ペアトレードの設計と検証:相関の罠を避けて“市場中立”を実装する

取引手法

ペアトレードは「似た動きをする2つを組み合わせ、片方を買い、片方を売って、価格差(スプレッド)の戻りを狙う」発想の取引です。上手く設計できれば、市場全体が上がっても下がっても“方向”の影響を受けにくい(=市場中立に近い)形にできます。

ただし現実は甘くありません。相関が高いだけで組んだペアは、ある日突然関係が崩れ、スプレッドが戻らないまま損失が膨らみます。さらに、検証(バックテスト)を雑にすると「机上では勝つのに実戦では負ける」典型例になりがちです。

この記事では、ペアトレードを“雰囲気”でやらずに、再現性の高い形で設計・検証・運用するための実務的な手順を、できるだけ具体例込みで解説します。

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  1. ペアトレードの本質:狙うのは「差」の平均回帰
  2. ペアの選び方:相関より「関係が壊れにくい構造」を優先
  3. ①候補の作り方:まず“同じ理由で動く”ものを並べる
  4. ②統計チェック:相関は“入口”、最重要は「平均回帰しやすさ」
  5. ③「崩れる理由」を先に想定する:決算・規制・指数変更
  6. スプレッドの作り方:価格差・比率・回帰(β)
  7. 1) 単純な価格差(A − B)
  8. 2) 価格比率(A / B)
  9. 3) 回帰でβを推定して作る(A − βB)
  10. エントリー/イグジット設計:Zスコアを“取引ルール”に落とす
  11. なぜ“タイムストップ”が必要か
  12. ポジションサイズ:ドル中立より“リスク中立”を目指す
  13. リスク管理:ペアトレード特有の3つの地雷
  14. 地雷1:ショート側の急騰(ショートスクイーズ)
  15. 地雷2:同時に動かない(相関崩壊)
  16. 地雷3:取引コストが利益を食う(往復が多い)
  17. 検証(バックテスト)の正しい順番:最初に“落とし穴”を埋める
  18. 1) データの前処理:分割・配当・ロールの扱いを統一
  19. 2) 期間分割:学習期間と検証期間を分ける
  20. 3) コストとスリッページ:最低限の現実を入れる
  21. 4) 指標:勝率より“損失分布”を見る
  22. 具体例:ETFで始める“事故りにくい”ペアトレードの作り方
  23. 個別株ペアで勝ちやすくする工夫:イベントを避け、ファクターを揃える
  24. ペアトレードを“戦略として継続”するための運用ルール
  25. 1) ペアをポートフォリオ化する
  26. 2) ルールの変更は“検証してから”
  27. 3) “市場のレジーム”を意識する
  28. よくある失敗と処方箋
  29. 失敗1:相関だけで選ぶ
  30. 失敗2:閾値を最適化しすぎる
  31. 失敗3:損切りが曖昧
  32. 失敗4:ショートコストを見ない
  33. まとめ:ペアトレードは“設計と検証”で勝負が決まる

ペアトレードの本質:狙うのは「差」の平均回帰

ペアトレードが狙うのは、2資産の価格差(スプレッド)が「いつか元の水準に戻る」ことです。多くの初心者が誤解するのは、

「相関が高い=スプレッドが必ず戻る」ではない、という点です。相関は“同じ方向に動きやすい”だけで、差が一定の範囲に収まる保証ではありません。

スプレッドの戻りが起きやすいのは、例えば以下のように“経済的な理由”があるときです。

・同一業界で、似た事業構造(原材料・需要・規制)を持つ2社
・同じ指数に連動するETF同士(ただし構造やコスト差に注意)
・同じ通貨圏の金利差に強く影響される通貨ペア(例:高金利通貨同士の相対)
・同一コモディティの異なる上場商品(ただし先物ロールの影響差が出る)

