相場はずっと荒れ続けるわけではありません。多くの時間は「動かない」か「小さく上下する」だけで、ある瞬間にだけ一気にレンジを抜けて走ります。短期で勝ちやすいのは、その「走り始めの最初の数十分〜数時間」です。理由は単純で、トレンドが出た直後はポジションが偏っておらず、逆張りの抵抗も薄く、損切りも入りやすいからです。
そこで本記事では、ボラティリティ(値動きの大きさ)が低下した後にATRが拡大し始めた初動だけを狙う戦略を、株・FX・暗号資産に共通で使える形に落とし込みます。抽象論ではなく、チャート上で何を見て、どう数値化し、どうエントリーし、どこで撤退するかを一つずつ具体化します。
- ATRとは何か:この戦略で使う「ボラ」の定義
- なぜ「ボラ低下→ATR拡大の初動」が勝ちやすいのか
- 狙うべき局面の定義:ボラ低下をどう数値化するか
- エントリーの核心:ATR拡大“初動”の見つけ方
- 損切りと利確:ATRを“実務”で使う場所
- 銘柄・通貨ペアの選別:同じルールでも成績が変わる理由
- 具体例で理解する:3つのシナリオ(上抜け・下抜け・ダマシ)
- 実装上の落とし穴:勝てない人が必ず踏む地雷
- 検証手順:初心者でも再現できるミニバックテストのやり方
- 運用ルール:資金管理とトレード回数の上限
- 応用:あなたの200テーマの中で組み合わせるなら
- まとめ:この戦略で勝つためのチェックリスト
- 注文執行の現実:指値・成行・分割の使い分け
- パラメータ調整の勘所:固定値より“相対値”を優先する
- トレード日誌の書き方:上達速度を上げる最低限の項目
ATRとは何か:この戦略で使う「ボラ」の定義
ATR(Average True Range)は、一定期間の「真の値幅(True Range)」の平均です。True Rangeは、単純な高値−安値だけでなく、前日終値からのギャップ(窓)も含めて値幅を評価します。つまりATRは、ギャップも含めた実質的な値動きの大きさを表します。
この戦略では、ATRを「損切り幅の基準」と「ボラが増えたかどうかの判定」に使います。重要なのは、ATRは方向(上か下か)を示さないことです。方向は価格(ブレイク)で決め、“動き出したか”をATRで確認します。
初心者がやりがちなミスは、ATRが大きい=買い、ATRが小さい=売り、という誤解です。ATRは加速度計のようなもので、速度(トレンド方向)は価格で見ます。ATRは「これから走る準備が整ったか」を見る道具です。
なぜ「ボラ低下→ATR拡大の初動」が勝ちやすいのか
低ボラ局面は、参加者の多くが「様子見」になり、指値中心で板が薄くなりやすい状態です。このとき、何らかの材料・指数要因・需給イベントが入ると、少量の成行で価格が飛びやすくなります。飛び始めると、次の3つが連鎖します。
①損切りの連鎖:レンジ内で逆張りしていた参加者が踏まれて損切りし、ブレイク方向に勢いがつく。
②追随買い/売り:ブレイクを待っていた順張り勢が参入し、出来高が増える。
③アルゴの切替:一定条件でブレイク追随の執行ロジックに切り替わり、板を食うスピードが上がる。
この連鎖が起きる瞬間は、「値幅が拡大し始める」のでATRも上がります。だから、ボラ低下局面を待ち、ATR拡大の初動で乗ると、無駄な往復ビンタを減らしつつ、伸びる局面だけを抽出できます。
狙うべき局面の定義:ボラ低下をどう数値化するか
「最近静かだ」は主観です。主観を捨てるため、ここでは2段階で定義します。TradingViewや多くのチャートソフトで再現しやすい指標だけで組みます。
ステップ1:ボラ低下の条件(収縮フィルター)
以下のどれか1つではなく、2つ以上が同時に成立する状態を狙うと精度が上がります。
(A)ATR(14)が直近20本の下位25%に入る:ATRが自分の過去に対して低いかを評価します。絶対値ではなく相対順位で見るのがポイントです。
(B)ボリンジャーバンド幅(20,2)が直近20本の下位25%に入る:価格レンジが収縮しているかを別角度で確認します。
(C)高値−安値のレンジ幅が、過去N本平均の0.7倍以下:単純なレンジの縮みです。株の5分足ならN=12(1時間分)などが扱いやすいです。
ステップ2:ブレイク候補の箱を作る(レンジの明確化)
収縮しているだけでは足りません。どこを抜けたら「動いた」と言えるかを先に決めます。やり方は2つあります。
