二銘柄のリターン相関が高くても、価格差が戻るとは限りません。共和分は、個々の価格が長期的に動いていても、特定の線形結合が定常になる関係です。ペアトレードでは、その均衡からの乖離を売買しますが、企業固有要因で関係が永久に壊れる危険があります。
- 数値が表すものと、表さないものを分ける
- 未来情報を混ぜずに検証する手順を作る
- 予測精度ではなく費用後損益と損失管理で評価する
なぜこの指標・モデルが必要なのか
二銘柄のリターン相関が高くても、価格差が戻るとは限りません。共和分は、個々の価格が長期的に動いていても、特定の線形結合が定常になる関係です。ペアトレードでは、その均衡からの乖離を売買しますが、企業固有要因で関係が永久に壊れる危険があります。
仕組みを分解する
Engle–Granger法ではA価格をB価格へ回帰し、残差に単位根検定を行います。残差が定常なら共和分候補です。回帰係数βを使い、スプレッド=log A−β log Bを作ります。Johansen法は複数資産も扱えます。価格水準の見せかけ回帰を避けるため、検定の臨界値と決定項を正しく選びます。

計算例と数字の読み方
スプレッド平均0、標準偏差0.04、現在値0.09ならZ=2.25です。Aを売りBをβ単位買い、Zが0.5へ戻れば決済する例があります。ただし標準偏差を全期間で計算すると未来情報です。各時点までのローリング平均と分散を使い、βも同じ頻度で更新します。
売買・リスク管理への落とし込み
過去2年で半減期5日、勝率65%でも、決算で片方の事業構造が変わればスプレッドは戻りません。Z=3で機械的に追加すると損失が膨らみます。最大保有20日、Z=4で関係崩壊として撤退、決算前は新規停止など、価格以外の終了条件を持たせます。
実装手順:データから検証まで
同業・同収益源など経済的根拠で候補を絞り、形成期間と売買期間を分離します。ADF統計、半減期、交差回数、スプレッド分布、借株料、配当、空売り可否を確認します。複数ペアを試す場合は多重検定を補正し、ペア選択も含めて時点再現します。
- 仮説を一文にする:何が起きた後、どの期間に、何が変化すると考えるかを先に固定します。
- 時点を再現する:約定時刻、気配時刻、企業イベント時刻をそろえ、その瞬間に取得できた情報だけで特徴量を計算します。
- 基準戦略を置く:複雑なモデルだけを評価せず、売買しない場合、単純移動平均、等金額などと同条件で比較します。
- 費用を引く:手数料、スプレッド、価格インパクト、借株料、未約定を別々に見積もります。
- 未知期間で固定する:閾値や窓を凍結し、結果が悪くても途中で変更せず記録します。

バックテストで最低限残す指標
年率リターンや勝率だけでは足りません。取引回数、平均保有時間、グロス利益、スプレッド負担、価格インパクト、最大ドローダウン、最悪10取引、銘柄別寄与、時間帯別寄与を分離します。パラメータを少し変えただけで利益が消えるなら、発見したのは市場構造ではなく標本固有の偶然かもしれません。
さらに、シグナル発生から注文送信までの遅延を100ミリ秒、1秒、5秒など複数置き、成績の減衰を調べます。理論上の終値やミッド価格でのみ約定する検証は避け、買いはアスク、売りはビッドを基本に、参加率が高い注文には追加のインパクトを課します。
資金管理の具体例
1回の許容損失を運用資金の0.25%とし、損切りまでの想定価格幅が0.8%、通常のスリッページが0.1%なら、実効損失幅は0.9%です。運用資金1,000万円なら許容損失2万5,000円÷0.009で、建玉上限は約277万円です。ただし板に対して大き過ぎる場合は、出来高参加率による上限を優先します。モデルの確信度が上がったからといって許容損失そのものを増やさない方が、検証誤差に耐えやすくなります。
よくある失敗と停止条件
共和分検定に通っても将来維持される保証はありません。β推定誤差、非対称な約定、片側の売買停止、空売り規制でデルタ中立が崩れます。相関上昇だけを分散と誤認せず、共通因子への残存感応度と危機時損失をストレスします。
停止条件は損益だけでなく、入力データ欠損、スプレッド急拡大、推定係数の範囲逸脱、モデル残差の構造変化にも置きます。異常時に自動で新規注文を止め、既存建玉をどの価格・時間で縮小するかを事前に決めます。停止後に原因を確認せず同じ設定で再開すると、モデル劣化と一時的ノイズを区別できません。
小さく導入するための4段階テスト
第一段階は売買を伴わないシャドー運用です。実時刻にシグナルを記録し、取得遅延、欠損、計算時間を測ります。第二段階は最小単位での実注文です。バックテストが仮定した価格と実約定の差を、銘柄・時間帯・注文方式別に分解します。第三段階では通常予定額の25%、第四段階では50%へ増やします。各段階を一定取引数こなすまで進めず、利益が出た日数だけを昇格条件にしません。
昇格判定には、想定スリッページに対する実績、注文拒否率、未約定率、シグナルから約定までの遅延、最大日次損失を使います。例えば実スリッページの中央値が想定の1.5倍、95%点が2倍を超えた場合は、資金を増やす前にコストモデルを再推定します。取引量を増やした瞬間に価格影響が非線形に大きくなるため、少額での成功を比例拡大しないことが重要です。
成績が良く見えたときに確認すること
まず、利益が数日・数銘柄へ集中していないかを確認します。上位5取引を除くと損失になるなら、再現性より偶然の影響が大きい可能性があります。次に、同じ日の複数取引を独立標本として数えていないかを見ます。共通ニュースで同時に動いた取引は実質一つのベットです。日次またはイベント単位へ集約して信頼区間を計算します。
パラメータの近傍も重要です。窓20だけが利益で、19と21が損失なら採用を保留します。窓15〜30、閾値1.5〜2.5など合理的な範囲で収益面が滑らかに残るかを調べます。また、相場上昇期、下落期、高ボラ期、低ボラ期へ分け、どの環境で損益が生まれたかを確認します。全環境で勝つ必要はありませんが、不得意環境をリアルタイムで識別できないなら、年間平均だけを根拠に大きな資金を置けません。
実務チェックリスト
- データのタイムゾーンと同時刻処理を固定したか
- 価格調整、限月交代、売買停止を処理したか
- 未来情報を使わず特徴量と標準化を計算したか
- パラメータ選択回数と不採用結果を保存したか
- スプレッド、手数料、インパクトを差し引いたか
- 通常時だけでなく急変時の損失を確認したか
- モデル停止・再開の責任者と条件を決めたか
まとめ
高度な指標は、単独で売買方向を教える魔法のサインではありません。価値があるのは、曖昧だった需給、流動性、変動、状態変化を測定可能な形へ変え、どの条件で使えなくなるかまで定義できる点です。計算式、入力時点、費用、停止条件をセットで設計し、単純な基準より未知期間の判断が改善したときにだけ採用します。


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