“なぜその2つは長期的に近い関係に戻るのか”を言語化できないペアは、基本的に危険度が高いと思ってください。

ペアの選び方:相関より「関係が壊れにくい構造」を優先

ペア選定は、①候補の作り方、②関係の強さの確認、③崩れたときの耐性、の順で行うと安定します。

①候補の作り方:まず“同じ理由で動く”ものを並べる

最初は統計ではなく、事業・指数・ファクターで候補を作ります。具体的には次のような軸が使えます。

(株)同業2社:例)国内:総合商社同士、メガバンク同士、通信2社など。米国:同一セクター内の大型2社。
(ETF)同テーマETF:例)米国大型株ETF同士、同じ国の株式ETF同士。ただし運用会社・指数・経費率が違うと、長期でズレが蓄積します。
(FX)近いマクロ要因:例)コモディティ通貨同士(AUD/NZDなど)や、同じ地域の通貨同士。ただし政策・資本規制・政治イベントの影響差に注意。
(金利)イールドカーブ上の2点:例)2年-10年などのスプレッド。個人で難しい場合は金利連動ETFや先物を代替にします。

②統計チェック:相関は“入口”、最重要は「平均回帰しやすさ」

候補ができたら統計でふるいにかけます。ここで相関係数だけで決めないことが重要です。最低限チェックしたいのは次の3点です。

・スプレッドの安定性:スプレッド(例:A−βB)が長期で一定レンジに収まっているか。
・スプレッドの“戻りの速さ”:戻りが遅いと含み損が長引き、損切りや資金効率で不利です。半減期(Half-life)を概算する手法が使われます。
・関係の持続:過去の一部期間だけで成立していないか。期間を分割しても同様の性質が見えるか。

初心者が取り組みやすい現実解は「スプレッドをZスコア化して、±2σなどの極端な乖離で仕掛け、0付近で手仕舞う」という設計です。統計的に難しい理論を丸暗記するより、まずは“差の偏りを定量化する”癖をつける方が強いです。

③「崩れる理由」を先に想定する:決算・規制・指数変更

ペアが崩れる典型は、以下のような“構造変化”です。

・片方だけ決算でビジネスモデルが変わった(利益率、成長率、資本政策)
・M&Aで買収プレミアムが乗る(あるいは噂)
・指数採用/除外で需給が激変する
・規制・訴訟・事故で信用リスクが跳ねる
・資本コストが急変(金融セクター、REITなど)

ここがポイントです。ペアトレードは「片方をショート」することが多く、悪材料で下がる方をショートしていれば助かりますが、良材料で上がる方をショートしていた場合、損失が理論上無限になります。だから、ペア選定時点で“上方向に跳ねるリスク”を洗い出し、イベント前後の扱い(取引停止、サイズ縮小、オプションでの保険)を決めておくべきです。

スプレッドの作り方:価格差・比率・回帰(β)

スプレッドには作り方が3種類あります。どれを選ぶかで性格が変わります。

1) 単純な価格差(A − B)

同価格帯の2銘柄なら分かりやすいですが、価格水準が違うとスケールが歪みます。例えば1株500円と1株5000円の差は、そのままでは比較できません。

2) 価格比率(A / B)

価格水準の違いを吸収しやすい一方、分母が急変すると比率が跳ねやすい面があります。ETFなどで使うと直感的です。

3) 回帰でβを推定して作る(A − βB)

現実のペアトレードでよく使われるのがこれです。AがBに対してどれくらい動く傾向があるか(β)を推定し、AとBの“方向成分”を相殺します。

たとえば、ある期間で「AはBの1.2倍くらい動く」なら、Aを1単位買うときBを1.2単位売る(または逆)と、全体の市場方向の影響を減らせます。

重要なのは、βは固定値ではなく“環境で変わる”ことです。金利感応度やボラティリティが変われば、βもズレます。検証では、βをローリング(移動窓)で更新した場合と固定した場合を比較し、過剰に複雑化しない範囲で選びます。

エントリー/イグジット設計:Zスコアを“取引ルール”に落とす

ペアトレードのルールは、だいたい以下の型に収れんします。

①スプレッドを標準化(Zスコア)
Z = (スプレッド − 平均) / 標準偏差

②仕掛け
・Zが+2を超えたら「割高側を売り、割安側を買う」
・Zが−2を下回ったらその逆

③手仕舞い
・Zが0付近に戻ったら利確(または±0.5など)
・一定期間戻らなければ撤退(タイムストップ)

