく始め、ルール厳守・検証優先で精度を高めてください。

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