(1)直近M本の高値・安値で箱を作る:例)5分足でM=24(2時間)。上限=2時間高値、下限=2時間安値。
(2)前日高値・前日安値・当日寄り付きレンジを使う:日本株の寄り後はこの水準に注文が集まりやすいので、板の反応が素直です。
初心者におすすめは(1)です。理由は「その日のどの時間帯でも適用できる」からです。寄り付きに張り付けない人でも再現できます。
エントリーの核心:ATR拡大“初動”の見つけ方
ここからが実装パートです。エントリーを「価格条件」と「ボラ条件」に分けてルール化します。
価格条件:箱の上抜け/下抜け
上抜けなら、終値が箱上限を明確に超えたことを条件にします。「ヒゲで一瞬抜けた」だけはダマシが多いので、足の確定(終値)で判断するのが基本です。5分足なら5分確定、15分足なら15分確定です。
具体例:5分足、箱=直近24本。終値が箱上限+0.05%(暗号資産なら+0.1%)以上で上抜け確定、といった“少しだけ余白”を入れるとノイズに強くなります。
ボラ条件:ATRの上向き転換を確認する
「ATRが大きい」ではなく、「ATRが上向きに転じた」を取ります。目安は次のいずれかです。
(a)ATR(14)が直近3本連続で増加
(b)ATR(14)がATR(14)の移動平均(例:MA(14))を上抜け
(c)現在のTrue Rangeが、ATR(14)の1.5倍以上(“今まさに伸びた”を捉える)
初心者は(a)か(c)が分かりやすいです。(b)は滑らかですが遅れます。初動を取りたいなら(c)が強いです。
実戦ルール例(5分足デイトレ)
以下は、株でも暗号資産でもほぼ同じ発想で動きます(数値だけ微調整)。
・時間足:5分足
・箱:直近24本(2時間)高値/安値
・収縮:ATR(14)が直近20本の下位25% かつ BB幅が下位25%
・ブレイク:終値が箱上限(下限)を0.05%(暗号資産は0.1%)以上抜ける
・初動確認:当該足のTrue Range ≥ 1.5×ATR(14)
・エントリー:次の足の始値で成行(または半分成行+半分指値)
この「次の足」で入るのは、滑り(スリッページ)を抑えつつ、ルールを明確にするためです。どうしても初動を最速で取りたい人は確定と同時に入れますが、その場合は損切りの徹底が前提になります。
損切りと利確:ATRを“実務”で使う場所
この戦略は「伸びるときは伸びる」が、「ダマシは一瞬で戻る」という特徴があります。だから、損切りは躊躇すると負けます。逆に、利確は伸びを潰すと勝てません。ここも定量化します。
損切り:ATRベース+構造ベースの二重化
おすすめは「近いほう」で切るルールです。
(1)構造損切り:ブレイクした箱の内側に戻ったら撤退(例:終値で箱上限を割る)
(2)ATR損切り:エントリー価格から0.8×ATR(14)逆行したら撤退
例えば、5分足でATR(14)=6円の株なら、0.8×ATR=4.8円。エントリーから5円逆行で損切りです。暗号資産なら%管理にしてもよいですが、ATRで管理すると銘柄ごとの差を吸収できます。
利確:固定幅ではなく「伸びきるまで」
初動ブレイクは、固定利確(例:+0.5%で全部利確)だと、期待値が出にくくなります。代わりに、次のどちらかが扱いやすいです。
(A)トレール利確:最高値(最安値)から0.7×ATR(14)の逆行で利確。
(B)段階利確:1R(リスク幅)で半分利確、残りはトレール。
段階利確はメンタルに効きます。半分利確しておけば、残りは“伸ばす仕事”に集中できます。初心者が「利確したくて手が震える」問題を実務的に解決します。
銘柄・通貨ペアの選別:同じルールでも成績が変わる理由
同じルールでも、銘柄選別で成績は激変します。理由は、ブレイクの“質”が市場構造で違うからです。
日本株(現物・信用)で相性が良い条件
・当日の出来高が普段より出ている(出来高ゼロに近い低流動性は除外)
・板が薄すぎない(1ティック飛びはチャンスでもあるが、損切りが成立しにくい)
・テーマ・材料がある(決算、上方修正、自社株買い、指数要因など)
特に重要なのは「出来高が普段より出ている」です。ボラ低下→拡大の局面でも、流動性が無いと「抜けたように見えるだけ」で終わります。出来高は、ブレイクが“本物”かを裏付けます。
FXで相性が良い時間帯