なぜ“タイムストップ”が必要か

スプレッドが戻る前提でも、戻りが遅いと資金が拘束されます。さらに、戻らない期間が長いほど「構造変化が起きた可能性」が高まります。だから、損切り幅だけでなく、時間で切るルールが重要になります。

例えば、「最大保有20営業日。20日でZが改善していなければ一旦クローズ」といった形です。これで“だらだら負け”を減らせます。

ポジションサイズ:ドル中立より“リスク中立”を目指す

市場中立と言うと「買いと売りの金額を同じにする(ドル中立)」を想像しがちですが、それだけでは不十分です。ボラティリティが違う2資産では、金額を揃えてもリスクが揃いません。

実務で有効なのは、次の考え方です。

・β中立:回帰βに合わせて枚数を決める(A − βB)。
・ボラティリティ調整:各資産の直近ボラ(例:20日)でサイズを調整し、リスク寄与を近づける。
・最大損失から逆算:「このペアに許容する損失は口座の1%まで」など、口座全体のリスク制約から枚数を決める。

初心者が最初に採用しやすいのは「最大損失ベース」です。Zスコアの損切り(例えば±3)まで行ったと仮定し、そのときの想定損失が口座に対して過大にならないように枚数を落とします。

リスク管理:ペアトレード特有の3つの地雷

地雷1:ショート側の急騰(ショートスクイーズ)

ペアトレードの最大事故は、ショートした銘柄が急騰するケースです。特に小型株や空売り規制が絡む市場では、踏み上げが起きやすい。対策は、

・流動性の高い銘柄/ETFを優先する
・貸株料や逆日歩(市場による)を常に確認する
・イベント(決算、買収報道)前後はサイズを落とす
・必要ならオプションで“上方向の天井”を作る(コストはかかる)

地雷2:同時に動かない(相関崩壊)

相関崩壊は、通常はゆっくり起きます。「最近Zが戻るのが遅い」「平均水準がズレた」などの兆候が出ます。ここでルールをいじって延命すると悪化します。一度クローズし、再検証してペア自体を入れ替える、これが合理的です。

地雷3:取引コストが利益を食う(往復が多い)

ペアトレードは売買回数が増えがちです。株なら手数料、スプレッド、税、ショートコスト。FXならスプレッドとスワップ。暗号資産なら手数料とスリッページが効きます。バックテストでコストを入れないと、優位性が幻になります。

現実的には、期待値が薄いペアほどコストに負けます。だから、“戻り幅が大きいのに、戻りが速い”ペアを優先する方が生き残りやすいです。

検証(バックテスト)の正しい順番:最初に“落とし穴”を埋める

検証は、以下の順番で進めると破綻しにくいです。

1) データの前処理:分割・配当・ロールの扱いを統一

株は分割や配当調整が必要です。調整後価格を使わないと、スプレッドが不自然に飛びます。ETFは分配や指数変更、先物系ETFはロールの影響で長期にズレます。暗号資産は取引所による価格差もあり、参照先を統一します。

2) 期間分割:学習期間と検証期間を分ける

全期間で最適化したパラメータ(Zの閾値、窓幅、タイムストップ)をそのまま使うと、過去に合わせただけになります。例えば、

・2016-2020でルール設計(学習)
・2021-2025で検証(テスト)

のように分け、テスト期間でも成績が大きく崩れないか確認します。さらに、学習とテストを複数回回すウォークフォワード検証ができるとより堅いです。

3) コストとスリッページ:最低限の現実を入れる

「手数料ゼロ・スリッページゼロ・約定は終値で完璧」では、ほぼ確実に実戦より良く出ます。最低限、

・売買ごとに固定コスト(往復で0.1%など)
・約定価格を不利にずらす(スリッページ)