FXは時間帯がすべてです。ボラ収縮はアジア時間に起きやすく、拡大はロンドン開始やNY序盤で起きやすい。だから、アジア時間の収縮→ロンドンで拡大という流れに合わせるだけで、無駄なトレードが減ります。
具体例:ドル円が東京午前に20pips未満で横ばい→欧州勢参入で一方向に走る、という典型パターンです。このとき箱(直近2時間高値/安値)を抜けた瞬間に、ATRが上向きに転じます。
暗号資産で注意すべき“ノイズ”
暗号資産は24時間で、急騰急落が突然来ます。だから、収縮判定を短すぎる期間でやるとダマシが増えます。5分足なら、箱を2時間ではなく3〜4時間に伸ばす、ATRの条件を「1.5倍」ではなく「2倍」にするなど、ノイズ耐性が必要です。
具体例で理解する:3つのシナリオ(上抜け・下抜け・ダマシ)
ここでは、チャートを想像しやすいように、値動きのストーリーで説明します。
シナリオ1:上抜け(理想形)
前半は小さなレンジが続き、ATRもBB幅も低下。直近2時間高値を何度か試すが抜けない。そこへ材料が出る(例:米先物上昇、決算サプライズ)。5分足が箱上限を終値で超え、当該足の値幅が急拡大(True Rangeが1.8×ATR)。次の足で成行エントリー。直後に逆張り勢の損切りが入り、さらに高値更新。1Rで半分利確、残りはトレール。勢いが止まったところで0.7×ATR逆行が出て手仕舞い。
ポイントは、“抜けた瞬間に値幅が増えている”ことです。値幅が増えない上抜けは、たいていレンジ上限の指値に押し返されます。
シナリオ2:下抜け(指数悪化・円高など)
収縮後、指数が急落、またはドル円が急な円高へ。株なら指数寄与度の高い銘柄が先に崩れ、箱下限を終値で割る。True Rangeが2.0×ATRとなり、ボラ条件が成立。次足でショート(または売り)。箱内に戻るまで粘るが、戻りが弱い。下落が加速したところで半分利確し、残りはトレール。急反発で0.7×ATR戻したら撤退。
下抜けは、上抜けより戻りが速いことが多いので、段階利確の価値が上がります。
シナリオ3:ダマシ(入りたくなるが避けるべき形)
箱上限を一瞬ヒゲで抜けるが、終値は箱内。True RangeもATRの1.2倍程度で、伸びが弱い。出来高も増えない。次の足で上値を追うと、レンジに押し戻されて逆行。これは典型的なダマシです。
このダマシは、ルールを守れば回避できます。「終値ブレイク」と「True Range ≥ 1.5×ATR」が両方必要という理由がここにあります。
実装上の落とし穴:勝てない人が必ず踏む地雷
この戦略はシンプルですが、運用で崩れやすいポイントが3つあります。
①収縮条件を緩めすぎる
「チャンスが少ない」と感じて条件を緩めると、ただのブレイクアウトになります。ブレイクアウトは勝てる局面もありますが、平均的にはダマシが増えます。戦略の芯は“収縮→拡大”の変化です。収縮が無いなら別戦略です。
②損切りを“広げて”しまう
ブレイク直後の逆行は、戻ったら終わりです。ここで損切りを広げると、レンジ内往復に捕まり、ジリ貧になります。損切りは「箱内回帰」か「0.8×ATR逆行」のどちらか早い方で切る。これを崩すと破綻します。
③利確を早くしすぎる
勝ち逃げしたくて0.5Rで全部利確すると、ダマシと本物の差が埋まり、期待値が落ちます。半分利確+トレールにして、本物のときだけ大きく取る設計にしておくのが合理的です。
検証手順:初心者でも再現できるミニバックテストのやり方
戦略を記事で読んで終わりにすると、ほぼ勝てません。必ず検証して、あなたの市場(日本株、FX、暗号資産)に合うパラメータに寄せます。ここでは、難しいプログラム無しでできる検証手順を提示します。
まず、対象を10銘柄(または5通貨ペア)に絞り、過去20営業日分(暗号資産は過去30日)を見ます。次に、以下をメモします。
・収縮条件が揃った回数
・ブレイクが起きた回数(上/下)
・ルール通りの損切り幅(0.8×ATR)で何回負けたか
・1R到達率(半分利確に届いた割合)
・トレールで伸びた最大R(本物のときにどこまで伸びたか)
この4つを見るだけで、戦略が成立するかが分かります。特に1R到達率が40%を割るなら、ブレイク判定が甘いか、収縮が弱い可能性が高いです。逆に1R到達率が50〜60%で、最大Rが3R以上出るなら、十分に戦える設計です。
運用ルール:資金管理とトレード回数の上限
短期戦略は、資金管理がすべてです。ここでは現実的な基準を出します。
・1回の損失許容:総資金の0.5%以内(慣れるまで)
・同時ポジション:最大2つ(初動が重なると管理が崩れる)
・1日の最大負け回数:2回(2連敗したらその日は終了)
このルールは地味ですが、破産確率を一気に下げます。ボラ拡大局面は“良い日”と“悪い日”の差が激しいので、悪い日を早く見切る仕組みが必要です。
応用:あなたの200テーマの中で組み合わせるなら
今回の「ATR拡大初動」は、単独でも機能しますが、他のテーマと組み合わせると精度が上がります。例えば次の組み合わせは相性が良いです。
・前場高値ブレイク(テーマ8)+ATR拡大:ブレイクの“場所”が明確になる。
・VWAP回復/割れ(テーマ67/68)+ATR拡大:方向性のフィルターになる。
・歩み値の成行連続(テーマ174/175)+ATR拡大:アルゴ切替の裏付けになる。
逆に相性が悪いのは、レンジ内の細かい逆張りスキャルです。ATR拡大は「レンジが終わる瞬間」なので、レンジ前提の逆張りとは思想が逆です。混ぜるなら時間帯を分けるのが無難です。
まとめ:この戦略で勝つためのチェックリスト
最後に、実行前のチェック項目を文章で整理します。トレード前にこれを頭の中で読み上げられる状態にしてください。
今はボラが本当に低いか(ATRとBB幅で収縮が確認できるか)。箱(レンジ)は明確か。終値で抜けたか。抜けた足の値幅はATRの1.5倍以上か。出来高や板の反応は伴っているか。損切り位置は箱内回帰または0.8×ATR逆行で機械的に切れるか。利確は半分利確+トレールで伸ばす設計になっているか。1日の負け回数上限を守れるか。
これらが揃っているときだけ、初動を取ってください。チャンスは毎日ありますが、“良い形のチャンス”は意外と少ない。その少ない局面だけを徹底的に取るのが、短期で勝つ最短ルートです。
注文執行の現実:指値・成行・分割の使い分け
ルールが正しくても、執行が雑だと損益が崩れます。特にブレイク直後はスプレッドが広がり、板も動きます。そこで「いつも成行で入る」か「いつも指値で待つ」かの二択にしないで、状況で分けます。
日本株なら、板が厚く出来高が十分ある大型・中型は成行+逆指値で素直に入って問題ありません。一方、板が薄い小型株やPTS上げで寄り付きが荒れる銘柄は、成行だけだと不利約定になりやすい。おすすめは半分成行+半分指値(ブレイク水準付近)です。これで「取り逃し」と「高値掴み」を同時に抑えます。
FXはスプレッドが拡大しやすい時間(指標直後やロンドン開始直後)は、最初の一本目は見送り、二本目の押しで入るほうが安定します。暗号資産は取引所ごとに板の厚みが違うため、普段のスリッページを先に測っておき、想定スリッページを0.1〜0.2×ATRとして損切り幅に織り込むと、検証と実運用の差が縮まります。
パラメータ調整の勘所:固定値より“相対値”を優先する
初心者が迷うのは「箱は24本でいいのか」「1.5倍でいいのか」といった数値です。結論から言うと、固定値は市場で崩れます。代わりに、相対値(過去の分位)を軸に置くと頑丈になります。
例えば収縮条件は「直近20本の下位25%」としましたが、これを下位20%にするとチャンスは減る代わりにダマシも減ります。逆に下位35%にすると回数は増えますが、ブレイクの質が落ちます。まずは下位25%で固定し、1R到達率を見ながら微調整してください。
ブレイク余白(0.05%や0.1%)も同様です。これは銘柄の刻み(ティック)とノイズの大きさで変わります。ティックが荒い銘柄は%ではなく「2〜3ティック上」で判定すると安定します。ここをあなたの監視銘柄に合わせ込むと、戦略が“自分の武器”になります。
トレード日誌の書き方:上達速度を上げる最低限の項目
短期トレードの成否は、改善サイクルの速さで決まります。日誌は長文である必要はありません。次の6項目だけ、毎回同じ形式で残してください。
①銘柄/ペア、②時間足、③収縮条件が揃った根拠(ATR分位・BB幅分位)、④ブレイク水準とエントリー価格、⑤損切り根拠(箱内回帰 or 0.8×ATR)、⑥結果(Rで記録)と反省点。
「Rで記録」は特に重要です。円やpipsで書くと銘柄ごとに比較できません。Rで揃えると、どの市場でも改善点が見えてきます。例えば「ダマシ負けが多い」なら、True Range条件を1.5倍→1.7倍にする、出来高条件を追加する、といった調整が論理的にできます。


コメント