を入れます。厳しめに入れてなお残る利益が、本当に使える候補です。

4) 指標:勝率より“損失分布”を見る

ペアトレードは勝率が高く見えやすい一方、崩壊時の負けが大きいことがあります。評価で見るべきは、

・最大ドローダウン
・損益分布(極端な負けがないか)
・平均保有日数(資金効率)
・月次/四半期での成績の安定性

です。勝率80%でも、残り20%が一撃で口座を壊すなら意味がありません。

具体例:ETFで始める“事故りにくい”ペアトレードの作り方

個別株はイベントリスク(決算・買収)が大きいので、初心者はまずETFで設計すると良いです。例えば、

・同じ国の大型株ETF同士(指数差が小さいもの)
・同セクターETF同士(ただし構成比率の差に注意)

手順は次の通りです。

①候補ETFを2つ選ぶ(“なぜ近いか”が説明できる組み合わせ)
②回帰でβを推定しスプレッドを作る(A − βB)
③20日〜60日窓で平均と標準偏差を計算しZスコア化
④Zが±2で仕掛け、0で手仕舞い(タイムストップ20日)
⑤コスト込みでバックテストし、ドローダウンが許容範囲か確認

ここまでできれば、個別株へ拡張するときも“型”が崩れません。

個別株ペアで勝ちやすくする工夫:イベントを避け、ファクターを揃える

個別株でペアを組むなら、次の工夫が効きます。

・決算日が近いペアを避ける:片方だけサプライズが出ると関係が壊れやすい。
・時価総額と流動性を揃える:小型株をショートすると踏み上げやすい。
・財務と資本政策の差を確認:自社株買いが多い銘柄は上方向に跳ねやすい。
・同じファクターに寄せる:バリュー×バリュー、クオリティ×クオリティなど。片方だけ“成長株”だと金利局面で崩れやすい。

ペアトレードを“戦略として継続”するための運用ルール

ペアトレードは「良いペアが永遠に良い」わけではありません。継続運用するなら、戦略を“メンテナンス可能な仕組み”にする必要があります。

1) ペアをポートフォリオ化する

単一ペアに賭けると、関係崩壊でダメージが大きい。複数ペアを同時運用し、1ペアの損失が口座を壊さないようにします。業種・地域を分けるとさらに良いです。

2) ルールの変更は“検証してから”

含み損が出ると、人はルールを変えて正当化しがちです。ここで感情に負けると、優位性が消えます。ルール変更は、必ず過去データで検証し、テスト期間でも妥当か確認してから反映します。

3) “市場のレジーム”を意識する

急激な金融政策転換や危機局面では、相関が一時的に1に近づき、スプレッドが戻りにくいことがあります。一方、落ち着いた局面では平均回帰が機能しやすい。自分の戦略がどのレジームで強く、どこで弱いかを把握すると、サイズ調整が合理化します。

よくある失敗と処方箋

失敗1:相関だけで選ぶ

処方箋:経済的理由→スプレッド安定性→分割期間検証、の順に戻る。

失敗2:閾値を最適化しすぎる

処方箋:閾値はシンプルに(±2、±2.5など)固定し、頑健性を優先する。細かい調整ほど過去当てになりやすい。

失敗3:損切りが曖昧

処方箋:Zでの損切り+タイムストップの二重化。口座全体の最大損失ルール(例:月間DD上限)も設定。

失敗4:ショートコストを見ない

処方箋:貸株料・逆日歩・スワップ・資金調達コストを“事前に”見積もる。コストが読めない商品は避ける。

まとめ:ペアトレードは“設計と検証”で勝負が決まる

ペアトレードは、単なるテクニックではなく、設計・検証・運用の総合力です。最初はETFなど事故りにくい対象で、

①経済的理由のあるペア選定
②βを使ったスプレッド設計
③Zスコアでの明確な売買ルール
④コスト込みのバックテストと期間分割検証
⑤損切り(Z+時間)とサイズ管理

この“型”を固めるのが近道です。ここまでできれば、相関の罠にハマらず、再現性のあるペアトレードに近づきます。

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